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180 :ヤンデレの娘さん 恋敵の巻 [sage] :2010/09/16(木) 23:38:18 ID:gqlJWWuV
 少女には、片思いの相手が居た。
 その相手は料理部にしばしば助っ人に来てくれる二年生の先輩。
 御神千里(みかみせんり)
 一見すると眠そうな目元の持ち主で、実際居眠りの常習犯らしい。
 けれど背は高く、容貌は悪くない。
 「分からないコトとかあったら言ってねー、協力するからさー」
 いかにも気楽そうに、間延びした口調でそう言って―――料理のことにはズブの素人だった少女に、一生懸命親身になって教えてくれた。
 その時の嬉しさが、恋愛感情に変わるのにさほど時間はかからなかった。
 学年が離れている上、掴みどころのない人なので、アプローチは難しかった。
 何やら最近彼女が出来たとかいう話があるが、そんなことは関係ない。
 あんな地味っ子よりも自分の方が容姿面で優っている―――筈と彼女は思った。
 『たとえ付き合っていたとしても』
 と、少女は思う。
 『チューして押し倒しちゃえば、御神先輩であろうとどうにでも籠絡できるのですよ!』
 案ずるよりも産むが易し。
 当たって砕けろ、レッツ告白!
 と、言うわけでこの放課後、少女は御神先輩に告白しようとドキドキワクワクしながら、呼びだした彼の元に向かっていたのだが―――
 「…河合直子さん」
 少女こと、河合直子はいきなり背後から話しかけられた。
 「…一年三組出席番号三番、血液型B型、身長175cm、体重45キロ、得意科目は理科、苦手科目は数学、そして―――ここの所やけに2年生の先輩であるところの御神千里くんに色目を使う河合直子さん」
 ささやくようなか細い声音はまるで幽霊。
 直子は恐る恐る振りかえった。
 窓から差し込む夕焼けに照らされた、1人の少女が居た。
 真っ白な肌。
 触れれば折れてしまいそうな、小柄で華奢な体躯。
 今時珍しい、腰まで届くほどの長い黒髪。
 そして、その瞳には、逆光のせいか一切の生気が宿っていないように見える。
 先輩と付き合っているという噂の、件の地味娘である。
 名前は確か―――
 「…緋月三日(ひづきみか)…」
 「…先輩、をお忘れですよ。河合後輩」
 そう言って、彼女は一歩近づく。
 ズッ、と何かを引きずる音。
 「…ご存知、ですよね?私と最愛の御神くんが名実ともに永遠の愛で結ばれていることを。事情通情報通のあなたのお耳に入らないはずがない。
 …それなのに、何かにつけて御神くんに接触したり密着したり揚句の果てには腕を絡ませたり。無神経―――の一言では説明できませんよね?
 …その上、今日は御神くんを空き教室に待たせてどうしようと言うのです?まさか、愛の告白、なんて言いませんよね?」
 怒りもせず、笑いもせず、緋月三日は言う。
 「そうだ、と言ったら?」
 不敵な笑みを顔に作り、直子は言う。
 「私はあの人に恋をしている!抑えきれないほどの激情が、この胸で暴れてるんですよ!それを『恋人がいるから』なんて理由で止められてたまりますか!
 大体、あなたみたいな地味な人、先輩の恋人にふさわしくないんですよ!先輩にはもっと明るく華やかで胸の大きい女がふさわしい!おや、どこかにそんな女が居た―――と思ったら私でした!」
 勢いのまま、直子は目の前の少女に向かって激情を吐きだした。
 「そうですか…」
 それに対し三日は何ら動揺する様子も見せず、直子に近付き、手に持ったモノを両手で正面に向け―――ることはできなかったので肩に担いだ。
 「…河合さん、あなたの気持ちは痛いほど分かる。それでも私は、あなたを許さない」
 言って三日は手に持ったモノを振りおろした!


