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680 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:49:38 ID:eE7Ry3FM [2/15]
 ガキの頃の俺は、割と聞きわけの良い子供だったと思う。
 ただし、「聞きわけの良い」というのは「全くわがままを言わない」という意味である筈も無く。
 後から考えてみると驚くほどのわがままを言うこともあった。
 そんな時の夢を、時々見る。
 今日の夢は、3歳くらいの時のこと。
 保育園へ俺を預けようとする親に、俺が駄々をこねている。
 ―――いっちゃやだ!―――
 幼い俺が涙と鼻水をたらしながら言うのである。
 それに対して、親は何と言っているのかは分からない。
 なだめているのかもしれないし、わがままを言うなと叱っているのかもしれない。
 現在の俺自身はその光景を他人事のように見ている。
 ―――おとうさんはぼくのことなんてきらいなんだ!―――
 親に向かって、小さな俺が一方的に言葉をぶつける。
 今思えば残酷なものだ。
 妻を亡くした親にとって、俺はたった一人の家族なのに。
 ―――おとうさんはぼくよりもおしごとのほうがすきなんだ!―――
 どこの奥さんだよと現在の俺、この光景を客観的に見ている俺がツッコミを入れる。
 親が俺とほとんど一緒に居られないほど頑張って働いていたのは、他ならぬ俺の為だと言うのに。
 ―――もっといっしょにいて!―――
 小さな俺が悲痛に叫ぶ。
 ―――もっとやさしくして!―――
 小さな俺がわがままをぶつける。
 ―――もっと愛して!―――
 心から、欲しいものだから。
 そこで、ふと、小さな俺の姿が歪んだ気がした。
 歪んで消えて、代わりに1人の少女が立っている。
 細い肢体に艶やかな黒髪。
 緋月三日。
 昨日からお付き合いを始めた、俺の恋人。
 ―――愛してくれなきゃ、―――
 その緋月が両手いっぱいに凶器の束を持っていた。
 ―――私を殺してあなたも死にます―――
 その全ての凶器を現在の俺、その光景を客観的に見ている俺に向かって振り上げて―――
 






681 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:50:38 ID:eE7Ry3FM [3/15]
 「うどわぁ!」
 そして、俺は自分の情けないと共に跳ね起きた。
 ごちん!
 「ぐあ!」
 「ぎゃう!」
 二人の額が勢いよくぶつかり、思わず悶絶。
 って、「二人」?
 俺は額の痛みを我慢しつつ、頭突きをかましてしまった相手を見る。
 「…い、痛いです…」
 部屋の中で痛みに悶えている制服姿の黒髪和風少女、緋月三日。
 期せずして、夢の中で俺に凶器を振り上げていた相手だった。
 …まだ夢の中じゃあるまいな。
 そう思って頬を引っ張ると、しかし確かな痛みがある。
 それ以前に額が痛い。
 つまり現実である。
 …何で、昨日付き合い始めたばかりの恋人が俺の部屋に居るんですか?
 「ええっと、ひづきん?」
 困惑しながら、昨日ノリでつけたあだ名で呼びかける。
 「…お、おひゃようございます…」
 「おはよう。ってか、痛いのに無理して喋んなくて良いから…。今、氷とってくるね」
 そう言って台所からビニール袋に氷をつめたものを用意して、緋月の額を冷やす。
 「…朝からこんな情熱的な一撃を頂くとは思いませんでした」
 「あはははは…。ゴメン」
 額を冷やしながら涙目になっている緋月に謝る俺。
 って、そう言う話では無く。
 「そう言えばひづきん。どうしてこんなところに?」
 「…光ある所に影があるように、御神くんの行くところに私がいるのです」
 「…どっちが影やねん」
 無駄に恰好良い台詞だった。恰好よすぎてシチュエーションに合わないどころか答えになって無いが。
 「つまりはおはようのご挨拶にと」
 「ああ、なるほど。鍵は親が行きがけに開けてくれたんかな?」
 俺の親、御神万里(ミカミバンリ)。多忙を極めるメイクアップアーティストで、特に今は某特撮番組の役者さんの担当だとかで、撮影開始時間の関係で最近は死ぬほど朝が早いのだ。
 「…はい、お母様のお陰で入れました。……ピッキングではどうにもならなかったので」
 「それは犯罪だ!」
 「…窓から入ろうとも思ったのですが…」
 「それは危険だ!」
 ってかお母様って…ああ、ウチの親のことか。
 その呼び名、かなり誤解入ってるんだけどなァ…
 と、タイミング良く俺の携帯電話にメールが入る。

