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120   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/28(土) 23:39:03   ID:dieu1QOw0

桜ヶ崎市にある廃ビルに俺と桜花の姿はあった。
会長によると桃花らしきメイドの目撃情報はいくつかあるらしく、俺達はその一つである廃ビルに来ている。
廃ビルの中は暗くあまりよく見えないが桜花の暗視能力で何とか最上階まで来れた。
「……ここで鉢合わせたら最悪だな」
まあこういう時に限って現れたりするものだ。
「大丈夫です。私が全力でサポートしますから」
桜花は俺の真横にぴったりと寄り添っている。確かに暗視能力は助かるのだが。
「…桜花」
「なんでしょう?」
「……ちょっと近すぎじゃないか」
距離が全く無い上に腕を組まれているので否応なしに弾力がこちらに伝わってくる。
……いくらアンドロイドって言っても意識しない方が難しい。
「この状態の方がより正確にサポート出来ますから」
「そうなんだけど…だけどさ」
桜花に正しい暗闇での男女の距離の取り方を教えようとした瞬間
「…っ!?静かに!……誰かこちらに来ます…!」
桜花が前方の何かに気付いた。
「……何処だ…?」
前に広がる闇を見つめる。
時間が経ってきたので暗闇には慣れてきたが人影は近くには見えない。
「気配を…殺しています。それともう…!?」
「わっ!?」
桜花がいきなり俺に飛び掛かって来たので反応出来ず地面に倒れる。
そしてそのすぐ上を何かが通過していった。
その何かは向こうの壁にぶち当たり轟音が廃ビル内に響く。
「くっ…!間一髪…です」
「………あ、ありがとな。よく分からないけど助かった…」
「……なるほど。貴女でしたか」
氷のように冷たい声がした方向、つまり何かが猛スピードで飛んできた方を見るといつの間にかそこには人影があった。
「……まさかコイツが…」
「……はい。どうやらたどり着いたようですね、彼女に」
闇夜でも輝きを放つ銀髪に燃えるような紅い目。
正に写真で見た桃花というメイドそのものだった。
121   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/28(土) 23:40:16   ID:dieu1QOw0

「本当に久しぶりですね、桜花。10年ぶりですか」
「…はい。よく覚えていましたね」
そして見れば見るほど桃花とそのアンドロイドである桜花はそっくりだった。
唯一違うのは桃花が金髪で桜花は銀髪だというところだ。
「自分を基にしたアンドロイドですよ?忘れる訳がありません」
桃花はゆっくりとこちらに近付いて来た。
漂っている雰囲気だけでも相当な重圧を感じる。
「さっきのは…」
「…ああ、あれは近くにあった空き缶を蹴っただけです。ほんの小手調べですかね」
あの轟音が空き缶…。やはりコイツは普通じゃない。
果たしてこんな化け物みたいな奴に勝てるのだろうか。
「…要、行きますよ」
……勝てるとかじゃない。勝たないといけないんだ。英の右腕の分もきっちりと償ってもらわなければ。
「……よし、いつでも良いぜ」
桜花と二人で桃花と対峙する。冷たい目が俺を捉えていた。
「……一般人…ではなさそうですね」
「………お前が桃花か」
俺達と桃花の距離は20m程。ここならまだ射程外と判断して探りを入れる。
「そうですが……ああ、あの時の英様のご友人ですか」
「あの時…?」
一体あの時っていつだ。そういえば会長が半年前に俺達が桃花と遭遇したって…。
「要っ!!」
「……えっ?」
一瞬だった。
意識がほんの少し逸れた瞬間に桃花は20mもあったはずの俺達との距離を一瞬で詰めていた。
つまり気が付けば俺の懐には桃花がいたのだ。
「さようなら」
そして次の瞬間には桜花をも上回る高速を遥かに越えた、言うなれば光速の蹴りが既に繰り出されていた。
「っ!!?」
桜花と鍛えていたおかげで咄嗟に右腕で防御したが激痛と共に思い切り蹴り飛ばされた。
そのままもろに壁に激突する。空き缶の時と同じような轟音がフロア全体に響いた。
122   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/28(土) 23:43:00   ID:dieu1QOw0

