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338 :サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:00:37 ID:2g3K5WbL
家を出た僕は手当たり次第に走った。
公園、学校、駅・・・
けれど姉ちゃんの姿を見つけることは出来なかった。
携帯だって何度かけてもつながらない。
「どこ行ったんだよ・・・!」
何な手紙を残すくらいだ。もうこの近くにはいないかもしれない。
それだったらまだマシだ。

『そして今度生まれ変わったときは、お前に優しくするよ』

家を出てからずっと、この一行が気になっていた。
あの手紙は咄嗟に書いた様には見えない。時間をかけて、それこそ今日の朝からずっと考え込んで書いたような、そんな印象を受ける。
ならばこの文の意味はなんだ?
今度生まれ変わるってどういう意味だ?
背中の汗が止まらない。単に走っているからだけではない。
最後の心辺りの場所に着いた時、すでに心身共に限界に来ていた。
途方に暮れた僕は一本の電話をかける。相手は陽菜だ。
こんなとき、いつも頼りになるのは陽菜だった。
昔から人の気持ちに敏感な陽菜なら、もしかすると姉ちゃんの居場所を特定することができるかもしれない。
「・・・もしもし」
電話にでた陽菜の声は暗かった。まるで息を殺すかのようなかぼそい声だ。
にもかかわらず、僕は自分の事にいっぱいで、陽菜の異変に疑問を持たなかった。
「姉ちゃんの行きそうな場所に心当たりはないか!?どこでもいいから教えてくれ!!」
「ちょっ!声、小さくしてよ!」
「ご、ごめん・・・それで心当たりの方はある?」
陽菜の返事は少しの間があいた。
「・・・何かあったの?」
「姉ちゃんが・・・姉ちゃんがいなくなったんだ・・・もう消えるって手紙を残して・・・」
僕のこの行為は陽菜を裏切る事だって分かる。
陽菜以外の人を心配してしまった。
その結果、陽菜を幸せにできなくなってしまった。
「・・・頼む・・・どんな些細なことでもいいから・・・お願い・・・します・・・」
けれど口は止められなかった。
「・・・分かったわ。慶太の探してなさそうな場所で、かつ祥姉ぇがいそうな場所と言えば、多分あそこだと思う」
「っ!あ、ありがとう陽菜!!それでどこなんだ!?」
陽菜からの返事はすぐには返ってこなかった。
「陽菜?」
「・・・そのかわり、こっちのお願いも聞いてくれる?」
こんなときに何なんだ!
それが咄嗟に思った僕の意見だった。
でも頼みの綱は陽菜しかいないのが現実。そんな事を口にして、せっかくの情報を不意にはしたくなかった。
「分かった!何でも聞くから、お願い!」
「交渉成立ね。それできっと祥姉ぇは―――」


「!」
「その場所見た?ちゃんと探した?」
「ま、まさか・・・そんな・・・」
僕は陽菜との会話も忘れ、自宅へとかけ戻った。


339 :サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:01:17 ID:2g3K5WbL
鍵が回らない。
いつもは簡単に開くはずの扉が開かない。
「くそっ!なんでだよ!」
完全に僕の頭はパニックになっていた。
陽菜の教えてくれた場所。それは僕の部屋だった。
何で気がつかなかったんだ!?あの時、帰って来た時、何で気がつかなかったんだよ!!
渾身の力でカギを左に回す。でも開かない。
「ええいっ!!」
ダメもとでノブに手をかける。
すると驚くほど簡単にドアが開いた。いや、もともとカギなんてかけていなかったのだ。
それすらも忘れるほど、僕は冷静さを欠いていた。
ドアを開けた後は自分の部屋まで一直線に走る。
「姉ちゃん!!」
部屋に入ると、陽菜の言った通り姉ちゃんがいた。確かに姉ちゃんが僕のベッドの上で眠っていた。ただ―――――

