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55 : リバース ◆ Uw02HM2doE    2010/08/15(日) 23:21:37   ID:VoIVX7j+0

会長と電話した次の日の朝、黒川先生に出されたレポートの存在に気が付くも既に遅かった。
結局罰として放課後、鬼の様な個人レッスンが金曜日まで続いた。
亮介や一部のファンは「こ、個人レッスンだとっ!?羨ましい!」とか阿保なことを口走り、瞬間黒川先生に殺られていたが。
そしてようやく迎えた土曜日。
俺は会長との待ち合わせ場所である、桜ヶ崎駅東口にいた。
潤には友達と遊ぶと言ってある。ま、あながち嘘じゃないし。
「しかしこんなラフで良かったのか」
自分の格好を改めて見てみる。
無地のパーカーにカットソーのTシャツ。そしてグレーのジーパン。
明らかに手抜きだが家にあまり服がなかったので仕方ない。怨むなら過去の自分を怨もう。
「白川要様でございますか?」
声をかけられたので振り向くとそこには金髪で赤い瞳を持つメイドさんが立っていた。
「は、はい。そうですけど…」
「私、優お嬢様の専属メイドの桜花(オウカ)と申します。どうぞこちらに」
「あ、はい」
ざっと170cmはあるだろうか。
背が高くとてもスタイルの良いメイドさんについていくと、駅前には不相応なリムジンが停まっていた。
「どうぞ中へ」
桜花さんにドアを開けられて車に乗り込むと
「要、おはよう。悪かったな、急に遊ぼうなどと言ってしまって」
「それは別に……か、会長…?」
確かにそこには会長がいるのだが…。
「ああ、これか?ど、どうだ…似合うかな?」
「そりゃあ半端なく…ってそうじゃなくて!」
何故か俺の目の前にいる彼女は紺の上品なドレスを身に纏い、少し化粧をしているのかまるで一つの美術品のような美しさだった。
「ど、どうした?」
「どうしたじゃないですよ!何ですかその格好は!つーか色々と何ですか!」
目の前の状況が全く理解出来ない俺に
「まあ、とりあえず落ち着いてくれ。ちゃんと説明するから」
会長は一つずつ事情を説明していった。


56 : リバース ◆ Uw02HM2doE    2010/08/15(日) 23:22:44   ID:VoIVX7j+0

リムジンに乗るのは少なくとも記憶喪失になってからは初めてだ。
というか人生を普通に過ごす過程でリムジンに乗るなんてまず有り得ないだろう。
「…ということなんだ。協力してくれるな?」
そんな普通からは掛け離れたリムジンの車内で俺は、同じく普通からは掛け離れた話を聞いていた。
「協力って…そんな無茶な…」
「頼む!要しか頼りはいないんだ!」
会長に手を握られる。そして俺をじっと見つめた。…その表情は反則だろ。
「……分かりました。ここまで来たらやるしかないみたいですしね」
「本当か!?ありがとう要っ!」
会長に思いっ切り抱き着かれる。
「わっ!?か、会長!?ちょ、やめ!?」
ただでさえ誰もが羨むような体型をしているのに、ドレスなんかで抱き着かれたら身が持たない。
とりあえず会長を引き離す。
「す、すまん…嬉しくて、ついな」
「あ、いや別に嫌なわけじゃないですから」
「えっ?」
「…えっ?」
何言っているんだ俺。…こんなので大丈夫なんだろうか。
そんな俺にお構いなしに桜花さんの運転するリムジンは、目的地についてしまった。



世間でもたまに聞く大企業の合併や吸収。
その裏ではそれらの社長の娘や息子同士でお見合いをして、あわよくば結婚させて企業の安定を計る、なんて方針もあるらしい。
「…すいません。全く似合ってないと思うんですけど」
そして会長の父親も"美空開発"を拡大させるため俗にいう政略結婚をしようと考えた。
「何をいう、中々似合っているじゃないか。…その、か、格好良いぞ…」
しかし会長はそれに猛反対。
「自分にはもう将来を誓った恋人がいる!」と啖呵を切ると、当然「じゃあ連れて来なさい!」という流れになる。
「お世話でも嬉しいですよ。会長も…あ」
実際恋人がいない会長は試行錯誤した結果、俺に"将来を誓った恋人"役を頼んだ、というのが今までの流れだ。
「…会長じゃないだろう?」
冷ややかな目で睨みつけられる。
…仕方ないですよ。急に名前で呼べなんて無理な話だし。
「すいません…。ゆ、優…」
「何だ?要」
今俺達は美空開発本社の最上階、いわゆる社長室の前にいる。


