※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

732 :名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:05:39 ID:uFsGXx/i
俺は昔からよく喋るヤツだった。寂しがりやだからだろうか。
とにかくクラスメートの隅から隅まで仲良くならないと気がすまない性質だった。
だから、高校生になった今では携帯のメモリーには結構な数のアドレスが登録されている。
まぁ残念な事に彼女と呼べる人はいないが…
俺の名前は相田翔太。普通の高校1年生より少し交友関係の広いだけの男だ。

そんな俺には一応幼馴染がいる。家が特別近い訳ではないが母親同士が仲良くて物心つく頃には自然と遊ぶようになっていた。
名前は秋鹿(あいか)祥子。
出席番号も隣なので祥子とは小、中学校時代同じクラスになれば必ず隣りの席になった。
所謂腐れ縁というやつだろう。
そして高校生になった4月。入学式を終えた俺は学生ロビーに張り出された名簿を見てため息をついていた。
「はぁ…」
そこには「1年1組 1番秋鹿祥子 2番相田翔太」とはっきりと書かれていた。
「これで何年連続なんだよ…」
絶対誰か裏で操作している人間がいるに違いないなんて愚痴をこぼしていると不意に肩を叩かれた。
「何入学式でしけたツラしてんだよ。お前らしくもない。」
「…どこかでお会いした事ありましたっけ?」
「先月まで同じ中学だっただろうが!!」
「…なんだ、大田か」
「その言い方はねぇだろ!」
この人のテンションを全く気にせず話しかけてきているのは大田。
中学時代からの付き合いで、何だか気が合い中学の頃は良く一緒に遊んでいた。
「いや、俺も可愛い子見つけて元気にはしゃぎたいんだけどさ…あれ見ろよ」
そういって俺は張り出された名簿を指さす。
「…これはもうデスティニーだ。いやファンタジアだ!」
「俺はいつからシリーズ化されたんだ!」
「だけど普通小中高ずーっと一緒のクラスなんて運命以外にありえるか?」
「…」
確かに運命以外何ともいえない。
「お前別に秋鹿の事嫌いって訳じゃないんだろ?だったら別にいいじゃねぇか」
「いやまぁ嫌いじゃないんだけどな…祥子は何かおとなし過ぎるんだよな」
正直言って秋鹿の事は少し苦手だ。昔は二人で良く遊んでいたような記憶があるのだが、
小学校で俺に友達が増え始めてからは遊ぶ回数も減り、それから徐々に付き合いは無くなっていった。
昔はよく笑う天真爛漫な可愛い子だった記憶があるのだが…
「今じゃ主席入学のメガネ才女だもんな」
何だか小さい頃の秋鹿を思い出し切なくなった。
「全く、頭良いのに何でこんなしがない平凡な公立高校に入ったのかねぇ。」
「祥子は家が近いからって言ってたぞ」
「ほう、そりゃどこぞの天才バスケプレーヤーと一緒じゃ『私バスケなんてした事ないわよ』」
「!!!」
「…よう、祥子。お前いつの間にいたんだ?」
「翔太がシリーズ化された所から」
「そこから!?だったらもっと早く声かければいいじゃん?」
「ちょっとね…」
「??」
不思議そうに見つめる俺に、秋鹿は寂しそうに顔を伏せた。


733 :名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:06:55 ID:uFsGXx/i
「…あっ、翔太!俺お腹痛いから帰る!」
「えっ、おい!」
そういうと大田は颯爽と帰って行った。
「なんだよあいつ…」
「ねぇ翔太。」
「ん?」
「久しぶりに二人で話しでもしない?」
そう言った祥子に、俺は忘れかけていた幼き日の祥子を感じた。

大田が帰った後は話は二人で取り留めもなく話をした。
少し疎遠になったせいか話をしているとお互いの趣味や価値観等も少し変わっている事に気付き、
話のネタは尽きなかった。
ただ祥子はやはり俺の覚えている昔の祥子では無いような気がした。
俺の質問に淡々と答え、淡々と俺に質問をしてくる。何だか感情が無いようで少し怖い。

