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318 :森山家の青少年:2010/06/15(火) 17:03:08 ID:GLRNYcdj
「第二話」(少年編)


 翌日・気温も上がってきた夏の真っ昼間。

 「・・・なんで家に来るんですか?」
 眉根に皺が寄る。正直意味が解らない。
 目の前に嬉しそうな笑顔で対面する女性。
 ついでに俺の隣でそっぽ向いている和沙はいつになく・・っていうか物凄く不機嫌になっている。
 
 「水瀬先輩。」
 
 「あら、迷惑だったかしら?あと、先輩はやめてね。」
 「迷惑、とは言いません。ですが水瀬さんは周囲の見解というものを考えた方がいいと思います。」
 「どうして?」
 どうして・・って言われてもなぁ。さっきから窓の外を見ると玄関付近に見知らぬ男がうろついてるし。
 アレどう見ても不審者だよな・・。他にも似たような人が2、3、4・・・
 仮に俺の通っている高校の非公式組織・水瀬先輩ファンクラブの人だったとしても合法ではないし、そもそもストーキングは事と次第で悪質な犯罪だ。
 「まぁいいです。何か用があって来たんですよね。」
 「ちょっと今日は裕介君に相談事があってね」
 和沙が右腕に腕を絡めてくる。少し重い。
 軽く頭を撫でて宥める。昔から和沙にはブラコンの気があったが今日ほど露骨なのは久しぶりだ。
 「相談?」
 しかしこの完璧超人の先輩が相談するとは余程の事だろう。
 相談相手が俺なんかで大丈夫だろうか。
 「好きな人を振り向かせるために協力してほしいのよ。」
 何を思ったか和沙が途端に絡める腕に力を込める。ちょっと痛い。絞まってる。
 「えっと・・・相手は誰ですか?」
 先輩は一瞬迷うような素振りを見せて頬を若干赤らめながら言った。

 「森山・・宗司君よ」
 森山宗司・・・森山・・・・宗司!?
 「えっと、聞き間違いでなければウチの宗司兄さんですよね。」
 「そうよ」
 「・・・・・・・・」
 心の底から驚いた。そして世間の意外な狭さを知った。
 昨日聞いた言葉を思い出す。

 『居るには居るんだけどね。・・・全然振り向いてくれなくて。』
 マジかよ兄さん。何考えてるんだ?


319 :森山家の青少年:2010/06/15(火) 17:04:14 ID:GLRNYcdj
「ここまで聞いたんだし、協力するよね?」
 笑顔が怖い。断ったら多分、明日から入院生活の始まりだ。
 「わかりました協力します。」
 有無を言わせぬ圧力に俺は屈した。俺は痛い思いをしたくない。
 「で・・その・・・宗司君、居る?」
 「ちょっと確認してきます」
 
 階段を昇り、宗司兄さんの部屋へ
 「兄さん、居る?」
 廊下で立ち話する形で兄さんが呼び出しに応える。
 「どうした、何かあったのか?」
 先輩の恋路のためにもできるだけ言葉を選ぶ。
 そう、状況観念(シチュエーション)が大事だ。
 「兄さんにお客さんが来てる。」
 「誰だ・・・?」
 兄さんだってファン程ではないにしても水瀬先輩には関心くらい有るだろう。
 「水瀬先輩だよ」
 「ッ!?」
 最初は訪ねてきた人物の名前に驚いたのだと思った。
 きっと学校一の人気を誇る水瀬先輩だったからビックリしたと思った。
 だが宗司兄さんの顔はみるみる青ざめていく。
 体がよろりと眩暈がしたように傾き、嗚咽のような声を漏らす。
 「・・・ぁぁ・・・ぁ・・・・」
 「こんにちは宗司君」
 「水瀬先輩?!」
 いつの間にか背後に先輩がいた。
 宗司兄さんに現れた変化は急激だった。
 化け物を追い払うかのような勢いで部屋に逃げ込み、扉を閉め、叫ぶ。
 「帰れっ!お前とは何の関係も無い!帰れ、帰れよぉぉぉぉぉぉっ!!」
 「宗司君!?何で閉めるの?ねぇ、何で開けてくれないの!?」
 ただ困惑するしかできなかった。
 「帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ・・・・」
 「開けてよぉ!何で、どうして開けてくれないの!?」
 呪詛のようにだたひたすら先輩に帰れと言い続ける宗司兄さん。
 縋り付くように扉越しの兄さんに向かって面会を求める水瀬先輩。


