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242 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十六話 ◆AW8HpW0FVA :2010/10/10(日) 18:46:45 ID:mNhTWqXt
第十六話『レッド・ホット・サマーデイズ』

馬車に乗っているシグナムの表情はげんなりとしている。
バトゥの腕に抱き着いて離れないヘカテが目に入るからである。
特にヘカテは、バトゥと目が合うと問答無用でキスしようとするのだから堪ったものではない。
バトゥも何度か目でこちらに合図を送ってくるのだが、シグナムにはどうしようもない。
ここに自分がいなければ、ディープな奴になるのではないかと思ったが、
いてもいなくても、それはまったく関係のないものらしく、
目の前では口付けてちゅぷちゅぷと音を立てている二人の図がありありと広がっている。
というか、実はこれでも遠慮していて、
自分がいなくなったら、さらに凄い事でも始めるのではないかと思えてならない。
そもそも、なぜヘカテがここにいるのだろうか。
式を挙げる時にまた会いましょう、と言って別れた筈である。
どうやって誰にも気付かれずに馬車に乗り込んだのだろうか。
足音どころか、気配も感じなかった。謎は深まるばかりである。
ただ、唯一分かっている事は、知らなかったとはいえ、
貴族の息女を誘拐してしまったという事であった。
困ったな、とシグナムが思いながら、ふと窓の外を眺めてみると、
二人の貴婦人が、身形の悪い男達に囲まれているのが目に入った。
シグナムは馬車を止めると、従ってきた兵達を連れて飛び出した。
「そこの男達、道中での淫らな行為は禁止されているというのを知らないのか?」
その声を聞いた男達は、自分達が兵に包囲されている事に気付き、慌てて逃げ出した。
「大丈夫ですか、お二方?」
シグナムは二人の貴婦人に声を掛けた。
遠くからでは分からなかったが、よく見ると、二人は双子だった。
癖のある栗色の長髪と、お淑やかさを前面に打ち出した様な垂れ目も印象的だったが、
それ以上に目を見張ったのは、ドレスを突き破らんばかりに巨大な胸だった。
巨乳フェチのシグナムは、Hカップはある、と即座に測定した。
その胸でその腰の細さは反則だろうなどと変な事を考えているシグナムを他所に、
「危うい所を助けていただき、実にありがとうございました。
さぞかし高貴なお方とお見受けしますが、どうか、お名前をお教えくださいませ」
と、片方の女が言った。シグナムは、ここで自分の名前を出せばどうなるか、
分かりすぎるほど分かっているので、名乗るほどの者でもありませんよ、と答え、
「お供もなしでこの様な所に、一体どうしたというのですか?」
と、続けた。供も連れずに女二人だけという異常性に、シグナムは事件の臭いを感じたのである。
しかし、返ってきたのは、
「実は私達、父上に黙ってある人を捜しにこの都市まで来たのです」
という、いたって普通のものだった。事件性がない事に安心したシグナムは、
「なるほど、……父親に黙って来たというのは感心できませんが、
誰を捜しに来たのですか?私に出来る事でしたら、力になりますよ」
と、言って、この双子の用件をさっさと終わらせ、親元に返してやる事にした。
それを聞いた二人は、再び同じタイミングでシグナムに頭を下げた。
この辺りは流石に双子だな、とシグナムは感心した。



243 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十六話 ◆AW8HpW0FVA :2010/10/10(日) 18:47:27 ID:mNhTWqXt
シグナムは一度馬車に戻ると、相変らずいちゃついているバトゥ達に、
先に帰っているように、と言っておいた。
本当だったら、馬車に乗った方が早いのだが、中には自重しないヘカテがいる。
見ず知らずの、しかも女性二人を馬車に乗せる訳にはいかなかったのだ。
シグナムが扉を閉めようとした時、ぐぷり、と今までで最も大きい水音が聞こえた。
まさか、と思ったが、もう考えたくもなかった。
馬車を見送った後、シグナム達は政庁に向かった。
政庁には不完全とはいえ戸籍帳簿があり、それを見ればすぐに見付かると思ったのだ。
政庁の門前に着いたシグナムは、二人を留めておき、先に中に入った。
これからやってくる二人の女性に、自分がシグナムであると教えるな、と伝えるためである。
伝え終わった後、シグナムは二人をとある一室に招き、
そこで規則だからという理由で二人の名前を書かせた。
それと平行して、二人が捜している人の名前を聞いた。
しかし、捜し人の名前を聞いた時、シグナムはあからさまに嫌な顔をした。
その名前いうのが、サム・スミスだったからである。
