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44 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/04(金) 20:46:37 ID:jUOM+BV7
翌日、僕はいつものように登校した。
昨日はあの後、痛みで気絶したいらしい。
目が覚めた後は、上機嫌な綾華と一言二言別れの挨拶をして、周防家の車に送ってもらった。
幸いというべきか、優は買出しに行っていたので車を見られることはなかった。
その後は体調を悪いことを理由にできるだけ優に合わないようにしていた。
数人の女子に囲まれて普段より上機嫌な綾華を横目に見つつ、首筋にできた焼印の跡をなぞる。
僕は憂鬱だった。
この前の優の薬の発言といい、この首筋の印といい、ここ最近の僕の日常は完全に崩れつつある。
正直、どこかに逃げ出したい気分だった、しかし、もともと引っ込み思案で優柔不断な僕にとって、そんな好都合な逃げ場を用意してくれる友達はいないのだが・・・
「少し外の空気を吸おう。」
こういう時は気分転換するに限る、それに、今の状況で綾華を見るのも僕の精神的に悪かった。
「せーんぱい!何してるんですか?」
窓の外をボーッと眺めていた僕に誰かが声をかける。
振り向くと、そこには後輩である朝倉詩織(あさくらしおり)がいた。
よく似合うボブカットに白い肌、ぽってりした唇、何一つとっても完璧を思わせる美少女である。
そして、一番驚くべきことは彼女がアイドルだという事だ。
芸名、朝倉美樹の名前で活動し、キュートなダンスと歌で若い男性だけでなく、女性からも人気があるらしい。
らしいというのも、もともとテレビもあまり見ない僕にとって、そんなアイドルがいたことを知ったのが彼女と初めて出会った後のことだからだ。
その後少し調べたのだが、この学校の多くの男子生徒も例外ではなく、多くの会員数を誇るファンクラブがあることや、隙あらば彼女に近づこうとしている輩が多いことを知った。
優や綾華も美人で人気が高いものの、知名度も重なってかこの学園のアイドルは朝倉なのである。
「少し考え事だよ。朝倉こそ何か用?」
「いえ、先輩の様子がいつもと違いましたので。」
「いつもって・・・君が僕の『いつも』を知ってるのかい?学年が違うのにさ。」
「知っているつもりですよ、先輩のことは全部。『いつも』見てますから。」
そういって彼女は笑った。
僕と彼女の出会いは、マンガみたいな話だけど、多くの荷物を抱えた彼女と廊下の曲がり角でぶつかったことだ。
その後、彼女にその事を謝り、立ち去った後、ファンクラブを名乗るものに囲まれたため今でもよく覚えている。
それからというもの、彼女は何かと僕に声をかけてくるようになった。
「それより先輩、何かあったんですか?」
「ちょっと考え事、家に帰るのが憂鬱でね。」
もし優にこの印のことがバレたら・・・ と思うと正直帰るのは気が引けた。
どうせ逃げたところで意味がないということわかってはいたが、少しでも問題を先送りしたかった。
「そうなんですか、じゃあ今日私の家に来ます?」
「はぁっ!?」
突然の提案に驚く。
「だって、今日は帰りたくないんでしょう?それならうちに来ればいいじゃないですか。」
「いやだって、ご両親に悪いだろう。それに朝倉はアイドルだし噂になったりでもしたら。」
「私、今は一人暮らしなんでご安心を。そちらに関してはバレないようにすればいいだけでしょ?、それにバレても先輩となら悪い気はしません!」
ビッ!と親指を立てる朝倉。
「いやいや、例えそうだとしてもね・・・」
そもそも、僕と朝倉は学校でたまに会話するくらいの間柄でしかない。言わば、友人ではなく知り合い程度の関係だ。
例えそれが好意からの提案だとしても、ホイホイと承諾するには気が引けたのだ。
「来てくれますよね?」
彼女は笑っていた。
しかし、その目は完全に笑っていなかった、その歪な笑顔から優や綾華を連想する。
「来てくれますよね?」
朝倉はゆっくりともう一度言った。
逆らえばどうなるのか分からない、そんな予感が僕の頭をよぎった。
「わ・・・わかったよ。」
僕は自分の不甲斐なさを呪った。



45 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/04(金) 20:47:18 ID:jUOM+BV7
彼女が住むマンションは駅から徒歩5分のところにあった。
