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名前:リバース ◆Uw02HM2doE [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 00:55:15 ID:6vjtxC6b [2/8]

「…つまり私では役不足だということか」
放課後の空き教室。窓からは夕日が射し彼女の髪をさらに赤く染めていた。
「そうじゃない。役不足とかじゃ、ないんだ」
「じゃあ何なんだ!?」
疲れた顔で返答する少年に対して赤髪の少女は怒りをぶつける。
「じゃあ何で…何でそんなことを言う!?」
思わず涙が頬を伝う。彼女にとっては生まれて初めての屈辱。
「……ゴメン」
「言ってくれただろう!?私を受け止めてくれるって!俺だけは味方でいるって!私を理解してくれるのは要だけなのに!」
彼女の心の叫び。
彼女にとって生まれて初めて出来た失いたくないもの。それが目の前の少年だった。
「はは…何か照れるな」
「ごまかすな!知っている癖に!」
少女は少年に抱き着く。まるで目の前の少年、白川要が自分の物であることを示すように。
「本当に……ゴメン」
要はそんな少女を拒絶する。でなければ対等になどなれるはずもないから。
「す、す、捨て…ないで…!何でも…な、何でもする!もう…もう口答えしない!す、素直になる!だから…だから捨てないで!」
少女の叫び。
滅多に流したことのなかった彼女の涙に、要は改めて自分の罪を自覚した。
「…………」
「要…要っ!!」
いつでも気丈だった。とても強く頼りがいがあった少女。
でも弱さを抱えていて、要はそれに気付いてしまった。
少女は生まれて初めて、本当の自分を見てくれる人に出会った。
「…………」
「…あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
そして彼女は……壊れた。



「………また夢か」
今までにも体験したことがある生々しい夢。しかし内容が若干違っていた。
「…うわっ、背中の汗やばいな」
季節はもうすぐ秋。少々かきすぎな汗を拭い、俺はベットから起きた。
周りを見回すと窓から暖かそうな日が射していた。
部屋の中はさっぱりとしていたがラケットやテニスボールがあるのを見ると、どうやら俺は本当にテニス部だったようだ。
「…やっぱりあの"趣味"は嘘だったみたいだな」
この部屋の何処にもパソコンはない。
そして鮎樫さんが言ったような、いかがわしいソフトも一切無かった。
「だよな。俺がエロ…じゃなくてそのようないかがわしい物が好きなわけないもんな」
「何がいかがわしいの?」
「だからエロ…っておい!」
素早く後ろを向くとそこにはエプロン姿の妹、白川潤が立っていた。
「朝ご飯出来たから呼びに来たら……兄さんは朝から一体何を考えてたのかな」
「誤解だあべしっ!!」
素早く足払いをされベッドに倒された。そして目の前には覆いかぶさる潤の姿が。

532 名前:リバース ◆Uw02HM2doE [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 00:56:32 ID:6vjtxC6b [3/8]
「捕まえた」
「っ!コマンド表示!!」

たたかう
どうぐ
=>にげる

勿論即座に"にげる"を選択!

かなめ は にげたした!

「これで…どうだっ!?」
「甘い」

しかしまわりこまれてしまった!

「なっ…!」
敢えて抵抗せずベッドに倒れ、潤が油断して接近する隙をついて脱出する俺の完璧な作戦は
「まだまだだね」
がっちりと両肩を掴んだ潤の両手によってあっさりと破られた。
「くそっ…つーか力強すぎだろ!」
何とか抵抗しようとするが押さえ付けられて全く動けない。
「病み上がりの人には負けません。それに鍛えてますから」
ゆっくりと近付いてくる潤の顔。辛うじて手だけならば動かせる。
「このままじゃ…仕方ない、これだけはしたくなかったんだが」
隙を伺う。潤が俺にキスしようとする一瞬の隙を。
「それでは頂きます」
「…!黄金旋風突(ゴールデンフィンガー)!!」
一瞬の隙をついた俺の攻撃に潤は反応出来ずにただくらうしかなかった。
「ひゃんっ!?」
「今だっ!」
俺の黄金旋風突(人差し指で相手の乳首を突く本来ならば対男用の迎撃技)によって潤の力が弱まり、俺は見事脱出に成功した。
潤はまだ悶えているようだ。
「…お前の敗因はただ一つ。たった一つのシンプルな答え。お前は俺を怒ら」
「セクハラじゃボケェェェェエ!!」
こうして俺の爽やかな朝は妹の飛び膝蹴りによって幕を閉じた。



