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65 : 娘    2010/08/17(火) 11:59:13   ID:RFacS0Bc0

 私の両親は決して私に愛情を注ごうとしなかった。
かと言って虐待をする訳でもないし、親としての責任の放棄があった訳ではない。
最低限の親としての義務は果たすが、それ以外は何があっても関与しない。
以前一度この話をした相手は眉を顰め、どういう意味なのか分からないと質問を返してきた。
だから、相手に伝えやすくする為に例え話をすることにした。
“例えば私が風邪を引いたとします。私が風邪であることを察知した両親は通院する為のお金は出すが、決して看病はしない”
例え話を出しても相手はいまいち釈然としなかったらしい。
結局その時は別の話にすり換えることで相手からの追求をかわしたのを覚えている。
私自身、上手に説明できる自信がない。だから逸らすしかなかった。
何故なら彼らが何を考え私を産み、この様に育てたのか私自身理解出来ないのだから。
そして、それは両親の死と共に解明される機会は永遠に失われることになった。
だからかもしれない、もし私が子供に恵まれる機会があるのなら最大限の愛情を注げるような大人になりたいと願ったのは・・・・・・。

今年で27になる私だが結婚はしていない。
する相手もいなければ、そうした出会いも皆無であったから自然とそうなった。
ただそれだけのことである。
ならば一人暮らしなのか?と聞かれたら答えはNOである。
私には今年で11歳になる娘がいるのだ。
もちろん血は繋がっていない。
少し訳があって孤児院から引き取ったのだ。
それは今からそう・・・・・・丁度半年前まで遡ることになる。
当時何かの集まりで出来た知人・・・高町雄人というのだが、彼に私の幼少の頃の話してしまったのがきっかけであった。
完全に酔いつぶれる程酒が入っていた事もあり、べらべらと過去の話を切り出した私を高町は終始一言も話さずに聞き終え。
少し間を空けた後に一言呟いた、俺に任せろ・・・と。
それから話はとんとん拍子に決定し、その週末には私と高町は孤児院へと足を運んでいた。
「それにしてもでかいな・・・・・・」
端から端まで全て視界に収まらないほどそびえ立つ塀に、重厚な大きな門。
見る者を圧倒する大きさに私は呟いていた。
その呟きを隣で聞いていた高町はにっと笑うと、吸っていたタバコを灰皿ケースに押し付けるようにして消し門に備え付けていたチャイムに手を伸ばした。
それから数分後、門から青い修道服に身を包んだ恰幅の良い女性がにこにこ笑いながら迎えにきてくれた。
「おやおや、高町さんお待ちしておりましたよ。隣の方が例の?うーん?中々男前じゃないかいっ!」
高町の話によると彼女の名前は、静香・マリエリメ・クライスタと言うらしい。
何でも本場の修道会で洗礼を受けた、本物のシスターというからびっくりだ。
「こんな山奥まで来るのに苦労したんじゃありません?」
この孤児院はありえない程の山奥に点在し、私が住んでいる市街から車で4時間、車を降りて歩くこと3時間を要してやっと辿り着いたのだ。
足は棒のように硬いし喉はカラカラ、でも不思議と引き返そうなんて事は思わなかった。
この高町という男は非常に話題性に富んでおり、一緒に行動して飽きないっていうのが大きかったのだと思う。
彼の話題性はとにかくバラエティ豊かで、政治の話から遊園地の切符の話に繋がりオチは猫の出産で終わるという奇妙な話まで披露してくれた。