320 :森山家の青少年:2010/06/15(火) 17:05:21 ID:GLRNYcdj
 少なくとも二人は結構前から知り合ってる。じゃなければこんな事にはならない筈だ。
 二人について詮索する気は起きなかった。むしろ『したくない』。
 ・・・やっぱりウチの家系は女運が無い。
 二人を放って、数分前まで三人で話し合っていた(和沙は俺にしか話しかけなかったが)居間に戻ると、和沙が所在無さげに座っていた。
 どことなく居心地悪く見えた。
 俺が戻ってきたのを知ると途端に目を輝かせ、腕に絡んでくる。
 「兄貴、大丈夫?顔色悪いよ」
 「疲れただけだよ・・・」
 「昨日の兄さんみたいなこと言うね」
 「仮にも心配してくれるんだったら腕を解け。重い」
 普段なら『重い』に反応してもっと力を込めるところだが、今回はすんなりと絡めた腕を解く。
 いつもと違う反応に拍子抜けして油断した。
 正面に来た和沙が抱きついてきた。
 当然、抱き止めることなどできず、文字通り押し倒される。
 「ふっふっふ・・女の子に向かって『重い』などと言う兄貴には全体重を掛けてお仕置きだ~!」
 宣言どおりに全体重を掛けてボディプレスを敢行する和沙。
 重いとは言ったものの人類である以上はある程度の体重があり、それを考えるとたしかに和沙は軽かった。
 「ぐ・・こんなことで遊んでる暇があるなら勉強しろよ。受験生だろ」
 「私が大丈夫なのは兄貴だって知ってるでしょ?」
 確かに和沙は勉強ができる。勉強もスポーツも負けては兄として立つ瀬が無いんだがこれは事実だ。
 だが受験にはあらゆる可能性が在り、いくら勉強ができても絶対は在り得ない・・・・・
 考えていると次第に胸板に軟らかいものが当たっていると気付く。
 「・・・・・・・ッ!」
 気付いたときには遅く、俺の反応にニヤニヤしている和沙がいた。
 ここで下手な返事をしようものなら今後しばらくこの事をネタにからかわれる。
 もはや自分の立場などどうでもいい。兄として負けるわけにはいかないのだ!
 
 和沙の体重は俺と比べてたしか7キロ以上軽い。それを活かす。
 力任せに体を捻り、圧し掛かる和沙と体位を反転する。
 不意打ちに怯み、和沙の腕の力が抜けた。
 そして完全に反転する直前で床を蹴って跳び、離脱!・・・が、詰めが甘かった。
 「逃がさないよ兄貴」
 「ぬ、ぐぉっ!?」
 完全に離れるかどうかのタイミングで和沙が首に腕を回してきた。
 十分に跳べず、即座に自然落下。
 今度は俺が圧し掛かる形になったが、全くの不意打ちに対応が遅れて両膝と顔面を床に強打。
 「っっ・・・おぉぉおぉぉ・・ぉぉぉ・・・」
 痛みのあまり悶絶し、動けなくなる。
 こんなときに限ってドアノブが回った。
 長身の青年が顔を覗かせる。大学から帰ってきた長男の賢一兄さんだ。
 「ん、今日は赤飯か?」
 兄さん、真顔でそんな事言わないで下さい。俺たち兄妹デスヨ?
 


321 :森山家の青少年:2010/06/15(火) 17:06:08 ID:GLRNYcdj
 水瀬先輩はいつのまにか帰っていた。
 今日の夕飯は、赤飯はさすがに無かったが妙に豪勢だった。



322 :森山家の青少年:2010/06/15(火) 17:06:49 ID:GLRNYcdj
さらに翌日
 下がり始めた気温と徐々に混じり始めたヒグラシの声が夏の終わりを感じさせる。

 だいたい1ヶ月ぶりに入った部屋。
 感想は「相変わらず」だ。
 飾り気が少なく、殺風景な部屋。
 シンプル・イズ・ベストとでも言うべきか、簡素で変哲の無さ過ぎるベッドと学習机。壁に床。クローゼット。
 唯一にして一番目立つ特異点がひとつ、俺の背後に佇んでいる。
 決して狭くない部屋の壁一面を占拠した巨大な本棚。
 中には各種辞書や参考書、漫画に小説、何かの資料の束などが数百という規模で納められている。
 「他人の部屋をじろじろ見るのはあまり良いとは言えないよ。女の子の部屋なら、なおさらね」
 「あ、スミマセン」
 声色に咎めるような気は感じられなかった。
 だが、女子(髪型次第で中性的な少年とも思われそうな屋九嶋だが・・)の部屋を見回すのはさすがに憚られた。
 「なんかこの本棚が倒れてきたらと思うとゾッとしますね。」
 「大丈夫。今なら倒れても潰れるのは裕介君だけだし」
 倒れる軌道を予想してみると射程範囲内に俺が居る。対してテーブル挟んだ向かいの屋九嶋には届かない。
 「俺、死ぬじゃないですか!」
 「葬式には絶対参列するから安心してくれ。」
 「それで死んだら絶対枕元に立ってやる!」
 「女の子の寝室に夜中に現れようとは・・裕介君って意外と大胆だね。」
 「なっ・・・・・!」
 ふと屋九嶋の寝巻き姿が脳裏をよぎる。いや、もしくはジャージか?まさかワイシャツ一枚ってことは・・・
 ・・・って何考えてるんだ。ついに妄想癖が!?・・ヤバイな、俺。
 


