※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

161 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22:57:00 ID:3YlMb2N3
 今日も今日とてゆるゆる過ごし、やがて気付けば下校時間。
 日と月がバトンタッチをする時間、夕日が二つの影を伸ばしている。 
 「そう言えば、緋月の兄貴ってウチの生徒会長やってたんだって?三年くらい前に」
 中でも長い方の影の持ち主、って要は俺、御神千里はいつものようにみんなとゆるゆるとダベる。
 「…はい、お兄ちゃんが生徒会長で、お姉様が副会長だったと聞いています」
 そう応じるのは小さく細い影の持ち主、緋月三日。
 相変わらず華奢で細身なので、無駄にデカい俺と並ぶと兄妹のようにも見えるが、実際はそろそろ名前呼びイベントとか欲しい時期の恋人同士である。
 「俺も今の生徒会長から聞いただけだけど、ハンパ無いイケメンで破天荒つーかアグレッシブな人だったとかー」
 今年度の生徒会長を思い出しながら俺は言う。
 俺と緋月の交際を聞いた美少女狂いの彼女が、珍しくいろいろと緋月の兄、緋月一日(ヒヅキカズヒ)に話してくれたのだ。
 曰く、不正を是正するために学生運動まがいの大騒ぎを起こしたとか、曰く告白してきた百人近くのの女子をことごとく振ったとか、曰く学園中の生徒から慕われていたとか曰く―――いやこの先は止そう。
 「…はい、どんな相手にも物おじしない人で、頭とかもすごい良い人なんです。…憧れの、自慢のお兄ちゃんです」
 俺の言葉に緋月は憧憬のこもった目でそう言った。
 「……ふぅん」
 実際、憧憬に値する人物なのだろう。
 あの美少女狂いの変人でさえ明らかな尊敬した口調だったし。
 …緋月も、兄のことを語る時は何となく気安い感じだし。
 「嫉妬!?」
 「いやいやいや」
 緋月の過剰(?)反応をいなしながら、俺はゆるゆる歩を進める。
 「…私は、こちらなので」
 「んじゃなー」
 「…はい、また明日」
 途中で、緋月と別れた俺は1人、今の友人関係に想いを馳せる。
 葉山と緋月は最初は随分仲が悪いと思ったが、最近は随分話せるようになってきたと思う。(葉山は、もう諦めたと言っていたが)
 明石はしばしば葉山にアプローチらしきものを仕掛けているが、全くもって気付かれる様子は無い。
 けれど、決して仲が悪いようには見えないので、希望はあるんじゃないだろうかと思う。
 そして、緋月と俺。
 正直なところ、俺の中には最初アイツに対して積極的な感情は無かった。
 ただ、アイツの頑張る姿が何か良いな、と思っただけだった。
 今でも、アイツへの感情が激しいものだとは思わない。
 けれど、アイツといるのは悪くないと思う。
 世話のかかる面はあるけれど、世話をするのは嫌いじゃない。
 恋人としてはいささか踏み込みすぎている部分はあるかもしれないが、俺自身としてはそれに不満は無い。
 別に、うるさくされてる訳でもないしな。
 まぁ、熱烈に愛する対象と言うよりは、家族みたいなモン?
 まぁとにかく、アイツといる時間は嫌いじゃない。
 正直、好き、なんだと思う。
 これからもそんな時間をアイツと過ごしていきたいと思うし、アイツがそれを望んでくれているなら嬉しく思う。
 それは、積極的な感情、なのかもしれない。
 そんなことを思いながら、部屋のドアを開ける。
 「ただいまー」
 誰もいるはずの無いマンションの室内に、俺は呼びかける。
 うん、いる「はず」の無い「はず」だ。
 今日は親は遅いし、他に(緋月を勘定にいれなければ)家族は居ない。
 だから、この家に今俺意外に誰もいない。
 そのはずだった。

162 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22:58:12 ID:3YlMb2N3
 「おかえりなさい…。今日は、早かったのですね…」
 そう言って姿を現したのは、見覚えの無い女性だった。
 年齢は恐らく、俺達より少し年上、10代後半から20代前半といったところか。
 俺ほどでは無いが背は高い。
 シミ一つない陶磁器のような肌が特徴的だ。
 目鼻立ちは日本人形のようにクセ無く整っており、夜空の色をした眼は吸いこまれそうな魅力がある。
 ハッとするほど美しい黒髪も相まって、奥ゆかしげな和風美人といった雰囲気。
 ただし、首から下は全然奥ゆかしく無い。
 プロポーションが良すぎるくらいに良い。
 グラビアアイドルがハダシで逃げ出す位に肉感的である。
 淫微と言っても良い。
 なまじ一挙一動が優雅なので、逆に惹きつけられる。
 彼女と言う人間そのものが、ある種の芸術品のように見えた。
 そして、彼女はその美しい手足を惜しげも無く俺の眼にさらしている。
 彼女の体を隠しているのは、エプロン一枚に見える。
 いわゆる裸エプロンである。
 正直、引いた。
 ……これは、笑うところなのだろうか。
 そもそも、この状況は何なんだ?
