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603 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/06/26(土) 13:28:49 ID:XcphsdL/
携帯電話を没収された僕は、家の固定電話で学校に連絡し、欠席を伝えた。
理由は急病にする。いわゆる仮病だが、まさか『メイドさんに外出禁止にされました』とは言えない。
ちなみに、電話をかけている間中、紅麗亜は受話器に耳を寄せて会話を聞いていた。
通話が終わると、僕はあることをするために2階に上がる。紅麗亜もついてきた。
「あの、紅麗亜」
僕は振り返って言った。
「はい。ご主人様」
「僕、しばらく自分の部屋で自習してるよ。学校の勉強に遅れちゃうといけないから」
「それでしたら、私もお手伝いいたします。高校の勉強でしたら……」
「あ、いやいや」
一緒に居られては大変なので、僕は慌てて手を振った。
「とりあえず、1人で大丈夫。分からないところがあったら聞くよ」
「かしこまりました」
そう言うと、紅麗亜は恭しく頭を下げた。今回は大人しく引き下がってくれるらしい。
「では、何かありましたらいつでもお呼びください」
1階に降りていく紅麗亜。その姿が見えなくなってから、僕はほっと一息ついた。
自分の部屋に入り、注意深くドアを閉める。
机に向かい、パソコンのスイッチを入れた。起動まで、待つことしばし。
勉強すると紅麗亜には言ったが、それは口実だ。
本当は他にやることがあった。それは、中一条先輩に連絡を取ること。
そもそも、ずっと今のまま、紅麗亜に外出禁止を喰らっているわけには行かない。
ではどうしたら、彼女は僕が外に出ることを認めるだろうか。
それには……至難の業だとは思うが、先輩と紅麗亜の間を取り持つことだと僕は思った。
まず先輩に、昨日のことを謝ろう。それから、紅麗亜のことを話してみよう。
食うや食わずの状態で倒れていたこと。当面は僕のところしか働き場所がないこと。
筋道立てて話せば、先輩も、紅麗亜が僕の家で働くことを認めてくれるかも知れない。
そうなったらしめたもの。紅麗亜だって態度を軟化させるだろう。
携帯は紅麗亜に奪われたが、パソコンの電子メールがある。これで先輩に連絡できる。
パソコンが起動したので、僕はブラウザを立ち上げようとした。ところが。
「あれ……?」
パソコンは正常に動いているのに、インターネットにつながらない。
ついていない。よりによってこんなときに回線トラブルなんて……
――どうしたんだ?
部屋から出て調べてみると、原因はすぐに分かった。
何のことはない。ケーブルが抜けていたのだ。
「なんだ、こんなことか……」
ほっとしてケーブルをつなぎ直していると、紅麗亜が現れた。
「ご主人様、インターネットをお使いになるのですか?」
「そうだけど……」
「でしたら、立ち会わせていただきます」
「え?」
予想外のことを言われ、僕は戸惑った。
「インターネットには、青少年に有害なサイトが多くございます。そのようなものをご主人様の目に触れさせるわけには行きませんので、私も同席いたします」
「そんな」
僕が先輩にメールを送るのを、紅麗亜が容認するはずがない。作戦失敗だ。
「あの、まさか、このケーブル外したのって……」
「もちろん、私です」
紅麗亜の抜け目のなさを改めて知った僕は、しばらくガタガタと震えていた。



604 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/06/26(土) 13:29:31 ID:XcphsdL/
こうなったら、紅麗亜が外に出たときを見計らって脱走し、先輩に直接会うしかない。
僕は自分の部屋にいて、紅麗亜の外出を待った。
幸い、冷蔵庫の食料が残り少なくなっている。
遅くとも今日のうちには、買い出しに出なければならないはずだ。
だが結局、その読みも甘かった。
お昼前頃、ピンポンと呼び鈴が聞こえた。
誰だろうと思って降りてみると、紅麗亜が、宅配業者と思しき人から大きな箱を受け取っている。
業者さんが帰った後、僕は紅麗亜に尋ねた。
「それは?」
「食料が心もとなくなりましたので、近くのスーパーから配送していただきました。便利な世の中になったものです」
「そ、そうだね……」
僕は落胆し、その場に座り込んだ。