 その傍らには白い錠剤の入った瓶が転がっていた。

「なっ!?姉ちゃん!?おい、しっかりしろよ!!」
姉ちゃんに飛びつき、思いっきり肩を揺する。
その反動で姉ちゃんの体が上下左右に大きく揺れるが、目を覚ます気配はまるっきりない。
「嘘だろ!!目を覚ましてくれよ!!何ふざけてんだよ!!」
半ば躍起になって続けるが、それでも反応は返ってこない。
顔は化粧でもしたかのように白くなっており、口からは涎も垂れていた。
どう見たって最悪の結果だ。
「は、早く病院に・・・!」
もはや自分が今、どんな心境になっているのかが分からない。
とりあえず病院に電話しないと、の一心で僕は動いていた。
「はい。こちら110番ですが」
「お、お願いします!!姉ちゃんを助けて下さい!!」
「は、はい?」
咄嗟にかけた番号は110だった。
「お願いします!!早く、早く姉ちゃんを助けて下さい!!」
でも僕にはそんな事関係ない。
それよりも姉ちゃんを助けることしか頭にない。
「落ち着いて下さい!場所はどこですか!?」
冷静なオペレーターで助かった。
なぜなら僕はこの電話で話した事はたったの2種類のセリフ。
住所と姉ちゃんを助けて下さいだけだったのだから。


病院に着いた頃には、僕は体中の水分を放出するかのような勢いで泣き続けていた。
「おねがいじまず!!ねえじゃんをたずげてくだざい!!」
「落ち着いて!今、患者さんをERに運びますから!」
姉ちゃんを乗せたストレッチャーが赤いランプのついた部屋に運ばれていった。
その扉が閉められる。
「おねがいじまず!!」
僕はその言葉を最後に倒れこんでしまった。
気持ち悪い。吐いてしまいそうだ。
「・・・う・・・うっ・・・」
肉体的疲労。精神的疲労。その両方が限界に来ていた。
そして看護師が駆けつける頃には、僕の方も意識を手放していた。


340 :サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:02:38 ID:2g3K5WbL
目が覚めると白い天井が目に入る。それに微かな薬品の臭い。
「お加減は大丈夫ですか?」
声のする方へ顔を向けると、白い服を着た女性がこっちを見ていた。まるでアイドルの様に整った顔立ち。
「どうやら相当参っていたみたいですね」
そこでようやく気がつく。
ここが病院で、さっき僕が倒れた事。
そして姉ちゃんがここに運ばれた事。
「姉ちゃんっ!!」
咄嗟にベッドから跳ね起きようとするが、寸前のところで止められてしまった。
「まだ動いてはダメです。まもなく点滴の方も終わりますから、それまで辛抱していてください」
「でも姉ちゃんが!!」
「あなたのお姉さんならもう大丈夫です。さっきそう報告を受けました」
「ほ、本当ですか!?」
「本当です」