彼の話す口調と雰囲気は私を酷く魅了し、気が付いた頃には孤児院の前に居たという塩梅なのである。
屋敷と呼んでも差し支えない大きな屋敷を歩くこと数十分、私たちが案内されたのはとある一室だった。
10畳ほどの部屋に木調の机と椅子が4つ、それ以外には何も無いシンプルな部屋。
机を挟んで私と高町が片方へ、シスターは私と相対する前の席へと腰を落ち着けた。
シスターの親しみやすい雰囲気もあってか、緩やかな空気だったのだがシスターの顔が真顔に変わると一転。
ピシリと張り詰めた空気に変わる。
あぁ、先程の失言は謝罪しないと。この人は本物のシスターだ。
どこにでも居そうなおばさんだと思ってました。心からお詫びします、ごめんなさい。
私はそんなことをぼんやりと考えていた。
「そちらにいる高町さんから大体の話は伺っていますが。一点だけ質問させて下さい。子供を引き取るってことはどういう事だか本当に理解していますか?」
「親になる・・・・・・という事だと思います」
「親とはどういうものだとお考えで?」
「子供に愛情を注ぎ、立派に育てるのが親の役目だと思います」
「貴方は自分の血を引いていない子供を愛せますか?」
「実際にやってみないと分かりません。でも、そうなりたいと心から思っています」
私とシスターの視線が机の上で交わる。
そして、シスターの顔が柔和な笑顔に一変する。
「高町さんの仰っていた通り真面目な方ですね、安心しました。それでは子供達を紹介しますね」
そう言い残すとシスターは部屋を出て行った。
そして戻ってきた時には二人の女の子を連れてきていた。
「お待たせしました。さぁ自己紹介なさい」
シスターの背後から現れたのはまだまだ子供と言って差し支えの無い幼い子達だった。
「平坂咲子、12歳です。始めまして」
染み一つない綺麗な白色のワンピースに、そのワンピースとは対照的な綺麗な黒髪。
まだまだ幼い顔立ちだったが、将来必ず美人になるであろうという整った顔立ち。
私と高町が珍しいのかキョロキョロと私達を眺める表情は、子動物的な何かを抱かせてくれた。
「こんにちは、凄く丁寧にお辞儀が出来るんだね」
私は笑顔が上手に出来ている事を祈りつつ、平坂さんの頭を撫でた。
するりとした感覚が掌一杯に広がっていく。
「さぁ、次は貴女の番ですよ」
その声に引かれる様に、平坂さんの背後に隠れていたもう一人の女の子がこっちを伺うように顔を出した。
腰まで届きそうな金色の髪に、蒼い瞳。
黒色を基調とした白いフリルがふんだんに使われたワンピースに、黒いニーソクス。
頭に乗っているのはカチューシャだろうか?
西洋の人形を彷彿とさせる姿が、これ以上ない程彼女に似合っていた。
平坂さんも将来美少女になるだろうと思わせる器だったが、この子は違う。
見ている私がはっと息を呑むほど美しいのだ。
可愛さと美しさの両面を持った、ある種完璧な美がこの子にはあった。
一度この子を見た子は、生涯二度と忘れることが出来ないであろう完璧な美。
私はその異様なまでの美しさに目を奪われ、そして言いようの無い恐怖を覚えた。
そんな吸い込まれそうな思考を中断し、彼女の視線にまで腰を折る。
「お名前は?」
出来るだけにこやかに怖がらせないように訊ねてみた。
「・・・・・・ぁ、あの。私はマリア・サンクネリア・レーンフォーカスですっ!」
そう一生懸命に叫ぶと、平坂さんの後ろへと隠れてしまった。
外人さんだと思っていたのだが、どうやら日本育ち(?)らしく、流暢な日本語だった。
「ごめんなさいね、この子は人見知りが激しくて。決して他意がある訳じゃないのよ」
「あ、はい。分かります」
「さぁ、貴女達はもう行きなさい」