そんなこんなで、夕方。僕は居間で、紅麗亜とお茶を飲んでいた。
結局、先輩が学校にいる間は抜け出せなかった。
今からだと、出られたとしても先輩の家に行かないといけない。それは少々、気が進まないのだが。
そう思っていたとき、呼び鈴が鳴る。
ピンポン
立ち上がろうとした僕を、紅麗亜が制した
「宅配は呼んでいないので、雌蟲かも知れません。私が出ます。ご主人様はここにいてください」
紅麗亜は険しい表情で、玄関に向かっていく。
しばらくして、話し声が聞こえてくる。内容は聞き取れないが、心なしか、押し問答をしているようにも感じられた。
――今度は誰が来てるんだ?
心配になった僕は、そっと玄関を覗いてみた。
「あっ……」
来訪者は、先輩ではなかったが、僕の知っている人物だった。
堂上晃(とうしょう あきら)。
僕の幼馴染で、学校では同じクラスだ。
いつものように、長い髪を金色に染めている。
学業のかたわら、プロレスラーをやっているという変わり種だが、体格はゴツくなく、むしろ細身の部類だ。顔立ちも中性的。
学校帰りなのか、学ランを着たままである。



605 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/06/26(土) 13:30:14 ID:XcphsdL/
「あっ、詩宝」
こちらを向いていた晃が、先に僕に気付いた。
「ご主人様、出てきてはいけないと……」
紅麗亜は不満そうな顔をしたが、僕は2人に歩み寄った。
「あの……よく来たね、晃」
「おい詩宝、誰だこの人?」
うんざりした顔で、紅麗亜を見る晃。
「詩宝が病気だって言うから心配して来てみたら、ろくに話も聞かずに帰れとか言いやがる」
「この人は……昨日からうちで働いてるメイドさんだよ」
「メイド?」
「メイドもご存知ありませんか。余程世間知らずの方なのですね」
紅麗亜に侮辱された晃だったが、柳に風と受け流した。
「詩宝の家に、メイド雇うお金なんてあったっけ?」
だが晃の態度は、紅麗亜の怒りに火を着けたようだった。
「何なのですかあなたは? 他人の家のことに首を突っ込んで……」
「あんた、どこの会社から派遣されてんだ? 契約期間は?」
「どこの会社も関係ありません。契約は永遠です。私は個人として、詩宝様に全てを捧げてお仕えしておりますので」
「ハッ! イカれてやがる」
「!!」
晃が吐き捨てると、紅麗亜の額に青筋が浮かんだ。半端でなく怒っている。
これ以上こじれさせてはまずい。僕は2人の間に割って入った。
「あ、晃。今日はこの辺で……」
だが、晃は帰ろうとしなかった。それどころか、靴を脱いで中に足を踏み入れる。
「上がるぞ詩宝。2人で話がしたい」
「駄目です!!」
すると晃の前に、紅麗亜が猛然と立ちふさがった。
「ご主人様はまだお加減が悪いのです。お引き取りください!」
「…………」
「…………」
紅麗亜と晃は、しばらく無言で睨み合っていた。身長差は10センチ弱か。紅麗亜が高い。
先に晃が目線を切る。
「分かったよ。邪魔して悪かったな。今日は帰る」
「ええ。それがよろしいかと」
「ごめん。晃……」
うなだれた僕。晃は靴を履き直し、外へ出て行く。
「あーそれから」
ドアを閉める前に、晃は振り返って言った。
「詩宝が学校に出てくるまで、毎日来るからな」



