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398 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/06(火) 15:41:22 ID:AcSUhNXl

ライムは右手に血がついたナイフを持っていた。
そして俺の後ろには刺された腹部を押さえている里奈がいる。
誰が見てもライムが里奈を刺したということは明らかだった。
「…ライム、ここで何してるんだ?」
それでも俺は信じられなかった。ライムがこんなこと…するはずない。
「えっと…まあゴミ掃除かな」
「ゴミ…掃除?」
「うん。亙の後ろにあるでしょ?大きなゴミが。それを掃除しようと思ったの」
「後ろ…里奈のことか?」
「里奈?何言ってるの、亙。ゴミに名前付けるなんて変だよ」
クスクスと笑うライム。おかしい。何かが決定的におかしい。
「お前…本気で言ってるのか」
「亙こそ、私をからかうのは止めてくれないかな。早く掃除したいから、そこをどいて?」
「…断る」
「…亙、私のこと嫌い?」
「…大好きだよ」
「じゃあ…」
「でも今のライム、おかしいぞ!お前は誰かを好き好んで傷付けるような奴じゃねぇだろ!!目ぇ、覚ませよ!」
「……亙もそのゴミに汚染されちゃったのかな?ゴメンね。もっと早く気がつくべきだったよ」
ゆっくりと近付いてくるライム。
「亙っ…!」
里奈が後ろで俺の袖を掴む。大丈夫だ。絶対に傷付けねぇ。里奈も…ライムもだ。
「…ゴミの分際で亙に触るな!」
ライムが一気に俺達との差を詰める。狙いは里奈か。
「止めろライム!」
俺はライムを止めようと里奈の前に立つ。
「どいて亙っ!掃除できな…っ!?」
一瞬だった。ライムが俺達に突っ込んで来た時、銃声がした。
次の瞬間、ライムの華奢な身体は吹き飛ばされ鮮血が舞った。
「なっ!?」
「っ!!!」
ライムは直前で身を翻したらしく、肩を撃ち抜かれたようだった。
「ライムっ!?おい、ライム大丈夫か!ライム!」
ライムに駆け寄ろうとする俺を
「亙、危ない!動いちゃ駄目よ!」
里奈が制した。
「でもっ…!」
「だ、大丈夫だよ…亙」
声がする方を見ると吹き飛ばされた反動でさっきより随分遠くにライムがいた。
肩からは血が出ており到底大丈夫には見えない。
「今日は失敗しちゃったけど…次は必ずやり遂げるからね」


399 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/06(火) 15:42:24 ID:AcSUhNXl
「ライム!?待てよライム!!」
ライムは走り去っていった。追おうとした俺を
「お待ちください遠野様!」
今度は桃花が呼び止めた。右手には狙撃銃を持っている。
「お前が…お前がライムを撃ったのか!?」
「はい。本当は頭を撃ち抜くつもりでしたが…。右腕の怪我のせいで逃しました」
つかみ掛かる俺に対して桃花は冷静に答える。
「いくらなんでもやり過ぎだろ!?」
「向こうは殺人未遂ですよ?正当防衛です。里奈様、ご無事ですか」
桃花は俺の手を掃い里奈に近付く。
「…っ!だ、大丈夫よ…これくらい」
里奈は汗をかき、顔色も悪かった。我に返る。里奈は刺されているんだ。
「大丈夫じゃないだろ!?桃花、医者は!?」
「もう準備しております。里奈様、歩けますか?」
「ちょっと無理…かな…亙」
里奈は困ったようにこっちを見る。
「ああ、任せておけ」
俺は里奈をおぶって屋敷まで連れていった。


400 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/06(火) 15:43:10 ID:AcSUhNXl