そうシスターが言うと、彼女達は一礼し部屋を出て行った。
再度椅子に腰掛けた私に高町が意味ありげな視線を送ってきた。
「その様子だと胸の内は決まったみたいだな」
「ええ、お二人とも凄く良い子みたいなので楽しみです。是非お話を進めて戴きたいと考えています」
私の質問に高町は満足したのか、胸ポケットからタバコを取り出そうとしたがシスターの視線を受けて再度胸ポケットへと戻した。
一般常識は心得ているらしい。
「貴方には、あの子達のどちらかを養子にして頂きたいと考えています」
「ありがとうございます」
「それでは詳しい話をさせて頂きますね」
そう言ってシスターは何枚もの書類を机に広げた。


66 : 娘    2010/08/17(火) 11:59:49   ID:RFacS0Bc0

重厚な響きを上げながら扉がゆっくりと閉まっていく。
その部屋に入ってきたのは程紹介されていた二人の女の子。
咲子とマリアの二人である。
但し、先程とは打って変わって二人の表情には大きな違いがある。
ビクビクと怯える様子の咲子と違い、自信に満ち溢れたマリア。
マリアはゆっくりと部屋の椅子に向かうと静かに腰を降ろし、頭に乗せていたカチューシャを外すと机にあったブラシを咲子へと放り渡す。
肩をびくりと震わせるが彼女はなんとか受け止めたブラシを持って、マリアへと近寄っていった。
彼女がマリアからこの様にに扱われているのは、相部屋になって半年前からずっと続いている。
当初は彼女も喜んだ、こんな人形のように愛らしい子と一緒になれるなんて何て幸せなんだろう!と。
だけどそれが如何に愚かな考えであったかは、初日で理解した。
この子は人形のように愛らしい容姿をした悪魔なんだと・・・・・・。
その事を同期の子やシスターに言っても誰も信じて貰えなかった。
皆冗談でしょう?と笑い出すのだ。
「咲子、お前何を考えているの?私がブラシを渡したらやることは一つでしょ?」
「あっ、はい。すいませんでした・・・・・・」
そう言って綺麗な金髪にゆっくりとブラシを通していく。
同性であっても羨ましいほど綺麗な髪。
「さっき会った方、お前はどう思う?」
「とても素晴らしい方だと思います」
咲子は思う。
もしあの人の娘になれたらどんな幸せが待っているのだろうか?と。
マリアからの支配からも逃れられるし、優しそうなあの人と一緒に過ごせるのだ。
彼女には両親の記憶は全く無いが、頭を撫でて貰った時のあの幸せな気持ちと優しい表情はどこか安心させてくれるのだ。
自分を選んでくれたら良いなと、マリアにはとても言えたものじゃないが。半ば祈りのような気持ちが彼女にはあった。
「そうねあの人は素晴らしいわ、でも高町という男はダメね。馬鹿な感じしかしないわ」
そしてマリアはゆっくりと瞳を閉じて思考する、そんな表情さえ美しいなと咲子は思ってしまった。
「決めたわ、私があの人の養子に行くわ。咲子あなたは邪魔よ、辞退しなさい」
辞退。
その言葉の意味を理解し、ブラシを動かしていた手が止まる。
「で、でも。シスター静香が養子は私が決めますって言っていましたし・・・・・・」
「貴女は本当にお馬鹿ね?その小さい頭では考えるって事が出来ないのかしら?私が辞退しなさいと言えば貴女はそうするのよ。手段なんて幾らでもあるわ」
その声音に微かに含まれている苛立ちに本能的に恐怖を覚える。
そう本能的なレベルで彼女は察していたのだ、この子にはマリアには勝てないと。
でも。彼女にだって矜持があるのだ。譲れないものだってある。
彼女は意を決して口を開いた。
