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599 :風雪 2話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/31(月) 00:38:41 ID:uY27/qX8
いつだって何かを守りたかった。けれど、無力な自分は何一つ守れなかった。
私は双葉宮家に生まれた人間。名前は風子。二つ合わせて、双葉宮風子。
私は、自分の生まれた双葉宮家が嫌いだった。
父母は金儲けに必死、メイド達も幼い私より父母を優先していた。
そして何より、家が余計に裕福で、それが原因で学校ではいじめにあった。
家庭環境が原因で内向的だった私を「お高く止まっている人間」と見て同級生は虐めてきた。
「お前の家、金持ちだからって調子乗んなよ!」とか「家が凄くてもアンタは駄目ね!」とかそんな台詞と共に暴力や水が私に降りかかってきた。

ある日、虐められていた私を心配して担任教師が私の相談に乗ってくれた。けれど、それは優しさなんかじゃ無かった。
それが分かったのは家庭訪問の時だった。
教師は、私の母に私が虐められているという話をした。
私に構ってくれない母の代わりに言ってくれた。そう思った。けれど、その幻想は砕け散った。
「先生のお名前、憶えておきますわ。」
「あ、ありがとうございます!」教師は口元を綻ばせて言ったのを見て私は悟った。『先生はコネを作りたかっただけなんだ』と。
事実、翌日から先生は私の事を避けていた。相談を持ちかけても「先生、忙しいから後でね」と冷たくあしらうようになった。
私は絶望した。

死のう。こんな事を小学二年の時に思った。
当時の私の頭には自殺の手段は飛び降りしか無かった。辺りを見回して高い場所を探すとマンションが目に映った。
いつの間にか私はそのマンションの5階に来ていた。通路から地面を見渡すと高かった。私はそれを見て震えていた。死ぬのが怖かった。
けど、私が死んだら両親は、メイド達は、教師は、クラスメート達はどう思うかというのにも興味があった。
私は意を決して柵の手すりを鉄棒の掴んで力を入れて地に足を離す。
浮遊感を全身に感じたその時、がっ!!と脇腹を誰かに掴まれた。私は驚いてビクッと体が震えた。
「おい幼女。人様の家の前で飛び降り自殺なんかすんじゃないよ。」声の主は30代と思われる女性だった。
「え…あ…」怖くて声が出ない。
「なんか悩んでんの?」
「は…はい。」
「じゃあ誰かに話せばいい。そうすればちょっとは楽になるさ。」
「……」話せる相手が居ない私は無言になる。そして沈黙が流れる。
「なんなら私が聞いてやる。お前さんと同じ年の子供も居るしね。」
「え…ちょ…いいです!!」私はジタバタと抵抗するが、無意味だった。
「じゃ、れんこーう!」人の話を聞かずに、私を掴んだまま私を連れ去ろうとする。
そして、私は扉の向こうに連行された。


600 :風雪 2話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/31(月) 00:39:16 ID:uY27/qX8
私は、未だかつて経験した事のない緊張に怯えていた。
私の自殺を強制中断させた女性が、頬杖ついてこちらを睨んでいる。
彼女は、私とテーブルを挟まずに、隣に座っている。
なので私は俯いて、彼女を極力見ない事にした。
しかし、目の前の女性はそんな私の様子を軽くスルーして、話掛けてきた。
「で、悩みがあるって言ってたけど、なんで自殺しようと考えてた?」
「…」黙秘権行使。
「黙ってちゃ分かんないだろ?」
「…」黙秘権の行使を続行。
「あー、イライラする。なんか言え、コンチクショウ。」
「あなたに相談する様な事はありません。」口から淡々と、拒絶の言葉を紡ぐ。
言い終えて口を閉じたら、右から平手打ちが飛んできた。私は突然の鈍痛に驚いた。
「その目、あの時の私の目と似てて嫌になるね。」女性は頭を掻いて言う。
「そのままだと、あんた、また死にたくなる衝動に駆られて死ぬよ?」
「…」私は黙秘権とは関係なく黙っていた。
「さっきも言ったが、悩みがあるなら誰かに言え。言うだけで気分は楽になる。
 相手が居ないなら、その、なんだ。私がなってやる。」
私の冷たい心が溶けた。その氷が解けて出来た水が、私の双眸から溢れた。
「え、えぐっ…いぐっ…びえええええええええええ!!!!」
泣きじゃくる私を、女性の腕が包み込む。
そんな事をされたら余計泣いてしまうからやめて欲しかったけど、暖かさが心地よかったから「やめて」とは言えなかった。
この慈愛を甘んじて享受していたら、「なにしてるの、おかーさん。」廊下から、男の子の声がした。
廊下のドアを見やるとその姿が見えた。
声は男の子だが、見た目は女っぽい。というか、女の子にしか見えないってくらい中性的だった。
「んー、哀れな幼女に魂の救済?いや、私エクソシストじゃないや。」ナハハ、と女性は笑ってた。
「おかーさんが女の子泣かしてるの。おかーさん、いじめっ子?」少年は母親に無垢な瞳と声色で、そう尋ねた。
「なんでやねん。お前は一ノ瀬こ○みか。全く、シリアスが台無しね。」
女性が「はぁ」と、ため息をついて苦笑い。
「まぁ、ちょうどいいや。ほら、お互い自己紹介。」
「僕、白井雪斗。」少年はそう名乗った。
「双葉宮…風子…」
私と彼は、ここで出会った。