その手の名前は、そこ等中に掃いて捨てるほど存在している。
そんな中から目的の人物を捜すとなると、一生掛かっても見付かるはずがない。
さらにシグナムを悩ませたのが、その捜し人と最後に会ったのは十五年前であり、
記憶がとんでもなく曖昧であるという事だった。
唯一の救いといえば、その人の年齢は現在は二十一歳という事が分かっているぐらいだが、
そんなものは慰め程度でしかない。
面倒臭い事に巻き込まれたと思いながらも、シグナムは微笑みながら、
「姉の名前はルナ・フローライト、妹の名前はセレネ・フローライト。間違いはないですね?」
と、確認のために二人の名前を読み上げた。それが終わると同時に、役人達が帳簿を運んできた。
シグナムは運ばれてきた帳簿の山を前に、鼻眼鏡を掛け、自らに活を入れた。
だが、如何せん情報が少なすぎる。二十一歳のサム・スミスと絞ってみても、
首都のピドナ内で十万人、全国の郡を合わせると百万人もいたのだ。
この時ほど、サム・スミスという名前を憎んだ事はなかった。
このままでは埒が明かないと思ったシグナムは、二人がなにか思い出す事を期待した。
しばらくすると、考え込んでいたルナが、
「思い出しました!確か、そのスミスさんは豪族でした」
と、胸につかえていたものを吐き出す様に言った。
豪族というワードが出た事により、これで多少は減るだろうとシグナムは思ったが、
それでも六万人も残り、相変らず捜すのは困難であった。
シグナムが途方に暮れていると、一人の兵士が走り寄ってきた。
内容は、今まで服従しなかったローレライ家の息女が、ここに来ているというものだった。
シグナムは、フローライト姉妹に、急用が出来ました、と言って部屋から出て行った。
ローレライ家の息女がいるという部屋に向かう途中、偶然フレグとすれ違った。
ちょうどいいとばかりに、シグナムはフレグに人捜しの代行を頼んだ。
「随分と大変なものを抱え込みましたね」
と、面倒臭い事を頼まれながらも、フレグは嫌な顔もせずそう言った。
「まぁ、これも円満に経営していくためには必要なんだよ。役人は好きに使っていいから、
とりあえず、ほどほどにやって、暗くなったら帰ってもらってくれ」
シグナムはそう言って立ち去った。
しばらくしてからシグナムは、フレグの昔の名前がサム・スミスであった事や、豪族であった事、それに現在二十一歳である事だけでなく、以前フレグと話した時の内容を思い出した。
「まさか……な……」
そんな事を思ったシグナムは、その予感を胸にしまい、再び歩き出した。



244 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十六話 ◆AW8HpW0FVA :2010/10/10(日) 18:48:12 ID:mNhTWqXt
ローレライ家の息女ソフィアと相対したシグナムは、敢えて尊大な風を纏いながら、
「お初にお目に掛かる。私がオゴタイ王国の宰相シグナム・ファーヴニルだ。
名族と名高いローレライ家のご息女自らがご出向は、一体どの様な目的で?」
と、皮肉を交えて言った。しかし、ソフィアは顔色一つ変えずに、
「宰相殿も随分と分かり切った事を聞く。私がここに来たという事は、
我が一族がオゴタイ王国に服従するという意味に決まっているではないか」
と、凛とした声で答えた。名族らしく怒鳴り散らすだろうと思っていたシグナムは、
その毅然とした態度に肩透かしを食らったが、それでも態度を崩さなかった。
「以前、降伏勧告を出した際は断ったくせに、
今になって降伏とは、……随分、虫が良すぎるんじゃないかな?」
「確かに、あの時は我が一族は降伏勧告を蹴った。
だがそれは、旧主より授けられた土地を手放す訳にはいかなかったからだ。
しかし、時機を逸して、こうなってしまった以上、我々に残された道は、
厚かましいと思うだろうが、家名を後代まで残すために、降伏するしかないのだ。
それで貴殿が気分を害したのならば、私が一族を代表して謝罪しよう」
「謝罪をしに来たのならば、当主が来て謝るのがしかるべきだと思うが」
「まだ周辺で賊が跋扈している中、当主が無闇に領地を離れる訳には行かないだろう」
シグナムの詰問に、ソフィアは一歩も引く事なく答えた。
そこには、交渉が決裂しようものなら、戦う事も辞さないという覚悟があった。
この手の人間に、シグナムは嫌悪ではなく、寧ろ好感を持つ事が出来た。
その感情が、そのまま胸に沁みたのか、シグナムは尊大な態度を解き、
「まぁ……、我々はまだ一度も干戈を交えた事はなく、そちらから服従を願うのなら、
それを無碍に断る訳にはいかないか。……分かりました、あなた達を受け入れましょう」
と、温言を掛けた。なにはともあれ、こうしてまた一つの大敵が消えた。
「ところで……」
シグナムは、先ほどまでの緊迫した雰囲気から、一転して呆れた表情になった。なぜなら、
「いい加減、トゥルイから離れたらどうかな」
