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654 :かんきんされてるのは、ぼく :2010/08/24(火) 23:08:35 ID:KnMWpfd0
 テーブル、本棚、デートで買った大きなぬいぐるみ。
 一見してごく普通の女の子の部屋だ。
 ただし、その部屋の奥には普通で無いモノがある、というかいる。
 ベッドの上で四肢を拘束された男、つまり僕だ。
 そんな部屋に、一人の女性が帰ってくる。
 「ただいま、アキラくん!」
 長い髪を後ろで束ねた一見快活そうな女性、ユカリさんだ。
 彼女がどこか歪んだ笑みを僕に向ける。
 「おかえり、ユカリさ…」
 僕がそう言い終わらないうちに、ユカリさんはベッドの上の僕に飛び込んでくる。
 そして、濃厚なキス。
 互いの舌が絡み合う。
 「フフ、アキラくんに会うの、待ち遠しかったぉ、ボク…」
 しばらく僕の口の中を味わうと、ユカリさんは言った。
 「おかえり、ゆかりさん」
 僕は改めて言う。
 「遅かったね」
 僕の言葉に、意外そうな顔をするユカリさん。
 「ユカリさんの毎週金曜の帰宅時間は午後7時。今日は7時15分。―――毎日きっかり同じ時間に帰ってくるのに、どうしたのかな、今日は?」
 僕は穏やかな笑みを浮かべて言った。
 けれど、ユカリさんの顔からは一瞬にして笑みが消えていく。
 「…何で、そんなこと気にするのかな?」
 ユカリさんの細い指が、僕の首にかかる。
 「アキラくんはもう何も心配しなくて良いのに。良いはずなのに。そんなにこの部屋の外の世界のことが気になるの?そんなに外の世界のコが気になるの?ここにはボクがいるのに!何で何で何で!?」
 ユカリさんは大学の陸上部に入っている。
 だから、体力に関しては文系人間の僕なんかよりずっとある。
 もちろん、筋力や握力だって。
 「…んなんじゃ、ないよ」
 喉をしめつけられながらも、僕は何とか声を出す。
 弁解の言葉に、ユカリさんの手が緩む。
 「そんなんじゃないよ。ただ、ユカリさんが僕に会いたかったように、僕もユカリさんに会いたかったからね。少し、意地悪したくなっただけさ。ゴメンね」
 僕の言葉に、ユカリさんの顔に笑みが戻る。
 「ううん。ボクこそゴメンね~、アキラくんを待たせちゃって。あんな女が絡んでこなかったら、もっと早く帰れたんだけど…」
 「あんな女?」
 ユカリさんの不穏当な言葉に、僕はピクリと反応した。
 「もしかして、また妹が?」
 僕には、仲の良い妹が一人居る。
 そして、その妹は僕がユカリさんに監禁されている、と思っているらしい。
 ……そして、それは事実である。推理小説なら妹は探偵役になれるところだ。
 「あんな女と血縁だからって、アキラくんが責任を感じること無いよ。……あの女、お兄さんと結ばれるなんて冗談みたいな夢物語を本気で信じているのかな?あんまりしつこいようなら、しっかりきっちり殺しておかないと…」
 ユカリさんは言った。
 後半は小声で言ったつもりらしいが、僕と彼女は同じベッドの上である。全部しっかりきっちり聞こえた。
 「ハハハハ、それこそ冗談だよ。そんなことでユカリさんを殺人犯にできない」
 僕は、乾いた笑いと共に言った。
 「…アハ」
 その言葉に、ユカリさんはまるで面白い冗談を聞いたかのように笑い出した。
 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
 狂ったようなとしか形容しようのない、見事な笑い声だった。
 こんなに笑ったユカリさんを見るのは久しぶりかもしれない。
 「アキラくんおかしい!ボクとアキラくんの邪魔をするモノに人権なんて無いのに!でも、そう、そうだね。確かに、殺すと後が面倒かも。アキラくん賢い!」
 その時、ユカリさんのバッグから振動音が聞こえた。
 携帯電話だ。
 「電話?」
 「ううん、つまんないメール」
 携帯電話を確認すると、ユカリさんは鮮やかな手つきで携帯電話をゴミ箱に投げ捨てる。
 「ボクとアキラくんの邪魔をする携帯電話なんて、この世からひとつ残らずしっかりきっちり消えてなくなれば良いのに」
 不満げに(かわいらしく)そう言うユカリさんだったけど、すぐに笑みを浮かべた。
 「…携帯電話?」
 そう言って、改めて僕に向き直る。