その後日も少し沈んできたので帰ることになったのだが…
祥子は行きは車で来たが、親が残業が入り迎えにこれないらしい。
「祥子の家って確か俺の家から近かったよな?ここからどれくらい?」
「歩いて1時間以上かかるわね」
そう言って無言で俺を見つめてくる。

…結局無言の圧力に負けた俺は、祥子を家まで自転車で送って行く事になった。

学校の帰り道、久しぶりに女の子と二人乗りをしている俺は焦っていた。
別に「警察に見つかるかも」なんて事じゃない。
さっきまで普通に話せてたはずなのに祥子に少しくっつかれただけで上手く言葉が出てこなくなってしまったのだ
「…………………」
き、気まずい…何か喋らなければ…
「あのさぁ!」
「何?」
「こうやって二人で帰るのっていつ以来だろうな!?」
…我ながらなんて雑な質問。こんなの覚えているわけがないか。
「小学校4年生の12月」
「…えっ?よく覚えてるな。」
「何気ない事って意外と覚えてるものだから。」
「そんなもんなのか…」
やっぱ首席だけあって記憶力もいいんだなぁ。

「ここよ」
いつの間にか祥子の家についた。久しぶりに見るその家は記憶の中の物よりも少し小さく感じる。
まぁそれだけ俺も成長したって事だよな…
「じゃあ、俺帰るから。おばさんによろしく!」
そういって自転車を漕ぎ出そうとした瞬間
「翔太!」
「あの、私携帯買ったから、赤外線送る。」
「お、おぅ。」
いつものクールな祥子とは思えない程の大声に思わずたじろいでしまう。
「携帯かして」
「いやこの距離なら充分赤外線届『いいからかして』」
そういった祥子の声は先ほどまでの声とは違いひどく冷たいものだった。

「はい、返すわ。」
「何かやけに時間かかってたな」
「まだあんまり操作に慣れてないのよ。じゃあね。」
満足したのか祥子は家の中に入っていった。
「…やっぱり何か苦手なんだよなぁ」
そうポツリと呟いて俺は家路を急いだ。



734 :名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:07:57 ID:uFsGXx/i
私は昔良く喋る子だった。初めてあった同年代の男の子に気に入ってもらうため。
私は昔良く笑う子だった。初めて好きになった自分の名前に似た男の子に楽しんでもらうため。
男の子は最初怯えていた。元気にはしゃぎ回る私の後ろでいつもビクビクしていた。
私はそんな男の子を引き連れて色んな事をした。
おままごと、探検、お遊戯…子供が思いつく遊びは全部した。
気づけば男の子は良く喋るようになった。
楽しそうに話す男の子を見て私はおとなしくなった。その子の話を良く聞きたいから。
次第に男の子は色んな子と喋るようになった。それはそれは楽しそうだったから私はそれを笑ってみていた。
ある日男の子は私の知らない女の子と喋っていた。男の子は楽しそうだったから私はそれを笑ってみていた。
…はずだった

男の子は私の顔を見てひどく怯えていた。私は教室の窓に映った自分の顔を見て怯えた。
ひどく嫉妬にゆがんだその笑顔に…
あの子が楽しそうだから笑わないといけないのに、私はその日から上手く笑えなくなった。

あれからかなりの月日が流れた。小、中学校は翔太にも付き合いがあるからアプローチは出来なかったけど、
新たな人間関係を築く高校なら…誰の目も気にせず翔太にアプローチが出来る。
入学してすぐなら知り合いもまだ少ないだろうし、翔太がまた色んな人と遊びだす前に私に夢中になるように仕向ける。
幸いウチの中学から私達の高校に来たのは大田っていう翔太と仲の良い男の子だけ。
中学に入った頃から翔太がどの高校を目指しても大丈夫なように勉強してきたかいがあった。
絶対に…私は翔太と幸せになってみせる…。