…そうなのです。私、白川要は自宅へと帰ってきたのです。

533 名前:リバース ◆Uw02HM2doE [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 00:57:19 ID:6vjtxC6b [4/8]

「…っ!蹴られたところまだ痛むわ」
白川家1階リビング。前に鮎樫さんが言ったように両親は出張中のようだった。
そして目の前のテーブルには美味そうな朝ご飯が。
「兄さんが変なことするからでしょ!ほら、早く座って」
潤に促され席に座る。やはり朝はしっかり食べないとな。
「変なことって…。潤だって朝から俺にキスしようとしたじゃねえかよ」
「あれは…スキンシップってやつよ。兄さんのはセクハラ!」
「セクハラってお前な…。まあいいや、それより早く食べようぜ」
言い合いは不毛だし折角の朝飯が冷めちゃうからな。
「それもそうね。じゃあせーの…」
「「頂きます」」
まずは味噌汁を頂く。
やはり潤の作った飯は美味い。両親が出張というのもあるだろうが元々のセンスもあるのかもしれない。
「この卵焼き、ちょうど良い甘さでめっちゃ美味いな」
特に卵焼きは天下一品だと思う。この絶妙な甘さ加減は俺のお気に入りだ。
「ふふっ、そりゃあ私が腕によりをかけて作ったんだもの。美味しくて当然よ」
えへんと胸を張る潤。…そのポーズは朝から刺激が強すぎるがそれはスルーしておこう。
「本当に色々とありがとな。潤がいてくれて良かったよ」
「っ!な、何いきなり臭い事言ってるのよ!家族でしかも恋人なら当然でしょ!」
途端に顔を真っ赤にして動揺する妹。なんて分かりやすい奴なんだ。
「まあ恋人かどうかは別にして」
「………」
「黙ってこっちを睨むんじゃない!…とにかく感謝してるよ」
「……ど、どういたしまして」
潤の顔はしばらく赤いままだった。



時刻は昼過ぎ。
ニュースでは残暑というが体感気温はまだまだ真夏日といった感じだ。蝉達もここぞとばかりにミンミンと合唱している。
俺が住んでいる桜ヶ崎市は県内では栄えている方らしい。
桜ヶ崎駅周辺にはショッピングモールや電気街などが建ち並んでおり、休日には近くから多くの人々が訪れ活気が溢れている。
そんな駅周辺、というか駅のすぐ近くにある向日葵という喫茶店に俺と妹の姿はあった。
「で、そいつらはいつ来るんだ?」
「もう少しだよ。あっ、電話だ…もしもし?そうそう“向日葵”の…そうだよ、いつもの席」
電話している妹を見ながら自分を落ち着けさせるために状況を整理してみる。
病院から帰ってきて一週間。
まもなく夏休みが終わり学校ということで一応学校には一通り事情を説明した。
始業式後に詳しい話を聞かせてもらうと言われたけれど。そしてその足でここへ。
何故かといえば
「もうすぐ来るって兄さん。組の皆、兄さんに会えるの楽しみにしてたよ!」
「組って…クラスメイト全員が来るのか?そんなにこの喫茶店に入らないだろ」
知り合いに会うためである。
俺は記憶と一緒に携帯も無くしてしまったらしく、一番仲の良かった奴らに妹が連絡してくれた。
「組ってクラスのことじゃないよ…。本当に覚えてないんだね」
「ん?クラスじゃないってどういう…」
良く分からない。詳しく話を聞こうとした瞬間
「要じゃねぇか!!」
「うおっ!?」
「あっ、来た」
後ろから物凄い大声が聞こえた。恐る恐る後ろを振り向くと
「おっす!」
「どーも」
「………」
三者三様の顔がそこにあった。