その言葉で、さっきまであった絶望感が治まっていく。
すると次に湧きあがってくる感情は一つしかない。
「あの・・・この点滴はいつ終わるんですか?」
今すぐ姉ちゃんのところまで駆けだして行きたい。
「あと30分くらいかしら?まぁそれまではおとなしくしててね」
30分。
僕にとっては何よりも長い30分になりそうだ。
そんな時、何処か優しい目で僕を見つめていた看護師さんが話しかけてきた。
「慶太君にとってお姉さんはどんな人なの?」
「・・・突然なんですか?」
「だって寝てる時、ずっと姉ちゃん姉ちゃんって言ってたわよ?」
顔が熱くなる。この年にもなって、そんな恥ずかしい事を?
「でもそんなに思われてるのに・・・どうしてお姉さんはあんな事になったのかな?」
まるで僕の心を見透かしたように感じる問いかけ。この人には何も隠せない、そんな感覚。
「・・・俺のせいなんです・・・俺がダメな人間なばっかりに・・・」
こんな事を言わせるために、この人は訊いてきたんじゃない。
どんな場面でも気付かされる自分の情けなさに、思わずシーツを握りしめてしまった。
だが看護師さんはそんな僕に愛想をつかさずにこう告げた。
「慶太君も色々と深い悩みがあるんだね。それで、それについての解決方法は見つかったの?」
「・・・一応・・・」
「その様子だと、納得してないんだね」
「・・・」
まるでサトリのような鋭さ。この人は一体何なんだ?
(結衣といい、慶太君といい、最近の子ってこんなに悩みが多いのね。まぁこっちの方が深刻そうだけど)
軽く聴き流せない名詞が出てきた。
「あ、あの、失礼ですけどお名前を窺ってもよろしいですか!?」
「あら、気付いたの?あの子の言っていた通り、慶太君って鋭い人なのね」
やっぱり・・・どうりでさっきから僕の事を慶太君って呼んでいたのか。
看護師さん、もとい岡田のお姉さんがくすっと笑った。
「でもそんなに敏感なら、今のあの子がどんな心境にあるか、当然気付いてるよね?」
現在の岡田。
最近は岡田に対して何一つ喜ばせるような事をした覚えがない。それどころか傷つけてばかりだ。
もしかすると、姉ちゃんだけじゃなく、岡田の方も・・・
「あの子、今ものすっごく暗いのよ。家でもずっと慶太君慶太君って」
「・・・」
「でもこれは私が口をはさめる問題じゃない。だから・・・今から言う事は忘れてね?」
岡田のお姉さんは突然にそう言うと、僕のベッドへと近づいてきた。
そしておでこにそっと手を当てられた。
たったそれだけの行為なのに、自然と気持ちが落ち着いていく。
「お姉さんの事も、結衣の事も、そしてそれ以外ででも、何かの悩みにぶつかったなら、いっそのこと本人に直接どうしたらいか、どうして欲しいのか、そして・・・自分がどうしたいのかを直接口に出す事!!」