「い、いやです。私はあの人の養子に行きたい!」
それが引き金だった。
マリアはブラシを通していた手を振り払うと、ゆっくりと机の引き出しを開き中からある物を取り出した。
先端が赤黒く染まっている、木の棒。
咲子はそれを今でも覚えている。
いや、忘れることが出来ないと言うべきか。
だってあれは咲子が今まで体験した中で最も痛く、非情な物だったから。
あの夜の恐怖が蘇り恐怖で歯がカチカチと鳴り出す。
「残念ね。お前は分かっていると思ったのですけど、私が甘かったのかしら?さぁ覚悟は宜しくて?」
「・・・あっ、あぁぁぁ!!!」
ゆっくりとマリアが咲子に近寄る。
「この前は前だったから、次は後ろかしら?」
「あ、あ・・・・・・・あ」
咲子の足元に暖かい水溜りが出来た。
これから行われるであろう行為を思い出し、失禁してしまったのだ。
マリアはそんな咲子を見ると満面の笑みを浮かべながら囁く。
「さぁ楽しい楽しいお遊びをしましょう?」


67 : 娘    2010/08/17(火) 12:00:28   ID:RFacS0Bc0

孤児院を訪ねたその日、私は孤児院から4時間ほど離れた旅館に宿泊していた。
長い事森を歩いたせいか疲れていた私は遅くなった夕食を食べた後、半ば気絶するかのように寝ていたのだが。
携帯電話の着信によって起こされることになった。
発信元はシスターと表示されている。
「はい、もしもし?」
「その声、もしかして寝ていらっしゃいました?」
「えぇ、少々」
「そうですか、それは失礼な事を、ごめんなさいね」
「あ、いえ大丈夫ですよ。それよりも何かありましたか?」
書類に不備があったとか、審査が通らなかったとかそんな悪い考えが頭をよぎる。
「ええ、実は貴方が希望していた平坂さんがですね・・・・・・」
そう言ってシスターは間を置いた、何か良くない事を告げられるんだろうなという声音であった。
「平坂さんがどうかしたのですか?」
極めて冷静な声音で返す私に、シスターはゆっくりと話しを続けた。
「先程私の部屋に来まして、貴方の養子になりたくない。って泣き叫ぶのです」
そんなあの時あんなに笑っていてくれた子がどうして・・・・・・。
「それで私がどんなに理由を聞いても教えてくれないんですよ。絶対に行きたくないって」
「そう・・・・・・ですか。残念です」
「それでですね。大変申し訳ありませんが、もう一人の子はいかがですか?」
「マリアさんですか?」
「えぇ、平坂さんが行かないなら私が行きたいですって言ってましたので」
「はい、お願いしても良いですか?。」
「書類とかは私の方で訂正しますので、それではお約束の期日にお連れしますね」
「はい、お待ちしています」
ピッという音を最後に通話が終わる。
咲子さんがどういう心境の変化で断ってきたのか理由を推し量ることは出来ないが、マリアさんが来ることになった。
これから良い親子になれたら良いな。
そう思いながら私は意識を手放した。

私が孤児院を訪ねて数週間後、今日はマリアさんが我が家に来ることになっている。
私は家の中を掃除したり、マリアさんの部屋を整えたり。身支度で忙しかった。
そしてドアベルが鳴り、待ち詫びた来訪を告げた。
私がドアを開くとシスターとその背後に隠れるようにマリアさんが居た。
相変わらずのシスター服の静香さんと、前回とは違う白を基調としたフリルの付いた服。
それがマリアさんの魅力をぐっと引き上げていた。
私は両名を迎えいれると客間へ通し、人数分の飲み物とお菓子を用意し戻った。
「噂には聞いていましたが、素晴らしいお屋敷ですね」
噂って誰が流した噂なのだろう?
