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95   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/21(土) 17:20:25   ID:crG1kL7+0

「いってぇ…」
商店街を歩きながら身体を摩る。桜花との特訓が始まって10日程経った。
身体中痣だらけの湿布、包帯だらけだった。
黒川先生には喧嘩したかと疑われるが大和さんは毎日心配してくれて、今日は何故か弁当を作って来てくれた。
潤のと両方食べるのは結構キツかったがせっかくの好意を無駄にするのもあれなので完食した。
お礼を言ったら大和さんは顔を真っ赤にしていたが。
「今日は少し早く終わったな…あれ?」
「…ケーキ………あ」
商店街のケーキ屋の前でやけに暗い売り子に話し掛けられる。
いや、正確には売り子をしている遥に。
「…バイトか」
「ケーキ、食べる?」
「いや、要らない。つーか遥、ケーキ屋でバイトしてたのかよ」
「他にもコンビニと弁当屋とレンタルビデオ屋、それから」
「…いや、もういいや」
「そう」
「何か欲しい物でもあるのか」
「お金」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「ウチ、貧乏だから。お金が必要なんだ」
「…そっか」
何となく気まずい雰囲気になる。遥がこんなにバイトしていたなんて俺、知らなかった。
というか英の件といい仲間のこと知らな過ぎだろ。
「…手伝うよ。ケーキ、売らなきゃいけないんだろ?」
「…良いの?ノーペだけど」
「ノーペ?」
「…お金は払わないってこと」
「ああ、別に遥の取り分減らそうだなんて考えてねぇよ。ただ…」
「……?」
遥をじっと見つめる。
よく見れば遥はケーキ屋らしい、フリルの付いた白い制服を着ていて彼女の白髪にピッタリだった。
「遥のケーキ屋コスチュームが見れたからそのお礼かな」
「……本当に変わらないね、そういうとこ」
ケーキは俺の手伝いがあった効果か、30分程で完売した。
96   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/21(土) 17:21:50   ID:crG1kL7+0

「しかしケーキ貰えるなんてな。意外と優しいな、あの店長」
「…要は大声出してただけでしょ」
夜の路地を遥と二人で帰る。そういえば遥と二人になるのって記憶喪失になってから初めてかもしれない。
「俺はここを左。遥は?」
「…右」
十字路で立ち止まる。どうやらここでお別れのようだ。
「じゃあまた明日…」
「要」
急に遥が俺の袖を掴んで来た。どうやら寒さからか、少し震えているようだった。
「どうした?」
「…そのケーキ、半分はわたしのだと思う」
「えっ?…ああ、確かに。欲しいならやるよ」
そういえば遥はケーキ貰ってなかったな。
まあ店員だし当たり前と言っちゃ当たり前なんだけど。
「半分は要のだから」
「律儀な奴だな。でもここじゃ半分に出来ないぞ」
「だから…ウチ、来て。すぐ近くだから」
「…良いのか?急にお邪魔したら」
「気にしなくていい」
そのまま遥に引っ張られて家とは反対方向へ行く。
しばらく歩くとアパートが見えた。あそこが遥の家らしい。
「意外とウチから近いんだな」
「そうだね」
2階の一番端っこに進む。表札には「春日井」と書いてあった。
遥は財布の中から鍵を取り出して差し込んでいる。
…このアパート、築30年くらいは余裕で経ってそうだな。
「ただいま」
「…お邪魔します」
遥に続いて玄関に入る。部屋は真っ暗だったが微か見える流し台からここが台所ということは分かった。
狭い台所を抜けると硝子戸があり、開けると茶の間があった。
ブラウン管のテレビにちゃぶ台、そして薄いオレンジ色の明かりが部屋を照らしている。
右にも部屋があるようだったが戸は閉まっていた。
「ここに座ってて。今ケーキ分けて来るから」
「ああ」
辺りを見回す。本当に狭い家だった。
こないだ会長の屋敷に行ったから余計に感じるのかもしれないが、この家全てと道場で比べても道場の方が大きいくらいだ。
…ここまで貧乏だったなんて思わなかった。さっきのケーキ屋での自分を殴りたい。
遥はどんな気持ちであの質問に……最悪だ。
何より仲間とか言いながら遥のことを全く分かっていなかった自分が許せなかった。
97   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/21(土) 17:23:05   ID:crG1kL7+0