「要っ!?」
決して華奢ではない彼の身体はまるで空き缶のように蹴り飛ばされた。
「まずは一人」
そして彼を空き缶のように軽く蹴飛ばした張本人が目の前にいる。
「くっ!?」
瞬時に距離を取り分析をする。やはり圧倒的な強さだった。
いくら私が彼女のコピーだと言っても敵わない。アンドロイドには限界があるのだ。
すぐに逃走手順を展開しようとする。
「…………」
今は一時撤退が最善策だということは分かっている。分かっているが身体が動かない。
彼、白川要の存在が私のプログラムにバグを与えているのだろうか。
「…逃げないのですか?今ならば見逃してあげますが」
「……たとえ勝てなくてもここで逃げる訳にはいかないんです」
桃花を見つめる。私と同じ顔立ちに燃えるような紅い目。
唯一違うのは髪の色でそれ以外は見分けがつかない。
でも桃花から感じられる身体的、精神的な強さ私とは比べものにならない。
だから所詮私では桃花に勝つどころか傷一つすらつけられないかもしれない。
「…アンドロイドの貴女らしくないですね。そんなにあの少年が気になるのですか」
「要は私が守ります。これ以上、桃花の好きにさせる訳にはいきません」
「私に敵わないとしても、ですか」
それでも戦わなければならない。戦闘用アンドロイドだからじゃない。
要が私のことを必要としてくれたから。だから私は戦うんだ。
「要と一緒にいるために私は戦います。…かつて桃花が里奈様の傍にいることを誓ったように」
私は知っている。桃花がこれ程にも強い訳を。
英様の姉である里奈様の専属メイドだった彼女には里奈様が全てだったから。
だから桃花は里奈様を守るために強くなった。
今の私も桃花と同じなんだ。戦闘体制に切り替える。
もう逃げない、迷わない。私はただ前を向き続けるんだ。
「…では容赦はしません。排除します」
桃花が急加速して私の懐に入る。さっきの要と同じパターン。
でもここは避けない。決めるなら一発だ。
この戦い、長引けば長引くほどこちらの勝率は下がる一方だ。ならば一撃で沈める。
わざと隙を作ってそこに打たせて逆にカウンターを喰らわす。
「っ!!?」
そう、これは要との特訓で身につけた技。確か『肉を切らせて骨を断つ』とか言っていた気がする。
123   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/28(土) 23:44:12   ID:dieu1QOw0

この二週間で私は要に教えてもらった。人は強い意志さえあればどこまでも成長出来るということを。
特訓と称していたけれどいつの間にか私の方が要に色々教わっていた。
アンドロイドの私でも好きな人を守って良いんだ。
……そうか、私は要のことが好きなのか。だから私は負ける訳にはいかない。
もう一度彼と、今度は誰かの命令じゃなくて私自身の意志で一緒にいるために。
「くっ!!」
「なっ!?」
自ら後ろに飛び桃花の右ストレートの衝撃を少しでも緩和する。
破損は激しいが距離は取られなかった。そして同時にこちらも渾身の一撃を叩き込む。
「っぁぁぁぁぁあ!!!」
「っ!!?」
桃花はほぼ零距離でそれをまともに受けて弾き飛んだ。
「……うっ…」
膝をつく。
腹部は桃花の攻撃で損傷が激しく、また無茶なカウンターのためにフル稼動したので著しくバッテリーを消耗していた。
今の一撃は確かな手応えがあったがもし仕留めきれないようなら打つ手がない。
「…はぁはぁ……」
桃花を弾き飛ばした方向を見つめる。暗くてよく見えないがまだ人影は捉えることが出来ない。
このまま桃花が起き上がって来なければ……。
「……流石、と言ったところですか」
「………くっ…」
……やはり一撃では倒せなかったようだ。
頭から血が真っ白な頬に垂れており多少のダメージは与えたが、むしろ桃花はそれを喜んでいるようだった。
こちらを見つめながら微笑む桃花の姿は何処か神秘的なものを感じた。
「血を流したのは久しぶりです。私のコピーだけあって中々のようですね」
「………コピーじゃない」
今にも機能停止しそうな身体を動かし立ち上がる。
どうやら立ち上がるのが精一杯のようだ。それでも私は桃花を見つめる。
「私は……桜花…です」
「見事です。ですが私の里奈様への気持ちには敵いません」
桃花が私の目の前に立ちゆっくりと右手を後ろへ引く。私はただそれを見ていることしか出来ない。
「……か……なめ……」
「さようなら」
フロア内に何かが砕け散る音が聞こえた。
124   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/28(土) 23:45:36   ID:dieu1QOw0

