243 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 17:24:15 ID:fZqhz4IH

車だと僅か20分程度でライムのマンションまで着いた。
運転手に礼を言って彼女の部屋へ急ぐ。
「待ってろよ」
部屋の前までたどり着き左手でインターホンを鳴らす。右腕はしばらく使えない。
「………?」
応答がない。もしかしたら何かあったのだろうか。嫌な汗が頬を伝う。
「まさか…」
嫌でも思い出してしまう。事務所の関係者が殺された。
犯人は近辺にいる可能性があって…。もう一度インターホンを押すが反応はない。
「…ライム!」
痺れを切らして扉を叩こうとした瞬間
「…わ、亙?」
扉が開き中からバスタオル姿のライムが出て来た。
「ライム!…良かった。…つーか何でそんな格好なんだ?」
「眠気覚ましにお風呂入ってたの。そしたら急に誰か来たから、亙だと思ってとりあえず出て来たんだ」
「そっか、悪いな…遅れちゃって」
「ううん、約束守ってくれて凄く嬉しい」
どうやら杞憂だったみたいだな。



「じゃあ仕事中に骨折しちゃったんだ」
「ああ、目茶苦茶痛かったけど事故だからな。仕方ないよ」
右腕のギプスについて聞かれたので答える。メイドに折られたなんて言ったら、
さらに混乱するから事故にした。…まあある意味自然災害的な要素あったし。
「そっか。まだ痛む?」
「痛み止め飲んだから今は平気だ。それよりいつまでバスタオルなんだ?」
ライムは俺の隣にいるが何故かずっとバスタオルのままだ。
「着替えるの面倒臭くなっちゃった。…それに出来るだけ長く、亙の側にいたいから」
頬を赤く染めながら言うライム。…くっ、我慢するんだ俺!目的を忘れるな!
「そ、そういえば聞きたいことがあるんだけど…」
「何?」
…聞かなければ。大丈夫。ライムを信じよう。
「今朝のニュースで…その…ライムの事務所の社長やマネージャーがさ…」
「…殺された事件?」
ドキッとする。ライムが知っているのは当然のことなのに。
「…そう。それで…」
「私も今朝警察から連絡があってね。そこで初めて知ったの。その後事情を話しに警察に行ったけど…。
私ずっと部屋にいたから何も知らなくて…。すぐに帰されちゃった」
ずっと部屋にいた?…昨日雨の中、何処かに行ったんじゃないのか?
何で…何であんなにも体中真っ赤で…。
「…亙、どうかしたの?」
ライムに声をかけられ我に返る。
「い、いや…何でもないんだ」
「……嘘」
「……っ」
ライムに見つめられる。お互いの気持ちが分かるから、だからこそ聞けない。
多分彼女は"聞いて欲しくない"と思っているから。


244 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 17:25:22 ID:fZqhz4IH
「…良いよ。何でも聞いて?」
「………ライムはさ」
「うん」
覚悟を、決める。
「…昨日、どこに行ってたんだ?」
「…昨日?」
「昨日、俺がライムとこの部屋の前で会った時さ、ライム、びしょ濡れだったよな?」
「………」
「…どこ、行ってたんだ?」
「……一日中亙を探してた」
「…俺を?」
「うん。…だって急にマネージャー辞めるなんて言われて、納得出来なかったから」
「…そうだったのか」
「でも途中から疲れちゃって。転んで痛かったし、ペンキ缶に突っ込むし、途中から雨降ってくるし…」
「……ペンキ缶?」
「…笑わないでよ?その…赤いペンキ缶の山に躓いて突っ込んじゃって…すごい恥ずかしかったんだから!」
…つまり何か?ライムは一日中俺を探してくれていただけで、事件には無関与。
ただの俺の、思い込み…。
「…ぷっ!あははははは!!」
「ちょ!?わ、笑わないでって言ったでしょ!?元はといえば急にいなくなった亙のせいなんだから!」
「わりぃわりぃ。安心したら気が緩んじゃってさ」
「安心って何よ?」
「俺はてっきりライムが事件に関係してるんじゃないかって、不安になってさ。本当馬鹿だったわ」
そう。要するに俺の妄想だった訳だ。
「…へぇ」
「でも良く考えたら、ライムがそんなことするはずないもんな」
「…うん」
「何か安心したらお腹空いちゃったわ」
「…じゃあ前食べてもらえなかった手料理、今度こそ食べてもらおうかな」
「よっしゃ!右腕骨折した甲斐があったな」
「ふふっ、大袈裟なんだから」