「成績が良すぎるのも考えものだなぁ」
私は校長室でのくだらない話をちょうど終えた所だった。
一生懸命勉強したのがこんなとこであだになるとは…
おかげで翔太がどこに行ったかわからなくなってしまった。
「こんな時翔太の連絡先を知ってたら…」
中学時代から彼が携帯電話をよくいじっているのを見ていた私はすぐに親にねだった。
しかし、家が厳しい私は高校生になる今の今まで買ってもらえなかった。
携帯電話を眺めながら溜息をついたその時。

「俺はいつからシリーズ化されたんだ!」

不意に聞こえた愛しい人の声に振り返るとそこには確かに彼がいた。
どうやらまた私と一緒のクラスな事に何か不満があるらしい。
どうして?今までだって二人で前の席で並んで勉強してたじゃない。
私何か翔太にしちゃったの…?もし、翔太が私の事嫌いなら…もしそうなら私…
「いやまぁ嫌いじゃないんだけどな…祥子は何かおとなし過ぎるんだよな」
天の声が聞こえた気がした。そっか、私が暗すぎたからいけないんだ。
勉強ばかりしてたから自然と翔太の目には私が暗くなったうつったみたい。
翔太は昔の明るい私に戻ってほしいんだね?

私は翔太に嫌われていなかったという事実だけで天にも上る思いだった。



735 :名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:08:29 ID:uFsGXx/i
あれから色々あって何とか二人で帰るという所までこぎつけた。
大田君が私の気持ちに薄々気付いたのか自ら立ち去ってくれたのには感謝しないとね。
太田君が去った後は本当に夢のような時間だった。
ここ数年あまり人と話して無かったせいか、上手く気持ちを表現出来なかったけど、私は確かに幸せだった。
彼が「そろそろ帰ろう」というので、トイレに行くフリをして自分が乗ってきた自転車を隠し、
適当な言い訳をして彼の自転車の荷台に乗る事に成功した。
自転車の荷台は決して乗りは良くなかったけど、心地翔太越しの春風の匂いはどんなアロマよりも心が安らいだ。
「あのさぁ!」
彼が喋りかけてきた。
「こうやって二人で帰るのっていつ以来だろうな!?」
…どうして覚えてないの?って言いたい所だけど仕方ない。
ちょっと消極的過ぎた私のせいだもの。
これから時間は沢山ある。少しずつ距離を近づけていけば、いつか翔太も私だけを見てくれるかも知れない。
そう考えると笑わずにはいられなかった。

楽しい時間はあっという間で家についてしまった。
『嘘の道でも教えて時間稼ぎすれば良かった』などと考え自転車から降りる。

「じゃあ、俺帰るから。おばさんによろしく!」
「翔太!」
危ない。あまりに楽しかったせいで連絡先を聞くのを忘れていた。
焦った私は自分でもびっくりするくらいの声で彼の名を叫んだ。
せっかく買ってもらった携帯電話を有効活用しないと、急がなければ彼はまた私を見てくれなくなる…
そんなのは嫌。。。絶対に嫌!!!!
私は彼から携帯電話を半ば強引にかりて、念の為自分の携帯に彼のアドレス帳のデータ全てを送った。
『交友関係の広い彼の事だ。ひょっとしたら敵がいるかもしれない…。』
そう思うと彼のアドレス帳の女の連絡先を全て消したくなったが今はまだその時ではない。
データを写し終えると私はそそくさと家の中に入った。
自分の携帯に入った彼のアドレス帳を見る。
「やっぱりすごいわね…」
数百件登録されている中には女の名前もちらほらと入っている。
ただ、名前順に表示されるのでもちろん相田翔太の隣は秋鹿祥子…のはずだった。
『秋鹿織江』
彼の隣には私の姉の名前が刻んであった。