682 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:51:03 ID:eE7Ry3FM [4/15]
 6:05
 from:親
 件名:パパよぉん
 本文:
 こんなカワイイ彼女がいたならアタシに報告しなさいヨ☆
 イマドキこんなにアナタのことを想ってくれるコはいないわよぉ?
 カノジョ、大切になさいネ♪
 どれだけ恋をバーニングさせても良いけど、避妊はキチンとなさい。相手の為にも。
 あと、今夜はサバミソでヨロ!ヒロくんのドラマ見てたら食べたくなっちゃったわン。

 「オッケー。サバの味噌煮ね」
 了解、と返信する。
 御神万里、その生物学上の性別は男である。
 「…お母様、素敵な方ですよね」
 「まぁなー…」
 オカマのクセにパッと見分からないんだものな。
 フツーに男に口説かれることもあるらしいし。
 「そうだ、緋月。ご飯まだなんじゃない?」
 「…だ、大丈夫です」
 ぐぅ~
 緋月の腹から、言葉とは裏腹な音が聞こえる。
 「遠慮するなよ、恋人なんだしー」
 「……はい」
 顔を真っ赤にして答える緋月。
 「んじゃ、すぐ用意するから、ダイニングルームで待っててくれる?」
 そう言った俺の頭からは、さっきの夢の内容などすっかり消えていた。







683 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:51:25 ID:eE7Ry3FM [5/15]
 サクッと制服に着替えると、俺は台所に向かう。
 隣のダイニングでは、緋月が朝食を今か今かと待っている。
 ちなみに、俺の母は俺を産んですぐに亡くなっており、もう一人もご存じのとおりもう仕事に出かけている。
 だから、この家にいるのは俺と緋月の二人だけだ。
 「今日の朝食はホットケーキでございますー」
 食卓にお皿を並べ、俺は言う。
 「いただきます」
 「…いただきます」
 手を合わせ、緋月がホットケーキを小さく切り取り、控え目に口に運ぶ。
 「…すごく、美味しいです…」
 「よろこんでもらって何より」
 緋月の言葉に偽りは無いようで、次々にホットケーキを口の中に放り込む。
 こんな美味しそうに自分の作ったものを食べてもらうのも、久しぶりである。
 何か緋月の目もキラキラしてるし…。
 片親ゆえに必要に迫られて身に付けた料理スキルに感謝したのも久しぶりかもしれない。
 自然頬がゆるむ。
 「お姉様の作った物よりずっと大きくて柔らかくて…」
 「緋月って、お姉さんいるんだ」
 ホットケーキを美味しそうに食べる緋月に、俺は頬笑みながら言った。
 言われてみれば納得である。
 「三」日という名前も三日月からの連想だけでなく、三番目に生まれた子供だからかもしれない。
 「はい、二日(ニカ)お姉様とおっしゃって…」
 そこで、雷に打たれたような顔になる緋月。
 「お姉様ごめんなさいごめんなさいもう我が侭しません言いませんですからお仕置きはやめてやめてやめて~~~~!」
 「ちょ、緋月!?」
 何か、トラウマスイッチが入ってしまったらしい。
 その後、錯乱した緋月を落ち着かせるのには、少し時間がかかった。
 …名前出すだけでトラウマを思い出すって、どれだけおっかないお姉さんなんだろう。