一瞬高町のにやついた笑いが頭に浮かんだが、それをかき消す。
「昔の名残ですよ、今では住んでいるのは私だけですしね」
父と母が健在な頃は複数の家政婦さんが居たが、両親が亡くなった後は次々と辞めていき。
今は私だけがこの屋敷に住んでいる。
屋敷を売って小さな家に引っ越そうと考えた事もあったが、何の因果か未だにこの家に住んでいる。
あるいは心の中でここを売りたくないっていう感情があったのかもしれない。
今となっては屋敷を残しておいて正解だったなと心から思う。
「今はお一人で暮らしていらっしゃるのですか?」
「えぇ、お恥ずかしながら。彼女とか婚約者とは縁のない生活をしていたものですから」
「手入れとか大変じゃないです?」
「そうでもないですよ?一人だと汚すにも限度がありますから」
そんな感じでシスターと世間話している間、マリアさんはジュースをゆっくりと飲んでは私の方をじっと見ていた。
「マリアさん、ジュースのお代わりはいかがですか?」
「あの・・・・・・、おね、おねがいしましゅっ!」
あ・・・・・・噛んだ。
緊張してるのかな?そう思うと自然に笑みが浮かんだ。
「少し待っててね」
マリアさんからグラスを受け取ると、先程とは違うグレープジュースを注ぎ再度、客間へと戻ると。
顔を真っ赤にしながら俯くマリアさんと笑いながらそのマリアさんの頭を撫でるシスターという、なんとも微笑ましい光景がそこには広がっていた。
私が客間に戻り数分後。
シスターは私に幾つかの注意事項を説明すると、早々と帰ってしまった。
残ったのは私とマリアさん。
実際会うのは2回目なので、話の切り出し方が分からない。
私は優しく問いかけるようにマリアさんに切り出す。
「えっと・・・・・・、今日から私がマリアさんの父親になる者です。宜しくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ」
そう言ってペコリと二人でお辞儀する。
それから二人で自己紹介を行い、相互に質問を繰り返しては答えていく方法で相互理解を深めて行った。
「今日から私達は家族です、家事とかも二人で一緒にやっていこうね」
「・・・・・・はい、一生懸命、頑張ります」
「私からは以上です、マリアさんからは私に言っておきたいことありますか?」
「私のことはマリアって呼んで下さい、それから出来れば敬語も止めて欲しいです・・・・・・」
「うん、分かったよマリア」
にっこりと笑いながら、マリアの頭を撫でていく。
癖毛が一つもないであろう髪は、とても肌触りが良くていつまでも撫でていたくなる。
私が撫でている間もマリアは目を閉じて俯き、身じろぎ一つしなかった。
ゆっくとマリアの頭を撫でていた私は満足すると、そっと頭から手を放す。
「ぁっ・・・・・・」
「ん?もしかして嫌だった?」
「・・・・・・いえ、そうじゃなくて。そのっ、もっと撫でて欲しいです」
カーッと白い顔を真っ赤に染めながら、私にお願いをする姿はとてもいじらしくて。
気が付けばマリアをぎゅっと抱きしめていた。
マリアも決して嫌がろうとする素振りはなく、それどころか私の腰に小さな手を回しては強く抱きしめ返してくれる。
「あの・・・・・・、お父様って呼んで良いですか?」
私の胸に、顔を埋めながら小さく呟く。
「うん、マリアさえ良ければそう呼んで欲しい」
「お父様、私の・・・・・・。私だけのお父様」
マリアは自分に言い聞かせるように呟くと、規則正しい鼓動を繰り返しながら大人しくなった。
どうやら眠ってしまったらしい。
私はマリアをお姫様だっこで抱きかかえると、マリアの部屋として用意してあった部屋へと運び。
ベッドに寝かすと布団を被せ部屋を出た。


68 : 娘    2010/08/17(火) 12:01:19   ID:RFacS0Bc0

マリアを部屋へと運んだ後、私は客間に戻りカップの後始末をしていたのだが、その最中に電話が掛かってきた。
相手は高町だった。
「おっす久しぶりだな。今日だったんだろ?彼女が来るの」
「えぇ、今日の今朝方に来られまして、今は部屋で寝ています」
「父親になった気分はどうだ?」
電話口からにやにやと笑っている高町が想像できた。
「まだ実感はないですが、仲良くやっていきたいとは思っています」
「そりゃ、良かった。何かあったらいつでも相談してくれ」
「ありがとうございます」
「あぁ、それからお前に頼まれていた事の調査終わったぜ」
マリアさんが私の養子に来ると決まった際に、私は高町に一つ依頼をした。