 親がデリヘル嬢でも呼んだのか?
 あの人、女装好きの変態ではあるけれど、ゲイってわけじゃないからな。
 俺にはそんな素振りを見せないだけで結構溜まっている筈―――ってそんな話で無く。
 「……ええっと、すみません」
 俺は何とか、彼女に対する言葉を絞り出す。
 「はい、何でしょう、義弟くん…」
 その女性は、いちいち優雅な動作で応じる。
 服装が裸エプロンなんでそれが逆にエロい。
 平静を装わなきゃならんこっちの身にもなって欲しい。
 って言うかオトウトくん?そう言う設定なのか?」
 「失礼ですが、どちらさまでしょうか?俺――僕と貴女は今日初めてお会いするものだと思うのですが」
 目上の相手なので、一人称を言いなおし、なるべく丁寧に聞いてみる。
 「あら、それは失礼…。では、私のことは通りすがりのお義姉様とでも呼んで下さい…」
 じゃあそのまま通り過ぎて頂きたい。
 って言うかおねーさま、って何よ?
 「もう少ししたら、食事の準備が整いますから…。ゆっくり、待っていてくださいね…」
 「いや、あの…」
 「待っていてください、ね…」
 穏やかながら、どこか有無を言わせぬ口調でそう言って、おねーさんはナチュラルにキッチンへと戻る。
 キッチンからは彼女の言葉通り美味しそうな匂いが漂ってきている。
 そこは俺の場所だ。
 つーか、答えを見事にはぐらかされた。
 「答える気は無いってコトか…」
 俺はカバンを放りだし、リビングにゴロ寝する。
 取りあえず、あの女性は放置しよう。
 恰好がアレなだけで、取りあえず害は無いっぽいし。
 ……それにしても裸エプロンの美女と二人っきりか。
 ……緋月の奴に知れたらあらぬ誤解を招きそうな状況である。
 ピンポーン…ピンポーン…
 そんなことを考えていると、家のチャイムが鳴る。
 「義弟くん、出ていただけますか…?」
 キッチンからおねーさんの声が聞こえる前に、俺はもうインターホンに応じている。
 「はいはい、御神です」
 『…御神くん、…ドアを開けていただけませんか…?別に、怒ってるわけではありませんから…』
 インターホンのマイク越しに聞こえのたは、緋月の声だった。
 随分と押し殺したような声だった。

163 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22:58:55 ID:3YlMb2N3
 「おっけー。今開けるね。でもどうしたん?さっき別れた所なのに…」
 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
 「話してる途中にチャイムを鳴らすなよ!」
 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピピンポンピポンピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ…
 「分かったから分かったから。今開けるからそんな高速でチャイムを押すなって。近所迷惑だから」
 ピポピポピポピピピピピピピピピピピーーーーーーー!
 高速で押しすぎて、連打が線のようになってる。
 …微妙に分かりづらいが、どうも緋月は怒っているらしい。
 この感じだと、下手をしたら過去最高クラスかもしんない。
 無警戒にドアを開けたら、ちょっと厄介かもしれない。
 軽く注意しつつ、俺はドアを開ける。
 「うわあああああああああああああああん!」
 ガチャリ、と開けた瞬間、涙目の緋月が飛び込んできた。
 ナイフを振り上げての、渾身の体当たりだった。
 ―――ってナイフはヤバイバ!

