147 : ◆fyY8MjwzoU :2010/07/01(木) 01:00:59 ID:DpzJhmAP
「遅いクソ兄貴!」
 俺が家に帰ってきたときの玄関にいた妹の第一声がそれだった。どれだけ責めるのが好きなんだ妹。
「すいません。茜様マジすいません」
 ただ普通に過ごしてきて家に帰るのが遅くなっただけなのにどうしてクソとか言われないとダメなんだろうか。
 しかもなんで土下座なんかしないといけないのだろう。ちらりと俺を見下ろしている妹を見る。
 妹は可愛い。兄とは違いモテモテだし他人との付き合いも上手い。頭もいいし運動能力も悪くない。
 背が小さく胸も絶壁だがそれが一部のマニアには凄く受けてるし。本人は嫌ならしいけど俺も結構好きだ。どちらかというと胸はあった方が好みではあるが……。
 行動も小動物みたいで可愛いとイメージを強めるんだけど、どうしても綺麗というか可愛いという感じ。愛さんとは真逆だな。
「そういえば兄貴、アイ--」
「ないです。そんなもの」
「ス食べちゃった」
「返せェェええ!」
 我が家の冷蔵庫にあるアイスは一個しかないない。俺の今日の楽しみの一つであるチョコパフェアイスだけしかないのだった。
 昨日皆で最後のチョコミント食べたばかりだから家にはアイスがこれしかないのだ。まさか見つかるとはな。
 せっかく冷蔵庫の右奥の魚が置いてあるところの下に冷却材を壁にして上手く見え無いように配置して蓋には『俺のもの』とペンででかでかと書いていたはずだったのに。
 というか名前付けてるから食うなよ。
「俺の名前書いてあったろ」
 素直に聞くことにした。どう返すか。
「え、あのパッケージが俺のものなんでしょ? ちゃんと兄貴の部屋に入れてるよ」
 ……セコイよ、これ。世の中って理不尽じゃないかな。
「おいしかったよ。サンキュー兄貴」
「返せ! 何でも可愛けりゃ許されるって思うなよ!」
 俺は妹に飛び掛る。それを読んでいたのか妹は俺にカウンターでアッパーをした。俺は痛さで床をゴロゴロと転がり続ける。
「お母さん、兄貴が狂ったー」
 妹は笑いながらそんなことを言っている。酷いものだ。人にアッパーをしてこんな風にしたのに。
「元からでしょ」
「母さん! ひどいなおい!」
 実の親とは思えない言葉だ。まったく実は親違うんじゃないか。親父の浮気相手の子供とか。いやないか。
「兄貴、この『激辛HOT! とうがらしドリンク』あげるから許して」
「こんな暑い日に要らないよ! それゲテモノ系統のドリンクだろ! しかも冬に飲むようなものでしょ」
「ちなみに賞味期限は二年前」
「そんなもの兄に勧めるな!! 絶対腐ってるって!」
「大丈夫。二年ぐらいなら兄貴にとっては些細な違いだ。逝け! 我のために逝ってくれ!」
「そんなこと言っても飲まないよ! なにそのゲームの国王みたいなノリ!」
 この鬼畜妹の人気の理由が分からない。もし彼氏が出来たら彼氏にいってやろう。Mじゃないとやっていけないよって。
 それにしてもたぶん妹の猫かぶりは上手いんだろうな。だからモテるんだろ。話しかけやすい男とか軽い女とかが高校ではモテるからな。
 もしかして妹はもう処女じゃないのか!? 兄貴は悲しいぞ!! いや妹に限って無いか。


148 : ◆fyY8MjwzoU :2010/07/01(木) 01:02:03 ID:DpzJhmAP
 この妹は意外に夢見がちだしあの性格なら女の子とペアで行動してるだろうから無理やりやろうとしても誰か助けてくれるだろう。
 そもそも喧嘩では負けないだろうな妹は。並みの男より運動能力高いし無駄に戦闘するときにどうやって動いたら有利になるかみたいなの知ってるし。
 俺の下克上は確実にムリだよな。いや別にいいか。この生活も嫌いじゃないし。別に妹に罵られるのが好きなのではなく楽しいだけなのだ! 決してMではない!
「はぁ、まあいっか。とりあえず俺アイス買ってくるよ。冷たいもの食べたいしね。ほしいものあるか茜。買ってくるよ」
「え……と、特に何もない……けど。兄貴ってマゾ? 妹にアレだけ言われたのに何か買ってくるって」
 自覚ありかよ。もしや! これは俺だけに見せる素直な自分。つまり俺のことが好きなのか? いや妹に限って好意とかはないな。絶対に俺の位ってサンドバックだろう。
「いや、俺にとっては妹って可愛いからさ。それじゃ適当に買ってくるよ。一緒に食べような」
「兄貴……いきなりキモイ」
 俺は着替えしながら妹と話す。少し服がきついが大丈夫だろう
「一人で食べたらつまらないだけだからさー。キモイと言われようが俺は一緒に食いたいね。母さんもどうだー」
「あはは、わざわざ野暮なことはしないわよー私は少し出かけてくるわ」
 強欲な母が珍しいことを言うものだ。いつもなら食うのに許可ももらわず食べるのに
「仕方ないわね。寂しがり屋だから兄貴は」
「ツンツンしてるよりいいと思うけどね。それじゃ」
 何だかんだ言って結構兄思いなのかと思う。でも常日頃の責めがあるのでそんなことすぐに考えを改めさせられるのだけど。