数年前にできたばかりの高級マンションだ。
こんな部屋に一人でするんでいることが、改めて彼女がアイドルであることを意識させられる。
「先輩、いらっしゃい!」
「お・・・お邪魔します。」
今度は普通の笑顔で迎えてもらい。おずおずと部屋にあがった。
清潔感のあふれる白を基調としたリビングは、オシャレなインテリアによって飾られ、まるで舞台のセットのようだった。
ガチャ。
「ん?何の音?」
「あぁ、鍵をかけただけですよ。最近物騒ですからね。」
「そうだね」
こんな会話をかわしつつ僕は自分の居場所を探す。
「先輩はそこらへんで適当にくつろいじゃってください。もうすぐ晩御飯できますから。」
「ありがとう。」
自宅と綾華の家以外に、他人の家に入ったことのない僕は少々引け腰になりながらもテーブルの近くに座ってテレビを見眺めた。
別段見たいものもなかったのだが、手持ち無沙汰な僕にとっては唯一の暇つぶしだ。
「できましたよー!」
そう言いながら両手にいくつかの料理を持った朝倉が現れた。
「手伝うよ。」
「いやいや、先輩はお客さんですからねー。そこでじっとしててくださいね。」
笑顔でそういいながら、手際よく料理をならべる朝倉
「えへへー、先輩が来るんでちょっと張り切っちゃいました!」
その言葉通り、テーブルの上には数々の料理が並ぶ。
「すごいね、朝倉って料理が得意だったんだ。」
「人並みですよ。それより、冷める前にどうぞ。」
両手をあわせる朝倉、僕もそれに習う。
『いただきます。』
そう言って朝倉との食事は始まる・・・ ハズだった。
僕のところに箸がなかった。
「すまん朝倉、箸がないんだけど・・・」
「それがどうかしました?」
まるで意味がわからないというような顔をする朝倉。
「あぁ~、だからできれば箸を貸して欲しいってことなんだけど・・・」
「嫌です。」
「えっ?」
予想外の反応に呆気をとられる。
「手で食べればいいじゃないですか、それかお口で直接たべるとか。」
先程とは種類の違う、まるで嘲笑うかのような笑を浮かべながらそう言う朝倉。
「そ・・・そんな・・・」
「そんなことより、早く食べてくださいよ先輩。先輩のために作ったんですよ?」
戸惑う僕に追い打ちをかける
「食べられないなら帰ってくださいよ。お箸がないから食べられないなんて、傲慢すぎますよ?」
まるで突き放すかのように紡がれる言葉は僕の判断を揺るがせる。
それに、いくら連絡は入れているとはいえ、できれば優には会いたくなかった。
元々、誰からも嫌われないように他人に流される僕だ。
優や綾華、両親以外にこんなにきつくモノを言われたことがない僕は、それだけで朝倉に若干怯えていた。
「わかったよ・・・」
僕は自分に言い聞かせるようにそう言うと、目の前にあるポテトに顔を近づけて・・・たべた。
「アハハハハ!、本当に食べたんですか先輩?恥も何もあったもんじゃないですね!後輩の前でこんな無様なさまを見せつけるなんてどうかしてますよ!」
そんな僕を見つめて大笑する朝倉。
しかし、その顔はまるで蕩けきったかのような笑だった。



46 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/04(金) 20:47:52 ID:jUOM+BV7
「冗談ですよ先輩。私がたべさせてあげますから。」
ひとしきり笑った後、朝倉はそう言って自分の箸で僕に料理を運ぶ。
「ほら、先輩あ~ん」
冗談にしてはあまりにも行き過ぎたものだとも思ったが、さっきの出来事の印象が強すぎて僕の中では、朝倉に逆らうという選択肢は用意されていなかった。
「あ、あ~ん」
こわごわと朝倉の箸を受け入れる。
おいしい。素直にそう思えた。
「おいしいよ。朝倉。」
「エヘヘ、ありがとうございます。じゃあもう一口。」
そういって再び出される箸をくわえる。
しかし、その箸は予想を反してさらに奥へと侵入して僕の喉をついた。
「ゴホッ!」
思わずむせ込む僕を、朝倉は先程の蕩けきった笑みで眺めていた。



「一体何がしたいんだよあいつは・・・」
朝倉から借りた風呂の中で一人呟いた。
その後も結局自分の箸はだしてもらえず、朝倉にたべさせてもらっていたのだが、何度か同じように突かれて咳き込むことがあった。
そのたびに一応謝るのだが・・・
「失礼しまーす!」
そんな思考を遮るように何者かが入ってた。
それは、タオル一枚巻いただけの朝倉の姿だった。
「ちょっ・・・何してるんだよ!」
「お背中流そうと思いまして!」