655 :かんきんされてるのは、ぼく :2010/08/24(火) 23:09:26 ID:KnMWpfd0
 「ねぇ、アキラくん」
 不気味なまでにほがらかに。
 「何だい、ユカリさん?」
 「ボクのこと、好き?」
 その手に握られた切れ味よさそうなナイフはどこから出したんだい、とは聞けない。
 「うん」
 首筋に突き付けられたナイフに冷や汗を垂らしながら、僕は答えた。
 「愛してる?」
 「うん」
 「だったら、ボクたちの邪魔をするモノなんて、嫌いだよね?」
 「……うん」
 僕の答えに、ユカリさんは満足そうにナイフを手放す。
 「じゃあ、同じことを、あの女にも言って?」
 そう言ってユカリさんが僕の手に握らせたのは、『僕の』携帯電話だった。
 まだ、解約してなかったんだね、とは言わなかった。
 「………うん」
 妹に嫌われるのは悲しいことだ。
 しかし、それで妹の命が救われて、ユカリさんが人殺しにならないのなら、安い代償だ。


656 :かんきんされてるのは、ぼく :2010/08/24(火) 23:10:21 ID:KnMWpfd0
 ユカリさんが僕を監禁して、もう随分になる。
 人一人監禁するというのは、人一人養わなくてはいけないということだ。
 一人暮らしの大学生であるユカリさんには大変なことだろう。
 なのに、どうして僕なんかを監禁しようなんて思い立ったのか?
 疑問に思って聞いてみたことがあったが、彼女はただ「昔から大切なモノはしっかりきっちりしまっておくことにしてるんだ」と言うだけで多くは語らなかった。
 ―――つまり、歪んだ独占欲か―――
 僕の中の冷淡な部分が、その時そう評した。
 さて。
 妹への電話を終え(それはいささか以上に苦痛に満ちたものだった)、僕達は夕食をとった。
 夕食はユカリさんの手料理だった。
 その味は―――聞かないでくれ。ただ、先ほどの電話と合わせて色々な意味で苦い夕食となったとだけ言っておこう。
 ……いや、これでも随分上達したんだよ?
 「おいしかった?」
 ユカリさんが聞いた。
 自分も同じものを口にしているのに、何でそんな言葉が出るのか不思議に思わなくもないが、彼女の頑張りを無下にするのもかわいそうだ。
 「もちろんさ」
 僕は答えた。
 そう答えたのは、別に彼女の両手に食事の時に使ったナイフとフォークが握られっぱなしだったからじゃない。
 ともかく、僕の言葉に満足そうな笑みを浮かべたユカリさんは僕の衣服に手をかけた。
 「ねえ、…しよ?」
 彼女の言葉に対して、僕の答えは決まっている。


657 :かんきんされてるのは、ぼく [sage] :2010/08/24(火) 23:12:31 ID:KnMWpfd0
 「ねぇ、アキラくん!気持ち良い!?気持ち良い!?気持ち良い!?」
 僕の体の上で、ユカリさんは言う。
 彼女の手に凶器は無く、ただ僕の手を握っている。
 「うん、気持ち良いよ」
 その答えは、ユカリさんを更に悦ばせることになったらしい。
 「アキラくん、アキラくん―――!」
 ユカリさんと僕は同時に絶頂を迎える。
 彼女という器に、僕という存在が満たされるような錯覚を覚える。
 ―――いや、こんなことをするまでもなく、彼女の中には僕の存在で満ちているのだろう。
 正確には、僕への狂った愛で。
 絶頂を迎えた彼女は、僕の上に倒れこんだ。
 僕の四肢は拘束されたままだ。
 この光景を他人が見たら、僕がユカリさんに縛りつけられているように見えるかもしれない。
 しかし、一方でユカリさんの心は僕への狂愛で満たされている。
 いや、僕への狂愛に縛られている。
 そして、―――僕はそれを知っている。
 知った上で、この状態を変えようとしていない。
 「ユカリさん…」
 僕は彼女のぬくもりを感じながら、穏やかな笑みを浮かべる。
 穏やか?いや、それはとてもとても歪んでいることだろう。
 これもまた、歪んだ独占欲。






 さて、本当に監禁されているのは誰だろう?