684 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:51:50 ID:eE7Ry3FM [6/15]
 その後、俺達は二人連れだって学校に向かっていた。
 普段は1人か、途中から葉山と登校しているので、女の子と2人でというのは中々新鮮なものがある。
 ちなみに下校時も葉山と一緒。
 ホモか、俺らは。
 …しっかし、良く見るとウチの学校の生徒にもカップルっぽい連中は多いものである。
 イチャついてたり、手つないでいたり、チューしてたり、ナイフ持って追いかけっこしてたりと色々な奴らが居る。
 こっちも対抗して手くらいつないでみたりする。
 「…み、御神くん、私達って周りからどう見えると思いますか?」
 俺の隣を歩く緋月が、顔を赤らめ、上目遣いで見上げながら聞いた。
 小柄な緋月に対して、俺の身長は無駄に高いので、緋月が話しかける時はどうしてもそんな体勢になる…と、思う。
 これを計算でやっていても恐ろしいが、天然でやってるとしても恐ろしい。
 つまり、その、うん、…萌え。
 「んーと、同じ学校に通う仲の良い兄妹…って冗談冗談」
 俺の答えに緋月が結構真面目に涙目になったので、からかうのをやめる。
 「…ひどいです御神くん。もちろん、私は一日(カズヒ)お兄ちゃんのことが大好きですけど…」
 「お兄ちゃんって…、いきなり萌え属性を追加するなよ…」
 「?」
 ブラコンて…
 もしかして、俺に告白したのって、その一日さんに似ていたからじゃないだろうなぁ…
 だとしたらちょっと悲しい。
 そんなことを緋月に言うと、
 「…そんなこと、無いですよ?」
 そう、緋月は穏やかに言った。
 「…それは、一日お兄ちゃんのことは大好きですけど、御神くんほどではありません。それに、一日お兄ちゃんと御神くんは、全然違う感じです…。堂々としていて、頭が良くて…。あ、でも、背の高いところは似てるかもしれません」
 どこか柔らかい表情でそう言う緋月。
 その表情には、どこか兄に対する親愛の念が感じられて…
 「…ふぅん」
 「嫉妬!?嫉妬ですかそうなんですね!?」
 ぶっきらぼうな俺のリアクションに、緋月が過剰反応する。
 「いやいやいや」
 手を横に振って誤魔化す俺。
 …実は、結構図星だったり。
 無理矢理でも話をそらそう。
 「あ、でも、お兄さんの呼び名は『お兄ちゃん』で、お姉さんには『お姉様』なのな」
 俺の言葉に凍りつく緋月。
 「……あの人、いえあの御方は恐れ多くて『お姉ちゃん』なんて呼べません」
 ガタガタ震えながら緋月は言った。
 「…呼べないのか」
 一体どんな人なんだろう。
 まぁ、緋月とのお付き合いを続けてれば、彼女の『お兄ちゃん』や『お姉様』とも会う機会もあるかもしれない。
 ……双方とも気が合う気がしないけどな!













685 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:52:56 ID:eE7Ry3FM [7/15]
 「よぉ、みかみん…ってウゲェ!緋月!?」
 教室に着くと、葉山正樹が居た。
 「よーはやまん、朝から挨拶が御挨拶だな」
 「…」
 気軽に手を上げて応じる俺に、上目遣いで葉山を睨む緋月。
 横に居るだけでも負の念を感じるようだ。
 「こら、ひづきん」
 「ひぎぃ!」
 ぎゅむ、と髪を引っ張る。
 「あれは葉山も悪いけどさ、少しは仲良くしようとなさいな。睨んでばかりじゃ上がる好感度も上がんないよー」
 「痛い痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさいだから髪引っ張らないでくださいぃ!」
 「ハッハッハッ!良い気味だな緋月三日!」
 「葉山…」
 高笑いを上げる葉山をジト目で見る俺。
 お前も仲良くする気無いなぁ…
 その時、
 「お前も仲良くするのだ~!」
 ガバッ!と葉山と緋月をまとめて抱きしめたのは、クラスメイトの少女だった。
 髪は短髪、茶色がかった色は水泳部だからか。
 細身ではあるが、適度に鍛えられていて不健康な印象は無い。
 ニコニコ笑う彼女のことは、去年も俺や葉山と同じクラスだったので、割と知っている。
 「ぐぉぇ!朱里!?抱きしめると言うよりラリアットみたいになって痛いんですけどぉ!?」
 その少女、明石朱里(アカシアカリ)に対して、葉山がギブアップの動作を取る。
 「胸当ててんだから文句言わない!」
 「…いや、お前の胸って正直無いに等しいからありがたみが無…ギブギブギブ~!」
 …はやまん、言ってはならんことを。
 「でさ、みっきー!」
 明石は緋月の方に目を向ける。(こちらはほとんど締まって無い)
 ってかみっきー?ああ、緋月三日→三日→みっか→みっき→みっきー、か。
 どうやら、緋月と明石は随分仲が良いらしい。(「隣の席だからな」と横で葉山が言っている)
 「話は聞いたよ。ってか、噂は聞いたよ。やったじゃん、大好きな御神ゲット出来て!」
 俺はぽ○もんか。
 「…はい、これも朱里ちゃんが大桜の噂を教えてくれたお陰です」
 「それ以外にも、色々情報流したけどね~。アタシも頑張った甲斐があったよ!」
 「…対価は、いずれ」
 「期待してるよん!」
 最後の方、微妙にワルいふいんき(変換不可)なのは気のせいか?
 「ってか、噂って?」
 「誰と誰がくっついたとか、そう言うのはフツーに噂になりやすいよ?アタシが事情通なのも差し引いても。アンタらが付き合いだしたことはもう全校生徒が知ってるんじゃない?」
 俺の答えに対して明瞭に答える明石。
 「なるほど~」
 「今頃、何人の女生徒が涙をのんでるんだろうね!」
 「人をジゴロみたいに言うなよ~」
 俺と明石がそう言う横では、またまた負のオーラをまき散らす緋月が。

