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620 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/27(日) 00:14:59 ID:6UDQPPkm
もうどのくらい走っただろうか。
途中から雨が降ってきたが、構わず走り続ける。
「はぁはぁはぁ…!…あれは」
見慣れた風景が広がる。
それは確かに、半年間ライムと一緒に過ごした町並みだった。
「後少し…」
冷え切った身体に葛を入れ、また走り出す。



しばらく走ってようやくマンションの前にたどり着いた。
一日しか経っていないはずなのに、何故か懐かしい。
暗証番号を入力してエントランスへ入り、ライムの部屋へ。
「はぁはぁ…」
緊張する。不安になる。もしライムの身に何かあったら?本当に病気なのか?
事務所の火事って一体何だ?疑問がありすぎて頭が混乱する。
「…それを確かめるために来たんだろうが…!」
覚悟を決めてインターホンに手を伸ばす。
「…わ、た、る?」
「っ!?」
声がする方を見ると、確かにそこにはライムがいた。だが…。
「ライム!?ライム大丈夫か!?」
顔は憔悴しきっていて目は光を宿してはいない。服はボロボロで身体中傷だらけだった。
雨に濡れて震えている。そして何よりも…。
「おいライム!?お前、お前血だらけじゃねぇか!何があったんだ!?怪我してないか!?」
身体中が赤く染まっていた。
「わ、わ、たる、な…の?」
「ああそうだ!急にいなくなってゴメン!!」
力一杯ライムを抱きしめる。コイツ、こんなにも華奢だったのか。
「ほん、とに…わ…たる?」
「ああ俺だ!!」
「わた、わたる……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
途端に泣き出すライム。俺には黙って、彼女を抱きしめることしか出来なかった。


621 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/27(日) 00:16:09 ID:6UDQPPkm
「ほら飲め。暖かいぞ」
ひとしきり泣いた後、少し落ち着いたライムと彼女の部屋へ入り、お互い風呂に入った。
それでも身体が冷えているライムのため、俺はホットミルクを飲ませる。
「…亙は?」
「俺は大丈夫だから。早く飲まないと冷めちまうぞ?」
ライムは俺の隣でゆっくりとホットミルクを飲んでいる。
「…おいしい」
「そりゃ敏腕マネージャーの俺が作ったんだからな。美味いに決まってる」
「…元…でしょ?」
「っ!…知ってたのか」
「…昨日の夜社長から電話がかかってきて…事務所で聞かされた」
「そっか…」
ライムが知っていたのは意外だった。社長はどこまで話したのだろう。
「…私の、せい?」
「ん?」
「私のせいで、私が我が儘ばかり言うから…だから亙、私のこと嫌いになっちゃったの!?」
いきなりライムが抱き着いてきた。一体どうしたっていうんだ。
「何言ってんだよ、嫌いになんか」
「じゃあ、じゃあ何で…何でマネージャー辞めるとか言うの!?」
「俺が…辞める?」
「社長から…わ、亙が"仕事に疲れたから辞める"って…私、私のせいで!」
「………」
…そういうことかよ。嘘つきやがったのか、あの社長。
「お、お願い!や、辞めないで!私何でもするから!もう我が儘言わないから!だからっ…!」
すでに半分泣いているライムの手を握る。
「そんなわけないだろ」
「わ、亙?」
「言っただろ?お前の全てが大好きだってさ」
「……うん」
「だったら嫌いになるわけないだろうが。ちょっとは俺を信用しろ」
「…ごめんなさい」
ライムの頭を撫でてやる。ようやく落ち着いたようだった。


622 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/27(日) 00:17:18 ID:6UDQPPkm

「…ってことだ」
「そう…だったんだ」
昨日から今日にかけて、俺に起こったことをライムに話した。
話している途中、ライムはずっと黙って話を聞いてくれた。
「だから今は藤川さんの屋敷で執事として働いてる」
「……大変、だったね」
時計を見るもうすぐ朝の4時になるところだった。
「悪い、もう行かなきゃ」
「えっ!?」
「さっきも言ったけど、バレるとまずいんだ。また明日来るからさ」
「ま、待って!行かないで!」
立って出ていこうとする俺をライムは止めた。
「絶対明日来るから。約束だ」
「でも…」
「ライム、俺を信じてくれ。頼む」
「………分かった。じゃあ…」
顔を赤くしながら小指を出すライム。
「…指切り、して」
「分かった」
小指を固く結ぶ。ライムの小指はとても冷たい。俺が守らないといけないんだ。
「私が、言うね」
「ああ」
「指切りげんまん~♪」
ただのおまじないなのにライムの歌声は素晴らしく聞き惚れてしまった。だからなのか。
「嘘ついたら…の…も……す!指切った!」
それとも疲れからかもしれない。後半部分は聞き取れなかった。
まあ大したことじゃないか。
「じゃあ俺、行くわ」
「あ、忘れ物」
振り返るとキスをされた。昨日と違うのは軽いタッチのようなキスということ。
「…つ、続きは明日ね」
「お、おう」
照れながら言うライムに俺まで照れてしまった。