「お待たせ」
遥が分けたケーキが乗っている皿を二つ持って来る。
「…おう、ありがとな」
「ううん、わたしの我が儘だから。はいお茶」
「気が利くな」
半分に分けたショートケーキを口の中に入れる。
俺の方が少し大きかった。お茶は渋めで甘いケーキにはぴったしだ。
「…優のお茶の方が美味しいと思うけど」
「そんなことねぇよ。俺好きだよ、こういう渋めの味」
「…ありがと」



「お邪魔して悪かったな」
あまり遅いと迷惑だし潤にも心配をかけてしまうので帰ることにした。
「こっちこそゴメン」
「…ケーキ、ありがとな。俺の方が少し大きかった」
「…別に偶然だから」
「はいはい」
「…っ!?」
照れ隠しなのか、そっぽを向いた遥の頭を撫でる。何だかもう一人妹がいるみたいだ。
「じゃあまたな」
「………要」
「うん?……は、遥?」
振り返ると目の前に遥がいた。目は光を失っていて澱んでいる。
10月なのにこんなに寒いのは
「行かないでよ」
…季節のせいだけじゃない。



「…遥?行かないでよって…」
「……一つだけで良いのに。他には何も要らないのに」
遥が抱き着いてくる。凄く力が入っていて苦しかった。
「は、遥?」
「優はずるい…何でも持ってるくせに。潤もずるい…いつも一緒にいるくせに」
小声で何かを呟く遥。何を言っているのか聞き取れない。
「遥、今何て…」
「わたしだって幸せになりたいっ!!」
遥が叫んだ。
初めてかもしれない。少なくとも記憶喪失になってからは初めて聞く遥の叫び。
「………は、遥」
「…要」
「ど、どうした?」
「…最後に笑うのはわたしだってこと、教えてあげるから」
遥は澱んだ目で俺を見つめる。心がざわつくのが分かった。前にもこんな…どこかで…。
「…そろそろ帰って。潤、待ってる」
「あ、ああ…」
我に返ると既に遥は俺に背を向けていた。
…一体彼女は俺に何を伝えたかったのだろう。気が付けぬまま家に帰った。
98   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/21(土) 17:24:23   ID:crG1kL7+0

夜中。白川家を見つめる一人の少女。
髪は夜の闇に溶けるような黒のロングヘアーで、それとは対照的な深紅のワンピースを着ている。
「……要」
少女は2階の窓を見上げて呟く。その窓の先にいる少年に語りかけるかのように。
「これで…本当に良かったのかな」
誰もその問いには答えない。ただ沈黙がその場を支配していた。
「……たとえどんな結末になろうと、私は要と一緒だからね」
それでも少女は語りかけるのを止めない。なぜなら少女は知っているから。
この先にはバットエンドしか待っていないことを。
「……でも要なら…きっと…」
終わりの方の言葉は聞こえなかったが少女はわずかな可能性を信じているようだった。



速さには慣れてきた。後は反撃のチャンスを作れば…。
「そこです!」
「くっ!?」
神速の蹴りをかろうじて両腕でカバーする。気が付けば隅まで追いやられていた。
「…来ないのですか」
「………」
この二週間で学んだこと、それは下手に攻撃せずに反撃の機会を伺うこと。
相手が決めに来るその一撃に生まれる一瞬の隙を捉える。
そのためには…。
「…はぁ!」
「っ!!」
少し崩した左腕に躊躇なく打ち込まれる桜花の右ストレートが、俺の左腕を弾き飛ばして内臓を打つ。
「ぐぅっ!…あぁぁぁぁあ!!」
と同時に俺は右腕を思い切り振った。隙がないなら作れば良いだけだ。俺がこの二週間で学んだこと。
『肉を切らせて骨を断つ』作戦……というかただの我慢比べだ。
「なっ!?」
予想外の動きに受け身が取れず俺の一発をもろに受けた桜花。
そのまま反対側の壁まで吹っ飛んで行った。
「…はぁはぁ、俺の……勝ち…だな」
「…………見事…です」
地下道場での特訓が始まって二週間。俺は遂に桜花を倒すことが出来たのだった。
99   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/21(土) 17:25:59   ID:crG1kL7+0

