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463 :ウェハース第十話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/26(日) 19:01:55 ID:TClGu358

携帯のデジタル表記で九月一日の午前三時。
大学生未満の学生なら確実に憂鬱な気分になるであろう今日、僕はこの前から続く憂鬱を作る原因に頭を悩ませていた。

暗い、光といえば月光ぐらいの自室のベッドの上で夏休みの内にあった事を思い出す。

あれから暇があれば僕か彼女の家にいた。
それは彼女があれからずっと僕と一緒にいたという意味で。

彼女は家に帰り、眠り、朝食を済ませるとすぐに僕の家に電話を掛けてきた。

携帯では確実性に欠けると判断したんだろう。
あれからたまにセックスはするけど、どれも僕は気が進まなかった。

四日前なんかは外でやった。
映画を見に行った際に、小町が急にトイレに行きたいと言い出した。
やたらと付いて来て欲しいとねだる小町に妙な疑問が浮かんだが、最近の小町の様子から考えて、今に始まった事ではないと思い僕は一緒にトイレに行く事にした。

男子便所に入ると、小町も一緒に入ってきて、そのまま一緒に個室に詰め込まれた。

彼女は最初からヤル気満々でトイレに誘ったのだ。

個室に入ると自ら乱暴に衣服を脱ぎ捨て、小町は僕を誘った。
僕はこんな所ではイヤだ、と言ったのだけれど、小町はもうに臨戦体制に入っていて、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。

『ここで大声出したら、誰も真治の言う事信じないよ?』

乱暴に衣服を脱ぎ捨てたのはそういうシチュエーションを作るためか。と感心してしまった。

その後僕はゴムを二回変えるまで彼女とヤり、放心状態で途中からの映画を見ていた。

もう僕は小町の事がよく分からなくなっていた。その中でも一番分からない事は、小町が僕の子を生む覚悟を決めた事だ。
彼女は思慮深い。
それだけは確かだ。
先のことなんか全然分かっていない僕よりもはるかに優れた視力の持ち主である事は付き合っている僕が一番良く知っている。

その小町があんな安い言葉に乗り、その場で自分の将来に関わる重大な決断をその場で安易に下したのが信じられない。
僕も状況に飲まれていたとは言え、小町は幾分冷静だったはずだ。

彼女は学校が始まってから一週間後に検査薬で確かめてみると言っていたけど、もしそれで反応が陽性であれば、それからどうするつもりなのだろう?

きっと……、彼女はその子供を出産するだろう。
どれだけ反対してもそれを押し切って。
僕はその時どうなるのだろう?ここまで来てやっと自分の事に気が付いた。
それに笑ってしまう。

彼女のその後についてばかり気がいってしまっていた。
僕はその場合、一人の人間の父親になる。
そうなったら、僕は家族からも白い目で見られるようになるのだろう。

『全部私の責任。もしもこれで子供が出来ても、真治は悪くない』

そんなわけが無い。
僕が彼女の膣内に射精したという現実は誰が悪いとか、誰の責任だとか、そういう問題じゃないからだ。
放っておけば、そうなる事を知っていた。
後は結果だけが残る。

受精し、妊娠する。

僕と彼女の遺伝子を受け取った新しい命が出来るだけ。

素晴らしい事でも、奇跡でもなんでもない。
その命の誕生に喜ぶのはきっと彼女だけだろう。
彼女の父親や母親は覚悟決めたとか、もうしょうがないとか、親らしい立派な言葉を彼女に掛けるのだろうけどきっと心の内では小町を呪うだろう。

彼らがあんな所に家を建てたのは彼女と自分達の幸せのためであり、彼女が子供作りのセックスに励むためではない。
子供は彼女の両親から快くは思われないだろう。
可愛くて、手塩にかけてきた自慢の娘が、学校では落ちこぼれのだらしなく自己管理も出来ない男に引っ掛けられ、結果として子供を作る。

親が親ならおろせ、と言うかもしれない。

僕はその時どれだけの人から、非難を浴びるのだろう。
両親、小町の両親、学校の皆、相手方の親戚、穂波の保育園の保母さん……。

数えだしたらキリが無いぐらいの人達に聞いたことも無い非難を浴びるのだろう。
だって相手は自分より小柄で、体重もかなり差がある女性。抵抗できたならするべきだ。
そういう付け入る隙も無い正論で僕の言い訳は論破され、非難されるのだろう。
そうだ、もう何もかも遅いんだ。