601 :風雪 2話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/31(月) 00:39:38 ID:uY27/qX8
「かわいそうに…ふーこちゃん。ビスケットたべる?」
「あ、ありがと。」私は動物の形をしたビスケットを受け取って、口に含む。
「おいしい?」と、感想を求められた。
咀嚼と嚥下を終えて「おいしい。ありがと。」と、小さな声で呟く。
私の記憶が正しければ、彼はこんな感じに慰めてくれた。とても癒された気がする。
それから、色々な話をした。主に、お互いの家庭事情や学校生活について。彼も辛い家庭環境に有る事、彼と私は同じ小学校だという事が分かった。
そして、気持ちが一層楽になった。会話してるだけで楽しかった。

「あー、5時になったけど、家、大丈夫かい?送ってくけど。」
男の子のお母さんが私に帰宅を勧めてきたので、素直に従うことにした。
「あ、あのね…」
「なに?」男の子が首を傾げる。
「また、一緒にお話ししてくれる…?」拒絶されたらどうしようと思った。
「いいよー!」男の子はニコっと笑った
そして、男の子のお母さんに手を繋がれながら、さよならの挨拶をした。
「友達出来て良かったな。」男の子のお母さんが歩きながら、私に話しかけてきた。
『これが友達なのか。』と私は認識した。私は友達の意味と、友達を手に入れた。

しかし、それは日付が消える前に壊された。

リビングで座っていたら、父が話しかけてきた。
「風子…」
「なんですか?お父様?」
「なんだ、その、悪かった。構ってやれなくて…。学校で虐められてると、母さんから聞いてだな。」
「ううん。いいの。それより今日ね、友だ…」
「お前を私立の女子校に転校させようって、母さんと話し合って決めたんだ。」
父は私の話を遮って、残酷な一言を私に突き刺した。
「いま…なんて?」
「転校だよ。あそこなら悪い虫も居な…」
「嫌だ!!」私は声を荒げて拒絶する。それを聞いた父は困惑する。
「なんでだ…?」
「今日、友達が出来たの!離れるの嫌なの!」
「なんだ、友達ならあっちで作ればいいじゃないか。転校先の『聖准羽女子小学校』はな、
 私達の様なブルジョア階級ばかりだから気の合う友人も出来…」
「そう言う問題じゃない!雪斗君は1人しかいないの!」
「男…だと…?」父の眉がピクピクと蠢く。
「いかん!!男なんてまだ早いわ!!と、とにかくだ!!もう色々と準備は済ませた!!
 明日からは聖准羽に通うように!!」父が怒鳴る。
「嫌だ!!」私は拒絶する。
「いい加減にしろ!!」平手打ちが、私の頬に直撃して、鈍痛が走る。
「お前は私に従えばいいんだ!!」痛い。昼に食らったのとは比べ物に成らない位に。
「あと、護衛兼監視として、お前にメイドを1人付ける。いいな!」そう言い終えて、父は乱暴にドアを閉めて視界から消えた。
私は泣いた。これまでにないくらいに。リビングには、私の嗚咽だけが響いていた。