激痛で目が覚める。真っ暗闇だ。一体ここは何処で俺は何をしていたんだ?
「…………っ!」
不意に思い出す。
そうだ、俺は桃花に吹き飛ばされて壁にぶち当たったんだ。目の前にあるのは瓦礫か。
「いってぇ……」
瓦礫を退けて立ち上がろうとすると右腕に先程の激痛がまた走った。
どうやら桃花の攻撃を咄嗟に防いだ時に右腕を折られてしまったようだ。
……一回防いだだけで折られるとは…やはり尋常じゃない。
とりあえず今、桜花が桃花と戦っているはずだ。一刻も早く戻らなければ。
「…………うっ…」
瓦礫を退けると人影が見えた。右腕は使い物にならないがいないよりマシか。
人影の方向へ走る。どうせ気付かれるなら出来るだけ早く桜花の元へ行った方が良い。
「桜花!?………………え?」
確かにそこには桜花と桃花がいた。でも立っているのは桃花だけで足元には"何か"の部品が散らばっている。
……何かじゃなくてあれは…いや、考えるな…でも桜花は一体何処に…あれは…あれは………。
「……生きていましたか。右腕で咄嗟に防ぐとは…でも遅かったようですね」
「……………桜花は…」
「そこに散らばっているパーツがそう"だった"物ですが?」
ゆっくりと"それらに"近付いてゆく。
パーツはそこら辺に散らばっており暗くてよく見えなかったがそれでも足や手だと思われる破片を見付けてかき集めた。
…何故こんなことをやっているんだろう?俺は桜花を探しているんじゃなかったっけ?
「……か……な……」
「桜花っ!?」
声のする方へ駆け寄るとそこには下半身と右腕を失い、至る所の外装が剥がれ機械が剥き出しになっている桜花がいた。
顔も左側は所々外装が剥がれている。
「…すい…ませ…ん…私……やっぱ……り…」
「桜花!大丈夫か!?」
桜花を抱き上げる。半分しかない桜花の身体はとても軽かった。
俺が隙を作ったせいで桜花が…。何が特訓だ。結局俺には桃花を倒すどころか女の子一人も守れないのか。
125   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/28(土) 23:47:31   ID:dieu1QOw0