464 :ウェハース第十話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/26(日) 19:02:41 ID:TClGu358

九月に入ってもすぐに涼しくなるというわけではなく、緩やかに涼しくなっていくのが日本の気候だ。
四季があるのは珍しいのかも知れないけれど、猛暑とか寒波とかは勘弁願いたい。

僕は暑いのも寒いのも嫌いだ。極端な意見は人の判断を鈍らせるし、話を聞こうともしなくなる。なにより面白くない。
あれから眠れなくてシャワーを浴びてからケーブルテレビで映画を見た。

映画は『カッコーの巣の上で』。僕はこの映画を見たのは三回目だった。結構好きな映画で、自分で借りてきて見ていたのを思い出す。
ジャック・ニコルソンは僕のお気に入りの俳優だ。

しばらくして母さんと穂波が起きてきた。穂波は上機嫌ではしゃいでいる。
小町が来ると昨日言っておいたからだろう。
時折「小町ちゃんまだかなぁ」と僕に確認してきたから間違いない。
今の僕の気持ちとは正反対だなと少し苦笑いをしてしまう。

「あんた」

母さんがコーヒーを置いて、それを機に話しかけてきた。

「あの子にいい加減な事するんじゃないよ」

「ん。分かってる」

いい加減な事とは避妊具をせずに性交渉したり、性交渉の一部始終をフィルムに収める事だろうか?
それならもう後の祭りだな。ここまで来ると他人事に思えてくる。

コーヒーを半分ほど飲んでから、ラップで口を塞ぎ、冷蔵庫に入れた。歯を磨きに洗面所に行くとインターホンが鳴った。

「ほなみが出る!!」

穂波はそう言って飛び出した。
多分小町だろう。
時計を見ると約束の時間よりも十分早かった。
歯を磨いて、ついでに顔も洗う。
鏡越しに見る自分の顔はいつもより老けて見えた。

「珍しく早起きしてると思ったら」

母さんが邪まな笑みを浮かべて僕を茶化す。
うるせえ、と言い捨てて足だけでスニーカーを履いて玄関を出た。

穂波と小町さんが夏休み前と同じように談笑している。
穂波は小町とは夏休みの間にも遊んでいたからもしかしたら夏休み前より楽しい談笑なのかもしれない。

「おはよう、真治」

「おはよう」

出てきた僕に微笑みかける小町さんが少し不気味だった。

「それじゃあね、ほなちゃん」

穂波に見送られ、家を出るとすぐに小町が腕を組んできた。心なしかいつもより密着している気がする。
セーラー服に僕の腕を押し付けているせいか、胸の形が少し変わっている。

「今日のお昼ご飯何にする?」

始業式と言うのは大抵昼前には終わる。
翌日、もしくは来週から始まる新学期に備えて英気を養っておけよと言わんばかりの処置だ。

小町はそれを知っていて、今日の昼ご飯について僕に尋ねてきた。
そういえば最近は一人で昼ご飯を食べた記憶が無いな。

「あのさ……、小町」

嬉しそうな小町に僕は今朝来たメールの内容をそのまま伝える。

「武藤君の退院祝いに行くの?」

しゅんと眉の端を下がり、腕を組んでいた力が少し弱まる。

「うん。夏休みのうちに誘われてたんだけど、平沢と僕の予定が合わなかったから……」

僕が言い終えると、小町は僕の表情を下から覗き込んできた。疑われているのだろうか?
そんな事を思いつつ、僕も彼女の顔を見る。
今日は髪を後ろで束ねていて、すっきりした感じに収まっている。
美人はどんな髪型も綺麗だなぁ、なんて呑気に思っていると小町は薄く微笑んでまた組んでいた腕に力を戻した。

「分かった、今日は我慢する」

時々、今でも彼女が狂おしいほどに僕を愛しているのが冗談だと思えてくる。
出来すぎた人だけど、それが出来無すぎの僕にとっては重い。

ふと、彼女のお腹に視線が行く。

なぁ、そこに誰かいるのか?


465 :ウェハース第十話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/26(日) 19:03:48 ID:TClGu358

学校の始業式は円滑に進められた。
夏休み明けでまだ浮ついている生徒は教師に怒られたりしていたが、この炎天下の体育館の中に誰もずっと居たいわけも無く、校長も自慢の演説もナリを潜め、ものの三十分ほどで始業式は終了した。

「おい、神谷」

体育館用の靴を履き替えていると、平沢と武藤がニヤニヤとイヤラシイ笑顔を貼り付けてやってきた。

「男になったんだな、おめでとう」

平沢が肩を殴ってきた。何で分かるんだろう?