これで何度目だろうか。電話をかける。繋がらない。またかける。繋がらない。
メールはもう送った。返事は…ない。
「…っ!も、もしもしっ!?」
「おかけになった電話番号は現在…」
「くそっ!」
出ない。…出るはずがない。分かっているのにかけるのを止められない。
もう2時間は続けていた。やはり追いかけるべきだったのかもしれない。
「遠野様」
「…里奈は?」
隣の部屋から桃花が出てくる。
「幸い命に別状はないそうです。今は眠ってます」
「そっか…良かった」
本当に良かった。里奈は無事だったんだ。
「…それは里奈様が助かったことに対してですか?」
「他に何が…」
「それとも」
桃花は俺に詰め寄って来る。
「それとも鮎樫らいむが殺人犯にならなくて良かった、ということですか?」
「な、何言って…」
「貴方の役割だったのですよ」
何が?なんて馬鹿な質問はしない。俺は…里奈を守れなかったんだ。
「……ゴメン」
「謝れば済む話ではありません。貴方はどちらの味方なのですか?里奈様ですか。…それとも血だらけだった鮎樫らいむですか」
桃花の静かな怒りを感じた。要するにどちらにつくか、ハッキリしろということなのか。
「それは…」
ライムの味方。少なくともついさっきまではそう思っていた。でも今は…
「…分からない」
「そうですか」
分からない。何でライムはあんなことをしたんだ。昨日会った時は確かに信じられたのに。
もし俺の知っている彼女じゃなくなっていたとしたら…?
「……どうすればいいんだ、俺は」
「それは御自分でお決めになること」
「桃花…」
「一つだけ確かなのは、里奈様は貴方を必要としている、ということです」
「………」
「明日の夜まで猶予を差し上げます。誰に味方するか、ゆっくり考えてください」
そう言うと桃花は隣の部屋に戻って行った。
「……俺が、決める」
結局その日は、ライムと連絡が取れずに終わった。


401 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/06(火) 15:45:20 ID:AcSUhNXl

次の日、俺は駅前の喫茶店『向日葵』にいた。座っている席は昨日と同じ奥の方の席。
そして待っている人物も
「お待たせしました、先輩っ!」
昨日と同じ、神谷美香だった。
「悪いな、わざわざ呼び出しちゃって」
「いえいえ、早速呼んでくださるなんて感激です!連絡先交換しておいて良かったですよ」
神谷は機嫌が良さそうだった。何か良いことでもあったんだろうか。
「…神谷、早速だが聞きたいことがある」
「…やっぱりそういうことですか。良いですよ、わたしが知っていることなら何でも答えますよ!」
神谷と昨日一緒に過ごしたのは正解だったのかもしれない。
「ありがとう。まず神谷が昨日言ってた"鮎樫らいむの事件"に関する新情報を教えて欲しい」
「…良いですけど、期待ハズレだと思いますよ」
神谷は少し申し訳なさそうな表情をしていた。
「期待ハズレでも良いんだ、教えてくれ」
「…分かりました。実は確かな情報ではないんですが現場付近に赤いペンキの痕跡があったそうです」
「…赤い…ペンキ?」
「あくまで噂ですからね!?わたしだってこんな話信じて…先輩?」
何だよ、それ。現場付近に…何だって?昨日ライムは何て言ってたんだ?
…駄目だ、何か駄目だ。どうすれば良いんだ…。
「…ぱいっ!?先輩っ!?しっかりしてください!」
「…あ、ゴメン」
「……本当は聞かないつもりでしたけど、もう我慢出来ません。一体今まで何があったんですか!?」
「…それは」
「先輩の力になりたいんです!真実を話してください!」
「……分かった」
結局、俺は神谷に全てを話すことにした。


402 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/06(火) 15:46:17 ID:AcSUhNXl

「……そう、だったんですか」
すでに外は夕暮れで『向日葵』の中は閑散としていた。
「ああ…」
簡単にだが全てを話した。
鮎樫らいむと出会って、それから半年間ずっとマネージャーをしていたこと。
クビになって藤川里奈の屋敷で働かされたこと。
その後色々あったが里奈と和解出来て、元通りの生活が出来ると思った直後、昨日の事件が起こったこと。
今日中に決断しなければならないこと。
俺が話している最中、神谷は黙って話を聞いていた。
「……ありがとうございました。話してくれて、嬉しかったです。…そしてごめんなさい」
「えっ?」
次の瞬間、左頬に衝撃を感じた。店内に音が響く。
突然のことで、神谷に思いっ切りビンタされたことに気がつくのに時間がかかった。
「先輩って、本当に単純で馬鹿ですよね」
「…何すんだよ」
「そんなにらいむさんのことが好きなら、答えは決まってるじゃないですか」
「そんな単純じゃねぇだろ…」
「何て言ったんですか?ハッキリ言ってくださいよ」
「…そんな単純じゃねぇって言ってんだよ!」
今度は大声が店内に響いた。
「俺だってライムを信じてたよ!今だって信じてぇよ!でも…でもあいつは変わっちまったんだ!!もうあいつは俺の知ってるライムじゃねぇんだよ!!」
「男なら!!」
神谷が思いっ切り机を叩いて立ち上がる。
「男なら本気で惚れた相手が、どんなに変わっちまっても信じてやるもんだろうが!!それともお前はそいつの身体が目当てだったのかよ!!」
俺の中の何かが切れた気がした。思わず神谷につかみ掛かる。
「そんなわけねぇだろが!!俺はあいつと半年いたんだ!!あいつの全てが好きだから!!」
「だったら受け止めてやれよ!!その女の全てが好きなら全部受け止めろよ!!最後まで信じきれよ!!たったそれだけのことが、何で出来ねぇんだ!!」
「っ!?」
いつの間にか神谷は泣いていた。そして…俺も泣いていた。
「…何でわたしに言われなきゃ…気がつかねぇんだよ」
「……わりぃ」
俺は…俺は…何を迷っていたんだろう。


