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646 :リバース ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/27(火) 15:12:28 ID:nEHf91vK

「ふーん…裏切るんだ」
白髪の少女は月を見ていた。どうやら今夜は満月のようだ。
「…裏切る訳じゃない。ただ遥とはもう…二人きりでは会わない」
「じゃあ…誰とは会うの?」
「………」
「だんまり?」
少女は少年へと振り返る。月の光が反射して少年には少女が幻想的な何かに見えた。
「本当にゴメン。でも遥が悪いとかじゃ」
「聞きたくない」
遥と呼ばれた少女は語気を荒げる。
「嘘つき。ずっと守ってくれるって約束したのに」
「…ゴメン」
「信じて…たのに」
遥の眼からは大粒の涙が流れていた。
「遥、俺は」
少女に近付いた瞬間、少年は違和感を覚える。
いや、違和感というより腹部が妙に熱い。見てみるとシャツには真っ赤な染みが出来ていた。
「…あ」
「ふふふふふふっ!あはははははははは!!」
少年は腹部に刺さった包丁を見た。
…これが報いなのかもしれない。無言で倒れる。
「わたしのモノにならないならいらない。大丈夫、一人じゃ逝かせないから」
ゆっくりと遥が近付いて来る。
…意識が遠くなってゆく。このまま…死ぬんだろうか。
「大丈夫だよ、死なせないから」
最後に聞いたのは遥じゃない誰かの声だった。



「……またか」
目覚めが悪い。最近よく見る夢。
俺が遥に刺される…有り得ない。しかももう会わないって何だ?もしかして俺は遥と付き合って……。
「…阿呆らしい」
「何が阿呆らしいんだ白川」
「何がって…!」
気付けば俺の横には学校一の鬼教師、化学担当の黒川がいた。
「気持ち良さそうに寝てたな?白川」
「………」
おかしいな。もう10月なのに汗が出ている。ああ、これは冷や汗っていうのかな。
「明日までに"青色発光ダイオード"についてのレポート。6000字以上で。…書けるな?」
「……はい」
今日は徹夜決定です。


647 :リバース ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/27(火) 15:13:52 ID:nEHf91vK

"要組"との出会いから一ヶ月経った。
クラスメイトも最初は俺の記憶喪失に戸惑っていたが、今は普通に接してくれている。
どうやら遥の予想した通り、学力に関しては問題ないようだ。
というか俺は結構頭が良かったらしい。まさに過去の俺よくやったとしか言いようがない。
「要、お疲れ」
「見事に叱られたな!」
昼休み。英と亮介が寄って来る。
「気付いてたなら起こしてくれよ」
「いくら要の頼みでもそれはねぇ」
英は困ったように頭を掻く。
「黒川先生は感知能力が高いからな…。隣の席じゃない限りそれは無理だ!」
キッパリと言い切る亮介。確かにまだ一ヶ月しかこの東桜にいないが、アイツの怖さは充分に理解した。
というか黒川という名前が気に喰わないのだ。いつぞやの医者を思い出す。
あのドSっぷりから一部の生徒には人気らしい。
「はぁ…。まあ良いや。それより早くいこうぜ」
今朝潤に作ってもらった弁当を片手に席を立つ。
「はいよ。もう潤と遥、外で待ってたよ」
「よっし、昼飯だぜ!」
クラスの外に出ると英の言う通り、既に潤と遥が待っていた。
「兄さん!早く行こう、お腹空いちゃった」
「潤、お前発想が亮介と同じだぞ」
「ええっ!?」
「おおっ、仲間だぞ潤!嬉しいだろ!?」
「…似た者同士」
「ちょ、遥ぁ!」
「むしろ同族嫌悪ってとこかな」
「は、英までぇ!」
「我が妹ながら本当に情けない」
「に、兄さんだって今朝『今日は唐揚げか!昼が楽しみだな』って言ってたくせに!」
「おまっ、何言ってんだ!?」
「ほほぉ、要がそんなことを。メモしなければ」
「お前は何してんだ英!」
「三人揃ったからターキーだな!」
「…亮介、それボーリング」
ワイワイ騒ぎながら生徒会室を目指す。
ただでさえ美男美女の集団(俺を除く)だ。騒げば結構な人の目をひくが気にしない。これもいつものことだ。