「何がだよ?」

「とぼけんじゃねえ、あの以前よりも増した女性の色気。間違いないだろ」

平沢はうんうんと頷きながら言う。
何が間違いないんだろう。

「まあ、やったのは確かだけど……」

「ほらみろ!」

「すげえな、あの”可憐のマツコ”を落とすなんて」

武藤はなんだか感動しているみたいだった。
誰も小町の本当の顔を知らない。それが少し怖かった。
高圧的で自分の行動に疑いを持たず、良心の呵責も存在しない。

というか、なんだその二つ名は。

「三組の高田夏休み明けに告るって言ってたけど、どうすんのかな?」

「知るかよ。ってか彼氏持ちの女に告る奴って大概性格悪いんだよな」

ふと教室、教室の角を見ると小町がこっちを見ていた。
僕は少し迷ってから、手を振った。小町はそれに笑顔で答える。

それから武藤と平沢に殴られたのは言うまでもない。

※※※

大腿骨と言うのを知っているだろうか?
股から膝までの間にある骨で結構な太さと、長さの骨だ。
人体の中では結構な太さと頑丈さのある骨で、強靭な骨である事が知られている。
武藤が折ったのはその骨で、見事なほどに綺麗に折れていたらしい。
そのおかげで骨の接合も早く済み、退院も早く出来たらしい。

退院祝いの席で武藤の入院した病院にいた一人の看護師とのやり取りについて話を聞いた。
入院から二日目、ボルトを入れる手術からの全身麻酔が切れ、武藤はやっと現実の世界に帰ってきた。

しかし全身麻酔から目覚めるとメラトニンの分泌がよく働かない事があり、目覚めたその日はよく眠れないらしい。
武藤が目覚めたのは午後七時頃で親と少し話すとすぐに面会時間が終わり、いつもより早めの就寝をすることになったらしい。
しかしよく眠れず、かといって寝返りも打てず、三時ごろまで真っ暗な病室の天井を見ていると沸々と尿意がこみ上げてきた。

術後で上手く体も動けず、武藤は渋々ナースコールのボタンを押した。
十分ほどで若い看護師が来た。
茶髪交じりの黒髪で童顔の白衣がよく似合う看護師だったらしい。

彼女に尿意の事を告げると看護師はベッドに設置されていたカルテをペンライトだけで読み、武藤の病状を調べた。

看護師はニコリと笑うと、一度病室を出てからある物を持ってすぐに帰ってきた。

看護師が持ってきた物とは、尿瓶である。

武藤はエロDVDなので得た拙い知識でそれが何なのかを瞬時に理解すると、唾を呑んだ。

『ま、まさか!!高校生なら全員憧れる手取り足取りの白衣の天使の手コキが見れるのか!!』と思い一人興奮したらしい。

しかも看護師の手際が悪く、ズボンを脱がす時妙にその時の脱がし方がエロかったらしい。
武藤はまな板の上の鯉よろしく、もう完全に相手に任せていたらしい。

そして尿瓶にナニを挿入する際瓶の口が彼のナニに少しかすめ、彼のナニは病の床に伏せているというのに空気も読まず見事な勃起をかましてしまったらしい。
不幸な事は重なるもので、尿瓶の口は小さく三日ぶりにフルパワーを発揮してしまった武藤のナニは尿瓶の口を塞ぎ、さらに膨張し口から溢れ出ようと必死に大きくなっていった。

尿瓶の口から外せなくなり、今度は看護師が院内関係者にだけ渡されているPHSで外科にナースコールをするハメになったらしい。
外科医が来るまでの間、武藤は看護師からすっと励まされていたらしい。

「大丈夫です!皮は切らなくて済みそうです!!」

僕らはそれを聞いてファミレスで爆笑してしまった。



466 :ウェハース第十話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/26(日) 19:04:39 ID:TClGu358