342 :サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:04:06 ID:2g3K5WbL
点滴が終わる。
これで僕の身は自由だ。今すぐ姉ちゃんのところに向かって駆けだすことも出来る。
だが僕の足は動かなかった。
「それは間違いなんじゃないですか?だって他の人の事を考えると、大事な人を幸せにはできないんですよね?考えていいのは一人だけなんですよね?」
陽菜の教えてくれた答え。きっとこっちの方が正しい。
いくらお姉さんの言葉の方が魅力的だったとしても、陽菜の言葉の方が現実的だ。
「何の事?私何か言ったかな?」
わざとらしく忘れたふりをされる。もうこの話は終わり、と言わんばかりに。
「・・・点滴、有難うございました。もう行きますね」
向こうから強制的に打ち切られたのに、こっちからしつこくするものではない。
お礼を告げた後、ドアに近寄り、ノブに手をかけた。
「あ、そうそう。一つ言い忘れてたけど、さっきの慶太君、お姉さん以外にも結衣の事考えていたでしょ?」
「え?」
「それなら慶太君はもう誰一人幸せにはできないってことだよね?ならいっそのこと、諦めちゃったら?」
お姉さんはそう言って僕に手を振った。



陽菜の言葉とは水と油、お互いに反比例するお姉さんの言葉。
その両方を頭で整理しながら、ある一室の前にたどり着く。
ゆっくりとスライドドアを開ける。
「姉ちゃん、気分はどう?」
僕の声にベッドの上の掛け布団が反応した。
「なんだ・・・来てくれたのか・・・」
「当たり前じゃん。これでも弟なんだから」
久しぶりの円滑な会話。それだけのことで嬉しくなる。
「・・・ウチの事は嫌いなんじゃなかったのか?」
姉さんの目は僕を映していなかった。ずっと窓の方を向いている。
(また言われるのか・・・また嫌いだって・・・)
よく分かってるじゃないか。
「あぁ大嫌いだよ。俺を置いて死のうとするなんて、姉ちゃんなんか大嫌いだ」
足音を立てながら姉ちゃんの方に歩いて行く。
「なんで死のうとするんだよ!」
肩を思いっきりつかむ。
その行為に姉ちゃんの目がやっとこっちを向いた。
いつものような強い光がなく、深い海のような瞳。
「・・・別にいいだろ・・・このまま生きていたって・・・どうせ・・・」
「どうせ何だよ!どうせ何だって言うんだよ!!」
その途端、姉ちゃんの眉がつり上がった。
「お前はウチの事が嫌いなんだろ!!だったらもう生きて行く意味なんてないんだよ!!」
眉だけじゃない。その目も吊り上がっていた。
「そうだよ!!ウチはお前の事が好きなんだ!!好きで好きでどうしようもないくらい好きなんだよ!!だからお前から嫌われたのに生きていくことなんかできねぇんだよ!!」
口から直接聞いたその思いは、頭で聴いたときよりも衝撃が大きかった。
「気持ち悪ぃと思ってんだろ!?実の姉なのに弟に恋心を持つなんてバカバカしいと思ってんだろ!?笑えよ!!笑って、早く死ねよ、とでも言えよ!!」



343 :サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:07:07 ID:2g3K5WbL
「・・・言えるわけないよ・・・」
そんな言葉、思った事すらない。
「だったらウチの本当の気持ちを全部ぶちまけてやる!!ウチは陽菜の事が大っ嫌いだ!!何回もアイツの顔をぶん殴ってやろうと思った!!
それにお前とあいつが仲良くしているのを見た日は、いっつもそこら辺の奴に絡んで行ったんだぞ!!岡田だって同じだ!!あいつの顔を見た
だけで吐き気がしてた!!恭子はなんで妹ヅラで家に泊りに来てんだよって思ってた!!だからあいつがいなくなった時、正直ほっとした!!
これでやっと慶太の一番近くにいるのはウチだって!!どうだ!!これを聞いて驚いただろ!?ウチはいつもこんなことばっかり考えていたん
だよ!!そんな気持ち悪い姉なんか、本当は死んでほしいと思ってんだろ!!」
一気に捲し立ててようやく落ち着いたのか、その後は驚くほど小さな声に様変わりした。
「・・・それだけじゃない・・・お前のいない間に何度もベッドに潜り込んだり・・・何度も寝込みを襲おうと思ったり・・・そんな姉なんか・・・いらないだろ?」
姉ちゃんの目には大量の涙が溜まっていた。それを支える瞼も、何かの拍子で決壊する脆さが見える。
「だから・・・もう死にたかったんだよ・・・」
話が終わる。
想像していたよりも深く、重い内容だった。
ここから僕はどうすればいい?
陽菜の言った通りにすると、姉ちゃんは再び自殺を試みるに違いない。
岡田のお姉さんの言った通りにすると、姉ちゃんがその後どうするか分からない。
考えるまでもなかった。
姉ちゃんの死だけは絶対に嫌だ。
「・・・ごめん。さっき言った事は真っ赤なウソ。俺も・・・姉ちゃんの事が好きだよ」
「・・・っ!てめぇ!!」
落ち着いていた姉ちゃんが再び怒りを形相に表した。
そして次の瞬間、世界が反転したかと思ったら、目の前に姉ちゃんの顔がきていた。
僕の下はベッド。どうやら押し倒されたらしい。
「よくもそんな事が言えるな!!ウチの気持ちを知った上でよくも・・・!!」
「言えるよ。だって本当なんだし」
「・・・だったらこんなことしても文句言うんじゃねぇぞ」
姉ちゃんの目が閉じられた。
(キスしてやる・・・慶太にキスしてやる!!)
ゆっくりと近づいてくる顔。
それを僕は目を開けてずっと見ていた。