164 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22:59:19 ID:3YlMb2N3
 咄嗟に身を捻ってかわす。
 「ひぎゃ!」
 そのままの勢いでびたーん!と床の上にころぶ緋月。
 「あ、ごめん…」
 意外と痛そうな音に、思わず謝る俺。
 取りあえず、転んだ時に緋月の手から離れたナイフは俺が確保しとこう。
 コイツにこんなモンを持たせるのは、赤ん坊に核ボタンを持たせるようなものだ。
 そんなことをしていると、緋月が鼻を押さえながらも起き上がり、俺に向き合う。
 「うわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきもの~~~~~~~~~~!」
 涙目になりながら、ぽかぽかと俺の胸板を叩く緋月。
 本人としては殴ってるつもりなのだろうが、コイツの基本スペック(攻撃力とか)は低いので大して痛くは無い。
 「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない~~~~~~~~~~!」
 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか
 こう言うテンションの緋月は珍しい。
 「いやまぁ、取りあえず落ち着けって」
 くしゃくしゃと緋月の頭を撫でながら、俺は言う。
 「私がいないからって、裸エプロンといやらしいことをしようとするなんてぇ!お姉様となんてぇ!うわーん!ころしてやるころしてやるころしてやる~~~~~!」
 ぽかぽかぽかぽかぽかぽか
 「いやいや、やらしーことなんて何もないって。誤解だって」
 ぽかぽかと俺の腹を叩き続ける緋月の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 …しっかし、何で裸エプロンのおねーさんがウチに居るなんて知ってるんだろ、緋月は?
 「失点」
 その時、冷たい感情をのせた声が、その場に響いた。
 「想定していたよりも2分55秒も到着が遅れましたよ、三日…。この遅れは致命的にもなりえます…」
 そう言ったのは、噂のおねーさまだった。
 美しい黒髪をゆらりと揺らし、何ら動じることなく言葉を紡ぐ。
 美しい黒髪……?
 彼女の髪に妙な既視感を覚え、思わず緋月を見る。
 緋月の髪はおねーさんと同じくらい艶やかな黒髪だ。
 いや、髪だけでは無い。
 真っ白な肌も、癖の無い顔立ちも、緋月とおねーさまはどこか似ている。
 面影が、ある。
 「…お姉…様」
 おねーさまの言葉に、緋月はビクっとおとなしくなる。
 「…二日(ニカ)、お姉様…」
 緋月は、裸エプロンの女性を見て、そう言ったのである。




















165 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22:59:49 ID:3YlMb2N3
 緋月二日(ヒヅキニカ)
 正直、彼女について俺が知ることはそう多く無かった。
 緋月三日の姉で、緋月家長男の緋月一日(ヒヅキカズヒ)の妹。
 19歳の大学生。
 緋月家の家事担当。
 そして、緋月三日が誰よりも恐れる相手。
 それが、その人が今目の前に居た。
 「さぁ…、冷める前に召し上がりなさいな…」
 いつの間にかダイニングに食事を並べ終え、裸エプロンのおねーさまこと、緋月二日さんは言った。
 我が家のダイニングは、完全に二日さんの天下だった。
 ちなみに、二日さんはいつのまにか清楚なロングスカート姿に着替えている。
 「「いただきます」」
 取りあえず、俺と緋月(妹の方ね)はそろって手を合わせる。
 二日さんが用意してくれたのは、ハンバーグだった。
 ワインの香りが上品なソースが香る、上品な感じの逸品である。
 「しかし、驚きましたよー」
 俺は、ナイフでハンバーグを切り分けながらそう言った。
 「緋月―――三日さんのお姉様が我が家にいらっしゃるなんて。しかも、食事までご用意していただくなんてありがとうございます。事前に仰っていただければ、おもてなしの用意をしておきましたのに」
 正直なところ、緋月まで来るのなら自分で作りたかったというのが本音だ。
 アイツが俺の料理をキラキラした目で頬張る姿を見るのは俺の楽しみの1つだし。
 俺の言葉に、二日さんは薄く微笑む。
 「お気遣い無く…。妹の恋人である貴方は、いずれ私達の家族になるのですもの…。家族が家族の所に来るのに、何の気兼ねも問題も無いでしょう…?」
 その言葉は、自分がここに居る理由を追求するなと言っているようにも聞こえた。
 ……ん、美味しいけどちょっとソースの酸味が強いかな?
 緋月(妹)はむしろもう少し甘めの方が好みっぽい気がするけど…
 もしかしてこのレシピ、本来は別の誰かのための料理なのかな?
 例えば、二日さんの一番好きな人とか。
 「と、緋月。口にソースがついてる」
 ふと、俺の横に座る緋月に声をかける。
 「「(…)はい(…)?」」
 緋月(彼女)と二日さんが同時に反応する。
 って、今この場には緋月姓は二人いるんだった。
 「ええっと、妹さんの方」
 「「(…)はい(…)」」
 いや、確かに二人とも上に兄姉がいるけれど!