181 :ヤンデレの娘さん 恋敵の巻 [sage] :2010/09/16(木) 23:39:07 ID:gqlJWWuV
 ド!と重い衝撃が廊下にたたきつけられる。
 それは大鉈だ。
 こんなものが当たれば怪我では済まない。そんなものを、この女は直子に向かって躊躇なく振りおろした!
 当たりこそしなかったものの、直子の本能が警鐘を鳴らす。
 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!
 咄嗟に走り出す直子。
 「フハハハハハ!その武器がどれほど強力であろうとも、逃げ切ってしまえば、告白さえしてしまえばよいのです!勝ちなのです!!」
 ブン!ブン!と走る直子の背に、空振った鉈が振るわれる音が聞こえる。
 階段を全力でのぼり、廊下を走る。
 全力で走るさなかにも、ズ、ズ、という鉈を引きずる音が聞こえる。
 不運なことに、直子は運動のできるタイプではなかった。
 すぐに息が切れてしまう。
 「だ、駄目…。もう無理…」
 そして、不運なことに彼女はヘタレだった。
 いくばくか走ったところでとうとう足を止めてしまう。
 そうしているうちにも、ズ、ズ、と鉈を引きずる音が聞こえる。
 ほとんどホラーである。
 直子の脳裏に、大鉈で切り殺される自分の姿が浮かぶ。
 ズ、ズ、という音が少しずつ近づいて来る。
 どこまで近づいてきているのだろう。
 振りかえりたくなる衝動。
 振りかえりたくないという恐怖。
 悲鳴を上げずにいられるのが、直子自身でも不思議だった。
 そうこうしているうちにもズ、ズ、という音が近づいていき――――止まった。
 止まった。
 もう、「しーん」という擬音が欲しいぐらい完璧に。
 恐る恐る直子が振りかえると、そこには三日がいた。
 ただし、自分と同様に足を止めた三日が。
 いや、直子よりも酷いかもしれない。
 三日はその場にぺたりと女の子座りをし、頬を上気させ、空気を求めて喘いでいる。
 まるで事後、というよりは全力疾走した後のようだ。
 いや、実際したのだろうが。
 弱りすぎにも程があった。
 「緋月三日―――先輩?」
 思わず怪訝そうに言う直子。
 「…な、鉈が…鉈が、重くて…」
 息も絶え絶えに言う三日。
 確かに、直子と違って三日の手には鉈がある。
 あんな細腕でよくこんな大きな鉈なんて振るえたものだと思ったが―――やっぱり細腕だったらしい。
 「・・・」
 どうしよう、と直子は思った。
 今ならこのまま三日を見捨てて御神の元にたどり着くのは簡単そうだが、そうすると妙な罪悪感が生まれそうな予感がした。
 たとえるなら、自分が獅子なのに脆弱で病弱な子ウサギどころでない小動物を相手に全力を尽くしてミンチになるほど叩き潰すような感じだろうか。
 「こーら」
 その時、間延びした口調の救世主が現れた。


182 :ヤンデレの娘さん 恋敵の巻 [sage] :2010/09/16(木) 23:39:43 ID:gqlJWWuV
 直子の想い人、そして三日の恋人の御神千里である。
 「御神先輩!」
 直子は思わず叫んだが、御神はあっさりそれをスルーし、一直線に三日の元に向かう。
 「河合さん待ってたら、廊下が騒がしくなったんで来てみたら…」
 ひょい、と御神は三日の手から鉈をとった。
 「駄目だろー、ひづきん。こんなモノ盗み出して、その上後輩追っかけ回したりしちゃぁ」
 論点がズレてるのか、合っているのか分からないお説教をかましだす御神。
 って言うかこの光景だけで何があったか分かるのかと。
 「…で、でも、御神くんを惑わす雌狐は…しっかりきっちり排除しないと…」
 息も絶え絶えのままそう言う三日。
 「お前の場合さー、排除するんじゃなくてされる側だろ?元々そんな某ひ○らし的大鉈なんてまともに扱う腕力なんて無いんだし、河合さんがちょっと本気だしたら返り討ちっしょ?」
 そう言えば、さっき大鉈を振るった時もかなりフラフラだったような気がする。
 良く考えれば、振りおろしたのも、むしろ肩から落っこちたようにも見えたし。
 怖がる必要は無かったのかと色々と複雑な気分になる直子である。
 「ええっと、河合さん。そちらは大丈夫?コイツに何かされてない?ってか、コイツに何もしてない?」
 と、そこで初めて御神は直子の方を向いた。
 「あ、はい、声掛けられて目の前で鉈振られて追いかけられただけで、大丈夫です。あと、緋月先輩には何もしてないです」
 まだ半ば混乱しながら、直子は言った。
 「そりゃ良かった。お互いにとって」
 それはそうだ。
 「河合さん、本当にごめんね。緋月の迷走を止められなかったのは俺の責任だ。コイツの分まで謝らせて欲しい」
 そう言って、(珍しく)真面目な口調でペコリと頭を下げる御神。
 「い、いえ、それは良いんです!いや、良くないけど良いんです!」
 ぶんぶか手を振って言う直子。
 そして、半ば勢いのまま言葉を続ける。
 「先輩!私、御神先輩のこと好きです!好きです!大好きです!超愛してます!だから付き合って下さい!」
 それは、御神にとっては超展開以外の何物でもなかっただろう。
 一瞬、面喰ったような顔をしたが、すぐにいつもの調子で言った。
 「ゴメンね、その気持ちは嬉しいやなんでもない」
 じーっと緋月が見つめるので言い直す御神。
 「俺、コイツの恋人だから」
 と、緋月を指さすのである。
 「なら、別れるまで待ちます!いつまでも待ちます!」
 「悪いけど、向こう100年位別れる予定無い。って言うかコイツが離してくれそうにない」
 「無理矢理付き合わされてるんですね!なら私が解放してあげます!って言うかそいつ抹殺します!」
 「ゴメン、そしたら俺、即君の敵になるや」
 そう言って、御神は緋月の体を持ち上げた。
 いわゆるお姫様だっこである。
 「障子紙より弱いくせに思いっきり頑張る方向間違えて人に迷惑かける奴だけど、それでも可愛い所あるから」
 そう、えらく幸せそうな顔で言うのである。
 「だから、君とは付き合えない」
 御神からの最後の言葉に、直子の恋心はボッキリと折られたのであった。











183 :ヤンデレの娘さん 恋敵の巻 [sage] :2010/09/16(木) 23:40:10 ID:gqlJWWuV
 おまけ

 数日後

 「ふははははは!この河合直子、一回や二回フラれたくらいで諦めてなるものですか!恋心は死なんよ!何度でも蘇る!なのです!」

 「…御神くん、アレ殺しちゃダメですか?」

 「……止めときなって」