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501 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02:12:13 ID:8SCKrobU
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
「ただいま」
毎日よく同じ台詞を言えるわね。仕事か。
「里奈様。お鞄をお預かりします」
アタシ専属のメイド、桃花(トウカ)がいつものように鞄を持ってゆく。
「お父様は?」
「旦那様はお仕事中で書斎におりますが。お呼び致しましょうか?」
日曜日なのに仕事。あの人も相変わらずだ。
死んだお母様は何故あんな人と結婚したのだろう。
「いいえ、終わるまで待っているから結構よ」
エントランスを通りリビングへと向かう。広い豪邸。召使しか動いていない、活気のない豪邸。
これがアタシ、藤川里奈の日常だ。



「あ、姉さん。お帰りなさい。珍しいね、日曜日に外出なんて」
リビングでは高校生の弟、藤川英(フジカワハナ)がくつろいでいた。
「アンタこそ珍しいわね。探偵ごっこはどうしたの?」
無駄に多いソファーに座る。やはりフカフカだった。勿論弟とは距離を取る。
「今日はお休み。リーダーが調子悪くてね。あ、探偵ってより何でも屋かな」
「あっそ」
アタシは弟が嫌いだ。昔から何でもそつなくこなし、頭も良い。
今通っている東桜(トウオウ)高校だって県下一のトップ校だ。
ルックスも良いから周りからの評価も高い。そのくせ人に関心がないし、
いつも飄々としている。ハッキリ言ってムカつくのだ。
「そういえば姉さん、今月号にも出てたね」
そう言いながら弟は読んでいた雑誌を見せてくる。若い女の子達が読む雑誌だ。
「何でアンタがそんなの持ってるのよ」
「仲間から貸して貰ったんだ。"これ英のお姉ちゃん!?"って言われてさ」
あの人…お父様に勧められてモデルをしている。
どうせ藤川の名を上げるために利用されているだけだが。それより
「仲間…ねぇ」
弟が何かに執着するなんて珍しい。
「アンタ、仲間とか信じるタイプだった?」
「いいや。でも今回は本気だよ」
「ふーん」
まさか弟の口から"仲間"なんて言葉を聞く日が来るとはね。
「ねぇ、アンタの仲間って…!」
誰かが階段を降りて来る音がした。アタシは瞬時に気持ちを切り替える。
アタシからわたしへ。弟もわたしの変化に気付いたようだ。
軽くため息をつくと雑誌を読みはじめた。


502 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02:13:44 ID:8SCKrobU
「おおっ、愛しき我が娘よ、帰ってきたか!」
白髪でスラリとした細身の長身に糊の効いたスーツ。
これが様々な事業に手を伸ばし一代で日本有数の大企業、藤川コーポレーションを
作り上げたカリスマ社長にしてわたしの父親、藤川栄作(エイサク)である。
「只今帰りました、お父様。遅くなってしまい大変申し訳ありません」
「いやいや、お前が無事ならそれで良いんだ。…ん?何だ、英もいたのか」
今英に気付いたかのように大袈裟に振る舞う。わざとらしくて反吐が出る。
「こんばんは、お父様」
微笑みながら弟が挨拶する。わたしと同じ、仮面の挨拶。
「そうだ!里奈、お前にピッタリな服を取り寄せたぞ!まあモデルのお前に合うかは正直自信がないがな」
「ありがとうございます、お父様」
弟の挨拶を無視して話し掛けてくる。わたしも仮面の笑顔を見せる。
「相変わらず素晴らしい笑顔だ!私なら十億は払うね」
…耐えなくては。今日は目的があるのだから。
「そういえばお父様。実は今日はお願いがございまして」
「何だね?里奈のお願いなら何でも聞いてあげるよ」
「実は欲しいものがあります」
「一体なんだい?」
緊張する。でも言わなくては。やらなくてはならない。彼に頼るのはこれが最初で最後にするんだ。
「わたしが欲しいのは…」



「ふぅ」
上手くいった。お父様はすぐに了承してくれた。気持ちを戻す。ソファーに倒れ込んだ。
「珍しい、というか初めてじゃない?姉さんがお父様にお願いするの」
弟の言う通り、アタシは今まで最低限の出費以外は全て自分で何とかしてきた。
居酒屋のバイトだってそのためだ。しかし今回は他に打つ手が無かった。
「アンタには関係ないでしょ」
ここはマズイ。せめて自分の部屋に戻らないと。
「そうだね。…でも何か企んでるんじゃない?」
リビングを後にする。振り返りはしない。
「探偵気取り?」
「うーん。勘かな?まあ頑張ってね」
アタシは弟を無視して部屋に戻った。
…欲しいものは手に入れるの。絶対諦めない。絶対に。
「遠野君…」
彼の名をそっと呟いた。