・・・ちゅっ・・・

「ん・・・んん・・・」
「・・・」
人生二度目のキス。それが実の姉とになってしまった。
でも僕には嫌悪感が感じられなかった。
それよりもこれで姉ちゃんが生きてくれる。その幸福感の方が勝っていた。
だから僕は、何分、何時間でもキスしていても良かった。
だが姉ちゃんの唇はすぐに離れていった。
「・・・何でだよ・・・何で・・・なんだよ・・・」
「どうしたの?もっとキスしないの?」
「できるわけねぇじゃねぇか・・・そんなに・・・泣かれると・・・」
その言葉で自分の顔に意識が集中する。
確かに僕の視界は酷く霞んでいた。


344 :サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:10:04 ID:2g3K5WbL
「そんなに嫌がるなよ・・・そんなにウチとのキスは・・・嫌なのかよ・・・」
嫌じゃない。でも何で泣いているのか自分でもわからない。
「だったらなんで抵抗しないんだよ!!」
「抵抗?するわけないじゃん。姉ちゃんが死なないでいてくれるのに・・・抵抗なんてするわけないじゃん」
僕は思ったままの気持ちを露呈した。
「俺は姉ちゃんに生きていてほしい」
姉ちゃんの気持ちが少し分かった気がする。
僕も自分の口が止められなくなった。
「俺は姉ちゃんの事が好きだよ。本当はもっと甘えたかった。もっと悩みを聞いてもらいたかった」
ここまでだ。これ以上はしゃべるな。
「なのに自殺しよとするなんて・・・本当に俺の事が好きなの?なんでもっと俺の事を考えてくれないの?」
滅茶苦茶だ。僕のとった態度が全ての原因なのに、どの口がそんな事を言えるんだ。
「俺も本当の・・・母さん達くらいにしか言ってない秘密を言ってやる。俺は10歳頃からサトリといって、
人の感情が声になって聴こえてくるようになったんだ。当然、姉ちゃんの気持ちにも気付いていたよ。だけど
気付かないフリをしてた。姉ちゃんのことだし、そっちの方がいいと思って。でも今思えば、あの時に
言っとくべきだったと思ったよ。あの時だったら、さすがにここまでの事はしないだろ?」
少し時間を置かせる。姉ちゃんに頭の整理をさせるために。
「・・・感情が聴こえる・・・?」
「そう。人が考えたことが聴こえてくるんだ。今日は何が食べたい、会社に行くのが嫌だ、とか。毎日毎日」
「・・・つらくないのか?・・・ウチの気持ちとか・・・毎日聴かされて・・・」
「つらかったよ。姉ちゃんの気持ちを聴くのは本当につらかった。答えてあげることができなかった分、余計にね」
今まで言えなかった事を口に出すと、なにか不思議な感覚に囚われた。
ここからは何でも言える。多少のわがままも聞き入れてもらえる。
だから初めて姉ちゃんに甘えた。
「恭子ちゃんのときも辛かった・・・気持ちを知ってたのに・・・それを拒絶するのが・・・」
姉ちゃんを抱き寄せる。顔がちょうど姉ちゃんの胸に隠れるように。
「岡田にもなんて言ったらいいのか・・・どうしたらいいのかって考えると・・・」
姉ちゃんの手が頭に乗せられた。それがとても温かく感じられる。
「陽菜も・・・最近、何か悩みを抱えているみたいだし・・・でも俺にはそれが何なのかわからなくて・・・」
「・・・」
「父さんも母さんも親戚の家に行ったっきり帰ってこないし・・・もう姉ちゃんだけが頼りなんだよぉ・・・」
「・・・分かったから・・・もう泣くなよ・・・」
僕は子供のように泣いていた。
そして、それを必死にあやしている姉ちゃんには、もう危なげな雰囲気は感じられなかった。
「ごめんな?自分の事ばっか考えてるような姉で・・・本当にごめんな・・・?」
「もうこんなことしないでよ・・・自殺なんか・・・絶対にしないでよぉ・・・」
「あぁ、もうしない。もう絶対に慶太を悲しませないよ」
(そうだ・・・確かにウチは慶太の事が好きだけど・・・悩ませるような事は・・・)
「悩ませてもいいから・・・そばにいてよ・・・どこにもいかないでよ・・・」
「っ!?・・・そっか・・・これがサトリってやつか・・・」
それからしばらくして、僕の頭を撫でていた手が後頭部に回された。
姉ちゃんはまるで恋人を抱きしめるように、やさしく僕の頭を抱きしめてくれた。
「・・・やっぱりウチはお前の事が大好きだ・・・一人の男性として・・・」
「・・・うん」
「でも・・・それ以上に・・・弟として・・・家族として・・・お前が大好きだ。だから・・・」

