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414 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:27:00 ID:mMXCKJ3b
いつの時代にも必ずいるアイドルと呼ばれる女性達。
昭和にピークを迎え平成に入ってからはしばらく下火だったが2010年4月、
日本の歌謡史に残るであろう国民的アイドルが登場した。彼女の名は…

「みんな、今日は来てくれてありがとう!!!」
約55000人の収容数を誇る東京ドーム。
その日本でも有数のドームがたった一人のアイドルのライブで使われていた。
彼女が回りを見回すとそこには溢れんばかりの人、人、人。そして轟くばかりの大歓声。
老若男女を虜にする彼女の歌声と外見は収容数を越える集客力をみせていた。
『アンコール!!アンコール!!アンコール!!』
三回目のアンコールが聞こえる。ライブ終了時刻の9時はとっくに過ぎており、
尚且つ二週間で日本全国を回る強行ツアーの最終日。彼女の体力は限界を超えているが
「じゃあ次の曲行ってみよう!!」
途端に再度沸き上がる大歓声。
彼女は演奏者達にだけ分かるよう"ゴメンね、でも後少しだけ付き合って"と合図する。
誰もが呆れたが悪い気分ではない。彼らも彼女に魅入られた一人だから。
彼女がゆっくりと息を吸ってから
「みんな、行くよっ!!」
ライブは再開した。


皆さんはご存知だろうか?去年の11月にデビューし一気にスターダムを駆け抜け、
僅か半年で国民的アイドルとなった"鮎樫(アユカシ)らいむ"の存在を。
…愚問だったな。
今では彼女の名前は世界中でも知れ渡り、国際的アイドルへ成りつつあるのだから。
日本と小国コーデルフィアのハーフである彼女は透き通るような白い肌に光り輝く金髪、
そして澄んだ青い眼に人形のような端正な顔立ち。確かにこれらも素晴らしいが一番はやはり声だ。
科学的に癒しの効果があると証明されるよう、彼女の歌声には特別な力がある。
言葉が違う外国の人達まで癒されてしまうのだから反則だろう。

長ったらしく鮎樫らいむの素晴らしさについて説明したが、大事なのはそこではない。
俺、遠野亙(トオノワタル)は何と
「皆さん本当にお疲れ様~!今日も長引いちゃってゴメンね!あ、遠野君タオル頂戴!」
「はい!どうぞらいむさん」
「ありがとう。相変わらず早いわね」
彼女の専属マネージャーだったりするのだ。



415 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:30:50 ID:mMXCKJ3b
彼女との出会いは去年の9月頃だった。
それまでしがない大学生活をおくっていた俺、遠野亙の人生を変える出来事が起こった。
その日はクラスの飲みがあり終電で帰っていた。
後少しで自宅まで来た時、何やら揉めている男女に出くわしたのだ。
というか二、三人の男が一人の女の子をナンパしてるようだった。
女の子が終始黙っているのに苛立った男達が、
彼女を無理矢理何処かへ連れていきそうなところに出くわしてしまったのだ。
「何だコラァ!見てんじゃねぇぞ!?」
「あーん!?テメェガンつけやがったな!?」
「すっこんでろや!!」
何故か知らないが相手を怒らせたらしくいきなり殴り掛かってきた。
「…なんちゅうテンプレな台詞」


一応護身術を習っていたおかげで相手を一掃出来た。まあ何発か喰らったけど。
「…ふう、疲れた」
「合格ね」
「…はい?」
意味不明な発言に振り向くとそこには人形のような美少女が立っていた。
「ある程度腕は立つみたいだし顔も悪くない」
「……えっと」
「言わなくて良いわ。貴方、遠野亙君でしょ?」
「な、何で俺の…」
「そんなことどうでも良いじゃない。とりあえず、君はこれから私の専属マネージャーだから」
そういうと彼女はいきなり俺の手を握った。
「私は鮎樫らいむ。よろしくね」
これが日常の終わり、そして非日常の始まりだった。

まあその後、いつの間にか住所が彼女の住んでいるマンションになっていたり(彼女曰く近くの方が護衛しやすいから)、
大学を卒業したことになっていたり(彼女曰くマネージャーに専念して欲しいから)、
一週間で運転免許を取らされたり(彼女曰くマネージャーは運転も仕事だから)、
携帯が機種変され電話帳が消えていたり(彼女曰くアイドルの情報を漏らさないため)、
俺のことを異常に知っていたり(彼女曰く雇用者のことを知っているのは雇い主として当然のことだから)等々、
非日常的なことがいくつか起こったがそんなこと忘れてしまうくらい彼女は美しく輝いていた。
何より俺をスカウトしてから二ヶ月でレコード会社と契約し
デビューするという実力にはただ圧倒された。
流石にわざわざ日本でデビューするために母国を発った覚悟は伊達じゃないらしい。