149 : ◆fyY8MjwzoU :2010/07/01(木) 01:02:42 ID:DpzJhmAP
「珍しいな。卓也とここで会うなんて」
 スーパーで見知った顔を見つけた。我が生徒会の生徒会長兼我がクラス委員長の新條葵だ。愛称は男子からは会長、一部の女子からはお姉さまだ。
 頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗。現実にはいないだろうと思うほど絵に描いたような人物。
 目は切れ長で髪は艶やかな黒髪。背が大きいのも魅力の一つだろう。
 愛さんのようにスタイル抜群ではないが控えめな胸とお尻が魅力を引き立てている。
 い、いや別に俺は胸に注目しているが別に変な意味では無いぞ。ただ胸は女性の中でも至高の……やめよう、この話は。
 自慢の黒髪は今はポニーテールにしており髪が揺れると花の香りが漂いそうだった。
「急いでるのでそれじゃ」
 俺は逃げるようにかごを取りに行く。入り口の近くだったからまだいると思ったら意外にいなかった。いつもの展開なら待ってそうなのに。
 会長が待っていなくてよかった。俺はそう思い店内に入る。急いでるのに話し込んだら少し時間がきついからな。さっきチラシ見たときに色々なタイムセール品があったのだ。
 俺は主夫の血を滾らせ獲物に向かっていった。

 獲物を獲得した後、寒くなるほどガンガンにかけられているエアコンを浴びてながら一通り店内をまわる。
 そんななかアイス売り場を真剣なまなざしで見つめている会長を見つけた。
 どうやら買うアイスを選んでいるようだ。こんな真剣な眼差しは久しぶりだ。ここ最近は見たこと無い気がする。というかアイスでそんなに真剣にならなくても。
「卓也か。どうしたんだ」
「会長こそ」
「アイスを何買うか悩んでいるのだ。宇治金時味もいいが抹茶ミルク味の棒アイスも捨てがたいしな。迷うのは当然だろう」
 やっぱりこの人どっかネジずれてるよな。天才と凡人のズレというべきかな。
「卓也のお勧めアイスはあるかな」
「俺? 俺ならこのいちごみぞれかな。安いしおいしいし」
「なるほどな。食べたことが無いから食べてみるとするか」
 ふと思う悩むほどアイスが好きなはずなのにどうして食べたことが無いんだろ? ……あーなるほど
「会長って抹茶好きなんですか?」
「ああ、大好物だ。苦いのも甘いのも」
 だからチョイスが抹茶中心なのか。それならいちごみぞれは未開拓だろう。
「ありがとうな。では私は行くとするよ」
 そういって会長はレジに行ってしまった。俺はとりあえず妹に食べられたチョコパフェアイスと安いアイスを数点選びレジに向かった。


150 : ◆fyY8MjwzoU :2010/07/01(木) 01:04:01 ID:DpzJhmAP
「ただいまー」
 俺は玄関を開ける。そこには何か小包があった。なんだろうなこれ。
「あ、兄貴お帰りー」
 妹が部屋から出てきたらしい。そんなにアイスが楽しみなのか?
「これお前の?」
「あ、届いたんだ……やっぱり……。あはは、お母さんも言ってくれればいいのに。うん私のものだから気にしないで」
 妹は隠すようにその小包をとり背中に回す。何を隠してるんだかな。別に妹が『実はエロゲーが好き』とか言っても気にしないのに
「ん? 兄貴その匂い何?」
 帰ってきて早々に妹に体臭について言われるとは……俺もう加齢臭がするかな……
「俺そんなに臭い?」
「確かに汗臭いけど花の匂いがするの」
 花の匂いか。なんだろうか。あ、そういえば会長の香水は確か花の香りだった気がするな
「会長と会ったんだよ。スーパーで。多分そのときかな」
「………………………………………………………」
 妹が急に険しい顔になった。何があったんだ? なんかぶつぶつ言ってるけど
「兄貴、シャワー使うといいよ。冷蔵庫にアイス入れとくから」
「あ、うんサンキュー……」
 急に優しくなった妹が怖い。いやむしろキモイ。どういうことなのだろう。とりあえず指示通りに俺はシャワーを浴びることにした。
 入らないと風呂に無理やり入れられ体洗われかねん。俺は着替えをとり手早く脱いでシャワーを浴び始めた。