亙が出ていくとライムは"おまじない"を歌い出した。
「指切りげんまん~♪」
雨はすでに止んでおり今日はおそらく快晴だ。
「嘘ついたらあの女もこ~ろす!指切った!」

何故亙は彼女に聞かなかったのだろう。休養のことや事務所の火事のこと。
「~~♪」
そして何故彼女が真っ赤に染まって帰ってきたのかを。浮かれていたのかもしれない。
あるいはライムが無事で安心したからかもしれない。しかし
「今日は良い天気かな~♪」
彼女の瞳がすでに淀みきっていることには、気が付くべきだった。


623 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/27(日) 00:19:11 ID:6UDQPPkm

屋敷に帰る頃にはもう夜明け頃だった。果たしてバレていないだろうか。
塀をよじ登り庭へ。全速力かつ音を立てずに自分の部屋へ戻る。
幸いまだ誰も起きてはいないようだった。
「ふぅ…」
ベッドに腰掛け、ようやく一息つく。時計をみるとちょうど5時半だった。
「確か起床は6時だったな…」
まだ少し時間があるが寝たら多分起きれそうにない。
寝坊して下手に勘繰られるのもマズい。
「…仕方ない。早めに準備するか」
寝不足は体力的にキツイがこれもライムのためだ。
「約束…したからな」
今日も頑張ろう。執事服に着替え終わった頃に朝日が昇るのが見えた。



大学の正門前で四限終わりの藤川さんを待つ。相変わらず授業終了直後なので、
人の波が結構ある。そして今日はやけに警備員の数が多い。何かあったのだろうか。
「……良い天気だな」
「そうですね、先輩」
「お前も……は?」
「こんにちは先輩っ!」
隣にはいつの間にか神谷美香がいた。
いかん。敵の接近を許すとは相当疲れているな、俺。
「回文か」
「わたしで残念みたいな言い方ですね。あと回文って呼ぶの止めてください」
頬を膨らませる神谷。相変わらず真っ赤な髪だな。……真っ赤?何か引っ掛かる。
「…だって回文だろ。皆もそう呼んでるし」
「周りの奴らはどうでもいいけど、先輩には…」
真っ赤…。何だこの感じ。忘れてはいけない何かを忘れているような…。
「…先輩、わたしの話聞いてます?」
「えっ?あ、ああ悪い。何だっけ?」
ため息をつく神谷。でも怒ってはいないようだった。
「もういいです。何か先輩疲れてるみたいだし。…藤川センパイに何かされましたか?」
「いや、藤川さんは何もしてないよ。俺が勝手に寝不足なだけだから」
「…そうですか。でもあんまり無理しない方が良いですよ」
優しく微笑む神谷。コイツ、こんな表情も出来るのか。
「…どうもありがとな」
「いえ。最近は物騒ですから。この近辺に殺人犯が潜んでいるようですし」
「…殺人犯?」
「知らないんですか?」
神谷は少し驚いたような表情を見せた。


624 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/27(日) 00:20:40 ID:6UDQPPkm
「ああ…。いつの話だ、それ?」
「いつって…今朝のニュースですよ。世間でもかなり話題になってます」
「今朝はニュース見なかったからな」
まあ屋敷に住んでから一回も見てないけどな。
「執事さんが聞いて呆れますね。仕方ないからわたしが教えてあげます」
誇らしげに胸を張る神谷。…うん、見事なまでにまな板だ。
「頼むよ」
「はい。実は昨日の夜、数人がこの近辺の建物で殺されたんですよ」
「そうなのか」
「しかもですよ?その被害者達はあの鮎樫らいむの事務所の社長やマネージャーらしいんです」
「………………え?」
思考が、停止した。
「その前日にいきなり鮎樫らいむが病気で休養して、事務所が火事になりましたよね」
…つまり…………どういう……?
「そして昨日のこの近くにある建物、つまりは事務所で鮎樫らいむの関係者の殺害…。
世間は過激なアンチ、もしくはファンの仕業じゃないかって騒いでます」
……駄目だ…考えちゃいけない……。
「警察はこの近辺にまだ犯人が潜んでいるんじゃないかって調べてますね。
なので今日はいつもよりここも警備員が多いみたいです」
…昨日は……雨が降ってたから……だから…?
「まあわたし達には関係のない…先輩、大丈夫ですか?」
「……あ、ああ…」
「顔色悪いですけど…」
「……いや、大丈夫だ」
平静を保つ。考えるのは後でいい。とりあえず今は落ち着かないと。
「もしかして、先輩…」
神谷が何か言いかけたその時
「遠野君、お待たせ!」
藤川さんがやって来た。
「こんにちは、藤川センパイ」
「あら、回文さん。こんにちは。遠野君、行きましょう」
「は、はい」
ちょうど桃花が到着したので大学を後にする。
「遠野先輩っ!また明日会いましょう!」
神谷は後ろで俺に手を振っていた。