どうして高町に依頼したのかと言うと、まず高町の職業が探偵だったこと。
それからこの男が信頼に足る男だったこと。
それが高町に依頼するという決意をさせた。
依頼した内容はマリアさんの素性についてだ。
何故日本の施設に外国の子供が孤児院として居るのか、その立ち振る舞いからして並みの家庭の子供ではないという確信に至ったからだ。
その事を高町に話すと、彼は少し考えて返事をしてくれた。
任せろと。
「それで、調査結果を伝えたいんだが。今から外に出て来れるか?」
「電話口じゃ無理なのです?」
「あー。事が事だしな、悪いけどこっちが指定する喫茶店まで来てくれ」
「分かりました」
高町から喫茶店の住所を聞きくとここから30分ぐらいでいける場所である事が分かった。
マリアが万が一起きた時の為に伝言を残すと、私は外へ通じる玄関を開けたのだった。
「おーい、こっちだ」
自宅を出てから30分後、私は高町の指定した喫茶店へ到着。
中に入るとウェイトレスさんが近寄って来たが、それよりも早く高町が私を見つけてたらしく、手を振りながら居場所を教えてくれた。
私はウェイトレスさんに苦笑いをすると、アイスコーヒを注文してから高町の前の席に腰を降ろす。
高町は大分前に来ていたらしく、ホットコーヒーを注文するとこちらをにやけながら見つめてきた。
「早かったな、もっとかかると思ってたぜ」
「いえ、家から近かったですから。それよりも結果を」
「そう急かすなって」
高町は持参していた黒色の鞄から茶色の封筒を取り出し、小さな机の上に置いた。
「まず最初に断っておくぞ。結果から言うと俺も久しぶりに驚いた」
高町が驚くなんて想像も出来なかったが、いつもと違う真剣な高町の顔を見ていると、真実味がじわじわと出てきた。
「それから、ある程度調査出来たが。完璧な調査が出来なかった。つまりな意図的に調査が出来ないように処理されてるみたいだ」
「それは誰かが調査出来ないように手を打ったって事ですか?」
「あぁ、そういうことになるな。なぁ、あんたはフォベリア共和国連邦って知ってるか?」
「フォベリア共和国連邦?確か西欧の国で王制最後の国ですよね?でも、あの国は確か・・・・・・」
「そう、その国は5年前に王制を反対とする革命軍が反乱を起こし内戦を勃発、強襲を受けた王族はその全員が処刑された」
その直後に国際連盟が軍事介入を起こし革命軍と激しい戦闘の末、これを降伏させて今では国際連盟の保護の元に臨時政府が樹立した。
高町は茶色の封筒から一枚の新聞を取り出すと私に差し出した。
その新聞の一面記事を見た瞬間、私は立ち上がり大声を出して机を叩くことになる。
「そんな、馬鹿な!!!! 」
一面記事には王族の写真が載ってあり、記事にはこう書かれていた。
フォベリア共和国連邦、マリア姫殿下4歳の誕生日!
最初は別人かなと思ったのだが、写真に今のマリアの面影があり。
同一人物であろうことは否応なしに理解出来た。
「つまりな、あのマリアちゃんは正真正銘の姫様な訳だ」
「でも、王族は全部処刑されたって報道にあったじゃないか!」
「少し落ち着け、周りが見てる」
高町に言われて周りを見ると、周囲の人がこっちをチラチラと伺うように見ていた。
「それにウェイトレスさんが怖がってる」
「・・・・・・すいません」
私はひどくビクついたウェイトレスさんが持ってきてくれたアイスコーヒを飲みながら反省していた。
「しかし、あんたでも。驚くことがあるんだな」
クククと笑いながらタバコを吸う高町はひとしきり笑った後。
一枚の書類を出してきた。
そこには調査報告書と書かれており、以下の事が書かれている。
一つマリア・サンクネリア・レーンフォーカスはフォベリア共和国連邦第一王女であること。
一つ王族が処刑された際、どうしてマリアだけが生き残れたのか調査出来なかったこと。
一つ秘密裏に日本へ渡来し、何故孤児院に居たのか調査できなかったこと。
「悪いな、手回しが良すぎて、殆ど調査出来なかったんだ」
「いや、仕方ないと思います。この新聞を見せて頂いただけで成果はありました」
「引き続き調査しておくよ、また何かあったら伝える」
「お願いします、あっ、この新聞貰っても良いですか?」
「ああ、良いぞ」
私は新聞を丁寧に折るとポケットに仕舞うと、高町の方へ振り向いた。
「今回の依頼代は振り込ませて頂きます、それからここの会計も」
注文票を掴みレジへ向かう私へ高町が背後から声をかけてきた。
