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164 :ウェハース第六話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/15(水) 23:23:44 ID:aOHfBpVC

テスト日程が全て滞りなく進み、全科目の答案が返された。
テスト返却、教室には憂鬱な表情の奴もいれば、満足な表情の奴もいる。

「おい、神谷。これはどういった事だ」

「ああ、俺にも不思議で仕方が無い」

机上に並べた僕の答案に、僕と平沢は目を疑っていた。

「平均点未満が一つも無くて、英語に関しては七割越え?神谷、てめえタカシの事忘れたのか」

「ビビリの俺がカンニングなんてするかよ」

カンニングと聞くとタカシと蟹を思い出すのは僕だけではなかったようだ。

「……、だよなあ。ちくしょう追試は俺だけかよ」

肩を落とす平沢を慰める。世界史を落としたらしい。

「でもスゲェな、お前実は勉強に目覚めたとか?」

「いや、藤松と何回か勉強したぐらいか?」

僕はもう藤松さんに『さん』を付けなくなっていた。本当は名前で呼ぶのが普通なんだろうけど藤松さんに注意されない限りこう呼んでいる。

「はあ、いきなり何を言い出すかと思ったら……。おい、神谷。お前……」

平沢が何かを言おうとした時、肩を叩かれた。

「真治君、テストどうだった?」

「おっす、藤松。おかげさまで赤点無しだ!」

「あはは、目標低いなー、真治君」

「……」

机の上に散乱している答案を纏めて、藤松さんに見せる。
藤松さんは感心しながら答案に目を通していく。気付くと、その動作を平沢は険しい表情で見つめていた。

「へぇ、ホントだ。でもさこれ赤点っていうより平均点未満が無いね」

微笑みながら藤松さんは机の上で答案をある程度纏めてから僕に返す。

「二週間前から意識して勉強したらもっと伸びるよ」

そう言ってウフッと笑う彼女がものすごく頼もしく見えた。なぜか唇にばかりに視線が行ってしまう自分が情けない。

「あー、オホン!藤松さん、悪いけど今日はコイツ借りてくぜ?」

そう言って平沢が肩を組んできた。

「えっ?」と藤松さんは驚く。

「それ聞きに来たんだろ?悪いね、最近コイツ付き合い悪いんだよね。おい神谷、今日ぐらいは俺を慰めてくれよ」

平沢は目配せする。そういえば最近藤松さんに掛かりっぱなしで平沢と遊んでいない。

「ああ、そうだな。悪い、藤松今日はコイツに付き合う」

「そう。でも今日は穂波ちゃん迎えに行くんじゃないの?」

藤松さんは薄い笑みを浮かべながら平沢を見ながら僕に言う。

「今日は午前で終わるし、コイツとブラブラして時間潰してから行っても大丈夫だよ」

「そうなんだ、分かった」

彼女は表情を曇らせる。なんだか一緒に帰れないだけでここまで落ち込んでくれるのは少し嬉しい。
それから藤松さんは僕を顔を見つめた後、平沢に微笑んで席に戻っていった。

「お前ら、仲いいな」

平沢はニヤニヤしながら僕の肩を殴った。僕は少し躊躇って、うるせえ、と平沢の肩を殴った。




165 :ウェハース第六話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/15(水) 23:24:14 ID:aOHfBpVC

テストが終わって、明日は土曜と来たらもう学生としては遊ぶしかない。
地元までは同じなので平沢とは駅も同じだ。

「サイゼで飯でも食おうぜ」

平沢のリクエストでのファミレスに寄る事になった。
昼食を食べ終え、僕が二回目のドリンクを補充して帰ってくると平沢が神妙な面持ちになっていた。

「どうしたんだよ、なんかあったのか?」

「藤松さんはあんなに笑う人だったけなと思ってさ」

やはり、そうなのだろう。藤松さんはよく笑うようになった。
それは感覚的にも、動作からだって分かるレベルだ。
変わってきているのか?分からない。まだそこまで彼女の今までを知らない。
そう、僕はまだ知らない、彼女が僕に引かれた理由も、彼女が僕に尽くしてくれる理由も。