686 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:53:52 ID:eE7Ry3FM [8/15]
 「…全校生徒…、女生徒…、つまり全校生徒が泥棒猫…、全校生徒が敵…!これは殺すしか!」
 「ンな訳あるか」
 ぎゅむ!
 「ひぎぃ!」
 俺は再度髪を引っ張る。
 「つーか、俺も信用無いよなぁ。付き合ってるってのにそう簡単によそのコにホイホイなびくような軽い男だと思われてたなんて、お兄ちゃん悲しい…」
 よよよよ、と泣き真似をしてみる。
 「たかだか付き合って1日で信頼関係もへったくれも無いんじゃないかな、ひそひそ」
 「よりにもよって告白への返事が『いいよー』だったもんなー、ひそひそ」
 「…なんで『お兄ちゃん』なんですか、ひそひそ」
 「そろそろホントに泣いていい、俺?」
 3人が3人、あまりにもあんまりなリアクションを取ってくれやがる。
 …つーか、いわゆるヤンデレ的対応って、基本的に意中の相手への信用が無いよな。
 いや、往々にして男の方が悪かったりするけど。
 「マジメな話、うまくいくようにアタシの方で『イイ』噂を流しとくから大丈夫だとは思うけどね!」
 不気味なくらいニッコリ笑って言う明石。
 …どんな噂だ。
 「…ありがとうございます、朱里ちゃん」
 「いやいや~」
 「…対価はいずれ」
 「期待してるよん」
 だから、対価って何だ。
 「ま~そんな心配しないでよ、彼氏クン。親友からボッたくるほど、アタシは鬼じゃないよ。ただ、必要なモノを必要なだけ欲しいだけ!」
 グッと親指を立てる明石。
 …不安だ。
 「なぁ、緋月。イザとなったら俺を頼りなよ」
 「…ありがとうございます」
 「…信用無いね、アタシ」
 その時、予鈴が鳴り響く。
 「んじゃ、アタシらはそろそろ自分の席に戻るね!ばいびー、正樹!」
 「…………また、授業後に」
 元気よく戻る明石に、超名残惜しそうな緋月。
 「緋月と明石って仲良いのな」
 席に戻る二人を見ながら
 「あ~、俺もあんま知らんかったわ」
 俺の言葉に返すのは葉山だ。
 「あ、そうなの?」
 「まーなー。やっぱ幼馴染でも、女子側のことは分かりづらくなるしなァ…」
 「幼馴染!?」
 なんだその今時ゲームでしか聞かないようなフレーズは。
 「言ってなかったか?俺と朱里はガキの頃から家近くて、学校も同じなんだよ」
 「ゲームとかだったら、そのままゴールインだけどなー」
 「無い無い。お互い腐れ縁、付き合い長い友達くらいにしか思ってねーよ」
 ひらひら手を振る葉山。
 そうは言うが、普通それでも離れていくものではないのだろうか。
 だから、高校になっても親しい異性の幼馴染なんてのはゲームくらいにしか居ないわけで…
 親しくするにも、親しくあるにも相応の理由と努力があるわけで…
 「もしかして、もしかしなくてもそう言うこと、なのかな」
 もしそうなら、恋人の友達の恋愛成就を反対する理由は無いかな、と思った。
 え、葉山の意志?
 ……それはそれ、これはこれ。










