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567 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/24(木) 18:17:09 ID:CLWNBjun
「おはよう、って言ってももう夜だけど」
気が付くと誰かが覗き込んで来ていた。
「…ライム?」
視界はまだぼやけてはっきりしない。
身体が物凄くけだるい。ここは何処なんだろう。
「残念。鮎樫さんじゃないわ」
この声、どこかで聞いたことがある。確かすごく最近、どこかで…。
視界が徐々にはっきりしてゆく。
「……藤川…さん?」
「正解」
目の前には微笑む藤川さんの姿が。そうか、藤川さんだったのか。
「……え?」
ちょっと待て。何故藤川さんが目の前にいる?というかここは何処なんだ?
「混乱してるみたいね」
ゆっくりと俺から離れる藤川さん。どうやら俺は寝ていたようだ。
「この部屋は…」
明らかに自分の部屋ではない。高級そうな絨毯や調度品の類がある。
「遠野君の部屋だよ。気に入ったかな?」
「気に入ったもなにも…。ここは俺の部屋じゃないですよ」
身体を起こしベッドから下りる。やはり体調が良くない。
「遠野君の部屋だよ」
「だから…っ」
藤川さんは微笑んでいた。微笑んではいたけれど、その笑みは張り付いていた。
部屋の空気が凍るのを感じる。
「遠野君の、部屋だよ」
「………」
冷や汗が出る。そもそも何でこんな所にいるんだ?今日は確か…。
「君がマネージャーをしていた鮎樫さんの所属事務所。あれ、お父様の会社の傘下なの」
「お父様…?」
「藤川栄作。藤川コーポレーションの社長なの。聞いたことくらいあるでしょ?」
「日本でも有数の大企業ですよね。…じゃあ藤川さんは」
「そう、アタシはその娘。…普通はすぐ気が付くと思うけど。
サークルで気が付いていなかったの、遠野君だけだったよ」
…マジかよ。全く気がつかなかった。
「遠野君、マネージャーをクビにされたでしょ。理由は分かった?」
「まさか…」
なんだろう。本能的に危険を感じる。
俺は藤川さんの話を聞かずに、逃げ出した方が良いのではないか。


568 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/24(木) 18:18:48 ID:CLWNBjun
「多分正解。お父様に頼んでね、あなたをクビにしてもらったの」
楽しそうに話す藤川さん。一体何がそんなに面白いんだろう。
「……何でそんなこと」
「何で?そんなの決まってるじゃない」
近付いてくる藤川さん。逃げたいが足がフラフラして思うように動けない。
「ふ、藤川さ」
「遠野君は…遠野君はアタシの所有物だからだよ」
抱き着かれた。居酒屋の時みたいだ。ただ一つ違うことはライムがいないこと。
「ふ、藤川さん!?離れてください!」
「嫌。何で自分の所有物を離さなきゃいけないの?それにね」
藤川さんは俺を見上げながら言う。
「遠野君、自分の立場…分かってる?」
「俺の…立場…?」
「じゃあ教えてあげる。君はね、イケニエなんだよ」
「イケニエ…?」
「さっき言ったでしょ。遠野君の事務所は藤川コーポレーションの傘下だって」
「………」
「あそこの社長はね、事務所を存続させるために遠野君を売ったんだよ」
耳元で囁く藤川さん。何でこんなに楽しそうなんだ。
「だから君はこれからはアタシの所有物なの。アタシの執事として仕えてもらうわ」
「そんなこと出来るわけ…!」
「出来ないなら!…出来ないなら鮎樫らいむが、アイドルじゃなくなるだけだよ」
突き放すような言葉。ライムがアイドルじゃなくなるなんて。
ライムの才能を無駄にするなんて…俺には…出来ない。
「……分かり…ました」
「じゃあ契約の証。…キスして」
「なっ!?」
「出来ないなら別に良いよ?」
「…分かり……ました」
藤川さんにキスをする。感情の波が入り込んでくる。熱すぎて狂いそうになる。
俺には…俺にはライムがいるはずなのに。
「っはぁ!…契約完了ね」
「はぁはぁ…!くっ…!」
頭がガンガンする。おかしい。何も考えられない。
「顔色悪いよ。多分拉致する時の注射が効き過ぎたのね」
意識が遠くなっていく。
「今日はゆっくり休んでね。明日から遠野君は、アタシの…」
意識が…飛ぶ。


「奴隷なんだから」


569 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/24(木) 18:21:07 ID:CLWNBjun

