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230 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/12(土) 16:05:07 ID:ppr/KC70
「私が作ったって・・・どういう意味よ。」
僕は、多分、きっと綾華も、優の言葉の意味が理解できなかっただろう。
「言葉どおりの意味よ。兄さんの病気は私が作ったもの。だから私以外には誰にも治せない。」
僕は優の言葉が信じられなかった。
「じょ・・・冗談でしょ?優?」
「ごめんなさい兄さん。でもこれは本当なの。」
「何で!何でそんなことするのよ!」
綾華が声を荒げる。
「兄さんを守るためよ。あなたのような人からね。」
そう言って優は綾華を睨んだ。
「兄さんにあんな印を残すような人に、兄さんを渡さないためよ。」
「あなたに何がわかるの?奨悟は私のものなの!だから印を残したの。誰にも渡さないために!」
「そう言う自分勝手な発想が兄さんを苦しめているんです。兄さんをあなたのような人に任せると兄さんはきっと汚されてしまいます。」
そう言うと優は僕の手を引っ張った。優は僕と綾華の間にたつ。
「もちろん兄さんは私が守ります。ですが、もし私の手のとどこないところで兄さんが汚されてしまうくらいなら・・・」
「・・・・」
「兄さんを殺してでも、兄さんの心を守ります。」
僕は優が言った言葉の意味を理解できない。
「そんなの・・・ただの自分勝手だわ!他人取れるたら殺すなんて!」
「もちろん、私もすぐ後を追います。例えあの世でも私は、兄さんを一人になんてしません。私はそれくらいに覚悟をしているんです。」
僕は確信する。優のこの言葉は本気だ。
僕にもしものことがあれば、優ならためらいもなく僕を・・・
それは、僕のためだと信じているから。
「兄さん、帰りましょう。」
言葉を返せない綾華を見て満足したのか、優がそう言った。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「嫌ですね、仮にも兄さんが好きだというなら?命をかけるくらいの覚悟をみせたらどうですか。」
「・・・っ!」
「話になりませんね。兄さん。」
そう言うと優は僕と腕を組んだ。
「ではさようなら。周防先輩。」
優は綾華を嘲笑うかのようにそう言い放った。
僕は優に手を引かれて階段を降りる。
途中、振り返った僕が見たのは、一人取り残された屋上でむせび泣く綾華の姿だった。



231 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/12(土) 16:05:51 ID:ppr/KC70
家に帰った僕は、予想以上に落ち着いていた。
優もさっきのことを気にしているようではなく、いつものように家事をこなしていた。
こんなにも落ち着いてる。これはきっと、僕は心の中でこのことをわかっていたのかもしれない。
唐突に発病し、優が救ってくれた。
それからも病院ではなく、優が薬を作ってくれたこと。僕は薄々気づいていたんだ。
だけど、それを認めるのは怖かった。だって、それは文字通りの意味で。
「優がいなければ・・・生きていけない・・・」
別に優が嫌いなわけではない、だけど、僕もいつか普通に恋して、普通に結婚して、普通に家庭を築く。
そんな僕の夢は叶わないかもしれない。
PRRRRRRRRRRRR
鳴り響いた携帯は、朝倉からの通話だった。
一瞬とるのをためらったが、今日のことの誤解と謝罪をしたかった。
意をけして電話をとる。
「せっ・・・先輩?」
「あぁ、僕だよ。」
予想に反し、朝倉の声は震えていた。
「良かった・・・私、捨てられちゃったから・・・もう取ってもらえないと思ってた・・・」
「捨てるなんて、そんなつもりじゃないよ。」
「でも・・・先輩は・・・綾華先輩を・・・」
「それにはちょっと言えない事情があったんだ。朝倉のことが嫌いなわけじゃないよ。」
「てことは、好きなんですか?」
「・・・・・・」
「嫌いですか?」
「嫌いじゃない。」
こんな答えしか出せない自分に、僕は腹立たしかった。
「ねぇ、朝倉。」
「はい。」
「朝倉は、なんでそんなに、僕のことを気にしてくれるの?」
ずっと、気になってはいた。
たった一度ぶつかっただけの僕をずっと気にしてくれていたその理由を。
「・・・そういえば、話していませんでしたね。」
そう言ってポツリポツリ語りだした。
「私の家、お父さんが浮気ででていっちゃって、お母さんと二人だったんです。
離婚してからはお母さん、ずっと元気なかったときです。一緒に買い物をしていたときに私がスカウトされたんです。
お母さん、それを自分のことよのように喜んでくれて、それで、私はお母さんを喜ばせるために一生懸命お仕事をしました。
でも、お母さんが私のマネージャーをするようになってからは、変わってしまいました。
多分、お父さんのことを忘れるために、ずっとお仕事を続けていました。」
「そうだったのか。」



232 :囚われし者 ◆DOP9ogZIvw :2010/06/12(土) 16:06:13 ID:ppr/KC70
「だから私。人を信じられなくなったんです。お母さんは仕事のことしかみなくなったし、私に近づいてくる人はみんな私がアイドルだからでしたし。」
「・・・・」
「だから、あの日、先輩はわざとぶつかってきたんだと思ったんです。
周りの人のように、私に声をかけるために・・・
でも、先輩は違いました。私のことを心配してくれてる気持ちが伝わってきたんです。
今までにない、とても暖かな気持ちになれたんです。」
あの日、僕は朝倉の存在を知らなかった。
でも、例え知っていたとしても、僕は同じ行動をしただろう。
他人を思いやる。これが僕に唯一できることだから。
「だから私、先輩が好きなんです。とても暖かくて優しいから。」
思った以上につらいことを語らせてしまった。
「先輩、私の先輩への思いは何があってもとめられません。」
先ほどとは違う凛とした声で言う。
「知らなければ我慢できました。だけど、私は先輩を知ってしまった。暖かさを感じてしまった。」
だから・・・と続く
「私は先輩をあきらめません。何があっても・・・」
これが、朝倉の想い。
僕が受け止めなければいけない気持ち。
「ありがとう・・・朝倉。」
「いえいえ、私も聞いて貰えてよかったです。」
「じゃあ朝倉、今日はもう遅いから・・・また明日」
「はい、また明日会いましょう。」
そう言って僕は電話を切った。
朝倉の話を聞いて、僕はなおさら頭を抱えることになった。
僕が誰も選ばないから、僕だけじゃなく、彼女たちも傷ついていく。
そんなことはわかっていた。結局一人しか選べないのだ。
ならば、早く決断を下すこと。そうすれば少しでも彼女たちが傷つくことを軽減できる。
「でも・・・選べるわけないよ・・・」
僕には選べなかった。
誰か一人を選ぶことではない。誰か二人を選ばないことを。