246 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 17:26:23 ID:fZqhz4IH

「ごちそうさまでした!めっちゃ美味かったです」
「あ、当たり前でしょ。どれだけ練習したと思ってんのよ」
ライムが作ってくれた料理はどれもこれも美味しかった。
「いやぁ、マジで今まで食べた料理の中で一番だな!」
「…褒めても何も出ないわよ」
照れながら俺の隣に寄り添うライム。久しぶりに平穏が戻ってきた気がした。
ライムと一緒に過ごしてきた半年。俺達はもう一度戻れるのだろうか。
「…戻れるさ」
「どうしたの?」
ライムをそっと抱き寄せる。戻ってみせる。
もう一度ライムのマネージャーになって、そして彼女を世界一のアイドルにするんだ。
「亙?」
「何だ?」
「あのさ…その…昨日亙にホットミルク作ってもらったでしょ」
「ああ、あれか」
「…飲みたいな」
「おう、気に入ったのか。そんなんで良ければ…?」
立ち上がろうとするとライムに止められた。
「そ、そうじゃないの!そ、そうじゃなくて…わ、亙のが…」
「……はい?」
「だから!わ、亙のホットミルクが飲みたいの!!な、生絞りでっ!!」
夜中の3時半に下ネタを大声で叫ぶライム。こんなアホな子じゃなかったはずなのに…。
「…ネットか?ネットで調べたのか?」
「だ、だってこういう台詞、男の人は好きだってネットで書いてあったから!」
ライムは顔を真っ赤にして反論する。やはりネットか!何でこんなアホな子、好きになったんだろうか。
「…ライム」
「で、くれるの!?く、くれないの!?」
「…何を?」
「ホ、ホ、ホットミルクに決まってるでしょ!!」
「…はぁ」
「な、な、何よ!?」
「とりあえず」
「ひゃっ!?」
ライムを思い切り抱きしめる。右腕が使えないのがもどかしい。
「今日は寝かさん」
「えっ…ふぁ」
もう真っ赤を通り越して茹でダコになったライムにキスをした。


247 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 17:29:00 ID:fZqhz4IH

「んっ…」
「こ、腰が…」
時刻は午前5時。前回と対照的に今回はひたすらライムに攻められた。
右腕が使えなかったのが影響したのかもしれない。つーか腰が痛すぎる。
「亙、もう一回…」
「い、一体何度目だ、その台詞。とりあえずそろそろ帰らないと」
「…泊まっていかないの?」
「まだ正式に辞めた訳じゃないんだ、執事。それに出来ればマネージャー復帰まで他の仕事で繋ぎたい。里奈なら多分雇ってくれそうだし」
「里奈…」
「ん?」
「…ううん、何でもない。確かに亙が無職じゃ私も困るよ。しばらくは活動出来ないだろうし」
「だろ?…じゃあちょっと風呂入ってくるわ」
「うん」
俺はベッドを出て風呂場に向かった。…腰が半端なく痛いんですが。



風呂から上がるとライムが俺の携帯を見ていた。
「それ、里奈から返してもらったんだよ」
「えっ!?あ、ああ、そうなんだ」
ライムは俺に気付いた途端携帯を手放した。
「ん?どうした?別に携帯見られたくらいじゃ怒らないぞ」
「そ、そう?…ゴメンね、何か気になっちゃって」
「だから怒ってないから大丈夫だよ」
ライムの頭を撫でてやる。髪がさらさらしていて心地好い。
「ふぁ…。…ありがと」



里奈に電話して迎えを寄越してもらった。
あの後桃花の傷の処置も終わり、今は寝かせているらしい。後遺症が出ないか心配だそうだ。
「おっ、来た」
マンションの前で待っていると車が停まった。
「亙、次は…いつ会えるのかな」
俺の手を握るライム。不安な気持ちが伝わってきた。
「流石に毎日は無理だと思うけど…なるべく行けるようにするよ。ほら、携帯で連絡取れるし」
「そうだね。じゃあ…寂しくなった電話するね」
既に寂しそうに微笑む。…本当に分かりやすいな。
「…夜だったら11時くらいから暇だから、電話するよ」
「本当っ!?…あ、いや…暇だったらで、良いからね?」
「…無理すんな」
「し、してないわよ!」
待たせると悪いので車に乗り込む。
「じゃあ待たな」
「…うん」
車はマンションを後にした。
最終更新:2010年07月04日 22:46