687 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:54:56 ID:eE7Ry3FM [9/15]
 お昼の時間
 「ひづきんひづきん、一緒にご飯食う~?」
 俺はゆるゆると緋月の席の方に近付く。
 「ラブラブだな、お前ら。いっそそのまま二人の世界に入って、俺にとばっちりが来ないようにしてくれよ?」
 葉山は何を言ってるんだろう?
 「お前も来るのよ?」
 「当然のように怖いコト言うなよ!?」
 ガタンと立ち上がりオーバーリアクションをとる葉山。
 「じゃあ間を取ってアタシも仲間に入るじぇい!」
 そう言うのは明石だ。
 実は俺の方から提案するつもりだったのだが、その前にノッて来てくれたようだ。
 「…では、私は購買でパンを」
 そう言っていそいそと教室から出ようとする緋月。
 その行動に、なぜかとてもとてもとてもとても(中略)とてもイラっときた。
 お前は…
 「………」
 ぎゅむ!
 「ひぎぃ!今無言で全力で髪引っ張りましたよね!もしかして結構怒ってますか怒ってますねそうなんですね!?私そんな悪い事言いましたかごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 「お前は今すぐ『告白の巻』を読み返せ」
 「メタなことを!?」
 「取りあえず、お前はもう離さない」
 「何と言う求婚!?って、髪の毛をどうするんですかぁ!?」
 そう言う緋月の髪を、この場から離れないように無理矢理机に結びつけ、俺たちはそれぞれの机を1カ所に集める。
 「もしかして、彼氏クンの方がヤンデレ度高い?」
 「そりゃ、あんなのと付き合う位だからな…。俺らはアイツを見誤ってたのかもしれん」
 なぜか俺達を見て失礼なことを言う明石と葉山。
 「…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい私のような雌犬にはご飯なんていらないんですねそうなんですね…」
 「自分のこと雌犬言うな」
 そう言って、俺は緋月の前に弁当箱と飲み物を置く。
 「…え?」
 「…弁当、これからは俺が作るって言ったでしょ?」
 「…冗談だと思ってました」
 「こっちは忘れられたかと思った」
 「…ありがとうございます」
 そして、互いに手を合わせていただきます。
 「ところで、アタシらで考えたことがあるんだけど!」
 食事中にビシっと手を上げる明石。
 「何の話ー?あ、緋月、そっちのスプーンはデザートに使ってくれ」
 「あ、はい…」
 「椅子に縛ってたせいで髪、ちょっと乱れてるな。ブラシ持ってきたから髪梳いて良い?」
 「…はい」
 「話を聞けー!」
 ビシっとツッコミを入れる明石。
 基本、俺らはボケ属性なので彼女や葉山のようなツッコミが居るとマジ助かる。
 「さっき、みっきーと話してたんだけど!」
 「何をー?」
 緋月の髪をすきながら、相槌を打つ俺。
 しっかし本当に良い髪してるな、このままずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと梳いていたいくらいだ。
 「おい、みかみん。瞳からハイライト消えかかってるぞ」
 「おっと危ない。それで、明石、何だって?」
 「アタシら4人で、この週末、どっか出かけないかって話よ!」
 くじけそうになりながらも、ずびし、と力強く宣言する明石。

