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476 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:47:32 ID:ozWSUQaD
 「私は昔、神様だったの」
少女は語る。
静寂に包まれた闇の中で少女は俺に一言、そう告げた。
 「へぇ」
俺はさして興味無さげに呟いてみた。
だって考えてもみろ。
神? なんだそりゃいるわけねえさ。非現実的すぎる。
 「白い大きな羽をはばたかせてさー、空を飛んでたんだ」

―――瞬間、暗闇は頭上から裂け、大きな青空が広がった。

透き通るような青空に、俺は目を奪われた。
 「それって、神様じゃなくて天使じゃね?」
どうも俺の中で白い羽と言ったら天使が一番に思いつく。
俺は、この環境の変化に戸惑いながらも、目の前にいる可憐な少女に話しかけた。
もちろん少女の背中に羽はない。そしてどこからどう見ても人間だ。
 「かもね、私はやっぱり神様じゃなかったのかも」
少しうつむき加減になった少女。ちらりと見えたその瞳には悲哀が受け取れた。
 「はっきりしないな。自分の正体なんて、自分にしか分からないだろ?」
 「そうかな? そうかもね。ううん、そうだろうね」
 「?」
何だ? 何か言いたげだが。
 「うーん、とね……そうだ! 君に一つ頼みたいことがあるんだけど良いかな?」
身長差十センチといったところであろうか。
少女は嬉々とした顔で、百七十センチの俺を見上げてきた。
 「なんだ? 俺は可愛い女の子の頼みなら何でも聞いてやるぜ!」
歯をキラリッと輝かせた俺は、今の自分の仕草がとてつもなく格好いいものだと信じきっていた。可愛い女の子の頼みを聞けるなんてフラグを立てるチャンスだからな!

―――そう、俺は軽い気持ちだったんだ。何も考えず、過去をごまかすように目の前にあることにぶつかっていくだけ。そんな毎日を過ごしてきた俺だったから。

だから、次にくる少女の言葉と行動は、予想外だった。
 「じゃあねー……死んで」
グサリ……プシャアアアアと、想像したくもない気味の悪い音が脳内に響く。
 「ガ―――ァァアアアアアアアアアアア!」
後(のち)、己の叫び声。
満面の笑みを浮かべていてくれた少女からは表情が消えうせ、気付いた時には俺の心臓は黒い剣によって突きぬかれていた。
 「そしてずっと一緒にここにいようよ、ね。ジュン君」
薄れゆく意識の中で、俺はそんな言葉を聞いたような―――気がした。



478 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:49:24 ID:ozWSUQaD
〈あたかも必然たる朝〉

 「……きて……兄さ……」
まどろみの中、裂けぬ闇。
そう、俺は囚われていた。あたかも囚人のごとく。
聞きなれた声が耳をすり抜ける。その声にこたえるべく、俺は闇に抗う。
しかしこの闇に俺は自ら逆らうことはできない。
なぜなら……
 「いい加減起きろって言ってるでしょ! いつまで寝てれば気が済むの!」
俺は今日の朝5時まで起きていたからだ。
夜更かしなどするものではない。
 「はひっ!」
しかし、闇というのはどうしても妹には勝てぬものだ。
俺こと〈神坂 純〉は妹の怒声に驚き、飛び起きてしまった。
 「朝御飯できてるから、早く食べちゃってよ!」
きつく眉をしめ、俺の鼻先へと指先を伸ばした妹。
怒りながらセリフを吐き捨てた後に、扉を大きな音を立てて閉めてから出て行った。
 「う、うい」
一人きりになった部屋で、俺は静かにそう答えた。
そして、同時に俺は支度を始める。
ほぼ毎日のように通っている美杉(みすぎ)学園の制服を身にまとい、寝癖をくしでなおした。
時計を見て時間チェックなどしない。
今は朝の八時を少し過ぎたあたりだろうから。
だっていつも妹が俺を起こすのは、どうしてか遅刻ギリギリの八時なんだから。