 ここまでハモると確信犯なんじゃなかろーか!
 …とはいえ。
 「緋月三日よ」
 どうにも気恥ずかしいが、改めて聞いてみる。
 「…はい」
 「下の名前でお呼びしてもよござんしょか」
 「はい!」
 輝くような笑顔で答える緋月もとい三日。
 この笑顔をみられただけで、今日1日生きてて良かったと思わされる。
 ……それはともかく。
 「ところで三日。一体全体どーして俺ん家におねーさんが来てるって分かったん?俺も来てるの知らなかったのに」
 三日の頬についたソースを拭き取りつつ聞いてみる。
 「…私も全然知りませんでしたよぅ!お姉様が御神くんの家に来てるなんて。丁度家について、いつものように御神家監視カメラの映像を見て癒されようと思ったら、お姉様があんな恰好で映っていてぇ…」
 興奮した様子で答える三日。
 つーか今すげぇこと言いましたよね。
 監視カメラって…
 いやまぁ、今さら何されたって驚きゃしませんが、もう家ン中で迂闊なことはできやしないな。
 「あー、それじゃ誤解してもしゃーないか…」
 「それで、取るものも取らずに取り合えずナイフだけ持ってこっちに来たんです」
 「明らかに取らなくて良いものを取ってきてるよな!」
 思わず三日にツッコミを入れる俺とは対照的に、二日さんはどこか満足げに頷いている。
 「何を忘れてもナイフ一本は忘れてはいけませんからね、三日…。護身、殺害、料理…これ一本で何でもできますからね…。長いこと調きょ…もとい教育し続けた甲斐があります…」
 二日さん、あなたが原因ですか…。
 っていうか今調教って言いかけましたよね。
 緋月家の教育方針は色々と問題がありませんか?

166 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:01:43 ID:3YlMb2N3
 「……料理にはちゃんと調理器具を使った方が良いと思いますよ?」
 色々ツッコミどころはあったが、俺は取りあえずこれだけは言っておくことにした。
 「もちろん、料理は言葉の綾ですわ…。ですが、嫁入り前のか弱い娘が出歩くのに護身の術は必須…。そうでしょう、義弟くん…?」
 二日さんが当然のように言った。
 「―――俺はそのか弱い娘に殺されかかりましたがね、今さっき」
 俺は苦笑しながら言った。
 なまじ間違ったことは言っていないだけ性質が悪いな、この人。
 「…け、けれど、お姉様。…本当に浮気では無いんですか?」
 恐る恐ると言った風で二日さんに聞く三日。
 「浮気です」
 「ええー!」
 真顔で即答する二日さんに、目が飛び出んばかりに驚く三日。
 驚き過ぎてキャラが崩れている。
 「と、言ったらどうしますか…?」
 そう続ける二日さん。
 「…えう」
 二日さんの言葉に涙目になる三日。
 「…お姉様に本気になられたら、勝ち目なんて無いじゃないですか…」
 自分と二日さんを見比べて言う三日。(特に胸を)
 三日がそう言うのも分からんでも無い。
 実際、見た目的にも三日をパワーアップさせた感じだからな、二日さん。
 性格は正反対だが。
 「失点の失点ですね…」
 それを見た二日さんが冷たく言い放つ。
 「どのような相手であろうと自らの幸福を諦めるなど、緋月家の娘にあらざる態度…。自身の幸福の為なら全てを叩き潰しなさい踏みつけになさい蹂躙なさい!相手が肉親だろうと!友人だろうと!恋人だろうと!自分だろうと!」
 今までにないテンションの二日さんの言葉に、三日の表情が消える。
 「…はい、潰します。全ての喜びを怒りを哀しみを楽しみを。相手が例えお兄ちゃんだろうとお姉様だろうとお母さんだろうとお父さんだろうと朱里ちゃんだろうと御神くんだろうと私自身であろうとも…!この幸福を永遠にするために!!!!!!!!!」
 ガリ、とナイフを握る三日の手に力がこもる。
 「いやいや、そこで自分まで潰しちゃ駄目だよね?」
 くしゃ、と俺は三日の頭を撫でる。
 「おねーさんもあんまり妹さんをいじめないでやって下さいよ。ウワキなんざする気もさせる気も無いンでしょう?」
 三日を撫でながら俺は二日さんに言った。
 「それくらいの仮定と覚悟が無くして人を愛することなどできないでしょう…?何しろ恋は戦争、ですから…」
 「恋はまったり進行、とも言いますがねー」
 ハンバーグを頬張る俺の言葉に怪訝そうな顔をする二日さん。
 「誰の言葉ですか…?」
 「俺の言葉です」
 無駄にきりっとした表情で答えてやる。
 「それはそれはそれは……オメデタイ、ですね…」
 明らかに言葉通りでは無い表情で二日さんが俺を見る。
 なんつーか木から百回くらい落ちたサルでも見たような顔だ。
 「ところで義弟くん」
 唐突に話を変える二日さん。

167 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:03:05 ID:3YlMb2N3
 「何でしょう?」
 「学校での三日の具合はいかがでしょうか…?」
 「具合、ですか?健康状態に関しては、特に問題は無いようですね。ただ、体力は相変わらず無いようなので、栄養のつく物を食べさせてはいますが…」
 「いえ、そちらでは無く、ベッドの上での…」
 「まさかの下ネタ!?」
 この人、先ほどの恰好といい、微妙にオヤジ臭いな!