323 :森山家の青少年:2010/06/15(火) 17:07:51 ID:GLRNYcdj
「どうしたんだい?裕介君」
 「えっ・・・と、何ですか?」
 「『何ですか?』じゃないよ。考え事にしては変だったからさ」
 「そんなに変でしたか?俺」
 「百面相だったよ」
 「マジですか!?」
 ヤバイ、顔に出てたのか!?
 「嘘だよ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「もしかして人にはとても言えないような邪な事を・・・」
 「違います!」
 あぁ、本当は邪な事考えていたけど、もし露呈したら危険すぎる。
 「へぇ・・本当に~?」
 「・・・・・・・・・・・」
 「まぁまぁ、そんなにムスッとしてないで。」
 アッサリと折れる屋九嶋。・・・助かった
 「でも、もし裕介君だったら悪い気はしないね」
 「そんなこと言ってると襲われますよ」
 「そのときは股座を蹴り上げてしんぜよう。」
 俺が屋九嶋を襲うことなど在り得ないのだが、蹴り上げられる様を想像して思わず身震いした。
 しかし股間を蹴り上げられるのは凄まじい痛みを伴う。弁慶の泣き所なぞ比べ物にならん。
 「多分、鍛え上げられたレスラーでも悶絶しますね。それ」
 「普段着の上から蹴り上げられても平然としていられる男性って居るのかい?」
 「まずいません。もし蹴られて平然としていたらソイツはスーパーマンです」
 「正義の味方が痴漢行為をすると思う?」
 「慈善事業ばっかりでフラストレーションが溜まっていたりするかもしれません。」
 「だったらもっと酷い悪魔の諸行に出るんじゃないかな」
 「例えば?」
 「女の子にそれを言わせるのかい?」
 「・・・すみませんでした。」
 そういえば舌戦でも勝ったことが無いなぁ・・・祖父さん、なんか情けなくなってきたヨ・・・・。
 


324 :森山家の青少年:2010/06/15(火) 17:08:20 ID:GLRNYcdj
「ところで宿題はやってるかい?」
 唐突に話題が変わった。
 「・・・・・・・えぇ、まぁ・・」
 曖昧な言葉でお茶を濁す。実はちょっとヤバい。
 「強制チェ~ック!」
 すると屋九嶋は凄い勢いで俺の鞄を漁り始め、終業式手前に配布された「夏季長期休暇の課題」
 と、態々難しげな題が打たれた書類(単に夏休みの宿題だ。)を取り出す。
 A4紙40枚で作り上げられし課題は一枚一枚の問題の多さに全校生徒を落胆の奈落へと叩き落した。
 ・・・これでもコツコツ終わらせてきたんだ。
 一応本日は勉強会ということになっているが・・・正直やる気が出ない。
 「!」
 「どうしました?」
 「こ・・これは・・・!」
 マズイ、バレてしまったか
 「す・・数学が、驚きの白さ!!」

 ・・・1時間経過

 ♪口動か~す 暇~は~無~い 誰か算数、写~させ~ろ♪
 ♪アンタに見せて~る 暇~は~無~い ・・・・・
 「今は終わらせる事だけを考えるべきだよ」
 反論できない。イヤ、さっきのは休憩なんです。脳を休ませていたんです。
 「大丈夫ですって、ちゃんと自分で終わらせますから」
 「基本はできても発展問題になると全く答えられないくせにそんな事言って大丈夫かい?」
 「・・・大丈・・・夫だ・・と・・思いますよ?」
 「言い淀んでる上に語尾は疑問形って・・・」
 さすがに呆れたらしい。
 「というわけで勉強は終了。さぁ、ぷよ○よでもしまsy・・」
 「・・・よし、友として今は心を鬼にして君に課題をやらせるべきだ。さぁ裕介君、始めるぞ!」
 呆れすぎて何かスイッチが入ったらしい。口調が微妙に変わってる。
 屋九嶋は根が真面目なヤツだから、だらしないものが許せないのだろう。
 さぁ地獄のスパルタお勉強会の始まりだ。

 『もしもし・・あ、森山さんの御宅でしょうか。ハイ、ええ、そういうわけで裕介君は今日は私の家に泊まることになりました。ええ、はい、迷惑だなんてとんでもない。はい、わかりました。では』
 ・・・泊り込みで勉強会だとっ!?
 屋九嶋さん、いくらなんでもやりすぎです。
 
 結局俺は、夜中に頃合を見計らって抜け出した。
 書置きが置いてあるから大丈夫だろう。
 さすがにうら若き男女が(屋九嶋の母もいたが)一つ屋根の下というのは抵抗があった。
 でもスパルタのおかげで8割がた課題が終わった。屋九嶋に感謝せねば。
 
 やっぱり自分のベッドが一番落ち着いた。
 ただ僅かに湿ってるのが気になったが・・・・・