「嫌です」
さっきからソフィアがトゥルイにべったりとくっ付いて離れないからである。
部屋に入った時からこの状態だったが、シグナムはあえて問わず、それを見ない様に、
ひたすら話に集中していたが、遂に我慢が出来なくなったのである。
こうなった経緯をソフィアから聞いたシグナムは、
同じ様な光景を少し前に見たので、激しく砂を吐きそうになった。
「あなたとトゥルイが子供の頃に結婚の約束をした仲だというのは分かりましたが、
時と場合は弁えるべきではないかな、貴族として、人として」
「時や場合など、人間が勝手に考えた概念ではないか。
人間の本能に直接訴え掛ける愛の前に、その様なものは不要だ」
「いや、だからそれを理性で以って抑えるべきなん……むぐっ!」
シグナムに乗じようとしたトゥルイは、その言を封じられた。
ソフィアのディープキスによって。
「ぷはっ……、君はなにも言わなくていいんだ、トム……いや、今はトゥルイだったかな」
「…………………………」
掴み所のない性格であるはずのトゥルイが目に見えて慌てている。
この様なトゥルイを見るのは初めてだった。
黙らされたトゥルイは、顔を赤くしてこちらに救いを求める目を向けてきた。
しかし、ヘカテの時同様、シグナムにはどうする事も出来ない。
まったく、今日は訳あり美女の大安売りでもしているのか、とシグナムはそんな事を思った。



245 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十六話 ◆AW8HpW0FVA :2010/10/10(日) 18:48:48 ID:mNhTWqXt
ソフィアとの会談を終えたシグナムは、半泣きのトゥルイを置いて、部屋から出て行った。
扉越しに二人の声が聞こえる。
「シグナム様、待ってください!二人きりにしないで……」
「やっと二人きりになれたな。……さぁ、これで邪魔者は誰もいない。
思う存分に愛し合おう。君が散々焦らすから、私のここはもう……」
「ちょっ……、待ってくれ!まだ心の準備が……」
「君には出来ていなくても、私は二十年前から既に出来ている。
ふふふっ……、狼狽する君も可愛いな……」
「可愛いって……、だからそんな……うぁあああああ!!!」
シグナムは扉から遠ざかった。同時に悲鳴もだんだん遠ざかっていった。
既に日も暮れ始めている。シグナムは小走りにフレグ達のいる部屋に向かった。
フローライト姉妹に、一緒に捜してやる、とは言ったものの、
六万人の中から目当ての人物を捜し当てるのは、一両日中に出来る様な事ではない。
今日は諦めて帰りなさい、とあの姉妹に告げようとシグナムは思ったのである。
しかし、扉が開いた先でシグナムが見たのは、
フローライト姉妹に抱き締められて眠っているフレグだった。
少し前に浮かんだ予感が、見事に実現したという訳である。
今日でこの様な図を見るのは三度目である。流石にシグナムの精神も擦り切れそうになった。
唯一の救いは、前者の二人に比べれば、フレグのそれは極めてライトなものだった事だ。
これがヘビーなものだったら、シグナムは血を吐いて倒れていたであろう。
正直、このまま起こさないで立ち去りたいとシグナムは思ったが、
事情を聞かない訳にはいかないので、やむなく幸せそうに眠っている三人を起こす事にした。
起こされた三人の内、フローライト姉妹は眠たげな眼でシグナムを見つめていたが、
起こした人物がこの国の宰相であるシグナム・ファーヴニルと知ると、慌てて跳ね起き、
「この国の宰相閣下とは知らず、とんだご無礼を。
私達のこれまでの失言、どうかお許しくださいませ」
と、二人揃って同じ事を言うと、地に額を擦り付けんばかりに頭を深々と下げた。
二人に面を上げさせたシグナムは、なんとなく察しは付くが、こうなった経緯の説明を求めた。
そして返ってきた答えは、大体シグナムの予想通りのものだった。
「フレグの話を思い出した時、まさかとは思いましたが、
やはり、子供の頃に結婚の約束をしたというのは、あなた達の事だったんですね。
それにしても、十五年も前の事なのに、よくフレグがサムだと分かりましたね」
と、シグナムが感心した様に言うと、二人共顔を真っ赤にして、
「直感で……」
「匂いで……」
と、言って、大いに引かせてくれた。気を取り直したシグナムは、
「それで、なぜ今になってここに?」
と、聞いた。すると二人は、相変らずの赤い顔が嘘の様に、
「父上が勝手に私達の許婚を決めて、今日が結婚式だったのです」
「だから、逃げてきたのです」
と、内容の割りに随分と軽い感じで答えてくれた。
シグナムは強烈な眩暈を覚えた。
この後必ず来るであろう、フレグに対する許婚達の問責の使者に、
シグナムは対応しなければならない、と目に見えて分かったからである。
「あぁ……、やる事が溜まっていく。どうでもいい事が溜まっていく……」