403 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/06(火) 15:47:07 ID:AcSUhNXl

お互い涙を拭いていると店長が来てコーヒーをサービスしてくれた。
てっきり怒られると思ったので二人で謝ると「若い時はぶつかり合うのが1番だから」と言って微笑みながら去って行った。
「……日、暮れちゃったな」
「…はい」
「……目、覚めたよ。ありがとな」
「…不出来な先輩を持つと後輩は苦労しますね」
「全くだな」
「…先輩のことですよ?」
「知ってる」
「……はぁ」
「神谷?」
神谷はため息をつくとサービスされたコーヒーを一気に飲み干した。
「お前また…」
「ふぅ。スッキリしました」
「…トイレかよ」
「良いツッコミですよ先輩。…とりあえず今後ですが」
「いきなり話変えるなお前は…」
「先輩はらいむさんを信じるんですね」
「ああ、勿論だ」
「だったらまずらいむさんに連絡をとり続けてください。そして真犯人を探しましょう」
「…真犯人か」
「はい。らいむさんが社長達を殺していないなら、他に殺した人物がいるはずです。それから、らいむさんが藤川センパイを刺した件ですが…」
「あれはどう見てもライムだったけど…」
「いえ、そうではなくて。もしかすると誰かがらいむさんを罠に嵌めた可能性があります」
「罠に…嵌めた?」
「いくら何でも一日で様子が変わり過ぎじゃありませんか?」
「誰かに…何か吹き込まれたのか?」
「あるいは嘘の情報を教えられたかもしれません」
「一体誰が…」
「とりあえず、可能性はいくらでもあります。藤川センパイが警察に届けないのも、世間体以外に何かあるかもしれませんし」
「…里奈が…」
「とにかく先輩はらいむさんと連絡を。わたしはもう少し情報を集めますから」
「…なあ神谷」
「何ですか?」
「何でお前は…こんなに協力してくれるんだ?」
ずっと疑問に思っていたこと。何故神谷は赤の他人の俺に力を貸してくれるのだろう。
「…本当に先輩は馬鹿ですね」
呆れたように俺を見つめる神谷。
「し、仕方ないだろ。分からないんだから」
「…単純に興味があるからですよ、この事件に。それだけです」
「…そっか」
…やっぱり俺の思い過ごしだったみたいだな。


404 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/06(火) 15:49:24 ID:AcSUhNXl

「では今日はこれで!」
「おう、また連絡するわ!」
わたしは先輩と別れて歩き出す。
「…何で協力してくれるのか、か」
…遠野先輩はわたしの兄にそっくりだった。
もう兄さんは死んじゃったけど、わたしは兄さんが大好きで…好きで仕方なかった。
そんな兄さんが死んでしまって絶望していた時に、先輩に出会った。少なくともわたしは、それで救われた。
「…そっくり、なんだよね」
顔だけじゃない。不器用で朴念仁で鈍感で。でも優しくて凄く暖かい。
死のうとまで思っていたわたしを変えてくれた。だから…
「先輩の幸せのためなら…これでいい」
先輩を罵って葛を入れて。大好きな人を取り戻すために協力する。きっとわたしにしか出来ないことだから。
「後…後少しだけ、良いよね。兄さん…」
神谷が見上げると、そこには満天の星空が広がっていた。



「…そうだよ、信じるしかないんだ」
神谷と別れた後、亙は星空を見ながら考えていた。
「…また神谷に迷惑かけちゃったな」
何だろう。神谷のこと、今なら信頼出来る気がする。ただの毛嫌いだったようだ。
「絶対に守ってやるからな…」
最初にライムを抱いた時、いやもっと前に決めていたこと。
そんな基本的なことを今まで忘れていたなんて…何が全てが大好きだ。笑わせる。
「ライム、今どこにいるんだ?」
例え血まみれだったとしても俺は彼女を…。
「…血まみれ?」
何か違和感を感じる。血まみれ…いや、本当はあれは赤いペンキだったはず。
だからこそ問題なんだ。…じゃあ何で俺は血まみれだなんて言った?
「…何だ、この違和感」
今まで以上に強く感じる違和感。まるで違和感の正体がこの殺人事件に繋がるような…。
「………分からない」
考えなくては。この違和感の正体を。