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318 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:28:33 ID:r8CNAMjm

「はいこれ」
「ノート?」

 こくりと笑顔で頷いた野崎に僕は思わず首を捻った。
 彼女にこんなノートを貸した覚えはない。
 第一、そのノートは僕の趣味とはかけ離れたファンシーな柄の表紙、これが僕のものでないことは明らかである。
 それでも野崎は笑顔のまま何も言わないので、仕方なくこちらから聞いてみることにした。 

「これ、何だよ」
「日記帳」
「日記帳?」

 ただのノートだとばかり思っていた。
 どこにもそれを示唆する文字がなかったので、まあ気付かなくても無理はない。と、自己弁護に励んでみる。
 相変わらずにこにこと満面の笑みを浮かべている野崎は「いやいやー」と照れたように呟いていた。
 なんだ、自分の日記を僕に見せてくれるのか。

 そう言うと、彼女はハッとして右手を大げさに左右へ振って、否定の意を表した。

「ち、違う違う! これは君の!」
「僕の?」
「そう。だって、最近学校とか遅刻気味だし、テストの成績も良くないっておばさんから聞いたんだよ!」
「それが何だ」

 おばさんてあれか、僕の母親か。自分の息子の成績を暴露して何が楽しいんだよ。いや、そんな成績を取る僕が悪いのか?


319 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:30:56 ID:r8CNAMjm
 
「だからね、日記でも付けるようになれば持続性も養われるし、
 なにより毎日文章を書くってことが小論文とかに役立ったりするんだから。ね」
「ね。じゃない。そんな面倒くさいこと、いまどき小学生でもやらないぞ。
 夏休みの一行日記は毎日《楽しかった》がデフォな時代だ」
「どの時代でも不真面目な子は誰でもそうだったと思うよ」
「……とにかく、僕が貰ってメモ用紙になり下がるよりも、お前が持って有効的に使った方がいいだろ」

 じゃあなと別れを切り出すと、野崎はあからさまに項垂れて「そっかー……」と小さく呟いた。
 そんな様子を見ていると、自分がとてつもなく悪いことをしてしまったんじゃないかという罪悪感に苛まれる。
 まあ、こいつと絡んでいれば日常茶飯事付け回るものだ。なにをいまさら、こいういうときは、

「わかったよ、もらう」

 折れてしまえばいい。
 言った瞬間に野崎はパアッと明るい笑顔になり「じゃあ、はい」とそのノートを手渡した。
 良く見れば鍵付きのノートだった。これなら母親や妹弟に読まれて冷やかされることもないだろう。
 
 なんというかその、な。
 正直実感は未だないのだが、野崎は彼女(二人称的な意味ではなく)なのだから貰わないわけにもいかない。
 一度は断ったくせにと言われそうだけれど。まあ、そのあたりは僕が天の邪鬼なのだと思ってくれれば問題はない。多分。

「毎日はつけないだろうけど」
「できる限り頑張って!」
「できる限りな」
「あと、勉強も頑張ってね! 来年受験なんだから」
「……できる限り、な」



320 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:33:43 ID:r8CNAMjm
《10月14日 野崎に日記をもらった。》
《10月15日 順調に二日目。今日は近藤がやたらと絡んできた。
 「ねえねえ野崎さんとはどこまでいったのー?」にやにやしながら聞くな阿呆。》
《10月16日 よし三日目だ、よし。今日は野崎の機嫌があまりよくなかった。
 いつもは能天気に笑ってるくせに、風邪か? 心配だ。》

《10月18日 三日坊主を体現しそうになった、なんとかセーフ。
 野崎に日記のことを言われなかったら、そのまま放置するところだった。今日は雨が鬱陶しかった。》

《10月20日 大崎たちと本屋へ行った。》
《10月21日 今日は野崎と本屋へ行った。料理雑誌って、主婦か。》

《10月25日 大崎が彼女と喧嘩をしたらしい。僕は力になれないが、仲直りできるといいな。
 僕は野崎とうまくいっているので、喧嘩の兆しもなし。》

《10月27日 近藤が映画へ行こうと誘ってきた。気持ちは嬉しいが野崎に誤解されるとまずい。
 本当に悪い、次なんかおごるから、そんな目で見ないでくれ。》
《10月28日 野崎が始終へばりついてきた。悪い気はしないが、さすがに周囲の視線が痛かった。》

《10月31日 野崎がハロウィンパーティーがどうたらと言い始めたので、
 適当に菓子をやったらその3倍のお返しをもらった。ハロウィンなのか、これは。》


321 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:37:11 ID:r8CNAMjm
《11月14日 一か月も続いている。よくやってるな。》

《11月16日 餅田が勉強を教えてくれと言ってきた。もちろん速攻で断った。僕にそんな技量はない。
 ……どうして女ってこう頼みごとを断ると罪悪感を覚えさせられるんだろう。》
《11月17日 今日は野崎とは帰らなかった、用事があるらしい。とりあえず大崎や小川と帰った。》