 シャワーから上がると居間にはだれもいなかった。まあいいかと思い冷蔵庫からアイスとスプーンをとって指定席のソファに座った。
「あ、兄貴。シャワー上がったの」
 どうやら妹は二階にいたようだった。気のせいか少し青いようにも見える。
「茜、風邪引いたのか? 顔が青いが」
「気にしないで兄貴」
 そういうといつものように俺の膝に座ってきた。慣れているので気にしない。むしろ体重がちょうどよくて安心する。
 というか妹って俺のこと嫌いなんだか好きなんだかいまいちよく分からないな。学校では凄く冷たいのに。
「そういえば俺の服は?」
「洗濯機に入れといてあるよ。汗臭いし。なにより……」
 後半はブツブツ言って上手く聞き取れなかった。なんだかな。今日は結構多いな。
「ありがとな。俺の服やってくれて」
 俺はぽむぽむと頭を軽くたたく。妹はなぜか真っ赤になった。
「あ、あああ兄貴! 恥ずかしいからやめて!」
「え、えっとーすまん」
 手を払い俺と向かい合う。正直近い。
「な、なんだよ……」
「兄貴! 役に立たないのに気安く私の頭を叩かないでよ! もう!」
 そう言うと少し悲しそうな顔をした。どうしたんだろう。本当に


151 : ◆fyY8MjwzoU :2010/07/01(木) 01:04:43 ID:DpzJhmAP
「失礼な! 力仕事ならできる!」
 俺はそのぐらいしか出来ない無能なのでもある。
「米10kgお願い」
「ごめんなさい茜様」
 俺はすぐにDOGEZAをした。この妹は本気でやらせるところがあるから恐ろしい。逃げたらさらに困ることになるから謝るしかない。
 というか確実に俺≪妹だな。兄としての面目丸つぶれですよね。はい。
「分かればよろしい。兄貴は私がいないと何も出来ない無能なんだから」
「それは酷いよ」
 妹の言葉に軽く涙したくなるがグッと堪えるしかない。
「そうかな? まあ兄貴にしか出来ないこともあるかもしれないから少しは救いようがあるかな」
 俺はどれだけ妹の中でヘタレなのだろう。少し、いやかなり気になる。
「兄貴いじり飽きたから自分の部屋に戻るね」
「珍しいこともあるね」
 いつもならもう少しいじっていくのだが今日はソワソワしてるし何かあったのか? あの小包になにかあるのかな。
「気分が乗らないの。兄貴……もし私が……いややっぱりなんでもない。兄さんには関係ないもんね」
「珍しいな。兄貴じゃなく兄さんって」
「私だってたまには気分変えたいことあるの」
 今日の妹はなんかおかしいな。いつもとは違う。いや基本は同じだけどどこかがズレている気がしてならない。
「兄貴って私がどんなに汚れても妹に思える?」
「え、当たり前だろう? 妹は妹なんだからさ」
「ありがと」
「いやいや茜おかしいってどうした?」
 妹は何をしたいのだろう。まるでもう会えないかのように言っているけど……まさか自殺か?
「早まるな。自殺はやめてくれよ」
「どうしてそう思うの?」
「いや情緒不安定に見えるからかな」
「そう、なんだ。でも元気になれたよ。ありがと兄貴!」
 いつもどおりの妹に見える。うん、これなら大丈夫だろう。でも少し目が濁ってるように見えるけど気のせいか?
「それじゃ部屋に戻るよ。あたあとでね兄貴」
「ああ、うん」
 深く聞けなかったがいったいどうなってるんだ。妹に何が訪れているんだろう。俺はただ考えるしかなかった。
 けれども俺は無能だから何も思いつくことが出来なかった。妹にやはり聞かないとダメだ。そのぐらいのことしか思いつかなかった。
最終更新:2010年07月05日 08:04