「私は里奈様の専属のメイド、そしてメイド長を勤めている桃花(トウカ)と申します。
私のことは桃花とお呼び下さい」
早朝。起きると部屋の隅に執事服とメモがあった。悪夢ならば良かったと思いながら、
着替えメモに書いてある場所へ向かうと、銀髪のメイドさんが立っていた。
「…遠野、亙です」
身体の調子は戻ったようだが心はそうはいかない。
「これから私があなたに従者の心得をお教えします。ちゃんと覚えて下さい」
「……はい」
結局昨日は帰れなかった。ライムのことが気になって仕方がない。
「…心此処に在らず、ですか」
桃花は溜息をつくと近寄ってきた。
「一つお尋ねしたいことがあります」
「……何ですか」
「貴方は里奈様の"特別"なのですか」
「……特別?」
意味が分からない。桃花は俺の眼をじっと見つめている。
「はい、特別です。私は里奈様専用の玩具ですから、一番にはなれます」
「お、玩具って…」
「しかし"特別"にはなれません。私は玩具で女ですから」
桃花との距離が近くなる。燃えるような色をした彼女の眼が、俺を捕らえて離さない。
「こんなに感謝し慕い、恋い焦がれても、私は里奈様の特別にはなれません」
「…好きなんですか、藤川さんのことが」
「好き?そんな次元ではありません。里奈様は私の全てなのです。里奈様の喜びが私の喜びなのです。ですから」
「っく!?」
手首を掴まれる。振りほどこうとするが凄まじい力で圧迫される。
「貴方が"特別"で里奈様を満たして差し上げることが出来るなら、私はそれを全力でお守りします」
さらに力が入る。下手したら折れてしまうくらいに。
「しかし、もし貴方が里奈様を悲しませるようなことをしたら」
「いっ…!?」
後ほんの少しで手首が折れるところで
「排除します」
やっと解放された。手首はまだ痛みが残っている。軽く捻ったかもしれない。
「まあ里奈様は欲しいものは手に入れなければ気が済まない方。杞憂でしょうが」
「…っ。桃花はそれで良いのか?」
ひたすら人に捧げる人生。そんな生き方で良いのだろうか。
「良い?良い悪いではありません。私は里奈様の玩具なのですから。それより」
「んっ!?」
いきなりキスされた。氷のように冷たい。一切の感情も感じない作業のような、キス。
「……微かに里奈様の味がします」
「味って…」
「しかし後は何も感じません。…やはり私では里奈様の"特別"は理解出来ないのですね」
「桃花…」
「余計な事に時間を割いてしまって申し訳ありませんでした。
それではこれからこの家に使える者の基本事項をお教えします」
…とりあえず今は様子を見るしかないようだ。
「…お手柔らかに」


570 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/24(木) 18:23:12 ID:CLWNBjun

「里奈様、朝食の準備が出来ました」
藤川さんの寝室の前。扉をノックする。俺は彼女を起こしに来た。
この屋敷にはやたらと執事やメイドがいるらしく、
専属執事である俺の仕事は専ら彼女の身の回りの世話らしい。
「ありがとう。着替えるから手伝ってくれる?」
「えっと…」
「命令よ。手伝いなさい」
「…はい」
扉を開けるととてつもなく広い部屋があった。
部屋の中央には天蓋付きの大きなベッドがあり、そこにパジャマ姿の藤川さんがいた。
「こっちに来て着替えるのを手伝いなさい」
「…かしこまりました」
藤川さんに近付いてゆく。流れるような艶のある黒髪に少しつり目だが大きく、
端正な顔立ち。大学時代にも思ったが彼女はかなりの美人だと思う。
「さ、時間もないからさっさとお願いね」
「は、はい」
意識しちゃいけない。なるべく見ないよう、考えないようパジャマを脱がせてゆく。
「脱がせるの下手ね。桃花はもっと上手かったわよ」
「…あまり人を脱がせたことがないので」
「鮎樫らいむとはしたくせに?」
「なっ!?」
藤川さんと目が合う。吸い込まれそうな黒い瞳。
まるで全てを見透かされているようだった。
「…その反応。どうやら事実みたいね」
「………」
「…キス、しなさい」
「………はい」
藤川さんとキスをする。昨日よりも熱い、嫉妬のようなものが伝わってきた。
…おかしくなりそうだ。



「先に外で待っていて。すぐ行くわ」
「…失礼します」
遠野君を外で待たせ通学の準備をする。
「……遠野君」
唇を触る。熱を持った唇はさっきのキスの激しさを物語っていた。
「…あの女…!」
枕をたたき付ける。遠野君のおそらく、初めてを奪った鮎樫らいむ。
目障りだ。遠野君はアタシの物なのに。
「……でも我慢してあげる」
そう。遠野君はもうアタシの所有物なのだ。鮎樫らいむは手を出せない。
これからゆっくり彼を、アタシの色に染め直せば良い。
「ふふふっ、楽しくなりそうね」