648 :リバース ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/27(火) 15:14:53 ID:nEHf91vK
そうこうしている内に生徒会室に到着した。必ずノックをする。
ウチの生徒会長は礼儀を重んじるタイプなので、仲間であってもそこはしっかりやらなければならないのだ。
「はい?」
「わたし」
「来たか、開いているぞ」
生徒会室に入る。少し低めのガラス製の高級そうな机の周りには、これまた高級そうなソファーがある。
そして奥には会長専用の校長室によくある椅子と机があり、横には書記用のホワイトボードがあった。
「ちょうどお茶を煎れるところだ。何が良い?」
炎のように紅い髪に整った顔立ち。そして澄んだ碧眼を持つのが我が東桜高校の生徒会長、美空優だ。
「アールグレイ」
「私もそれ!」
「僕はアップルティーで」
「俺は男のブラックだ!」
「緑茶一つで」
思い思いに欲しい物を頼む。
煎れ方も種類も全く違うのに、会長はほんの数分で用意してしまうから驚きだ。
「いやぁ、いつもながら会長のお茶は絶品だね」
「優のアールグレイ、好き」
「私も大好き!」
「ブラック最高!」
「いつも悪いな、会長」
「好きで煎れているんだ、気にしないでくれ」
生徒会室で皆で昼飯を食べる。"要組"は今日も賑やかだった。



この一ヶ月白川要として過ごした結果、ようやく要組を理解した。
要組とは地域の"何でも屋"的な集まりらしい。恋の相談から窃盗犯の逮捕まで幅広くやっている。
普通なら高校生の遊び程度でおしまいなのだが、俺達はどうやら過去に結構な功績を残しているようだった。
そしてメンバーも才色兼備の生徒会長を始め、美男美女揃い(俺を除く)。
さらに会長は美空開発という航空や電子機器などで日本一のシェアを誇る企業の一人娘。
また、英の父親はあの日本有数の大企業、藤川コーポレーションの社長。
そして亮介の父親は何と国会議員の如月龍一郎(キサラギリュウイチロウ)。
亮介自身も政界のパーティーなどを通じて様々なコネクションを持っているようだ。
なのでこの東桜では"要組"を知らない人は少ない。俺達兄妹と遥は若干見劣りするような気もするが。


649 :リバース ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/27(火) 15:16:57 ID:nEHf91vK

放課後。今日は部活がなく要組の活動も特にないので海有塾(ウミアリジュク)へ行くことにした。
海有塾とは近所にある道場の名前で決して予備校ではない。
一般の人達に護身術などを教える場所で俺達メンバーもちょくちょく通っている。
「「「お願いします!!」」」
やはり依頼の中には危険な物もあるため、身体を鍛えるのは大切だ。
俺は何故かリーダーなので頑張らないとな。



「要君、精進しているようじゃね」
3時間ほどの稽古を終えて休んでいると老人が近寄ってきた。
「師匠!お疲れ様です!」
「ああ、立たんで良いから」
彼はこの海有塾の塾長である海有源治(ウミアリゲンジ)という人でかつては"一騎当千"の二つ名をほしいままにしていた。
要するにスーパー爺ちゃんってところだ。
今でもその力は衰えず、いつも直々に稽古してもらっているので勝手ながら師匠と呼ばせてもらっている。
「いつも稽古させてもらってありがとうございます!」
「君には才能がある。長年様々な格闘家を見てきたが君ほど恵まれた者は…そうじゃな、後2人しか知らん」
「師匠に比べたら俺なんて…」
「記憶を失って2、3ヶ月でここまで上達することが、常識では有り得んからの」
「…記憶喪失以前も俺はここに通ってたんですよね?」
「ああ、勿論じゃよ。5月くらいからだったかの。あの時も凄まじい成長ぶりじゃった。…あの子が興味を示すほどじゃったからな」
「あの子…?」
「…すまん、今のは忘れてくれ」
「はぁ…」
「とにかく要君はもっと伸びる。特にその右腕の一発は相当な破壊力じゃ。精進せい」
「はい!」
「良い返事じゃ」
その後も師匠と少し話してから、帰ることにした。



海有塾からの帰り道。公園を通って近道をする。
「戦うメイド、か…」
帰り際に師匠が言っていたことを思い出す。後2人の恵まれた才能の持ち主。
その内1人は何処かの家のメイドさんというから驚きだ。
「一体どんなメイドなんだよ…」
もう1人のことは教えてくれなかったが…。
「まあ大したことじゃないしな」
「楽しそうね」
「うおっ!?」
急に声がした方向を咄嗟に向くと
「久しぶりね」
「あ、鮎樫さん…」
そこには真っ赤なワンピースを着た鮎樫らいむが立っていた。


650 :リバース ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/27(火) 15:18:16 ID:nEHf91vK