と、嘆いたシグナムの予想通り、翌日、
シグナムの許には二人の許婚を名乗る男と、ヘカテの父親が抗議にやって来た。
さらには、その日の政務の忙しさも相まって、
全てが終わった頃には、シグナムは青息吐息の体だった。



246 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十六話 ◆AW8HpW0FVA :2010/10/10(日) 18:49:15 ID:mNhTWqXt
お見合いが終了してから一週間が経った。太陽の光が目に痛い時期になった。
この頃になるとシグナムの政務は通常運転に戻っていた。
しかし、周りでは異常運転が続いている。
例えばある日の余暇、シグナムが城内を歩いていると、ヘカテとすれ違った。
これといって不思議な事でもなかったが、よく見ると、ヘカテの顔は上気しており、
なんとなしに下に目をやると、地面に小さな染みが等間隔で出来ていた。
今、雨は降っておらず、ヘカテは水気のあるものを持っている訳でもない。
シグナムは気付いてしまった。というか、気付かされた。馬車の中で堂々と行なわれた淫行。
あれを思い出せば、その染みの正体がなんなのか、すぐに分かった。
「バトゥのか、ヘカテのか、……そのどちらかしかないな……」
そう考えて、なんでこんなくだらない事が分かってしまったのか、シグナムは自分が嫌になった。
その次が、トゥルイとソフィアのカップルである。
シグナムが朝廷に出席すると、その末席に、なぜかソフィアがいた。
驚いたシグナムは、朝政が終わると、ソフィアに問い詰めた。
するとソフィアは涼しい表情で、
「なぜとは失礼だな。私は降伏の使者であると同時に、
この王朝に仕えるローレライ家の家臣の先駆けでもあるのだから、
朝政に参加してもさして文句はあるまい」
と、さらりと言ってのけた。シグナムはなにも言えなくなった。
朝政の席に、ソフィアが加わった事事態は大した問題ではなかった。
彼女は優秀だった。恐ろしいほどの速さで、政務をこなしていったのだ。
それだけならば、問題はなかった。本当に問題だったのは、
「トゥルイ、子宮が寂しくなってきたから、君の事を食べたいのだが」
と、時も場所も関係なく、とんでもない事を臆面もなくぶちまける事だった。
それだけでなく、政務中にトゥルイとソフィアがどこかにいなくなる時があり、
見つけた時には、イカの臭いを漂わせているのだ。
上記の二人に比べると、フレグはあまり変化がなかった。
フローライト姉妹に会っても地面に染みは出来ないし、フレグからはイカの臭いも漂ってこない。
「お前が一番まともな相手を見つけたかもな」
と、シグナムは偶然出会ったフレグに言った事がある。一番まともと言ったが、
それはヘカテやソフィアに比べればであり、フローライト姉妹も十分異常であった。
フレグは笑いながらシグナムの愚痴を聞いていた。
「それでは、僕は仕事に戻ります。また後で」
愚痴っていたら、かなり時間が経っていたらしい。フレグは一礼して、走り去った。
走り去るフレグの背中を見つめながら、シグナムは奇妙な違和感を抱いていた。
フレグは、自分を僕と自称した事があったか、というのが違和感の正体だった。
その違和感を覚えてから三日後、一通の手紙がシグナムの許に送られてきた。
その内容は、バトゥ等の合同結婚式の招待状であった。
お見合いをしてから十日で、三人はゴールインしたのである。開催日は、四日後だった。
ついでに余談だが、実は結婚式当日に一通の手紙が送られたのだ。
内容は、ハイドゥの死亡を伝えるものだったが、
シグナムが会場に向かうのと入れ違いに届いたせいもあり、
その手紙は書類の下に埋まり、後には消失し、永遠に誰にも見られる事がなかっただけでなく、
他殺なのか、事故死なのか、ハイドゥの死をも永遠に分からなくしてしまった。
まぁ、余談だから別にいいのだが。



247 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十六話 ◆AW8HpW0FVA :2010/10/10(日) 18:49:58 ID:mNhTWqXt
結婚式に出席したシグナムは、自らが神父をやる、とバトゥ達に言った。
喜ばしい席なのだから、上司である自分が誓詞を述べたい、と言うのが表向きだが、
本当の理由は、緩みに緩みまくっているバトゥとトゥルイの嫁に、
この場で諫言を込めた誓詞を送ってやろう、という企てがあった。
三人は、シグナムが神父役を買って出てくれる事に甚く感動し、涙ながらに了承してくれた。
そして、その時が来た。壇上に立ったシグナムは、スーツやドレスで着飾った七人を見渡した。
咳払いを一つしたシグナムは、先ずバトゥとヘカテに目を向けた。
「バトゥ・サインハン。汝はヘカテ・ハルクラテスを妻とし、
神の御定めに従い、清き婚姻を結び、共にその生涯を送る事を誓うか?