「……でも……最期に……良かっ…た……」
俺を見つめる桜花。言葉はたどたどしくいつ事切れてもおかしくなかった。
「最期とか言うな!待ってろすぐに………桜花?」
返事はなく桜花は目を閉じていた。
「桜花?…おい、桜花!?しっかりしろよ!?」
「もう使い物にはなりませんね」
いつの間にか真後ろには桃花がいた。
…そういえばコイツを倒すのが目的だったんだっけ。でも今はそんなことどうでもよくなっていた。
「……桜花は」
「はい?」
そっと桜花を床に下ろす。コイツだけは許す訳にはいかない。
「桜花は物じゃねぇ!」
「……意味が分かりません。どうみても彼女は人間ではありませんが」
桜花を物扱いしやがったコイツだけは、簡単にバラバラにして辱めたコイツだけは許せない。
「ふざけんなっ!!」
「っ!?これはっ!?」
無意識に折れている右腕を真後ろにいる桃花に向かって振る。激痛が走ったが怒りからかあまり気にならない。
桃花はバックステップでそれを軽く避けたが何故か吹き飛ばされた。
「うおぉぉぉぉお!!」
桃花を追いかけながらもう一度右腕を思い切り振る。
すると振った方向に衝撃波が発生した。桃花はそれを防ぐことが出来ずにさらに吹き飛ばされる。
「くっ!?衝撃波!?腕は折れているはず……!」
風の流れを感じる。どうすれば衝撃波が生まれるのか、自然と頭の中に浮かんでくる。
もしかしたらこれが以前に師匠が言っていた俺の力なんだろうか。
桃花に対する怒りに満ち溢れている一方で、どこか冷静な自分もいた。
「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「ぐぅ!?」
衝撃波を防ぐのでやっとという感じの桃花に走って近付き、その勢いのまま桃花の脇腹を蹴り飛ばす。
桃花の苦痛に歪む顔を初めて見た。
右腕が折れているため蹴りしか出来ないが、それでも無防備だった桃花にはかなり効果があったようだ。
脇腹を押さえながら燃えるような瞳でこちらを睨みつけている。
衝撃波をもろに喰らったのかメイド服はボロボロだった。
126   名前:  リバース ◆ Uw02HM2doE   2010/08/28(土) 23:48:55   ID:dieu1QOw0

「はぁはぁ…。まさか衝撃波を生み出せるとは……あの女そっくりですね」
「…あの女?」
俺以外にもこんな芸当が出来る奴がいるのか。気が付けば桃花はこちらに構え直していた。
「ですか私は負ける訳にはいきません。こんな所で負けてしまっては里奈様が……」
「……英の姉さんもこのビルにいるのか?」
桃花は少し動揺している。つい口を滑らせたのだろうか。
いずれにしろ英の姉さん、里奈さんもこのビルにいるらしい。
そしてここが最上階なのを考えるとおそらくこの先の屋上にいるに違いない。
「…会わせて貰うぞ。英の姉さんに」
「させません。私は里奈様の専属メイド、桃花。里奈様を汚す者は何人たりとも通しません」
そう言い終えた瞬間桃花が突っ込んで来た。不意を突いて一瞬で終わらせる気か。
だが俺だってこの二週間ひたすら桜花と特訓してきたんだ。
見ていてくれ桜花、お前が居てくれた意味を俺が示すから。
「おらぁぁぁぁぁあ!!」
「ぐうっ!?」
桃花の光速の連撃を間一髪で避け右腕を思い切り振り抜く。
そしてそのまま衝撃波に捕まっている桃花の懐に飛び込んだ。
「なっ!?」
右腕が折れているから足技しか来ないと思っていた桃花は完全に意表を突かれていた。反応が一瞬遅れる。
「はぁぁぁぁぁぁあ!!」
桜花が言っていた。要の右腕の一発は凄まじいから最後の決め手にするべきだ、と。
だから打つ。折れていようと関係ない。これが俺と、そして桃花がコピー扱いした
「桜花の力だぁぁぁぁあ!!!」
「っ!!?」
右アッパーが綺麗に桃花に入り彼女は宙に浮く。そして受け身も取らず背中から床に落ちていった。
「はぁはぁ……くっ…!」
右腕はもう感覚すらなかった。慣れていない衝撃波の使いすぎだ。果たしてちゃんと治るのだろうか。
桃花に近付くと死んではいないが気絶しているようだった。
「……勝った…のか…」
でもこれで終わりじゃない。屋上に行って確かめなければならない。
英の姉さんである里奈さん……半年前の事故で行方不明になったらしいが果たしてこの先にいるんだろうか。
もしいたとしたら何故半年間も身を潜めていたのか。
そして桃花は何故英の父親を襲ったのか。
全ての答えがこの先にあるはずだ。
「桜花、もう少し…待っててくれ」
俺は一人屋上へと向かった。