57 : リバース ◆ Uw02HM2doE    2010/08/15(日) 23:23:45   ID:VoIVX7j+0

そして会長は紺のドレスを、俺は黒のスーツを着ていた。
「やっぱりスーツじゃないと…」
「駄目に決まっているだろ。父は厳格な人だ。それに昼食会もあるしな」
用意してもらったスーツは似合わないしマナーは分からないし…。
何よりたとえ演技でも「娘さんとは真剣にお付き合いをさせて頂いております!」なんて、
一生に一度言うか言わないかみたいな台詞を喋らなければならないと考えただけでも憂鬱なのだ。
「心配するな。私がしっかりとサポートする。要は私の恋人らしく、堂々としていればいいんだ」
「…それが難しいんですけどね」
「全く…仕方ない奴だな」
そういうと会長は俺の手を握ってきた。
「な、何ですか?」
「いや、こうした方が安心するかと思ってな。恋人同士なんだし別に構わないだろ?」
俺の横で微笑む会長。…こういう時に度胸があるのは流石といったところだ。
「ま、まあ…。それじゃあ…行きますよ」
「ああ。ノックを忘れずにな」
こうして俺は会長の"将来を誓った恋人"を演じることになったのだった。



社長室というにはその部屋は些か大き過ぎな気がした。
最上階ということもあって、窓からは桜ヶ崎を一望出来る。
最高級ホテルのスイートルームを思わせるような造りだが、そこは大企業の社長室。
社長専用とおぼしき机には書類が山積みになっており、側のホワイトボードにはいくつもの計算式と専門用語が書いてあった。
「つまり君は一般人の分際で、私の大切な一人娘と添い遂げたいと」
そして椅子に座ってそれらの書類の一枚を眺めているのが会長の父親であり美空開発の社長でもある、美空昴(ミソラスバル)だ。
歳を感じさせない洗練された雰囲気が、どこと無く彼のカリスマ性を示している。
「お言葉ですが父上、結婚に身分は関係ないのではないですか?現に父上と母上も…」
厳しい言葉を突き付ける昴さんに対して会長が反論する。
「私が言いたいのはそういうことではない。この男には優に値するほどの何かがあるのか、ということだ」
「優に…値する…」
「父上、それは」
「私は今彼に聞いているんだ。優は黙っていなさい」
昴さんの鋭い眼光が俺に突き刺さる。
凄まじい重圧だが会長のためにも乗り越えなくては。


58 : リバース ◆ Uw02HM2doE    2010/08/15(日) 23:24:53   ID:VoIVX7j+0

「…確かに僕には特別優れているものがあるわけではありません。昴さんのいう通り、僕はそこら辺にいる一般人です」
「要…」
会長が不安げにこちらを見つめる。
「でも僕は知っています。優はとても優秀に見えるけど、実は案外おっちょこちょいで甘えん坊で…」
「…は?」
「か、要?」
昴さんと会長が目を丸くしていた。やっぱり親子なんだな。
「世界中のお茶を煎れるのが好きな癖に猫舌で自分はあまり飲めなくて…」
「そ、そうなのか」
「か、要!?父上これは」
会長が慌てて口を挟もうとするがもう遅い。
「仲間以外には秘密にしてるけどクマのぬいぐるみ、特に黄色いクマが大好きなことを僕は知っています!」
「ぬいぐるみ…」
「か、か、か、要!!」
どうやら昴さんは知らなかったようだ。あからさまに驚いていた。
そして会長は顔を真っ赤にして俺に近寄る。
「たとえ身分が違うとしても、僕…いや、俺はそんな優の全てが好きなんです!」
「へっ!?」
俺は近寄って来る会長を抱きしめて昴さんに言う。
「だから優のことを何も知らない、身分だけの奴なんかに渡したくない!優は…優は俺の恋人だ!!」
「か、要…」
会長は顔を真っ赤にしたまま俺を見つめていた。
…柔らかいものが二つ、思いっ切り当たっているが気にしない。
「……ふ、ふ」
「…ち、父上?」
昴さんは俯いたまま身体を震わせていた。流石にいきなり俺の嫁宣言はやり過ぎたか…。
「ふ、ふはははは!ははははははは!!」
「…えっ?」
「ち、父上が…壊れた…」
いきなり昴さんが笑い出した。
「ははははは!…はぁ、君…要君…だっけ?」
「は、はい」
「君は…君は実に面白いね。この私、美空開発の社長に向かってそんな啖呵を切ったのは君が初めてだよ」
「…そうですか」
どうやら気に入られた…のか?
「いやぁ、久しぶりに笑わせて貰った。…優」
「…はい」
昴さんに呼ばれ身体を強張らせる会長。
「…すまなかったな。疑ってしまって。これからは私も優を応援しよう」
「そ、それでは…」
「ああ、要君とこれからも仲良くな」
「は、はい!要っ!!」
「うおっ!?」
涙目の会長がいきなり抱き着いてきたのでバランスを崩して、二人して倒れた。
つまり会長が俺に覆いかぶさる形に…会長、ドレス越しに…いや考えるな、考えちゃいけない。
亮介が一人、亮介が二人…。
「「おい要っち!据え膳食わぬは男の恥だぜ!?」」
う、うるせぇ!亮介の癖に諺とは生意気な…。
「あ…」
「…会長?」
…何ですか会長、その切なそうな表情は。何で目を閉じているんですか。
というか顔が近付いてきてますよ。
「私を置いてきぼりにしないで欲しいな」
「ち、父上!?す、すみません!」
「…ふぅ」
あ、危なかった…。昴さんが止めてくれなかったら今頃…考えるのはよそう。
「では昼食にしようか。二人の今後を祝してね」
とにかく当初の予定は果たせたようだ。上手くいって良かった。
「はい!要!」
嬉しそうに俺の腕に抱き着く会長。これで…良かったんだよな?