(ウチはお前の姉ちゃんに戻るよ)

「うん」


345 :サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:11:39 ID:2g3K5WbL
次の日、いつもどうり陽菜を呼びに行くために家を出た。
「・・・いないのか?」
だがインターホンを何度も鳴らすが、一向に目の前のドアが開く気配がない。
そこで昨日の電話が蘇る。もしかすると何かあったのかもしれない。
と、そのとき携帯が鳴った。メールだ。
[カギ、開いてるからそのまま私の部屋まで来て]
不信に思いつつも、言われたと通りにドアを開ける。
「なっ・・・!」
目の前には信じられない光景が繰り広がっていた。
家の中がひっくり返されている。
置いてあるのものが壊されているのはまだかわいい方だった。壁紙が全て剥がされているのに比べると。
それに・・・なんだこの臭いは?なにか食べ物の腐ったような、そんな独特の臭いは?
階段を駆け上がる。
「陽菜!!」
部屋のドアを思いっきり開け、そこにいるはずの人物を探す。だが誰もいない。
「・・・確かにここに来てって―――」
またしても携帯が鳴った。今度は電話だ。
「ごめんね?実は今、違うところにいるの。でもここから慶太の事は見えてるから安心して」
「な!?じゃあ俺はどうすればいいんだ?」
「このまま電話してて・・・お願い」
お願い。
その言葉に僕は押し黙る。
「今思うと私達って不思議な関係だよね。友達以上恋人未満みたいな」
陽菜は何処か思い出話をするかのようなしゃべり方をしてきた。
「・・・どうしたんだよ?それにこの家の状況は一体なんだよ?」
陽菜のこの家を見る限り、何かあったことには間違いない。
それに加えて、直接じゃなく、こんな回りくどい事をしての会話なんて、よほどのことがあったに違いない。
「ん~、それはちょっと言えないな。それよりも慶太の好きな人のお話が聞きたいな!」
「はぁ?なんで今岡田の―――」
「ふざけないで」
「っ!?」
驚くほど冷たい声。
本当にこの電話の向こうにいるのは陽菜なのか?
「私は慶太の好きな人の話が聞きたいって言ったんだけど」
あ・・・れ?陽菜は岡田だと思ってたんじゃなかったっけ?
「ほら、早く言ってよ。俺には好きな人がいて、その人の事だけを考えて生きていくって」
「お、おい、マジでどうしたんだ―――」
「早く言ってよ!!俺はお前の事が誰よりも好きだって!!お前の事だけを一生考えるって!!」
「な!?なんで俺の好きな人が分かって、え、ど、どうして・・・?」
あまりの事に電話を落としそうになる。
陽菜の方もこんなことを言うつもりがなかったのか、息を飲んだ音が聞こえてからは静かになった。
「・・・あ、あははは・・・何言ってるんだろ、私。今言った事は忘れてね・・・?」
忘れてねって言われても・・・
あんなセリフを声を荒げながら言われたんだ。それもあの陽菜に。
忘れる事なんて不可能だ。
「・・・でも聞きたいな。慶太の気持ち」
俺の・・・気持ち・・・?
「慶太は私の事好き?友達とかじゃなくて、女の子として。それから・・・」
汗がぽたりと落ちる。

「結衣ちゃんと比べて」