「これからどうするんだ?」
「どうもしないですよ、マリアは私の娘ですから」
「そっか、頑張れよ」
そう独り言のように呟く高町の声はどこか嬉しそうだった。


69 : 娘    2010/08/17(火) 12:02:09   ID:RFacS0Bc0

あいつが扉から出て行く後姿を見つめながら、俺はタバコを吸っていた。
初めて会った時からアイツとは初対面な気がしなくて、気が付けばアイツの手助けをしていた。
そしてアイツの素性を調べていくうちに確信へと至った。
きっと、これは神が俺に授けた試練なのだと。
「ふぅ・・・・・・」
胃の中で溜まっていた空気を喉から吐き出すと、鞄からもう一枚書類を抜き出す。
最後までアイツに見せようか悩んだが、結局見せれなかった一枚。
そこにはこう書かれている。
マリア・サンクネリア・レーンフォーカスの関係者はその全てが自殺及び他殺されており、これ以上の調査が出来ない状態となっている。
ちなみに実際に調査していた男はこれを報告した翌日、何者かに殺害された。
現地の警察が必死に捜索しているのにも関わらず、未だに犯人の痕跡すら発見されていない。
誰が意図的に隠しているのか分からないが、これは知るべきではないと本能が告げている。
そして調査報告書の冒頭にはこう書かれていた。
マリア・サンクネリア・レーンフォーカスの母、アルフェミア・サンクネリア・レーンフォーカスは病的なまでに夫に対しての愛情深く。
これが起因しての王族問題から内乱が勃発したのではないかと思われる。
フォベリア共和国連邦最後の国王は、反乱発生の晩年に精神を病んでいた傾向があり、それが周囲に不満と不安を与える切っ掛けとなったのは明白である。
尚、噂でしかないが。王族処刑時に王族に仕えていた使用人も悉く処刑されたが数名の使用人が処刑を免れた。
その名前は・・・・・・。
そこまで読んだ俺は、不意にタバコが吸いたくなり書類から目を離した。
肺の中をタバコ独特の空気が充満し、それを吐き出す感覚はやめることができない。
「苦いな・・・・・・」
タバコを充分堪能した俺は喫茶店から出ると駅へ向かう為に歩みを進めていた。
「ん?」
最初は違和感。
そして次は確信。
間違いなく誰かが俺の後をついてきてやがる。
探偵という職業柄、誰かに狙われるのは常ではあるがこんな尾行は初めてだ。
尾行されるときには大抵、殺意やら興味やら何らかの感情が付きまとうが、コイツには何もない。
その癖、俺の足跡に反応してきっちり尾行してるもんだから始末に負えない。
俺は人気が居ない場所に隠れると、相手が来るのを待った。
そして数分後、一人の女性が路地裏に入ってきた。
俺が隠れているのは分かっている上で来たのだから、相当の手練であることは容易に想像できた。
「よぉ、こんな路地裏に女性が一人で来るのは感心できないなぁ」
女性無言のまま近寄ってきたので、その姿を確認できた。
黒のドレスに白いエプロン、頭にはカチューシャ。
「メイドさん?」
そう今時珍しくないメイドがそこに居た。
もしメイド喫茶にこの人が居れば、繁盛間違いなしだろう。
それ程の美人。
「貴方ですね?マリア様の事を調べていたのは」
綺麗な唇から流れるのは流暢な日本語。
「そうだって言ったらどうする?」
「不遜です、死になさい」
それが会話の最後だった、有り得ないスピードで肉薄してきたメイドは俺の一歩前で体全体を使って翻りスピードを乗せた蹴りを上段へと打ってきた。
回避できるようなスピードじゃない、咄嗟に両腕で防御すると有り得ないことに両腕ごと体が吹っ飛ばされた。
「冗談・・・・・・だろ?」
崩された姿勢を何とか建て直し、状況の把握を努めようとしたその時だった。
メイドに左腕を掴まれたらしい、筋肉を強く握り締められる感触に悲鳴が出そうになるが何とか我慢。
「あんただな?あの子の関係者を殺害していったのはっ」
「・・・・・・」
「ちっ、だんまりかよ?」
俺は激痛を我慢し、右手を強く握り締め死角に居るであろうメイド目掛けて渾身の一発を放った。
別に当たらなくても構わない、ほんの少し隙を作れたらそれで良い。
そう思いながら放った一撃は予想外の効果があった、メイドのどこかに当たったらしく。
左腕の拘束が弱まった。
それを皮切りに左腕の拘束を外そうとしたが、びくとも動かない。
「痛いです、流石ですね。高町雄人」
「痛いならもっと痛そうにしやがれっ!」
あくまでも無感情に言い放つメイドに腹が立ってきた。
こっちは必死にやってんだぞ!