479 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:51:38 ID:ozWSUQaD
 「おはよう、美咲」
リビングへとたどり着いた俺が見たのは、いつも通り美杉学園の制服を身にまとった我が最愛の妹〈神坂 美咲〉だ。
髪は黒のセミロング。
百五十あるかないかくらいの小動物みたいな身長。
ちなみに胸はごにょごにょ……まぁ、本人が隠れて牛乳を飲みまくっている感じだ。察してくれ。
顔は家族の贔屓目バリバリでめちゃめちゃ可愛い美咲(贔屓目なしでも美少女確定です)は、
一年生の象徴たるピンクのリボン
(女子の制服のリボンは学年ごとに色が違い、一年はピンク、二年は青、三年は黄色となっている)をきらびやかになびかせて、
男子生徒には猛烈にうれしい短めのスカートをひるがえしながら、こちらに振り返った。
 「いつも通りおそよう!お兄ちゃん」
しかし格好と形相とは全くの別物だな。
ギロリッ、と、まるで効果音が聞こえてきそうな感じの鋭い視線が俺の全身を射刺した。
そんな視線を体に受けた俺。
もうすることは決まっている。いつも通りだ。
 「いつもいつもごめんなさいぃぃ!」
俺はすぐさま土下座をした。頭を床にこすりつける。
だってさ、よく考えてみ?
妹に睨まれたら、それはもうお兄ちゃんだったら土下座で謝るしかないさ。
え、何? プライド? 何それ? 美味しいの?
 「ふんだ」
妹がそっぽを向く。
 「ごめんって」
俺がその後を追って謝る。
この問答が数分続いた後に、俺は大急ぎで飯を腹に流し込み、
妹と二人で急いで家を飛び出す。遅刻しないように。
そう、そしてこれもまた

―――いつも通りだ

そう、いつも通り。いつも通り。いつも通り。
今日もまたいつも通りで塗りつくされた俺の必然たる一日が始まるんだ。

俺はふと、隣で走る美咲に目をやる。
……そういや、美咲のやつどうして俺のことを八時前に起こしてくれないんだろうか?
一度聞いてみよう。
美咲を視界に入れた時、ふとそう思ってしまった。


480 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:51:59 ID:ozWSUQaD
〈あたかも必然たる朝〉 裏Ⅰ
 「だれにも渡さないわぁ……そうよね。兄さんも私と一緒の方がうれしいもの、嬉しいに決まっているもの」
小鳥のさえずりと共に眠りだした兄さん。
その寝てしまったベッドの上の兄さんを、私は眺めるのが大好きだ。

―――そう、初めは眺めているだけで幸せだった。

 「ふふぁ」
私はそのまま体を倒し、兄さんの胸元へ顔を寄せる。
瞬間、私は幸せな気分に陥る。
 「良い匂い」
兄さんの、私の大切な兄さんの、大好きで大好きで大好きでこの世の言葉では表せないほどに私が愛している兄さんの匂い。好き、好き、好き、好き。
この匂いはまったく媚薬のような効能を発する。
私の脳髄が焼き焦がれるほどに、そして下半身や胸が、キュンってする。
こんな素晴らしく、そして甘く切ない気持ちにさせる私の兄さん。

―――でも、あの雌がでてきてから私は変わった。

ああ、大丈夫だからね、兄さん。
あんな薄汚い雌には兄さんの髪の毛一本ですら渡さないから。
だから安心して、私と一緒に。

―――兄さんは……私のものだ。私だけのッ!

 「兄さん」
そして今日もまた、遅刻ギリギリの時間の八時まで、こうしていられるんだろうな。
そういったいつも通りの幸せを私は噛みしめながら……。
 「大好き」
そう言って、唇を、舌を、深く、深く絡ませた。


481 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:52:49 ID:ozWSUQaD
 〈あたかも必然たる朝〉 裏Ⅱ
 「あんの雌があああああああああああ!」
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
私は頭を壁に打ち付ける。
「私の純君に……こんなことをっ!」
私はパソコンのディスプレイに映し出された映像(寝ている純に美咲がキスをしている)
―――そう、神坂純の家に仕込んだNo.12のカメラの映像を見て、発狂しそうな勢いだった。
 「なんで、なんで、なんで、なんで! 彼の唇は私が奪うはずだったのに、私だけのもののはずなのに! それをあの雌ゥ!」
昨日、彼らが家開けているすきに使用人に取りつけさせた二十八のカメラ。
今日からずっと彼の行動を見ていられる! そう思っていたのに……こんなの!
 「―――殺す!」
私に明確な殺意が宿る。今までは妹だってことで、多少のボディタッチ程度は見逃してきた。だが、これはもう我慢の限界だ。
 「死んだって許すもんですか、この雌は私が!」
そう叫びながら、私は部屋の壁、天井、床。
もう見渡す限り写真が貼ってある部屋の中、そう、すべて純の写真が貼ってある部屋の中で、彼女〈萩原 空〉は狂う。
 「ねぇ、純君。あなたは私だけのものだからね」
いつも通り、壁一面まで引き延ばした純の写真に空はキスをする。
 「今は仮のキス、でも明日にでも、本当の唇と唇でしてあげるから……あの雌の匂いを消すためにもね。それまで待っててよ―――

―――すぐだから」