606 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/06/26(土) 13:30:46 ID:XcphsdL/
ドアが閉まると、紅麗亜は音を立てて鍵をかけ、チェーンを下ろした。
そこまで警戒しなくてもいいのにと思う。
「ご主人様、今の方は……」
「クラスの友達だよ。悪い人じゃ……」
「いいえ。そうではなく」
「と言うと?」
「今の方は男性ですか?」
「!」
僕はどきりとした。
実は晃は男ではない。女の子なのだ。
晃は小さい頃から、男として育てられてきた。
知っているのは、家族ぐるみで付き合っていたうちの家族ぐらいのものだろう。
彼女の父親がプロレスラーだったのだが、現役時代どうしても取れなかったタイトルがあるらしい。
晃はそのタイトルを取るために、男としてリングに上がっている。
詳しいことはよく分からないのだが、男しか取れないタイトルなのだとか。
僕は彼女が女だとばれないよう、これまでいろいろとサポートしてきたのだが……
紅麗亜は、彼女を一目見ただけで感付いてしまった。
僕のせいで秘密が漏れてしまったら、ごめんなさいでは済まない。必死に取り繕う。
「も、もちろん男だよ。男の制服着てたでしょ?」
「男物の服を着ているから男性、とは限りませんが」
「…………」
納得させるのは難しそうだ。僕は話題を変えて切り抜けることにした。
「え、ええと。そう言えばお腹空いちゃったな……夕食作ってくれる?」
「……かしこまりました。ご主人様」
紅麗亜は一礼し、キッチンへ向かっていく。どうやら誤魔化されてくれたようだ。
僕は安堵のあまり、その場にへたり込んだ。

で、その後も僕の脱出作戦は失敗を重ねた。
日中ついに家を出られなかったので、紅麗亜が寝ている間に事を起こすことにした。
夜の間に家を出ておき、朝までどこかで時間を潰してから先輩に会おうと考えたのだが……
寝ようとすると、全裸の紅麗亜が当然のように、僕のベッドに入ろうとしてきた。
「……本当に一緒に寝るの?」
「やると言ったら、メイドは必ずやるのです」
「そ、そう……」
「それよりご主人様、何ですかその寝巻は?」
「え? 寝るんだから当然じゃ……」
「メイドと寝るときは、ご主人様も裸になってください」
「でも……」
「早く」
そんな会話があって、僕は裸になったのだが、ベッドに入ると紅麗亜が両手両足でしがみ付いてきた。
苦しくはないのだが、身動きが取れない。
「う、動けないんだけど……」
「動かなければいいのです。何かあれば起こしてくださいませ」
それきり、紅麗亜は寝てしまった。
メイド用抱き枕にされた僕は、何もできずに朝を迎えた。



607 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/06/26(土) 13:31:12 ID:XcphsdL/
翌日――
僕は寝不足の目をこすりながら、紅麗亜が作った朝食を、彼女の手で食べさせてもらっていた。(食事前に、「今後ご主人様は、ご自分の手で食事を摂るのは禁止です」と言われた。)
今日もまた、仮病で休まないといけない。
2日、3日ならいざ知らず、そう長く使える手ではないだろう。
いつかは怪しまれる。そう思うと憂鬱だった。いつになったら出られるのだろう。
食事が終わった後、僕は紅麗亜にそれとなく水を向けてみる。
「あのさ、紅麗亜」
「はい。ご主人様」
「僕がこの家から出ない話なんだけど……昨日は確か、“しばらくの間”って言ってたよね?」
「はい。申しました」
「揚げ足を取るわけじゃないんだけど……その、やっぱりまだかかるのかな? 僕が外に出られるようになるまで……」
すると紅麗亜は、にっこりとして言った。
「そのことでしたら、ご心配には及びません。後1日か2日のご辛抱です」
「ほ、本当に!?」
紅麗亜の言葉に希望を持った僕は、勢い込んで尋ねた。
「本当でございます。ここからは距離も遠く、辺鄙なところですが、私の所有する館がございまして」
「……え?」
「そこで今、私の“妹達”がご主人様をお迎えする準備をしております。準備が整い次第、そこへご主人様をお連れいたします」
「あの、あの……」
体がまた震えてきた。紅麗亜が続ける。
「そこでしたら、あの雌蟲の手は届きません。昨日のような鬱陶しい来訪者も来ないでしょう。世俗の雑音から解放された場所で、ご主人様は思う存分外出なさることができます」
紅麗亜は花のような笑顔を見せる。
僕は震撼していた。
このまま手を拱いていたら、僕はそのメイドの館へと拉致される。
そして、人里離れた治外法権の場所で、紅麗亜のしたい放題に嬲られるだろう。
――こ、これは何とかしないと……
僕は必死に、打開策を打ち出そうと頭を巡らせた。
しかし、なかなかいい考えは浮かばなかった。