534 名前:リバース ◆Uw02HM2doE [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 00:59:18 ID:6vjtxC6b [5/8]

喫茶店“向日葵”の店内はこじんまりとしているが、店長自慢の珈琲の香りが落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そんな店内の奥、三人ずつが向かい合って座れる六人用のスペースに俺達の姿はある。
一番奥の窓側の席には俺と潤が向かい合って座っていた。
「成る程ね。それで要に連絡がつかなかったわけか」
俺の隣では金髪天然パーマの少年が話している。何処かで見たことがあるような…気のせいか。
「しかし記憶喪失か。羨ましい体験しやがって!」
そしてその少年の隣はさっき俺を驚かせた声の主、赤茶の短髪でいかにも体育会系の少年が話を繋げる。
「亮介(リョウスケ)は少し黙って。人物以外はちゃんと思い出せる?例えば勉強の知識とか」
そして潤の隣に座っている白髪ロングヘアーの少女が質問をしてきた。
「…多分大丈夫だと思うけど」
「思い出せないのは人物関係だけ?」
「う、うん。多分そういうことになるな…」
「…何でビクビクしてるの?」
何故か知らないがこの白髪少女の前だとどうも緊張する。過去に何かされたのだろうか。
「い、いや…つーか、あのさ…」
「三人とも落ち着いて!質問もいいけどまずは自己紹介から!」
ナイスだ潤。
そう、この三人は座っていきなり自己紹介も無しに俺の現状について質問し始めたのだ。
「それもそうだね。じゃあ僕から」
そう言って隣にいた金髪天然パーマの少年が立ち上がった。
「…立つ必要はあるのか」
思わず突っ込んでしまった。
「ん?まあその方が雰囲気出るでしょ。別に要が自分の身長が少し低いのを知っていて、僕の背の高さを自慢しているわけじゃないからね」
「うるせぇ!170はちゃんとあるわ!」
「…四捨五入して?」
「別に切り上げしてないから!」
何か知らんが自然と反応してしまう。…ちょっと待てよ。
「兄さん、自分の身長知ってたの?」
そう、潤の言う通りだ。
「いや、良く分からんが自然と言ってしまった」
「やっぱりね。記憶は失っても絆は消えないから。要と僕のボケとツッコミという絆はちゃんと残っているようだね」
「そんな絆いらないんだが…」
「僕の名前かい?」
「聞いてねえよ!」
…よく分からんが反応してしまう。
「僕の名前は藤川英(フジカワハナ)。英語の英と書いてハナと読む。要とはクラスも委員会も同じ、親友ってところかな」
「英って珍しい名前だな」
「よく言われるよ。もう忘れないでね」
「…ゴメンな」
「謝る必要はないよ。じゃあ次は亮介、頼むね」
そう言って金髪天パの少年、藤川英は座った。
そして代わりに赤茶短髪の体育会系な少年が立ち上がる。
「おっす!俺は如月亮介(キサラギリョウスケ)だ!よろしくな!」
「お、おう…よろしく」
何か握手を求められてしまった。とりあえず握手をするが…何か暑苦しい。
「…もう終わり?」
「他に何か言うことあるのか?」
「いや、別に無いなら良いんだけど…」
「ああ!前に要に借りたエロゲーならちゃんと返すから安心してくれ!」
「そっか、ありが……はあっ!?」