先程は散々いじめられたものの、やはりアイドル。
美しい体のラインや形の良い胸にドキリとさせられる。
「もう体は洗ったよ!もうすぐ上がるから外で待ってて!!」
「えー、じゃあせっかくですから一緒にお風呂にはいります。」
そういって同じ浴槽に朝倉が入ってくる。
大きいといってもやはり普通の浴槽だ、二人が入るには狭く自然と体が密着する。
「先輩の体・・・男の子なのに華奢で綺麗ですね。」
そう言いながら僕の体をなでる。
朝倉の、いや、女の子特有の柔らかい感触に思わず全身が赤くなるのがわかる。
「でも先輩・・・ 私のお仕事を奪ったんですからお仕置きです!」
「お仕置き?」
「えいっ!」
そういうと朝倉は僕の頭をお風呂の中に沈めた
「ゴホッ!」
とっさのことに驚き息を吐いてしまう。
息ができない!そう思った時だった。
僕の口に何かふれる、それは、朝倉の口だった。
思わず開いた口に朝倉から酸素が送られる。
それだけではない、朝倉の舌が僕の口の中に入ってきたのだ。
朝倉の舌は僕の舌を絡めとる、がその瞬間僕を抑える力が弱まり、必死になってお湯から顔を出す。
必死になって空気を吸った。酸素不足で頭がボーッとする。
霞んだ僕の視界に、朝倉のあの顔が見えた気がした。



47 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/04(金) 20:48:20 ID:jUOM+BV7
「で、一体なんであんなことをしたんだ!」
「すいません・・・」
流石の僕も今回のことには流すわけにもいかず、怒りを表す。
「危うく死ぬとこだったぞ!」
「・・・」
「まぁ、何であんなことをしたんだ。始めの箸といい、さっきのといい。僕が何か気に障るようなことしたか?」
「いえ・・・あの違うんです。ちゃんと理由はあります。」
「じゃあ何だ、言ってみろ。」
下を向いてもじもじしている朝倉。
しかし何か決心したのか顔をあげてこちらを見た。
「あの私の部屋に来てもらえますか?そこで説明するのが一番わかりやすいと思いますから。」
「朝倉の部屋?まぁいいけど・・・」
正直さっきのことと、部屋が何の関係があるか想像はつかなかったが、朝倉がそう言うので従うことにした。
「ここが私の部屋です、どうぞ。」
そう言って扉を開けた朝倉に続いて僕も部屋に入った。
そこは、あまりにも異様な空間だった。
薄い桃色の壁紙が貼られ、デザインの良い家具といかにも女の子を連想させるアイテムとたくさんのぬいぐるみが置かれた部屋。
ただこれだけなら問題はなかっただろう。
しかし、その部屋は普通ではなかった。
部屋中にあるぬいぐるみ、それがすべて原型をとどめていなかった。
あるものは腕がなく、あるものは頭がなく、あるものは腹から綿が飛び出していた。
「な・・・なんだよこれ・・・」
あまりの異様さに思わず一歩引く。
「どうですか?かわいいでしょう?」
朝倉は一番近くにあった人形を手にとり僕に見せた。
頭がなかった。
「私はね、先輩。自分が大好きなものほど傷つける癖があるんです。」
朝倉は語る。
「ここにあるぬいぐるみ、自分が買ったものやファンの子にもらったものもたくさんあります。でも結局、これと同じものはたくさんあります。」
そう言って異様なぬいぐるみを見回す。
「でもね、私が傷つけることで、このぬいぐるみたちは世界に一つだけになるんです。」
まるで子供のような無邪気な瞳が僕をとらえる。
「そしてその傷を見る度に、この傷は私がつけたんだ、私のものなんだって実感できるんです。」
「・・・だ・・・だからどうなんだっていうんだよ。」
僕はただ純粋に朝倉が怖かった。
「私ね先輩、先輩のことが好きなんです。」
突然の告白だった。
「はっ・・・はぁ?」
「初めてあった時から、これは運命だって思いました。」
そういって笑をうかべる。
「それからずっと先輩のことを調べました。趣味とか普段なにしてるのとか。それだけじゃなくてずっと先輩を見てました。」
「・・・」
「先輩のことを知る度に、もっと先輩のことを好きになってもう我慢できないんです。」
そう言って僕に近づいてくる。
「待ってくれ!俺は・・・」
「言ったでしょ?もう我慢できないって。」
ドンっ
背中が壁にあたる。もうこれ以上は下がれない。
「せんぱぁい、もっと苦しそうな声を聞かせてください。もっと辛そうな顔を見せてください。」
甘えた声をだして朝倉が近づいてくる。
「先輩、いっぱい傷つけ(愛して)てあげますね。」