416 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:33:49 ID:mMXCKJ3b
「「お疲れ様でした~!」」
ここはとある居酒屋。そう、鮎樫らいむ初の全国ツアー成功を祝しての打ち上げである。
スタッフは裏方を合わせて100人以上になるので貸し切りだ。
飲み会の手配をするのはマネージャーの俺の役目だが、勿論らいむさんを送る俺は飲めない。
仕方ないのでジュースを飲みながら酔い潰れた人の処理をする。もう慣れたものだ。
ふと前を向くと、らいむさんと眼があった。
彼女は主役なので色々な人に囲まれている。そりゃあ俺だって出来れば側にいたいが…。
"このオジサン達、ウザいんだけど何とかしてくんない?"
"無理です。レコード会社のお偉いさんですよ!次のアルバムも決まってるんですから"
"遠野君はいつも仕事優先なのね。私と一緒にいるの…嫌?"
"そんな訳ないですよ!そりゃあ俺だって出来れば…あ…その…"
"…出来れば、何かな?"
らいむさんが遠くでニヤニヤし始めた。
あの人はこうやって俺をからかうのが好きらしい。
そして自分でも驚いたのだが俺はらいむさんと眼や表情の変化で意志疎通が出来る。
しかも信じられないくらい正確に。
最初はらいむさんも驚いていたけどすぐに「運命…か」とか呟いて納得していた。
俺にはさっぱりだがこの仕事をするには結構便利だ。
「らいむちゃん、もう一杯ついでよ!」
「あ、はい!社長、飲み過ぎじゃないですか?」
レコード会社の社長に肩を触られてキレそうになりながらも、らいむさんはお酌をしていた。
"らいむさん、頑張りましょう!"
"本当は遠野君にしてあげたいけど…それは帰ってからね"
らいむさんの怪しげな笑みにドキッとしてしまった。





「ふぅ、スッキリした」
居酒屋のトイレって妙にお洒落だよな。なんてどうでも良いことを考えていたら誰かとぶつかってしまった。
「っと、すいません」
「も、申し訳ありませんっ!」
どうやら居酒屋の店員だったらしくひたすら謝って来た。
「いやいや、こちらも不注意でしたし。大丈夫でしたから」
「本当に申し訳ありませんでした!」
店員の女の子が顔をあげた。ドキッとした。ときめきじゃない方面で。
「…藤川…さん?」
「…遠野…君?」
なぜならその娘は大学時代の友達だったから。



417 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:37:42 ID:mMXCKJ3b
居酒屋のトイレの前で気まずそうにする二人。
というか俺と大学時代の友達、藤川里奈(フジカワリナ)さん。
「…元気…だった?」
「………」
「えっと…居酒屋で働いてるなんて、知らなかったよ」
「………」
「…その、仕事あるからまたね」
「…何で」
「えっ?」
「何で…何でいきなり消えたの!?何で連絡つかないの!?何でそんな落ち着いてられるの!?何で!?何で!?」
思い切り藤川さんに抱き着かれた。…泣いているようだった。
「…ゴメン、ちゃんと話すからさ」



「…って感じかな」
全て話した。かい摘まんでだけど。
「じゃあ今はあの鮎樫らいむのマネージャー…ってこと?」
「そう。大学行けなくなったのは残念だけど今の仕事、やり甲斐あるし」
「馬鹿じゃないの!?」
思い切り叩かれた。いつぞやのヤンキーより痛いんですが。
「残念?何納得してんのよ!?そんなこと認められるわけないじゃない!」
耳元で怒鳴らないで欲しい。
「アタシがどれだけ探したと思ってんの!?サークルの皆だって心配してたし、
 アタシ一週間眠れなくて倒れて!」
「ゴメン…」
何か予想以上に迷惑をかけたようだ。
「…もういい、見つけたから。じゃあ明日から大学行こう」
「えっ?」
「こんなふざけた生活、もう終わりだって言ってるの」
「それは「それは無理な話ね」」
振り向くとらいむさんが立っていた。



418 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:39:17 ID:mMXCKJ3b
「鮎樫…らいむ」
藤川さんが息を呑むのが分かった。
「遠野君の大学時代のお友達?声が大きくてこっちまで聞こえてきたわよ」
ニコニコとしているが決して笑ってはいない。むしろらいむさんは怒っていた。
「藤川…里奈です」
「そう。藤川さん、悪いけど遠野君はもう大学を卒業したから行く必要はないわ。」
「ふ、ふざけないでよ!彼はまだ三年生で」
「信じられないんだったら学生課にでも聞いてみたら?」
らいむさんはゆっくりと近づいて来て
「帰りましょ、遠野君」
俺に抱き着いた。
「な、な、何してんのよ!?」
藤川さんはらいむさんに掴みかかろうとするが
「藤川さん、止めてください!」
俺がそれを黙って見ているわけがない。咄嗟に藤川さんの手を払った。
「な、何でそんな女を庇うのよ!?そいつは遠野君の人生を!」
「無茶苦茶にはしてませんよ。確かに大学は楽しかったけど自分で学費出してまで
 行く価値があったか…今でも分かりません。この仕事は辛いし雇い主は意地悪だけど」
…らいむさん、後ろで抓るの止めてくれますか。
「でも凄くやり甲斐があるし俺はらいむさんに感謝してるんです。だから大学には戻らない。ゴメンね、藤川さん」
藤川さんはただ唖然としていた。
まさかこんな答えが返ってくるなんて予想もしなかったようだ。
「さ、らいむさん。帰りましょうか」
らいむさんも予想してなかったみたいだ。
「…らいむさん、顔真っ赤ですよ?」
「う、煩いわね!!早く車出してよ!!」
さっきの仕返しですよ。




「あ、藤川さんこんな所にいたの!?店長がさっきから呼んで…藤川さん?」
藤川里奈は二人が去って行った方向をずっと見ていた。
「……さない」
「えっ?」
「許さない!!」
「ひっ!?」
振り返った彼女の顔はまるで般若のようで、バイト仲間も思わず後ずさるほどだった。
「そっちがその気なら…アタシだって…」
どす黒い何かがゆっくりと彼女を侵食してゆく。