688 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:56:03 ID:eE7Ry3FM [10/15]
 それに葉山がブーイングをかます。
 「何でこのカオスな面子なんだよ!」
 「良いじゃない、暇でしょ、どうせ」
 明石の言葉に、「まぁそうだがよ…」と引き下がる葉山。
 俺の方は、特に反対する理由も無い。
 「次の土曜は俺も暇だけどなー。ひづきんはどう?」
 「…はい、私も大丈夫です。それにしても、何だか…」
 そこで、緋月は一瞬何かを思い出すように宙に目を泳がせ…
 「男女四人デ出カケルナンテ、何ダカだぶるでーとミタイデスネ」
 「オヤ、言ワレテミレバソウダネ、みっきー」
 緋月と明石が棒読みでしらじらしく言う。
 …何この小芝居。
 いやまぁ、「そういうこと」なんだろうが。
 「そりゃ無ーよ!ハブとマングースが仲よくダンスする位無ーよ!」
 空気を読まない男、はやまんがロクでもないツッコミを入れる。
 …うわぁ、コイツ酷ぇ。
 明石の表情も一瞬ひきつった。
 鈍感も過ぎると罪なのな…。俺も人のこと言えないけど。
 「ま、まぁ、参加する面子の内二人はお付き合いしてるんだし、ダブルデートと言えばダブルデートなんじゃない?」
 「俺ぁ認めて無いけどな…」
 じっとりとした目を向ける葉山。
 「何でそんなイジワル言うかなー」
 「俺が去年一年間、どんっっだけ緋月の視線(プレッシャー)に耐えてきたと思ってきたんだよ!これだから鈍感は…」
 うわぁ…、葉山の最後の一言に、明石がスゴい目で葉山を見てる。
 「…ゴシュウショウサマ」
 「心が籠もってねぇ!」
 「…いや、だって…」
 「「「ねぇ?」」」
 俺と明石、加えて緋月の台詞がハモった。
 「何で!?」
 葉山が抗議するが、奴の言葉を聞く者はいなかった。






689 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:56:38 ID:eE7Ry3FM [11/15]
 その後ゆるゆると授業を受け、俺は放課後もまたゆるゆると過ごしていた。
 「…御神くん、一緒にかえ…」
 「御神センパイ!料理部に助っ人お願いします!」
 「ん~、良いよ~、でも俺なんかで皆の助けになるかなぁ?」
 「何言ってるんですか、先輩くらい料理できる人ウチの学校にそうは居ませんよぉ」
 「持ち上げるねー。まー、そこまで言わせちゃったら来ないわけにもいかないかー」
 「「「ありがとうございまーす」」」
 「んじゃ、そう言うことだから、緋月またねー」
 「………御神くん」

 料理部部室(家庭科室)にて

 「んーと、そこはもっとこう手早く軽快な感じでー」
 「はい、センパイ!」
 「あ、そんな力入れちゃダメだよー。趣味の料理なんだし、もっとお気楽極楽にね」
 「オレ、彼女に手料理作るためにこの部に入ったです!アイツが『イマドキ料理もできない男なんてダサい』って言うから…!」
 「なら、その相手のことを考えて作ってみると良いよー。それだけでも、楽しくなって色々出来ることが見えてくるし。…今朝の俺がそうだったようなそうでなかったような」
 「そう言えば御神君!御神君が女の子と付き合いだしたなんてウソよね!」
 「…あ、それホント」
 「そんなァ!今『御神×葉山』本を書いてるのに!」
 「ええっと…、どこにそんな需要が?」


690 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:58:12 ID:eE7Ry3FM [12/15]
 部活時間終了後
 「うーん、今日もゆるゆるした一日だったなぁ」
 「…どこがですか?」
 料理部の皆さんと一緒に家庭科室を出ると、後ろから恨めしげな視線が。
 「もしかして待っててくれたのー?」
 振りかえると、予想に違わず緋月がいる。
 あまりの負の念に、料理部員や他の生徒が軽く引いている。
 「…見てました、ずっと」
 「ウン、何と言うか、ゴメン」
 部活時間中ずっとほっぽっちゃってたからなぁ…。
 「…そんなに女の子に囲まれたいんですか?」
 「人をジゴロみたいに言うなよー。大体、彼女持ちがそんな願望抱くと思う?」
 「…お母さんが言っていました。恋人とは蝶のようなもの。その美しさにどれだけ魅了されても、つなぎとめておかなければすぐにどこかへ行ってしまう、と」
 「独特なカンジで人差し指を掲げて言うあたり、お前も好きだね。その手のネタ」
 大仰なBGMが欲しいところだ。
 緋月の瞳からハイライトが消えていなければ、だが。
 「…となればこの部活、潰すしか…!」
 「逆に潰されるパターンだよな、お前の体力的に」
 「うう…」
 否定できないのか、黙り込む緋月。
 「でも、本当にゴメンねー、不安にさせて」
 くしゃ、と俺は愛おしげに緋月の頭をなでる。
 「…安い台詞、なのです」
 「埋め合わせは、必ずするよ」
 「今して下さい」
 「時々鋭いよな!」
 今回の緋月は、中々機嫌を直さない。
 放っておかれたのがよほど嫌だったのだろう。
 いやまぁ、緋月の言うことも分からんでも無い。
 愛して欲しい相手が他のことにかまけていると、実際はどうあれ、まるで相手から愛されていないような気になってしまうものだ。
 ウチは片親で、昔から親が留守がちだったから、その気持ちはよくわかる。
 今朝の夢では無いけれど。
 「分かった。何が欲しい?」
 「御神くんが」