535 名前:リバース ◆Uw02HM2doE [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 01:00:55 ID:6vjtxC6b [6/8]
今いきなり爆弾発言しなかったコイツ…。というか
「あらら」
「………へぇ」
「………ふぅん」
「あ…要、スマン」
空気が重いですよ。息が出来ないほど。そして女子二人の視線が痛い。
「…ちょっと良いかな、兄さん」
「ち、違うんだ…俺は知らない、知らないんだ!」
「言い訳は…後で聞くわ」
「だ、誰か…!…英、助けてくれっ!」
俺は親友へ助けを求めるが…。
「現在電波の届かないところにおられるか電源が入っていません」
「親友じゃねえのかよ!?」
「ダッテウシロコワイ」
「えっ」
後ろ?と思い振り向いた瞬間
「成敗っ!!」
潤の上段回し蹴りが目の前に
「っ!?」
さく…れ……つ……
「し……ろ………」
最期に見えたのは可愛らしい白い布だった。
「「か、かなめぇぇぇえ!!」」
店内に英と亮介の声が響いた。さようならセカンドライフ。



夕焼けが街を包む頃。桜ヶ崎駅前商店街には5人の若者の姿があった。
「結局会長は来なかったな」
亮介が先頭を歩きながら話す。
「まあ会長は忙しい人だから。今オーストリアだっけ」
続いて英が要に肩を貸しながら潤に尋ねる。
「うーん…。どうだろ?兄さんが見付かったってメールはしたけどまだ返事は来てないから」
尋ねられた潤は茜色の空を見ながら答える。
「……しかし今日は痛い目にあったぜ」
俺は英に肩を貸してもらいながら拗ねた口調で言う。左足には包帯が巻いてあった。
「でも受け身に失敗して足を捻るなんて要らしいね」
英はクスクスと笑いだした。
「元はといえば要に原因がある」
一番後ろを歩いていた白髪の少女、春日井遥(カスガイハルカ)が素っ気なく繋げる。

536 名前:リバース ◆Uw02HM2doE [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 01:01:44 ID:6vjtxC6b [7/8]

「俺は被害者だ!大体春日井は…」
反論しようと春日井を見る。
夕焼けが艶やかな彼女の白髪を強調していて何とも形容しがたい雰囲気を放っていた。
「……春日井は、何?」
スッと音もなく近づく春日井。潤と同い年には到底見えない綺麗な顔立ちに、思わず目を逸らす。
「…と、年下なのに生意気なんだよ」
何故かすくんでしまう。
最初に春日井を見た時から感じる違和感。一体彼女の何に怯えているのだろう。
「ふーん…。そういうこというんだ。エロゲー野郎」
「なっ!?」
「歳とかそういうのは関係ないって言ったのは要。…忘れてると思うけど」
夕焼けを見つめる春日井の横顔は今にも泣き出しそうだった。
「…悪かったよ、忘れちまって」
はたして何を忘れて何を覚えているんだろうか、俺は。
「まあまあ、要も忘れたくて忘れた訳じゃないわけだし」
俺の背中を軽く叩きながら英が言う。
「それに俺達はまた会えたわけだし、何の問題もねぇさ!」
相変わらず先頭を歩き続ける亮介がガッツポーズをしながら俺を励ましてくれた。
「さ、忙しくなるのはこれからだよ兄さん。"要組"も再開しなきゃいけないしね」
「"要組"…?何だその暴力団的な名前は」
「さっき言ってた組のことだよ。クラスじゃなくてこの皆のこと!」
「"要組"…」
何か引っ掛かる。何だろう…すごく大切なことを忘れてるような…。
「聞いて要」
突然春日井が歩くの止める。皆も止まり彼女を見ていた。
「あのね…。わたし、要組が大好き。皆のおかげで今のわたしがいる。だから忘れていてもいい。"また、やり直せばいい"。ね?」
ゆっくりと微笑んだ彼女に皆が頷く。そして俺も
「…そうだな」
ゆっくりと頷いた。



「要…組…」
深夜。まだ慣れない自分のベッドのせいか寝られない。
まあそれだけが原因じゃない訳だが。
「なんだろう…この感じ」
思い出せそうで思い出せない。そんなもどかしさから寝られずにいた。
「…焦る必要なんて無いよな」
気になることはある。
もう一人の仲間らしい『美空優(ミソラユウ)』のこと。一つ上で生徒会長らしい。
というかそもそもなぜ要組が出来たのか。でも気にしていても仕方ない。
「学校か。どんなとこなんだろ」
まるで入学式前の小学生のような気持ちになった。