武藤の話に大爆笑した後、平沢が僕に尋ねてきた。

「お前、藤松とのセックスはどうだったんだよ?」

僕は曖昧な笑顔を浮かべて、「まぁ、よかったよ」と言うだけだった。

「初めてはどこだよ?」と武藤。

「俺の部屋だよ」

おお、と平沢と武藤が驚きに近い声を上げる。

「結構な数こなしたんじゃねぇの?」

「まぁ、そこそこ」と僕。

すげぇな、と武藤が感心して僕の肩を叩く。平沢の方を見るとなんだかあまり楽しそうではなかった。

「しかし、神谷にあの子がゾッコンだとはな」

「ああ、そうだな」

僕は今、上手く笑えているのだろうか。少し自信が無かった。

目の前にあるメロンソーダには、入っていた氷が溶けて小さくなって浮かんでいた。
全然飲んでなかったんだな。と今になって気付いた。

「おい、神谷」

「うん?」

「この後、空いてるか?」

平沢が真面目な顔で尋ねてきた。

「は?」

「武藤これから通院がしなきゃいけねえんだ。まだ四時ぐらいだし、もうちょっと二人でブラつかねえか?」

武藤は携帯の時計で時間を確認してから、そうだったと僕に頭を下げた。

「じゃあ、そろそろ出るか」

とりあえず僕らはここで別れる事になった。会計を済ませ、武藤の後姿を平沢と二人で見送る。

「テキトーにぶらつくか。金もないし」

僕はその案に頷く。金が無いのはお互い様だ。
しばらく歩いて、駅のロータリーを出た。西日はまだ暑い。

「なあ」

「ん?」

「粕中行かねえ?久しぶりに」

「おう、いいね」

きっとどこでもよかったんだけど、僕らはそこへ行く事にした。
僕らのかつての学び舎に。
校門は開け放たれていた。
まあ部活動があるから当然なんけど、

「ひっさしぶりだな。覚えてるか?二年の時、松田が勉強ノイローゼになってナチスのプロパガンダになったときの……」

「ああ、校門に地図の表記で寺の記号書いた事件な。アイツあれから入院したらしいけど、どうなったんだろう?」

「知るかよ。生徒会長と部活の副キャプ掛け持ちしてて頭ぶっ飛んだ奴なんて今日日珍しいぜ?」

「真面目な奴だったんだよ、あいつ」

僕らは当時の思い出を語りながら当時とあまり変わらない廊下を歩く。
階段を五回登り、三階より上にたどり着く。
古めかしい大きなドアが階段の途中を塞いでいる。
ドアノブを捻ると金属音がしてそれ以上回らなかった。

「ありゃ?」

「閉まってるか?」

掌を見ると埃の玉が付いていた。僕らが卒業してから一度も開かれていないらしい。

「ジャジャーン!」

掌の汚れを叩いて落とすと、平沢が鞄からポケモンの携帯の画面クリーナーストラップが付いた鍵を出した。

「久しぶりだな、それ」

「こんな事もあろうかと、常に忍ばせているわけですよ」

「絶対忘れてただけだよな、それ」



467 :ウェハース第十話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/26(日) 19:05:12 ID:TClGu358

屋上に出るといきなり強い風が吹いてきて、額に光っていた汗を落としていった。

「懐かしいな、ここも」

屋上と言うのは大概フィクションの世界では立ち入り禁止となっているので、分からない人もいるだろうが、結構汚い。
黒いカビに、苔なんてザラだ。
寝転ぶなんてとんでもない。

僕らは学校で配られた保健室だよりのプリントを敷いてその上に座った。
西日はさっきよりも少し角度を鋭くしていた。
グランドからは部活動に励む後輩達の声が響いてくる。

「懐かしいっていいな。行く意味も無い場所に来る意味を作ってくれる」

少しセンチメンタルな気持ちになって、西日を二人で見つめる。このまま映画とかなら違うシーンに変わるのだろうけど、僕は少し恥かしいなって思い、臭いんだよ、と平沢にツッコんだ。
二人で少し笑ってから、また西日を見つめた。僕たちは臭いセリフも、大ボラも大好きだった。
僕らは互いにロマンチストだったからだ。