「人が嬉しそうに笑ってる顔ってのは見てて楽しいけど、藤松さんほどの人の笑顔になると……、なんか、こう胸に迫るものがあるよな」

ただただ、同感するだけだ。人を惹き付ける人。平沢にしたって、藤松さんにしたってそう言った魅力がある。
僕には無い魅力が。

「何にしたって、お前にしちゃ上手く立ち回ったな」

「何もしてない、向こうが勝手に惚れて、尽くしてくれてるだけだ」

「そういうのを、上手く立ち回ったって言うんだよ」

そういうものだろうか。

「ところでさ」平沢が話を切り返す。

「お前さ、藤松さんからなんか俺に関して聞いてる?」

別に、とだけ答える。思い当たる節は無い。それから続けて「例えば?」と聞き返す。
平沢は少し困った風に笑うと「うーん」と歯切れが悪い返事をする。

「何だよ、はっきりしないな」と本心を告げる。

「あー、うん。まあ仕方ないか」

勝手に納得する平沢、何なんだ一体?

「神谷、俺お前の彼女から嫌われてるわ」

はぁ?と僕はクエスチョンマークを浮かべる。平沢はメロンソーダを一口飲むと腕を組んだ。

「学校でさ、お前と一緒にいると睨まれるんだよね」

学校で僕といると?僕は聞き返した。

「ああ、今日の学校の時みたくお前と喋ってる時に藤松さんを見たらスゲー睨んでるんだ」

睨んでいるというのは凶相の一種だ。人に向けるようなものではない。それも藤松さんほどの人が他人対して見せるものではない。

「でもさっきは笑ってたじゃないか」

分かってねえな、と平沢。

「目が笑ってねえんだよ、あいつ」

ついにはアイツ呼ばわりだ。
平沢は人を見る目はあると僕は思っている。今までだって、そうだったのだから。

でも、どんな事にだって例外や間違いはある。今回もそうかもしれない。用は僕がそこを見極めればいいんだ。

「悪い事は言わない、用心しろ。アイツは、藤松は難しい」

気を使ったのか平沢は藤松と言い直す。

「ああ。たまにそう思う」

これは正直な気持ちである。




166 :ウェハース第六話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/15(水) 23:24:48 ID:aOHfBpVC

分からない理由が山積しているが、でも今はなぜ平沢を嫌っているのか気になる。
ちょっかいを出したわけでも、嫌悪感を露わにして彼女を刺激したわけでもない。

じゃあ……、何をした?
平沢は気が置けない人以外には滅多に本音を見せる事はない。
だから滅多に人と衝突することも無い。
というか、基本的には人当たりがいいので衝突しているのは見たのは教師達ぐらいだ。
だとすると、単純に藤松さんが平沢の事が嫌いなだけ?何もされていないのに?

それもありえない。そんな事で人を嫌いになる人ではないのが僕にだって分かっている。
やはり考えれるのは平沢の何らかのアクションが彼女の気に障った、ぐらいか?

「平沢が……何かしたってのは、無いな」

口に出してみたが、やはりそれも考えられない。

「当たり前だろ」と平沢は苦笑する。

聞いてみるのが早いか。僕に解決できる問題ならそれを正せばいいだけの話だ。
しかし、頭が痛い。仲のいい友人と交際中の人が仲が悪いなんて、気まずい事この上ない。

「眉間に皺が寄ってるぜ?」

問題の当人でもあるコイツがこんな調子だから、やはり頭が痛い。

「何にしろ、お前が選べよ」

「何が?」

「藤松さんの気持ちを知ろうとするか、どうかだよ」

そんなの……。

「そんなの、知りたいに決まってるだろ」

平沢は溜息を吐いて、人差し指を眉間に当てて少し何かを考えているように見せた。本当に分からない奴だ。

「難しいだろうな」平沢は溜息を吐きながら、一緒に言葉を吐き出す。

「何を考えているか分からない奴を相手にするのは、難しいぞ」

「それなら俺は慣れてる。お前のおかげでな」

なんだよ、それ、と平沢は呆れた顔になる。
やはり気付いていなかったのかコイツ。

「少しは……、気にしたほうがいいよお前」

「そうかなぁ、俺ってそんなに重いか?」

「重い?」僕は思わず聞き返す。

「ああ、だって今の『難しい』っていうの藤松さんと一緒に考えたんだろお前」

それはそうだけど、僕は言葉を詰まらせる。そういう意味だったのか?