夜の公園に男女が二人きり。健全な男子高校生には少しばかり刺激がキツすぎるかもしれない。
「…まあこんなところかな」
「ふぅん…」
だがベンチに座っている俺達に関しては例外のようだ。
「案外記憶がなくても何とかなるもんだな」
「要らしいね」
近況を話す俺に微笑む鮎樫さん。…何だろう、凄く寂しそうだ。
「…鮎樫さん、もしかしてさ」
「…何?」
「もしかして…俺が記憶喪失になった理由…知ってる?」
「…………」
前から聞こうと思っていた。どう考えてもおかしい。
何故彼女は俺がいる病院を見つけられたんだ?そして何故俺の家の電話番号を知っていたんだ?
「ただの知り合い…な訳ないよね?」
「…それは質問?それとも…」
ゆっくりと距離を詰める鮎樫さん。
この前のことがフラッシュバックする。あの妖艶な…。
「あ、鮎か…っ!?」
「んっ…」
またキスされた。
でも今度は前のような情熱的なものではなく、優しい…慈しむようなキスだった。
「……知りたい?」
「えっ?」
「…本当の要を、知りたい?」
「……分からない」
鮎樫さんに見つめられて思わず躊躇う。考えみれば俺は今、十分幸せな生活をおくっている。
確かに自分の過去は気になるが、知ったところでどうにもならないような気もする。
「…相変わらず優柔不断ね」
呆れたように呟く鮎樫さん。
「…わりぃ」
「ま、急ぐようなことでもないしね。また会った時に聞くわ」
そう言うと鮎樫さんは立ち上がって歩き出した。
「あ、鮎樫さん!」
「そんな優柔不断な要にヒント、あげるね」
こちらには振り返らずに鮎樫さんは続ける。
「…私たちはね、生まれ変わったんだよ」
「…生まれ、変わった?」
何だ、生まれ変わった…?
「…やっぱり気にしないで。大した意味はないから。それじゃあね」
「!鮎樫さ…ん…」
いつの間にか鮎樫さんはいなくなっていて、夜の公園には俺がぽつんと取り残されていた。


651 :リバース ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/27(火) 15:22:41 ID:nEHf91vK

夜。自室のベットに仰向けになり物思いにふける。
「生まれ変わった…って何だ?」
生まれ変わったって…誰が。
というか俺は記憶喪失になったことである意味生まれ変わったのかもしれない。
「鮎樫さんも…」
ちょうどその時、携帯が鳴った。どうやら着信で画面には『美空優』と表示されていた。
「会長?こんな夜中に…」
疑問に思いつつも電話に出る。
「もしもし」
「あっ、か、要か?」
「はい。…俺の携帯にかけたんですから、俺以外は出ないと思いますけど」
何故か知らないが電話口の向こうにいる会長は慌てているようだ。
「い、いきなり夜中にすまないな…」
「いえ。でもどうしたんですか?会長が俺に電話だなんて珍しいですね」
「えっ?…あ、ああ…記憶を…失っているのか…」
最後の方が呟きのようで上手く聞き取れない。
「はい?すいません、今何て…」
「いや、何でもない。それよりだな…その…えっとだな…」
「…会長?用がないなら切りますけど…」
時間は午前0時を回っている。潤も寝ているだろうし夜中の長電話は近所迷惑だ。
「ま、待て!…こ、今週の土曜日……ひ、暇か?」
「土曜日ですか?…まあ部活もありませんし、要組がないなら暇ですけど…」
「そうか!…いや…もし良かったらでいいんだが…な…土曜日、二人で…あ、遊ばないか?」
「…えっと、会長と二人きり…ですか」
「……嫌か?」
急に声のトーンを落とす会長。…本能的に断ってはいけないと思った。
「い、嫌じゃないです!…でも俺なんかでいいんですか」
「勿論だ!むしろ…その…要じゃないと…ダメなんだ…」
「あ、ああ…そうですか」
恥ずかしそうに話す会長の声を聞くと、こっちまで恥ずかしくなってしまった。



「じゃあ…はい、分かりました。はい…お休みなさい」
会長との電話を終える。通話時間は20分ほど。
こんな時無意識に、電話代は向こう持ちとか考えてしまうのは貧乏性なのかもしれない。
「……驚いたな」
まさか会長から夜中に電話、しかも遊びに誘われるとは。仲間にも内緒にして欲しいと言われた。
「………デート、なわけないよな」
あんな才色兼備の完璧お嬢様が俺なんかを相手にするわけない。
これだから思春期の男子は妄想が逞し過ぎていかん。
「とにかく遅刻しないようにしなきゃな」
何を着て行けば良いんだろうか。
そんなことを思いながら俺は明かりを消して、ベットに潜り込んだ。



「…………」
白川家2階、要の部屋の前。誰かが要の部屋の扉に耳を当てていた。
「……やっぱりね」
何かを確信したのかその人物、白川潤は自分の部屋へ帰る。
そして机の上にノートを広げた。ページには今週の要の行動が、潤の知る限りびっしりとそれこそ分単位で書かれていた。
「…許さない」
そして"土曜日"と記されている欄に、潤はさっき要が優と電話で決めた予定をそのまま書いていた。
「兄さんは…たとえ仲間にも渡さないんだから…」
白川要が記憶喪失になってから約一ヶ月。
平穏な日々は早くも終わりを告げようとしていた。