 「それで、実際のところはどうなのですか…?男女の仲になったからには、当然そうしたこともしているのでしょう…?ねぇ、三日…?」
 えらい冷たい流し眼で三日を見る二日さん。
 「はひぃ!」
 二日の口調には相変わらず穏やかな中に反論を許さない空気があり、三日は硬直する他無い。
 「ま、やることはやってますね。キスとかキスとかベロチューとか。最初の一回は白昼堂々で公衆の面前だったので、さすがに先生方から注意を受けましたよ」
 「と、いうことはそれ以上のことはやっていないということですね…。私にも欲情する様子はありませんでしたし、もしかして貴方―――」
 「紳士ですか?」
 「チキンですね」
 「……」
 今日会ったばかりの相手にひでぇこと言われた。
 「……褒め言葉として受け取らせていただきます」
 俺は渋い顔になりそうになりながらもそう言った。
 もし二日さんを襲ってたらnice boatな結末しか思い浮かばないから、本音ではあるのだが。
 チキンで死亡フラグを避けられるのなら、チキン万万歳である。
 「ああ、それとも女性に対しては勃たない人ですか?あるいは男性に対してしか欲情しないとか?父親の性癖を考えるとそちらの方が―――」
 「……」
 人の肉親を遠慮なく悪し様に言う二日さん。
 どうにも、人がイラっとくるポイントを突いてくる人だ。
 フォークを握る手に、少しだけ力がこもる。
 「誤解ですよ。俺はただ、そう言うのが顔に出ない性質でして」
 正直俺にしては珍しくかなりイラついているが、ここはサラっと流しておこう。
 何か、さっきから三日もビクついてて静かだし。
 ムカついたからって怒りを露にしたら、三日を無駄に不安にするだけだ。
 ここはむしろ怒った方が負けだろう。
 恋人の身内に対しては、心象は悪いより良い方が良いし。
 「そう言えば義弟くん…?夕食を作る前に少々、貴方の部屋を見させていただいたのですが…」
 二日さんがこれまた唐突にそんなことを言った。
 自分の家のようにくつろいで下さいとはよく言うが、それを本当に実践してる人だ。
 …今さら言うようだけど、そもそもこの人はどうやってこのウチに入ったんだろうか?
 「ベッドの下の春画の類を全てゴミに出させていただきました…」
 二日さんの言い回しに、一瞬ワケが分からなくなる。
 「シュンガって…」
 「いわゆるエロ本です」
 ベッド下に隠してた俺の素晴らしきコレクションを捨てたと申すか!
 「一通り見させて頂きましたが…、童女から熟女、セーラー服から和服、二次元から三次元まで、随分と節操無い系統の本を揃えましたね…」
 「ンなこと別にどうでも良いじゃないですかい…」
 何とかツッコミを入れるが、何か冷や汗はダラダラである。
 俺のコレクションが!?って言うか俺のプライバシーが!?
 「ああ…、でも、幾分かの共通項はありましたね…。表紙や内容から察するに、貴方は髪の長い女が好…」
 「ごめんなさいマジすいませんもう勘弁して下さい」
 よりにもよって三日の眼の前で自分の性癖を明かされるって、どんな拷問ですか。
 その彼女は顔を真っ赤にしながらも食い入るように俺を見てるし。
 「…御神くんは私以外の女で欲情するなんて…」
 訂正、三日は顔を真っ赤にしながら嫉妬のこもった視線を俺に向けている。
 …ドン引きされなかっただけマシだが、キツいことには変わりない。
 知らん内にコレクションまで捨てられてるし、俺のプライバシーがガシガシ浸食されとるし。
 ま、まあたかだか本だけどね!