691 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:58:35 ID:eE7Ry3FM [13/15]
 瞬時に切り返した緋月の言葉に、一瞬言葉に詰まる。
 …うん、聞いてる方が恥ずかしくなる台詞をナチュラルに言ってくれるよな。
 「俺はもう上から下までお前のモンだよ。特にご飯とかご飯とか!」
 俺は照れをごまかすため、ことさらにおどけて言った。
 「なら、その証拠を見せてください」
 「何を!?」
 「…キス、してください」
 …まったく大胆な。
 いや、相変わらず頑張りすぎな。
 まぁ、どっちにしても恥ずかしい台詞を言わせちゃったのは俺が悪いわな。
 今回といい、告白の時といい、何のかんので彼女にリードされっぱなしな気がする。
 お前にリードされっぱなしなのは、これっきりにしなきゃな。
 俺は返事の代わりに少し身をかがめ、自分の唇と緋月の唇を重ねる。
 柔らかい、と当然の感想。
 あまりに心地よい感触に、一瞬我を忘れそうになる。
 て、言うか忘れた。
 主に理性を。
 そして、理性を失った欲望が緋月の奥を求める。
 「…!」
 いきなり俺の舌が口の中に侵入してきて、緋月が驚きに目を見開く。
 けれど、それを拒絶することなく、自分の舌とからめる。
 何分そうしていただろう、と思った時にふと気がつく。
 濃密な触れ合い。
 この会話は、部活終了直後から始まっているわけで。
 周りには料理部の皆さんだけでなく、他の生徒もいるわけで。
 そして、彼らは俺らの姿をガン見してたりするわけで。
 「…」
 「…」
 ええ、もう。
 それに気付いた時には恥ずかしさで悶絶しましたよ、二人して。













692 名前:ヤンデレの娘さん 交際の巻[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:59:02 ID:eE7Ry3FM [14/15]
 おまけ あるいはその夜の通話記録
 「チュー!?ディープなチュー!?それも白昼堂々公衆の面前で!?アタシはみっきーのことそんなやらしい娘に育てた覚えはありませんザマスよ!」
 「ななななな!?炊きつけたのは朱里ちゃんじゃないですか!?『泥棒猫たちの前でキスの1つでもかませば排除完了っしょ!』ってぇ!?」
 「はっはっはっ!そぉんなジョークを真に受けるなんて、みっきーも素直すぎて笑っちゃうな!」
 「明らかに『やれ!』的な流れでしたよ!」
 「でも、ヤじゃ無かったでしょ?
 「…それは、そうですけど」
 「だったら終わりよければすべてよし!」
 「…。…ところで、そちらはどうだったんです?」
 「ウン、お陰さまで久々に正樹と一緒に二人きりで帰れたよ。それもこれもみっきーが御神を引きつけてくれたお陰だね!アイツ、いつも御神と帰ってたんだもの、男同士で何が楽しーのやら。」
 「…私も、あの後なし崩し的に一緒に帰れましたから。…恥ずかし過ぎてほとんど会話ありませんでしたけど」
 「アハハハハハ!」
 「笑いすぎですよぉ!」
 「いやぁゴメンゴメン。お互い権謀術数の限りを尽くしてるのにウブでウブで…。こっちも、キンチョーしちゃって気の聞いた会話なんて全然だったよ。…笑っちゃうよね。裏じゃ正樹に胸キュンな女子を噂使って引き離したりと汚いこともしてるのにさ」
 「…でも、それは…」
 「ま、そだね」
 「「それだけ好きだから」」
 「…ねぇ、朱里ちゃん」
 「何、みっきー?」
 「これからもがんばりましょう、お互いに」
 「だね」

 通話終了