59 : リバース ◆ Uw02HM2doE    2010/08/15(日) 23:26:19   ID:VoIVX7j+0

テーブルマナーを全く知らない俺に会長がついてくれることで何とか最高級レストランでの昼食会を乗り切った。
その後は会長の家…というか屋敷に招待され母親のクレアさんを紹介してもらったり、昴さんの昔話を会長と聞いたり。
そうしている内に夕方になり、桜花さんに駅前まで送ってもらった。
「わざわざ会長まで見送りに来てくれなくても良かったのに」
駅前は夕焼けに染まっていて会長のドレス姿をより際立たせている。
「一日付き合わせてしまったからな。…それから二人の時は優と呼んでくれないか」
「でも…」
それは恥ずかしいと言おうとしたが
「…嫌か?」
会長の突き刺すような目線に何も言えず、頷いてしまった。
「そうか、良かった。まあ私たちはもはや親公認のカップルだ。恥ずかしがる必要もないだろう?」
「…いや、でも…」
何かがおかしい。俺と会長の中で何かが食い違っている。
「ああ、要の御両親への挨拶がまだだったか。要が頑張ってくれたんだ。私も…」
「ま、待ってくれ会…優」
「…それでいい。どうした?」
「いや、今日だけ恋人のふりをすれば良いんですよね…?」
「…何を言っている?要は父上の前であんなにも私への愛を語ってくれたじゃないか」
何でもう秋なのに汗なんかかくんだろう。
…ああ、これは冷や汗か。じゃあ俺、焦っているのかな。
「そ、それは…」
会長が急に俺に抱き着く。そして耳元で囁いた。
「今更逃げられるとでも、思ったのか?」
…ああ、今分かったよ。これは偶然とかたまたま俺に頼んだとかじゃない。これは…。
「随分と短絡的な罠ね」
「……潤か」
そこには夕日を浴びて潤が立っていた。
表情は無くまるで能面のよう。ただその瞳が冷たく会長を見つめていた。