《11月19日 餅田から変なメールが送られてきた。
 自分のアドレス削除してくれってどういうことだ? 後で電話をかけようと思う。》
《11月20日 昨日電話に出なかったので、放課後に餅田を捕まえて聞いてみるとなんでもないと言われて逃げられてしまった。
 何なんだ?その直後に野崎が追いかけてきたので、とりあえず野崎と下校した。》

《11月22日 相変わらず餅田には避け続けられている。
 ……僕が何かしたのか? 勉強を教えるのを断っただけだぞ?》
《11月23日 野崎や他の奴と話していても餅田のことが気にかかる。
 明日もう一度話を聞いて、次に避けられたらもう諦めよう》
《11月24日 うそだ》

《11月30日 僕のせいか?》

《12月04日 餅田が亡くなって10日以上たつ。
 あんなことを断ったぐらいで死ぬわけがないとは思う。でも、あいつが飛び降りる理由も他にない。》
《12月05日 野崎が最近、以前に増して優しい。気にかけてくれているんだろう。
 ありがとう、ごめん》
《12月06日 今日は近藤が野崎や大崎たちと明日は遊びに行こうと言ってくれた。
 明日は普通に学校なんだが、承諾してしまった。》
《12月07日 僕もそろそろ立ち直ろう。このままぐずぐずしていても仕方がない。
 餅田のことは未だいろいろと調べているが、一般高校生に掴めるものなんてたかが知れている。でもやろう。
 今日は、確かに楽しかった。ごめん。》

《12月10日 期末試験だ……学校滅べ、テスト問題もそのデータも紛失してしまえ。》
《12月11日 野崎も近藤もこの間僕らと遊んでたよな? 何でそんなに出来たような顔してるんだ? 
 その脳を僕にくれよ……。》

《12月15日 終わった。いろいろ。》
《12月16日 授業なんてもういいだろ?冬休みにしてくれよ頼むから、しかも今日土曜だぞ?
 とりあえず大崎が振られたことが判明した、小川に彼女ができたことが判明した。大崎生きろ。》


322 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:38:51 ID:r8CNAMjm

《12月19日 野崎は今日も元気だった。近藤にクリスマスは野崎と過ごすのかと聞かれた。当たり前だろ。》
《12月20日 いつも以上に機嫌の良い野崎が一緒に帰ろうと言ってきたが、断ってしまった。
 今日は先に近藤と約束したんだ、ごめん。前回のことがあるので断れなかったんだ。》
《12月21日 野崎の機嫌が悪い。昨日断ったからか?
 埋め合わせをすると言ったら「ああごめん、違う違う。君が気にすることじゃないんだよ」と言われた。意味がわからん。》
《12月22日 近藤が学校の階段から落ちて、救急車で運ばれていったらしい。落ちるという言葉がトラウマになりそうだ。
 とにかく見舞いへ行こう。明日から冬休み。》
《12月23日 野崎に一日中ひっぱりまわされたせいで見舞いにはいけなかった。
 断りきれない僕も僕だ……。明日は行こう。》
《12月24日 言いたいことがあるとここへ書くくせがついてしまったらしい。
 まあ、吐き出せば気も晴れる。野崎の我儘具合がひどい、前はこんな調子じゃなかったのに。》
《12月25日 野崎と近藤のところへ見舞いに行った。足の骨を折ったらしい、ギブスをしていた。
 クリスマスなので、昨日野崎と別れた後に買ったストラップをあげると異様に嬉しがってくれた。
 あそこまで喜んでくれたのなら送り主として本望だ。
 野崎は他の知人が入院しているらしく近藤とは顔を合せずに、その見舞いへ行った。クラスメイトなんだから顔ぐらいみてもいいだろうに。》

《12月29日 野崎から連絡が全くない。さすがに不安だ。》
《12月30日 大掃除が面倒だった。ワックスがけとかいいだろもう、水ぶきで十分。
 野崎がメールをしてきたことにかなり安心した。風邪を引いていたらしい、言えば見舞いぐらい行ったのに。》
《12月31日 今年も終わる。来年は受験だから、さすがに勉学に励もう。》
《01月01日 野崎のさそいで初詣に行った。絵馬には『世界平和』と書いておいた、無難だ。
 野崎は見せてくれなかったが、後で確認すると僕とずっと一緒にいたいと書かれていた。
 ……素でこういうことを書く辺りあいつは可愛い。そうなるといいな。》