汝はこの女性を愛し、慰め、敬い、支え、両人の命ある限り、
一切の心変わりをせず、この女性の夫として操を立てる事を誓うか?」
「誓います」
「ヘカテ・ハルクラテス。汝はバトゥ・サインハンを夫とし、
神の御定めに従い、清き婚姻を結び、共にその生涯を送る事を誓うか?
汝はその男性との生活において、場の空気を読み、恥じらいと慎ましさを持って、
一切の心変わりをせず、この男性の妻として貞操を守る事を誓うか?」
「…………」
ヘカテは相変らずなにもしゃべらなかったが、取り合えずその沈黙を了承と受け取り、
次にシグナムは、トゥルイとソフィアの方に向き直った。
トゥルイへの誓いの言葉は、バトゥの時と同じである。問題はソフィアであった。シグナムは、
「ソフィア・ローレライ。汝はトゥルイ・ダマスクスを夫とし、
神の御定めに従い、清き婚姻を結び、共にその生涯を送る事を誓うか?
汝はその男性との生活において、とにかく自重の上に自重を重ね、さらにその上で自重し、
一切の心変わりをせず、この男性の妻として貞操を守る事を誓うか?」
と、とにかく自重という言葉を強調した。
「当然だ」
自信満々に胸を張って言うソフィアに、シグナムは不安を感じたが、それは表に出さず、
最後にフレグとフローライト姉妹に目を向けた。
この三人に対しては、特に言う事がないので普通の誓詞となった。
これで、シグナムの言葉は終わりだった。続いて新郎新婦の誓詞である。
七人はとうとうと誓詞を述べ始めた。
だが、なぜか女性陣が、死が二人を分かつまで、の所を強調したので、
油断していたシグナムは、驚いてしまった。
それも終わると、後は指輪の交換である。これも恙なく終了した。
最後にしめの誓詞である。再びシグナムは咳払いをし、
「神の名の下、汝達が夫婦となった事をここに宣言する。
神が結び付けた縁を、断ち切ってはならない。汝達の道程に、幸多からん事を」
と、述べた。満場一杯に拍手が響いた。
こうして、結婚式は終了。引き続き披露宴に移行した。
シグナムは、ローレライ家やフローライト家の親族達を挨拶を交わしつつ、
酒や料理に舌鼓を打っていた。しかし、やっぱりというべきか、
バトゥ、トゥルイの夫妻がお色直しに行ったきり帰ってこなかった。
しばらくすると、その二組が帰って来た。二組が横を通り過ぎた時、仄かにイカ臭が漂った。
あいつ等、誓詞を早速破りやがった、とシグナムは舌打ちしたくなった。
少しはフレグとフローライト姉妹を見習え、とシグナムはそちらの方に目を向けた。
なぜか半ズボンを履いたフレグが目に入った。シグナムはすぐに目を逸らした。
なんだかんだあったが、こうして合同結婚式は無事に終了した。
シグナムにとって、この数週間は本当に充実したものだった。
だが、それももうすぐ終わろうとしていた。
なぜなら、この日から二日後、ブリュンヒルドが西方の賊を討滅し、凱旋したからである。
シグナムの表情が、瞬く間に黒雲に覆われた様に暗くなった。