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135 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/07(月) 00:29:47 ID:V5FTrEr6
「っつ・・・痛い・・・」
結局僕が朝倉の家を出たのはもうすぐ日が明けるであろう時間だった。
といっても半分逃げてきたような形なのだが・・・
僕の全身は無数の爪の跡と歯型で覆われていた。
目の前は痛みと疲労で霞んでいる。
疲れた体にムチを打ち、ようやく家についた。
「ただい・・・!」
「おかえりなさい、兄さん。」
玄関には・・・ 優がいた・・・
「なんで、起きてるの?」
「兄さんが帰ってくるのを待っていたんですよ。」
「友達の家に泊まるって言ってたじゃないか。」
「兄さんにそんな友達いるんですか?」
「っつ・・・」
僕の交友関係の狭さは一番優が知っている。
僕が友達の家に・・・なんて始めから嘘だとわかっていたのか。
「そんなことより兄さん。その傷はなんですか?」
「これは・・・ちょっと喧嘩で。」
「あんまり下手な嘘は自分の首を締めますよ。」
優の静かで、それでも感情がこもった声に何も言えなくなってしまう。
「まず、傷の手当をしましょう。上がってください。」
そういうと優はリビングへ入っていった、それに僕も続く。
「上着を脱いでください。」
できれば脱ぎたくなかった。
傷まみれの体を見せたくなかったし、何より、綾華につけられた印があるからだ。
朝倉のときは電気を消したため運良く印に気がつくことはなかった。
しかし、ここでは逃れられそうもない。
「いいよ、こんなの掠り傷みたなもんだし。」
「兄さん・・・」
「わ・・・わかったよ・・・」
覚悟を決めた。
「とりあえず、消毒しましょう。」
僕の傷まみれの体を見て、ただ優はそう言う。
しかし、その消毒は僕の想像とかけ離れているものだった。
「レロッ・・・レロッ・・・、あぁ、兄さんの味がする。」
「ちょ!優、何してるんだ!」
「消毒してるんですよ。」
優はそう言って、僕の傷口を舐めた。
優の柔らかな舌が僕の体を這う。
彼女の舌が全身の傷を一本一本丁寧に舐めて行き、そして、背中にたどり着いた。
「兄さん、これはなんですか?」
見られてしまった。見つかってしまった。
「これは・・・その・・・」
「言い訳は聞きたくないですからね。」
「・・・・・」
何も言えなかった。
この印のことを言ってしまえば、きっと優は綾華の事を嫌い、そして両親のことについて心配させることになるだろう。
頼りない、女の子にさえ逆らえない僕だけど、妹には余計な心配はさせたくなかった。
「言い訳ができなれば黙秘ですか、まぁいいです。誰につけられたかは明白ですし、変色の具合から、おそらくこの前の日曜日くらいですね?」
「・・・・・・・」
「でも、この傷は違う。」
そう言ってまた少し舐める。
「これはごく最近できたものですね・・・」
やっぱり僕は、この傷のことは言えなかった。
昨日はあんな怖い思いをしたが、結局これは僕への愛情表現なのだ。
付き合いは短いが、朝倉も基本的には良い後輩なのだ。
でも優はきっと朝倉のことを許さないだろう、僕は優と朝倉が仲違いするのは見たくなかった。
良き妹と、良き後輩でいてほしかったのだ。



136 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/07(月) 00:30:15 ID:V5FTrEr6
「兄さん。」
優は僕を後ろから抱きしめた。
「私は、兄さんが思っている以上に、兄さんのことを大切に思っているんです。」
そう言って抱きしめる力を強める。
「だから、兄さんのことに何かあったらって思うと、私は・・・どうしても怖いんです。」
また力が強くなる。
「兄さんはまるで甘い蜜のようです。みんなその蜜を吸いに集まってくる虫けらにすぎません。でも、兄さんは優しいですからみなに蜜を吸わせてあげるんです・・・ そして、いつか枯れてしまう。」
もはや体が痛い。
「だから、兄さんが誰かに枯らされてしまうくらいなら・・・」
そう言って、優が耳元でささやく
「私が枯らして、永遠にします。」



「あの、柏城先輩!」
同日の昼休み、学食で昼食をとろうとした僕に声をかけてきたのは、朝別れたばかりの朝倉だった。
「い・・・いやぁ」
声が裏返った。
「あの・・・私、お話したいことがあるんです・・・」
そう言う朝倉は何故か今にも泣きそうななほど目に涙を浮かべていた。
ただでさえ目立つ朝倉が涙目で僕に懇願しているため、食堂中のみなの視線が僕に突き刺さった。
向こうからファンクラブという名の化物達が近づいてきているのがわかる。
「と・・・とりあえず、人気のないところへ行こう。」
「は・・・はい。」



「あの・・・話ってなんだい?」
ここは普段は誰も立ち入らない屋上だ。
朝倉を見ると昨日の出来事がよみがえる、正直逃げ出したいくらい怖かった。
「私・・・その・・・先輩に謝りたくて。」
「謝る?」
「はい・・・」
そう言って朝倉は頭垂れた
「朝・・・起きた時に・・・先輩がいなくて・・・その時初めて・・・私が取り返しのつかないことをしたんだと気づきました。」
朝倉の手がスカートをつかんでいる。
「私・・・先輩を思いっきり愛せば・・・先輩は答えてくれると思ったんです・・・理解・・・してくれると思ったんです。」
朝倉の手は震えていた。
「だけど・・・あるはずの先輩のぬくもりがなくて・・・朝一杯考えて気づいたんです。私は結局、自分の気持ちを押し付けてばかりで、先輩のきもちなんて考えていなかったことを。」
ハッとした。
僕も彼女と同じだ。
昨日のことはとても怖くて辛かったけど、それは、それだけ彼女が僕のことを愛してくれているということ。
やり方は他人と違い、とても不器用だけど、それでも彼女は僕への気持ちを示してくれたのに。
「昨日・・・怖い思いをさせたことはわかってます。だから謝らせてください!」
そう言って彼女は顔を上げた。
「許してくれなくて、奴隷でもセフレでもいいです・・・だから私を傍に・・・置いてください・・・」
言葉は少々重かったが、それでも彼女の気持ちは十分に感じることができた。
今度は僕の番だ。
「謝るの僕のほうだよ。確かに怖かったけど、朝倉の気持ちに気づけなかった僕も悪かったよ。」
ハッっと一瞬朝倉は顔を上げた後、朝倉は僕の胸に飛び込んできた。
朝倉は、泣いていた。
「せんぱぁい・・・せんぱぁい・・・私、てっきり先輩に・・・嫌われたかと・・・思ってました・・・」
僕は一瞬戸惑ったが朝倉を抱きしめた。
普段は誰よりも明るく、そしてアイドルもこなす彼女の体は、僕の想像以上に小さく感じた。
ここで、僕の一日が終わればそれはそれはハッピーな一日だっただろう。
しかし、そうは問屋がおろさなかった。
抱きしめた朝倉の向こう。
屋上へと至る階段の出入口から、能面のような顔でこちらを眺める綾華がいた。