602 :風雪 2話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/31(月) 00:40:02 ID:uY27/qX8
「はじめまして、風子お嬢様。今日から、貴方のお目付け役を務めさせて頂く、柏木と申します。よろしくお願いします。」
転校当日の朝食時に、私のお目付け役が発表された。
柏木と名乗った女性は、確か15歳からここで働いていて、この時は18歳だと言っていた。
朝食を終えて、したくも無い支度をする。気が重い。
「送りますよ」外に出ると、リムジンの運転席に座っている柏木さんが、そんな事を言った。
後ろの席に乗る。車内には、柏木さんと私だけだった。
父と母の見送りも無く、リムジンがアクセルで勢いを得て走り出す。
沈黙に包まれながら、走り出して5分。柏木さんが沈黙を破った。
「今まで、申し訳ありません…。風子お嬢様。」
「…何が…?」突然謝られた私はキョトンとする。
「今まで貴方に満足に御奉仕出来なかった事についてです。あの育児放棄しまくってる糞豚…あ、ヤベ。本音出た。
 あ、今のはお気になさらずに。貴方の御両親に仕事の手伝いばかり押し付けられて、ロクに貴方に付いていられなかった。
 これが言い訳にしか聞こえないのは、百も承知です。『許して下さい』とは言いませんし、言えません。
 どうか、尽くさせてください。お願いします。他のメイド達も、皆そう思っています。あんな『仕事馬鹿』よりも風子様に尽くしたいと。」
ミラーに映る柏木さんの目は、嘘や言い訳を言ってるとは思えない位に鋭かった。
「そんなの、いいよ。柏木さんは悪くないもん。悪いのはお父様とお母様。」
「ありがとうございます。それと私の事は、柏木と呼び捨てでお呼び下さい。」
「…柏木。」年上の事を呼び捨てにするのは、当時小2の私にとって違和感が凄まじかった。
「それと、私にはなんなりと御命令を仰って下さい。善処致します。いえ、お嬢様の満足の行くまで尽力します」
「じゃー、柏木。私ね、自分の身を守れるくらいになりたい!」
「なるほど。確かに、私が目を離した隙に、お嬢様を狙って身代金目的の人間や、お嬢様の美貌に当てられた強姦魔が来る可能性がありますしね。
 まぁ、目を離すつもりはありませんが。」
「ねー。ごーかんまってなに?」
「…!忘れて下さい。まだ、知るには早すぎます。」顔を赤らめてそう言った。
「変な柏木。」
そんな会話をしていたら、学校に着いた。既に気が軽くなった私は、元気よく校舎に向かった。


それからは柏木に合気道を習った。私はメキメキと頭角を現して、それなりの強さを手に入れた。
友達も出来て、順風満帆で楽しかった。あと、雪斗君が居れば最高だけど、ワガママは言わない。
そして5年生の冬に、ある事件で、私の心境が大きく変わった。


603 :風雪 2話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/31(月) 00:41:06 ID:uY27/qX8
私は柏木の為にマフラーを編んでいた。毛糸が足りなくなったので柏木や他のメイドにも内緒で毛糸を買いに行った。
その帰りに、私は『彼』を肉眼で捉えた。雪斗君が歩いていたので、跡を付けることにした。
よく見ると、手にはロールパンが握りしめられている事が分かった。
「なんで?」と思ったがすぐに疑問は晴れた。段ボールに居る捨て猫に、そのロールパンをあげている。
私は歩み寄る。後ろで眺めていると、彼が後ろを向いた。そして、彼は喋る。
「はじめまして。猫、好き?」はじめまして?はじめまして?はじめまして?
覚えてない?覚えてない?私の事、忘れた?
「どうしたの?具合悪いの?」ハッと我に返って、背を向けて走り去る。
「ちょっとー!?」彼が呼び止める声を発したが、無視して走る。
家に帰ってから、自己嫌悪に苛まれてメイドさん達に心配されたのは、ちょっとした黒歴史だ。


それからは『図書館に行く』とか理由を付けて、一人で例の場所で彼を待ち伏せて、彼を見るのが日課になった。
そんな時に事件は起きた。いつものように彼を待っていた。しかし、先客がいた。
猫を虐めている人間が2人。その人間は、私を虐めていたグループのリーダー格の2人だった。
「助けなきゃ」と思うけど、体が動かない。怖い。力を身につけたと思ったのに、怖い。
そんな思考に脳をハイジャックされて震えていたら「やめろよ!」と、聞き覚えのある声が、私の耳を穿つ。
彼だ、白井雪斗君だ。彼はしばらく口論してから、1人に体当たりして猫を逃がす。
猫が私の方へ逃げて来たので、両腕で捕まえる。猫は弱っていたのか、抵抗しなかった。
猫の代わりに彼が殴られる。私は目を伏せる。
耳から侵入する雪斗君の呻き声に耐えれずに、私はその場を逃げた。私は弱いと実感した。最低だ。


「おかえりなさいませ…。なんですか?その白猫。」柏木が尋ねる。
「拾ったの。今日から飼う。」せめてこの子は守ると決めた。
「そうですか。では、私はキャットフードでも買ってきますね。」
「それとね、私ね、もっと強くなりたい。」他の人や大切な物を守れるくらいに。
「なるほど。では、明日からいろいろ稽古付けますよ。」
「あとね、―――――――――――。」
「かしこまりました。」私の最後の頼みを聞いて柏木はニヤニヤした。

待っててね、雪斗君。今より強くなったら、私が守ってあげるから。