168 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:04:22 ID:3YlMb2N3
 「まぁ、義弟くんにはあんな春画などこれからは必要ないのでしょう…?」
 何でもないような口調で仰る諸悪の根源二日サマ。
 居直り強盗よりも性質が悪い台詞だが、一体どういう意味だろう。
 「代わりに妹を使えば良いじゃないですか…」
 …は?
 「三日なら、性欲のはけ口としては適切で手頃でしょう…。この娘にあれらの本にあるようなコトをさせれば良いではないですか…。やり過ぎれば壊れてしまうかもしれませんが、あの娘の体など私には関係の無いことですから…。好きに好きなだけお使いなさいな…」
 自作のハンバーグを口にしながら、あくまでも優雅で穏やかに二日さんは言った。
 まるで、三日が目の前にいないかのように。
 どうにも、楽しくない態度である。
 いやまぁ、確かに、俺だって性欲はある。
 三日を抱きたいと思うことだってあるさ。
 けれど、ただそれだけの為の相手と言わんばかりの言い回しは好きじゃない。
 ましてや『関係の無い』なんて
 ましてや『壊す』なんて。
 そんな言葉、好きじゃないし、許し難い。
 「俺がアンタの立場なら―――」
 普段糸目にしてる目つきが自然と鋭くなるのが分かる。
 「身内を性欲のはけ口と認識するような奴を生かしちゃおかないでしょうね」
 俺は、努めて軽い口調で続けた。
 「ふう、ん…」
 俺の言葉を聞いた二日さんが、スッと目を細めた。
 「軽く叩きつぶしたと思ったのですが…、中々どうして生意気をやってくれますね」
 虚無の色をした二日さんの目が、俺を見つめる。
 うわぁ…
 こりゃ怖いわ。
 ぶっちゃけ感情とか全然見えない目なんだけど、その代わりに問答無用で圧倒する威圧感がある。
 隣で三日がガクブル震えてるのも良く分かる。
 こりゃトラウマになるや。
 そうして二日さんはカエルを睨むヘビのように俺を見つめていたが、やおら唇を動かした。
 「加点」
 はい?
 「どれだけ引っかき回してもまともに反抗しないので単なる木偶の棒かと思ったら、そうでも無いようですね…」
 クスクスと口だけで笑いながら、二日さんは言った。
 一体何だって言うんだ?
 「義弟くん、自分で気づいてましたか…?私が妹を『性欲のはけ口』と言った時、貴方はとても良い顔をしていましたよ…。とても良い怖い顔を、ね…」
 二日さんが続けた。
 「正直、私が扇情的な恰好で表れて何の反応もしないような殿方が女性と、ましてや妹と真剣に交際しているというのは半信半疑でしたが、まぁ、そうでも無いらしいですね…。三日も苦労しそうではありますが…」
 ああ、あの痴女みたいなカッコはあれで意図があったんだ。
 どんな対応取っても地雷だった気がするけど。
 「さて、私はそろそろお暇させていただきますか…」
 いつの間にか食事を終えていたニカさんは立ち上がった。

169 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:04:45 ID:3YlMb2N3
 「もう暗いですし、お送りましょうか?」
 「お気遣いなく…。三日と違ってこれでも自分のことを守る心得ぐらいはありますもの…」
 俺の申し出を言葉だけはやんわりと断る二日さん。
 心得、というのは武術の類だろうか?