「なあ」

「うん?」

少し間を置いた平沢は人差し指でコメ髪を掻くと、座りなおした。

「藤松となんかあったのか?」

そのセリフを聞いて、平沢の方を見た。
平沢はまだ夕日を見ていて、西日が表情を照らしていた。
僕は俯いて、何でもないよ、と返す。

「ウソつくなよ。学校で藤松に詰められたんだ」

溜息を吐いて、平沢が続ける。

「もう、私と真治の邪魔しないで、ってさ」

僕は額に手を置いて、溜息を吐いてから平沢に何を言われたか聞いた。

「正直、邪魔者以外の何でもないってよ。アイツ俺が何か言ったら殴る気だったぜ、多分」

「そうか、ごめん」

いいけどさ、と平沢はバツが悪そうにそっぽを向いた。

「アイツとは距離置いた方がいいぜ、神谷。人の彼女にどうこう言うつもりは無いけど、恋人からの束縛は精神的にキツいぞ」

少し分かるような気がする。現に僕は今、ストレスで少し食が細くなってきているのだ。

「ああいう優等生タイプは特にそうだ。人を好きになるのが初めてな場合が多い。そういうのは初恋をどんな事をしても成就させようと必死になる」

「なんだ、やけに詳しいな」

「中学の時に付き合った村田がそうだった」

「あの委員長か。お前にしては随分地味な子と付き合うなぁ、と思ってたけど」

「毎日、朝と晩に無言電話、ストーキング皆勤賞なら俺でも折れるよ」

平沢は苦笑いを浮かべ、懐かしそうに遠い目をする。

「アイツはアイツで必死だったんだろうな」

平沢の呟きに僕はそうかもな、と頷く。
少なくとも、小町も僕との間には何よりも真剣なんだ。

『今はそう思うかもしれないけど、そうなった時はせいせいしたとか、なんであんな奴と付き合ってたんだろう?って思ってるよ』

それなのに僕は彼女にあんなことを言ってしまった。いくら冷静な彼女でも怒るだろう。
相変わらず、僕は大馬鹿者だ。

「なあ、平沢」

一言、どうしても平沢に聞きたいことがあった。

「んだよ?」

「村田とはなんで別れたんだ?」

その後の結末。
平沢は人の気持ちを無碍にはしない。
だからその後の事の顛末が僕にはどうしても気になった。

「親の都合で転校したって聞いてたけど、本当にそれだけだったのか?」

それから平沢は少し黙ってから、僕の問いに答えた。きっと言葉を選んでいたのだろう。

「村田も少し束縛がキツくてさ、俺が別れようって言ったら手首を切っちまった。それから入院して、精神病院の患者になった」

今でもたまに手紙を貰うよ、と平沢は何とも言えない表情を浮かべる。
そういえば村田は中二の三学期から転校が告げられる中三の始業式まで姿を見なかったのを、僕はここにきて思い出していた。



468 :ウェハース第十話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/26(日) 19:05:42 ID:TClGu358

屋上でしばらく二人で黄昏てから学校を後にした。
それから近くにある公園で平沢と別れた。
結局、平沢には何も放さなかった。
というより平沢が深く聞こうとしなかった。
多分平沢なりの気遣いだろう。

全く、本当に人のいい奴だ。

僕はここに来てやっと平沢に言う覚悟が出来てきた。
心の整理とでも言うか、久しぶりに頭がスッキリしてきたからだ。
まずはどこから話すべきなのだろう?
ビデオの事……からの方がいいのだろうか?
事の始めはアレからだし、多分そうだろう。

そんな事を考えながら帰路に着く。
気付けばもう家の前の続く通りにいた。
早いもんだなあ、と思いながら家のリビングから出ている光を見る。
やけに騒がしいな。

今日、父さんは確か飲んで帰ってくるって言ってたよな。
なら今家にいるのは穂波と母さんだけのはずだ。
何か不吉な予感がした。

なんとも形容しがたいけど、確かにした。
鍵を開け、ノブを捻り、帰宅の言葉を告げる。

まず、僕を出迎えたのはリビングから飛び出してきた穂波。声の調子から見てかなり興奮している。

「おにいちゃん、おかえりー!!」

「おう、ただいま」

玄関の靴を見ると、コンバースの見慣れない靴があった。

「誰か来てるのか?」

うん、と穂波が頷きと共に答える。靴の大きさからして、多分女性だろう。

「小町ちゃん!!」

一瞬耳を疑った。するとリビングから誰かが出てくる気配がした。
その人は紺色のTシャツに色も生地も薄いロングスカートを合わせていて、見慣れた綺麗な黒髪を靡かせている。
僕と視線が合うと、穏やかな笑みをつくり「おじゃましています」と言いつつ近づいてきた。

穂波は僕から離れ、小町の足に抱きつく。

「小町なんで……」

僕がそう呟くと、小町はまた微笑んで言った。

「おかえり、真治」