60 : リバース ◆ Uw02HM2doE    2010/08/15(日) 23:27:24   ID:VoIVX7j+0

「罠とは随分な言いようだな」
「だってその通りでしょ。ね、兄さん?」
会長と潤は互い向かい合っていた。
「じゅ、潤?何でこんなところに…」
「たまたま駅前を通り掛かっただけだよ」
「たまたま…か」
「会長と兄さんこそ、何ですかその格好?」
会長はすぐさま俺の腕を取り、腕を組む。
「見ての通り二人で私の両親に挨拶をしていたんだ。交際宣言ともいう」
「…無理矢理でしょ。ね、兄さん?」
「えっと…」
会長と潤の両方に睨まれる。…どっちについてもただじゃ済まないのだけは分かる。
「とりあえず落ち着こうぜ。俺達仲間だろ?」
「確かに仲間だがそれとこれとは話が別だ」
「私が聞きたいのはそんな答えじゃないよ、兄さん」
…どうやら説得には失敗したようだ。というか妹よ、お前はそんな澱んだ目をしていたっけ。
「とにかく私と要は本日めでたく恋人になった。出来れば潤にも祝福して欲しい」
「馬鹿言わないでよ。会長と兄さんが恋人?貴女なんかが釣り合う訳無いじゃない。それに兄さんはすでに私の恋人なんだから」
ゆっくりと潤が近付いてくる。
ここは駅前で比較的人が行き来するのに、どうして今この瞬間はこんなにも静かなんだろうか。
「潤こそ馬鹿を言わないで欲しい。要と潤は兄妹だろう?物理的に君達が結ばれることは有り得ない」
きっぱりと言い切る会長。潤は近付くのを止め、会長を睨みつけていた。
「…どうやら一度はっきりさせた方が良いようだな」
「…そうだね」
「とりあえず今日のところはここで引こう。要」
「は、はい…っん!?」
会長にキスされた。舌を入れられ俺の舌と会長の舌が絡み合う。
「!?他人の癖に!」
次の瞬間には潤が回し蹴りで会長を狙い撃つが
「他人だからだ」
会長は素早いバックステップでそれをかわしていた。
「要、今日は楽しかった。続きは…また今度にしよう」
会長は踵を返すとリムジンに乗り込んで帰って行った。
「…潤?」
「………」
潤は俺の手を握りながらずっと車が去った方向を見つめていた。


61 : リバース ◆ Uw02HM2doE    2010/08/15(日) 23:28:21   ID:VoIVX7j+0

夜。自室のベッドに横になる。
今日は色々なことがあった。特に夕方の一件は自分には衝撃的で。あれから潤は一言も喋ろうとしなかった。
潤に聞きたいことがあったが気まずくて聞けずにいる。
「…駄目な兄貴だな」
自分の不甲斐なさを噛み締めているとドアがノックされた。
「…兄さん、入っても良いかな」
「…良いぞ」
パジャマ姿の潤が部屋に入って来た。
目は真っ赤になっていて目の下も少し腫れている。どうやらあれからずっと泣いていたようだ。
「隣、行っても良い?」
「ああ」
潤がベッドに腰掛ける。
…二人きりなるのも久しぶりだ。
この一ヶ月ほど学校や要組の活動、そして海有塾に行っていたためかあまり潤と二人で話す機会がなかったような気がする。
「………」
「…………」
沈黙が部屋に流れる。
きっと潤は俺に何かを伝えたくてこの部屋に入って来た。ならば待ってあげないと。
一体潤が今日の出来事をどう思っているのか。
やはり記憶を失っても兄妹なのだろう。何となく分かる。
「……私、邪魔…かな」
潤は真っ赤に充血した目からまた涙を流していた。
そんな彼女をそっと抱きしめる。
「邪魔なんかじゃない」
潤が俺の手を握ってきた。そっと握り返すとまるで何かから守るかのように、強く握り返してくる。
「…分かってる……兄妹じゃ結ばれないことくらい……分かってるよ」
「…ああ」
心の底から捻り出すような苦しそうな声だった。俺はただ聞いてやることしか出来ない。
「でも……好きなんだもん…」
「潤…」
潤が見つめてくる。…こんなに苦しそうなのに俺はどうしたら良いか分からない。
「兄さん…」
潤の顔が迫って来る。…本当ならば避けるべきだし諭すべきだ。
会長が言った通り兄妹は結ばれないし、潤の未来の為にも心を鬼にしてでも彼女の好意を拒否することが唯一の正解に違いない。
「んっ…」
「っ…」
でも俺には出来なかった。
拒否してしまえば何かが壊れてしまいそうな彼女の、それでも止めるべきだった好意を拒否する勇気が俺にはなかった。
「…っはぁ」
潤が俺の口内を舌で犯すのを受け入れる。何故かどこか第三者的な視点でこの行為を観察している自分がいた。
30秒ほどして満足したのか、潤は顔を遠ざける。その顔は紅潮していてとても満足げだった。
「……溶けちゃう…」
「…潤、やっぱりこんなこと」
「兄さん」
「…何だよ」
一転して氷のような冷たい視線を送る潤。拒否しないといけないのに何も言えない。
「おやすみなさい」
「…おやすみ」
潤はそのまま部屋を出ていった。
…明日言おう。今日はもう疲れた。大丈夫、明日はちゃんと言えるはずだから。今日はもう寝てしまおう。
「……最低だ」
現実から目を背けるようにベッドに潜り込んだ。