「痛かったので、これはお礼です」
ゴキリという変な音と共に腕が変な方向に曲がった。
それを確認するよりも早く、やってくるさっきとは比べ物にならない程の猛烈な激痛。
それよりも驚いたのは、人間の骨を無感情に軽々と折れるその精神にあった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! 」
「良い悲鳴です、もっと聞かせて下さい」
あろうことかそのメイドは左手の指を掴むと、小指を掴み本来曲がらない方向へと折り曲げた。
「くそがっ!!!」
さっきと同様右手を硬く握り締め、再度メイド目掛けて殴る。
だが激痛の為か、威力がなかったらしい。
当たりはしたが、メイドは無反応。
「まだ抵抗出来る力がありましたか、次いきますよ。ほら」
ゴキリ、骨が曲がる音を響かせながら再度激痛が襲ってくる。
「ん?どうやら失敗ですね。警察が来たようです。次は殺します、さようなら」
そう言ってそのメイドは、軽々とマンションの2階部分へと飛び乗り中に入ると姿を消した。
薄れいく意識の中で俺は呟いた。
気をつけろ・・・・・・と。


70 : 娘    2010/08/17(火) 12:02:33   ID:RFacS0Bc0

家へと帰ってきた私を出迎えたのは、私がマリアへのプレゼントとして部屋に用意した熊の人形に抱きつきながらぐすぐすと泣いているマリアだった。
理由を尋ねるとマリアが起きた時に私が居なかったことが発端らしい。
先程の高町との会話を忘れ、私はマリアを泣き止ますのに時間を費やした。
やっとマリアが泣き止んだ頃には外から差し込む光が、オレンジ色になった頃だった。
「ねぇ、マリア。私からの伝言は見てくれた?」
「伝言ですか?」
「うん、ほら」
そう言いながら私は、机の上に置いてあった伝言を見せた。
「・・・・・・あっ、」
やっと分かってくれたらしい。
マリアは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
初日で分かったことなのだが、どうやらマリアは極度の甘えん坊らしい。
例えば私がテレビを見ていると、段々私に近寄り最終的には私の太ももの上に座っては、背中を私の胸に擦り付けて幸せそう微笑んでいる。
その間は終始ご機嫌なのだが、私が何かの用事で立ち上がると少しだけ不満そうに私を見る。
そんな一挙一動に可愛いと思ってしまうあたり、もしかして私は親バカなんじゃ・・・・・・。
とそんな気持ちが湧いてきた。
「さてと、そろそろ夕食かな?マリアは好きな食べ物ある?」
「お父様が作って下さるなら、全部好きです」
「あはは、そっか。んじゃ気合入れて作るかな」
そう言って立ち上がった直後だった。
無機質な電話が鳴り響き、それを受けた私は硬直する事になる。
高町が重傷を負った。
それを告げられたからだった。