 「それはまた…見てみたいような見たくないような」
 二日さんの闘いを想像して言う。
 とんでもなくえげつないやり方をするに違いない。
 「見せて差し上げますよ…。もし、あなたが妹を大切にしないようなことがあれば、ね…」
 そう言ってにこぉ、と二日さんが口を三日月に開いた。
 「それじゃ、見る機会は二度と無さそうですね」
 俺の口から、思ったよりスッとその言葉が出た。
 「期待してますよ、義弟くん…」
 そう言って立ち去ろうとする二日さん。
 「…あ、では私もそろそろ…」
 それに続こうと立ち上がる三日。
 「ああ、義弟くん…。今日はソレを置いていきますね…」
 しかし、動き出そうとする三日を指さして二日さんは言った。
 「生意気を言うようですが、最愛の妹さんをソレ呼ばわりはどうかと思いますよ?」
 「それは誤解です…。私が『愛』と言う言葉を使うのは1人だけ…。まぁ、三日にも愛着程度はありますが、ね…」
 俺の苦笑に穏やかな口調で応じる二日さん。
 「それでは、また…。今度会う時が最期にならないことを、祈っていますよ…」
 そう言って、二日さんは颯爽と去って行った。

170 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:05:44 ID:3YlMb2N3
 「なんつーか、地味に嵐みたいな人だったなー」
 バタン、と閉まったドアをたっぷり1分は見た後、俺は呟いた。
 場を無駄に引っかきまわすだけ引っかき回したら帰ってった。
 「…お姉様は、我が家の女王様ですから」
 三日が言った。
 その気持ちは超わかる。
 でもまぁ…、
 「女王様ではあっても、暴君では無いんじゃないかな」
 俺は言った。
 二日さんの行動を思い返すと、どうも一貫して俺を、妹の恋人を試していたように思える。
 それはつまり、三日が心配だったんだと思う。
 あまりにも弱くて脆くてまっすぐで、『愛着』のたっぷりある妹が。
 「…はい。お姉様は一度敵と認めた人に対しては容赦ありませんけど、そうでない人にはそんなことありませんから」
 三日も同意する。
 さすが姉妹。お互いのことをよく分かってら。
 「良いおねーさんだね」
 こういうの、きょうだいのいない、親一人しか家族のいない俺にとっては素直に羨ましいと思う。
 が、
 「そこは全力で否定させてください!」
 「そうなの!?」
 色々台無しな、三日の一言だった。
 いやさ、確かにさ、超スパルタンなおねーさんではあったけど、そこまで言わんでも良くない?
 全力でなくても良くない?
 今回って、『家族って良いな』的なオチじゃなかったんだ…
 そんなことを思っていると、
 「…えっと、あの、ところで御神くん…」
 三日がモジモジしながら言った。
 「なにー?」
 身長差のある三日に目の高さを合わせて俺は応じる。
 「…あの、あの、今日は、今日から、名前で呼んでくれてありがとうございます。御神くんの方から言ってくれてとても嬉しくて、その…さしでがましいようなんですけど、あの…」
 つっかえつっかえしながらも、自分の想いを伝えようと言葉を紡ぐ三日。
 それを俺は笑顔で聞いている。
 彼女が言いたいことを言えるように、それを邪魔しないように。
 「…私も、…私も御神くんのこと名前で呼んで良いでしょうか!?」
 三日が言いきった。
 いつかの大桜でのような、全力がこめられた、頑張った一言だった。
 思えば、大桜の下での告白を言うのにも、一年近くかかったんだよな、コイツ。
 俺は、三日の頭をくしゃっと撫でて答える。
 「俺の答えは、あん時から同じー」
 その時は、まだ積極的な感情は無かった。
 けれど、今はちょっとだけ違う。
 一緒に居たいかな、と強く思う。
 「良いよー」
 だから、同じなのは言葉だけだ。
 「はい!千里くん!」
 三日は、そう花の咲くような笑顔で言ったのだった。







171 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:06:08 ID:3YlMb2N3
 数分後
 「―――ところで、三日。今夜はマジでウチに泊まってくん?」
 さっきからえらい嬉しそうにしている三日を見ながら、俺は思いだして言った。
 「…はい、千里くん。お姉様のことですから、今夜は帰っても家に入れてくれないと思います。だから、今夜私が頼れるのは千里くんだけなんです、千里くん」
 キラキラした目で答える三日。
 犬だったらパタパタと尻尾を振ってることだろう。
 「…千里くん家にお泊まり、千里くんとの一晩、千里くんと朝帰り、千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん、ああ…!」
 名前で呼べるのがよほど嬉しいのか、何度も俺の名を連呼する三日。
 コイツが嬉しいのは良い事なのだが、状況はイロイロと微妙である。
 「ええっと、あの、三日さん?けれども年頃の男女が同じ屋根の下で過ごすのってさ…」
 俺がそこまで言うと、三日はポッと頬を赤らめた。
 「…千里くんの、えっち…」
 ぐはぁ!
 「…千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち」
 「止めて連呼しないでお願いいやマジでお願いします」
 今日1日の文脈的にその一言はキツすぎる。
 三日的には俺の名前を呼びたいだけなんだろうが。
 これはアレだ。
 二日さんの罠だ!