「だったらそういう事だよ」

頭を抱えてしまう。『重い』って何なんだ。

「なあ、重いってどういうんだ?」

まずは小さなことから始めよう。そこから、そこからでも遅くは無い筈だ。

平沢と分かれたのは五時過ぎだった。保育園に迎えに行くには充分な時間だ。
保育園に向かうまでの間、藤松さんの事を考えていた。
僕は付き合っている人のことを何も知らない。おかしな話だ。




167 :ウェハース第六話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/15(水) 23:25:08 ID:aOHfBpVC

空は微かに赤みを帯び始めていた。

「今日は晩飯何にしようかな?」

囁く程度の声で考えてもいない事を口にする。

頭の中は分からない事だらけだ。この三週間ぐらいでここまで問題に抱えるなんて、迂闊にも程がある。

保育園に着くと、やけに騒がしいのに気が付いた。
保育園に入り、いつもの保母さんに迎えに来た事を告げると保母さんは二人の名前を呼んだ

「穂波ちゃん、小町ちゃーん。真治君来たわよー!」

驚いて間もなく穂波を連れて制服姿の彼女が来た。

「えっ!?なんで?どうして!?」

藤松はウフッと笑って、手を繋いできた穂波に目配せした。穂波も笑っている。

「さっきね、たまたま通りかかったら穂波ちゃんに見つかって…」

「ほなみがね!あそぼーってさそったの!!」

「さそったのって、お前……」

あらあら、と年配の保母さんも上機嫌な様子で話に加わる。

「穂波ちゃんの知り合いらしいから園内に入れたのよ。可愛い子だったし、みんなにも気に入られたみたいだしね」

可愛い子は必須条件だったのだろうか?

「よかったの?」

「ええ」と微笑を湛えたまま彼女はじゃれる穂波をあやす。

「おにいちゃん、帰ろう?」

「えっ?ああ、それじゃあ僕らはこれで」

「はいはい、またね穂波ちゃん」

穂波が手を振ったのを見て僕は保育園を後にした。
すぐに追いかけてきた穂波と手を繋ぐ。
穂波の左手には藤松さんが手を繋いで、右手は僕を繋げている。穂波は嬉しそうにしているのを見て自然と頬が緩んだ。

「じつはね、お昼ご飯の材料買いに行った帰りにたまたま通りかかって、穂波ちゃんを見つけたの。それで挨拶ぐらいに済ましておこうって思ったんだけど、ついついね。遊びすぎちゃった」

苦笑いを浮かべる彼女に穂波は面白かったねえ、とフォローのつもりなのか言葉を掛ける。

「藤松さんに落ち度は無いよ、保母さんもああ言ってたし」

「ねえねえ!おにいちゃん!!」

そう言って穂波が僕の手をぐいぐいと手を引っ張る。

「今日、おねえちゃんとよるごはん食べたい……」

穂波は上目遣いで訴えてくる。藤松さんの方を見ると僕を心配そうに見つめていた。
多分僕が来る前にもう穂波が彼女に先約を告げていたのだろう。

「いいの?藤松さん」

穂波は次に彼女の方を見上げる。

「うん、さっき約束したもんね?穂波ちゃん」

「うん!!」

穂波の笑みが眩しい。

「じゃあ、ほなちゃん、家まで競争しようか!」

「うん!するー!!」

僕は藤松さんに鍵を渡すと二人は駆け出した。楽しそうな二人を見て思わず心が和む。

それにしても……。

「それにしても、材料買わなかったのかなあ」