323 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:40:55 ID:r8CNAMjm
《01月08日 新学期。近藤が松葉杖をついて学校へ来ていた。元気そうでよかった。》
《01月09日 近藤に野崎との様子を聞かれる。
 順調に決まっているだろと言ったら、渋い顔をされた。なんなんだよ。》
《01月10日 何度考えても餅田が自殺をしたとは思えない。
 あいつの葬式でも、ご両親が同じようなことを言っていた。やっぱり何か変だ。》
《01月11日 寒い、冷暖房完備の学校がうらやましい。
 近藤は昨日から風邪で休んでいるし、野崎も調子が悪そうだ。このまま学級閉鎖へもつれ込んでくれ。》
《01月12日 近藤から「野崎さんのこと、ちゃんと見てる?」と電話があった。
 僕以上にあいつのことを知っているやつはいないぞと惚気てみたら、無言で電話を切られた。なんだ?》
《01月13日 ついに野崎まで休んでしまった。メールには大丈夫とあったが、本当だろうか。
 大崎や小川は僕と同じく馬鹿の部類に入るので風邪などとは無縁の様子。》
《01月14日 再び近藤から電話。野崎とは別れた方がいいと言われたので、何を言っているんだこいつはと思った。
 が、話を聞いてみると本気で僕の身を案じているような口ぶりだった。野崎が近藤に何かしたのか?》

《01月15日 まだ足が治っていないのに、何で行方不明になるんだよ!? 》

《01月16日 近藤はまだ見つかっていない。そして、ずっと野崎を避けてしまっている。
 野崎は関係してなんかいないと思いたいでも近藤の言動が》
《01月17日 近藤は遺体で発見された。立ち入り禁止の学校の屋上で、脇腹を刺されて……
 誰かが殺したんだ近藤をあいつが殺される理由なんて(この先は滲んでいて読めない)》


324 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:47:05 ID:r8CNAMjm
《1月18にち 野崎が怖い。
 近藤が行方不明になったときにあいつは休んでいたし、病院でも避けているように見えた。
 まさか近藤は野崎に突き落とされたんじゃないのか? 違うと思いたい。でも近藤は野崎を危険視しているようだった。
 実は自分が野崎に突き落とされたと知っていて、それで……野崎をちゃんと見ているかって……別れた方がいいって。
 だとしたら僕はとんでもないことをしてしまった近藤は伝えようとしてくれたのに僕は聞かなかったんだ
 あいつが殺されてしまった今そうとしか思えない学校の屋上なんかで普通人を殺すか? 
 そんな考えに至るのは学校の人間だけでも野崎が近藤を殺さなくてはいけない理由って何だ? 
 あのふたりはあまり口をきく方ではなかったから喧嘩をしようにも理由がない共通の知人など僕ぐらいだろうじゃあ僕がその原因?
 また僕か? 餅田のときもそうだったじゃないか真偽は分からないが原因は僕の知りえる限り『僕』だけ……
 まさか餅田が死んだのは それは さすがに ないだろ な? 
 とにかく野崎本人にそれとなく近藤の話をふってみて反応を見てみよう。僕はお前が人殺しだなんて思いたくないんだ――――



325 :後の空白すらも私だけに:2010/08/31(火) 21:50:57 ID:r8CNAMjm
「嘘つきさんだなあ、私のことなんて信じてないくせにー……。
 これ、絶対近藤さんを信用してるよね、私じゃないんでしょ? 私が殺したと思ってるんだよね? 
 わかってるよわかってるよ、もう嘘つかないで嘘つきさんは嫌いだよ、ああでも君なら許せる。
 そんなところも大好きだって言えるから。だって大好きだから一緒にいたいから一緒にいたいなら、全部許容しなくちゃね。 
 ね? だからこれからは私のことも許容してね? 近藤さんを骨折させたことも刺したことも餅田さんを突き落としたことも全部全部許してね? 
 いいよねこれからずっと一緒なんだから。でも君、本当に考えなしだよ、これだけ疑ってるのに単身私のところに来るなんて、
 ああわかった。むしろ私にああしてほしかったってこと? だって私がひとり暮らしなの知ってたでしょ? 実は君も私とずっと緒にいたくてわざと? 
 そっかそっか天の邪鬼さんなんだった、ごめんね気付かなくて。でもこれからは本当にずっと一緒だよ。
 邪魔な人を消すよりふたりしかいない場所へ行った方が楽だって、私やっと気付いたんだ。
 うわッ、そろそろ帰らないと目覚めちゃうかも……一応口塞いで拘束しておいたけど、起きてすぐそんな状態だったら怖いもんね。
 よし、待ってて今すぐいくから! そうだ日記見てたこと謝らないと……最初から日記のスペアの鍵をとって、毎晩読みに来てたって言わなくちゃ……
 でも私は好都合だったな……君の思ってることがすぐに分かるから。手足の拘束がとれるようになったら、また日記帳渡してみよう。
 それにしても楽しみだなあこれからずっと一緒にいられる好きだよ好きだよ大好きだよ
 君は私とだけいればいいんだからできることなら君に触れた人間全員いなくなってほしいぐらい
 でもそんなことしてるより君といたいからやめておくねああ本当に早く帰らないとっ」