 あの人からの最後の試験だ!
 一晩三日と同じ屋根の下に置いて、俺の理性を試そうってハラだな!
 「…今日も、千里くんのお父様たちはお仕事で帰られないのでしょう?」
 「なぜ知ってる!?」
 何だこの状況…
 客観的に見ればかわいそうなクラスメートを一晩泊めるだけだってのに、どんどん追いつめられてる気がする。
 「…遅い時間まで千里くんと愛し合っても、何ら問題はありませんよね?」
 恥じらった顔でそんなことを言ってくれる三日。
 『愛し合って』って、どう考えても言葉通りの意味じゃないよな!
 「…私、その、そうしたことは初めてなので、千里くんが千里くんが千里くんが優しくしてくださると、嬉しいと言うか何と言うか…」
 そんな三日を見て、ふと去り際におねーさんが言った一言が思いだされる。
 ―――もし、あなたが妹を大切にしないようなことがあれば、ね…―――
 この場合、どうすることが三日を大切にすることになるんだ?
 今日は諸々必要な物の用意が無いし、ああでも三日がそうしたいって言うならそうしてあげた方が良いのか…!
 もしかして、コレ、どんな行動をとっても地雷しか無いんじゃないのか!?
 しかも下手したら俺、二日さんに殺されかねないし!
 思ったよりもハンパ無いぞ、二日さんの罠!
 あまりの状況に、俺の頭もパンクしそうになる。
 「あんのヤンデレの娘さんのおねえさんがああああああ!」
 俺はただ、そう叫ぶほか無かった。








172 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:06:33 ID:3YlMb2N3

 おまけ
 夜風に身を任せるような優雅さで家路を行きながら、緋月二日は上品なデザインの携帯電話をとりだした。
 慣れた手つきでキーを操作し、ある人物の番号を呼び出す。
 携帯電話を耳に当ててすぐに相手と繋がる。
 「もしもし、愛しい方…」
 御神千里にも、ましてや妹にも聞かせたことの無い、甘く愛しげな声音で、二日は言った。
 「私の愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい――――お父様」
 父、と呼びながら、二日の声は最愛の恋人に対するそれだった。
 そう、彼女は愛しているのだ。
 血のつながった実の父親を。
 自身の母という妻を持つ1人の男を。
 「ええ、きちんとちゃんとお父様のお言いつけ通りに御神千里を、あの障子紙より弱い妹の最愛の恋人を、義弟を、つまり未来の家族を精査して検査して調査して参りましたわ…。え、君が言ったんだろうって?あらあら、そうだったかしら…?」
 フフ、と嬉しそうに笑う二日。
 嬉しいのだ、彼女は。
 今この瞬間父と話している、繋がっているというその事実が。
 母親では無く自分が、という現実が。
 「結果は…、まぁギリギリ合格と言った所でしょうか…。まだ緋月家向きの殿方とは言い難いですが、少なくとも三日との交際の結果私たちまで不利益を被ることはない、と断言出来ますわ。…ええ、三日との交際は思いのほか真剣だったようです…」
 嬉々とした表情で、二日は電話の相手に報告する。
 そうしているうちに、自然と足元が躍るようなステップに変わる。
 月に照らされて舞う二日の姿はとても美しく―――同時にどこか狂気的であった。
 「正直あの三日のことだから、悪い男に引っかかったんじゃないかと心配…もとい期待していたのですが、そんなことは無かったようでした…。とはいえ、フフ…。中々に初心で、三日以上にいじめ甲斐がありそうな殿方でしたわ…。思いのほか反骨精神もあるようですし」
 自分を睨みつける御神千里の顔を思い出し、二日は笑った。
 三日のようなタイプも良いが、それなりに反抗してくれた方が彼女としては面白い。
 「これで、私たち家族の、いえ私たち二人の憂いは無くなりましたわ。今日は母も仕事で帰りませんし、今夜はとてもとても楽しく激しく愛しく―――」
 二日は笑う。
 実の父を想って。
 実の父との『この後』のひと時のことを想って。
 「抱き合いまぐわい愛し合いましょう、お父様?」
 もし、そう言って笑う二日の姿を見る者がいたとしたら、禍々しさを感じぬ者は居なかっただろう。
 禍々しさを感じながら――――その笑みの美しさを否定できる者もまた、居なかっただろう。