「……大丈夫…じゃないよな」
「問題ありません。研究所に戻ればすぐ修復出来る破損ですから」
いくら特訓で相手がアンドロイドといえど女の子を思い切り殴った上に怪我までさせてしまった。
罪悪感は当然の如く沸くし何か自分が情けなく思えてくる。
「いや…その…本当にゴメン。女の子相手にさ…」
「何をおっしゃっているんですか。要が戦う桃花も女の子なんですよ?」
「それは分かっているんだけど…ゴメン」
「……変な人ですね」
顔を上げると微笑んでいる桜花がいた。
…コイツ、こんな顔もするんだ。
「…よく言われる」
「でしょうね。アンドロイドの心配をするなんて要が初めてです」
「そりゃあ心配するさ」
「…心配、ですか」
「ああ。アンドロイドとか関係ない。桜花だから心配なんだよ」
ほっといたら勝手にどっか行っちゃいそうだしな。ほっとけないというか。
桃花とかいう奴もコイツみたいだったら仲良くなれるのに。
「……元はといえば私がいけないんです」
「…どういう意味だ?」
「私は戦闘用アンドロイドなのに…。オリジナルには敵わないから」
桜花の横顔は何処か寂しそうだ。まるで生きている人間の表情そのものだった。
「桃花と戦ったことは…」
「ありません。でも分かるんです。襲撃現場の悲惨な状況を見ただけで…分かってしまったんです」
「……そっか」
「はい。私では彼女には、オリジナルには敵わないんです」
「それで俺に白羽の矢が立ったのか」
「…でも結果的に要を傷つけてしまいました。全ては私の力不足のせいなんです」
桜花の表情はとても苦しそうだった。
まるで自分の存在価値を見出だせずにいて途方に暮れているようで…。
「マイナスばっかり考えるの、止めようぜ」
「要…」
だからかもしれない。桜花には笑っていて欲しいと思った。
あんなに美しく微笑むことが出来るのだから、せめて俺には笑いかけて欲しかった。
100   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/21(土) 17:27:05   ID:crG1kL7+0

「もし桜花が桃花とかいう奴より強かったら、俺達親しくなれなかっただろ?」
「………」
「だから俺は感謝してるよ。桜花とこうやって一緒に訓練出来ることをさ」
「……要」
気が付けば俺と桜花の距離は僅かしかなくなっていた。
桜花の燃えるような瞳が揺らめいているのが分かる程だ。
「…桜花?」
「私…最近変なんです。要のことを考えるとコアが熱くなって…よく考えられなくなるんです」
「お、桜花…さん?」
桜花が俺の肩を掴む。彼女の吐息が当たる距離まで俺達は近付いていた。
「私、何処か故障しているのでしょうか。それとも…」
「えっ…」
桜花と俺の距離が0になり唇が
「要と桜花、いるか?」
触れる寸前で扉の外から声とノックの音が聞こえてきた。
その声に桜花は即座に反応して扉へと向かう。
「優お嬢様、今開けます」
「ありがとう桜花。……また随分と酷くやられたものだな、要」
会長が地下道場へと入って来た。……よく瞬時に切り替えられるもんだな。
「会長…。でもこれでも進歩したんですよ」
「ああ、報告は毎日桜花から受けている。ちょうど良い頃合いだ」
「…良い頃合い?」
会長が俺に近付いて来る。そういえば特訓で会長ともしばらく会ってなかったな。
「……現れたそうだ」
「……まさか…」
道場に緊張が走る。捜索開始から二週間。
そろそろと思っていたが、やはりいざその時が来ると緊張する。
「そのまさかだ。…桃花が近隣に現れた。行くぞ」
……いよいよか。この二週間をぶつける時は迫っている。