503 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02:15:46 ID:8SCKrobU
一日で17回。何の回数かって?そりゃあ聞くのは野暮ってもんですよ、旦那。
「…まだ腰が痛い」
「本当にゴメン!ライムが可愛いからつい…」
「ま、まあ男だったら仕方ないし。それに女として求められるのも…い、嫌じゃないわ」
「………」
「って無言で胸を揉むな!」
すいません。一日で17回射精しました。しかも全部中でした。
どうみても猿です本当にありがとうございました。
「あはは、つーか気付いたら夜だったな」
「亙のせいでしょうが!」
「ライムだってあんなに悦んでたく「黙らないと殺す」すいません」
しかし身体の相性もバッチリなようで。本当に運命ってあるのかもなぁ。
「とにかく何か食べましょ。本当は作ってあげたいんだけど今日は無理ね。材料ないし…腰は痛いし!」
「ピザなんか良いんじゃ「無視すんな!」」
ナイス右ストレート!!
「…じゃあピザにしよっか」
「ふぁい」
まあとにもかくにも俺には鮎樫らいむもとい、ライム=コーデルフィアという
アイドルな彼女が出来た訳で。まさに幸せ、順風満帆なのであった。



「じゃあ電話してくるわ」
亙はけだるい体を起こしてピザを注文しにベッドを抜けた。
部屋にはライム一人。亙との温もりを確かめるようにお腹を摩る。
「早く大きくなるんだぞ?お父さんも楽しみにしてるから」
とても穏やかな笑顔がそこにはあった。幸せに満たされた表情。
昨日のライブの帰り、頭が痛いと言って近くの薬局に寄って買った妊娠補助剤は効いただろうか。
「危険日だったし、あれだけ出せば大丈夫よね。…流石に17回は予想外だったけど」
しかし嫌な気持ちはしない。というか嫌な訳がない。
亙に求められたのだ。嬉しいに決まっている。
「ふぅ」
ゆっくりとベッドに倒れる。母の遺品にあった手帳。唯一の母の形見。
何度となく読み返したその中の日記。遠野という親友がいてもうすぐ息子が産まれる。
お互いに逢わせたい。きっと仲良くなる。そんな内容だった。
逢いたかった。一度で良いからその遠野君に逢いたかった。
もしかしたら彼なら私を必要としてくれるかもしれない。だから日本に来た。
元々そのために一生懸命日本語を勉強した訳だし。そして住所を突き止め助けてもらった。
多分一目惚れ。それから半年かかったが。
「これで亙は私のモノ。もう誰にも渡さない。うふふっ、あはは、あはははははははは!」
抑え切れない笑いが込み上げて来る。
何だろう、このどす黒い感情は。ライムの笑いはしばらく止まらなかった。


504 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02:17:52 ID:8SCKrobU
朝起きるとメールが来ていた。
ライムの所属事務所の社長からで、俺一人で来てほしいとのことだった。
「スケジュールは午後からだから、昼までには帰ってくるよ」
「分かったわ。…じゃあ昨日は作れなかった手料理で迎えてあげる」
何か新婚の夫婦みたいな気分だ。
「ああ、じゃあ行ってきます」
「あ、忘れ物」
振り返るといきなりキスをされた。
これが"いってらっしゃいのチュー"ってヤツか。
…いや、少し濃厚過ぎないかな?
1分くらいしてようやく離して貰えた。
「…いってらっしゃい」
顔を赤らめて恥ずかしそうに言うライム。
「…い、いってきます」
新婚さんって毎日大変なんだな。



社長室に入ると社長だけではなく、黒服を来た男達が数人端に待機していた。
「おはようございます、社長。…あの黒服の方々は?」
「ああ、おはよう。彼らのことは後で話す」
社長は怯えているようだった。何か嫌な予感がする。
「それより今日君を呼んだのは、一つ伝えなくてはいけないことがあってね」
「それは一体…」
「簡潔に言おう。君はクビだ」
「…はい?」
頭が真っ白になる。クビって誰に?
まさかライムじゃないだろうし…。
「鮎樫らいむには別の専属マネージャーをつける。君は必要ない」
「………」
「その代わり、君には別の場所へ行ってもらう」
「別の…場所?」
別の事務所へでも行くのだろうか。死んでもゴメンだが。
「…行けば分かる」
社長のその言葉を合図に黒服達が一斉に俺を取り押さえに来た。
抵抗しようとするが相手はかなりの実力者。
しかも多数なので程なく地面に組み伏せられた。
「っ!離せよっ!」
抵抗するが上から押さえ付けられ上手くいかない。
「本当にすまない。しかしこれも事務所と鮎樫らいむのためなんだ…」
「それは一体どういう…っ!?」
いきなり何かを注射され、意識が遠くなる。
「…終わった?」
最後に聞こえたのは扉の開く音と、聞いたことのある声だった。