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52 名前:日常に潜む闇 第4話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2010/10/30(土) 08:47:11 ID:sJaMCz8m
~授業後~
 5限目の授業が終了し、帰りのSHR(ショートホームルーム)も終わった。
 皆が鞄を手に取り友達と帰る様子を、別に羨ましがることなく風景の一部として誠二は眺めていた。
 これまでの授業で教師からお勧めの参考書を聞き出していた誠二は、今日は商業区にある書店で買う予定だ。
 さすがに放課後まで漬け回して嫌がらせをしてくる奴はいないだろうと思うものの、用心するに越したことはないだろう。
 イジメの主犯であるクラスメイトは既に下校している。そしてなぜか友里も一足先に帰っていた。
 そういえば友里は昼休みの後、一度も話しかけてこなかった、と今更ながらに誠二は思っていた。
 どうやら自覚していた以上に精神的に参っているらしい。
 思わず苦笑が漏れた。
 そろそろ書店に行こうと誠二が席を立つと同時に、教室の前の扉がガラリと開かれ、見るからに柄の悪そうな男子生徒が数人こちらにやって来た。
 教室にまだ残っていたクラスメイトはいきなり現れた不良に驚き、狙われないようにと身を堅くしている。
「お前久坂誠二だよなあ?」
 ストレートパーマをかけて腰パンをしている不良が声をかけてくる。
「え? あ、はい」
 なんか変なのに絡まれたなあと思いながらも応じる誠二。
「話があるからちょっとこいや」
「この後どうしても外せない用事があるので、今すぐ帰らせていただきたいんですけど……」
「まあまあいいじゃねえかよ誠二クン。別に取って喰おうってわけじゃないんだからサア。ちょっとオレらとお話ししよってだけナンだからサア」
 誠二が断ろうとするとすかさず取り巻きの中からチャラチャラした男子生徒が慣れ慣れしく肩に腕をまわしてきた。
 相手に悟られず逃げないようにするところが実に巧妙だと誠二は思いつつ、ため息をついた。
「じゃあ雑談しやすい場所に移動でもしましょうか。ここでは話しづらいと思うので」
「オ! イイ心がけしてんじゃんヨ」
 チャラ男は感心したような口調で言うが、その目は他の不良たち同様、嘲笑を含んでいる。
 本当に面倒臭いと誠二は思いながらも、彼らに取り囲まれるようにして教室を出て行った。




53 名前:日常に潜む闇 第4話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2010/10/30(土) 08:47:45 ID:sJaMCz8m
~高等部某所~
「で、話というのは?」
 体育館裏という典型的な場所まで連れて来られて、すぐに相手との間合いを取り、誠二は尋ねた。
 もちろん連中が何を企んでいるのかは知っている。
「テメエ調子に乗り過ぎなんじゃねえの?」
「とりあえず調子こき過ぎだから締めてやんぜ」
 そう言って不良たちは一斉に飛びかかって来た。
 つまりは噂を聞きつけて、或いは噂を焚きつけた本人がこいつらを使って自分をさらに貶めに来たということか。
 そんなことを考えながら、誠二はスタコラさっさとその場から逃走を試みる。
「逃げんじゃねえぞゴルァ!」
 精一杯ドスを効かせているのだろうか。
 スキンヘッドの大男の怒声を左から右に聞き流しながら、誠二は校舎へ一直線に走る。
 煙草を吸っていそうな連中に見えるのだが、最近の不良は煙草はやらないらしい。
 いや、単純にあの不良どもが例外なだけだろうか。
 校舎内に入ってもなお追いかけて来る不良に、誠二は焦りを覚え始めていた。
「ああ、まったく辛い」
 階段を一段飛ばしで駆け上がり、教室へ滑り込む。
 一連の事態を把握していたクラスメイトは状況の推移を見守るかのごとく、未だ教室に残っていた。
 誠二は自分の席に近づき、鞄を回収する。
 既に教科書その他は閉まってあるので今更確認する必要はない。というよりも確認している暇がない。
「テンメェ……! ちょこまかと逃げんじゃねえ……!」
 怖い怖い先輩方が迫っている。
 誠二は急ぎ廊下に飛び出る。
 教室に居れば、前後の扉からやって来るだろう。
 あるいはどちらか一方からやって来て、もう一方では待ち伏せて誠二がくる瞬間を待っていただろうに。
 今度は階段を上に駆け上がる。
これより上は理科や音楽など、俗に移動教室や特別教室と言われる教室が設置されている。
 誠二は階段とは反対側に位置しているエレベーターに駆け寄り、ボタンを押した。エレベーターは運よくこの階に停まっていたらしく、ドアが開く。
 中には誰もいない。
 誠二は適当な階数ボタンを押し、ドアを閉じるボタンを押した。
 そして廊下に出て、エレベーターの扉が閉じるのを確認してから、今度はゆっくりとした歩調で階段を使ってさらに上の階へ上って行った。
 エレベーターが作動して下の階へ向かえば、不良たちがそれに釣られると思っての策だった。
 しかし放課後とはいえまだ生徒は残っている。誘導される可能性は低い。
 屋上を出て、誠二は鉄扉を後ろ手に静かに閉じる。普段は立ち入り禁止ということで施錠され足を踏み入れることができない場所だが、運が良いことに鍵がかかっていなかった。
 何も考えずに屋上へまっしぐらだった誠二にとって、実に都合がいい話である。
 日が落ちるまで、ここで隠れてやり過ごそうと決め込んだ――その時であった。
「あれ? 誠二君、来てくれたんだ」


54 名前:日常に潜む闇 第4話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2010/10/30(土) 08:48:11 ID:sJaMCz8m
「あれ? 誠二君、来てくれたんだ」
 突然、傍から声をかけられ、声こそあげなかったものの盛大に肩をビクッと鳴らした。
「紬原、さん……?」
 落ち着きを取り戻しながら誠二は彼女の名を呼ぶ。
 対する友里は滅多に見せない静かな微笑みでこちらを見つめている。しかしどことなく危険な雰囲気がするのは気のせいだろうか。
 悟られないよう、彼女から少し離れつつ誠二はここで何をしているのか問うた。
「ここは立ち入り禁止だよ」
「知ってるわ。でも、ここなら誠二君と二人きりになれると思ったの」
「……言っておくけど、僕は紬原さんの想いに応えることはできない。何度も言ってるけど、お互いまだ何も知らないじゃないか」
 友里が何を言わんとしているかを気づいて、誠二は牽制を仕掛けた。
「そうね。だから私考えたの――お互いを分かりあうためには、一つになればいいと思うんだ」
 そう言って、紬原友里は学生鞄の中からスラリと何かを取り出した。
「いや……それは何の冗談なんだ……?」
 彼女の手にあるもの――刺身包丁を指差して、誠二は逃げ場を探る。
「冗談? 私は冗談は言わないわ。大丈夫、ちょっと痛いかもしれないけど、すぐに私たちは一緒になれるよ」
 彼女から距離を取ろうとして動いたのがいけなかった。
 唯一絶対の脱出口、校舎内へと続く鉄扉は友里の背後にある。
 自然、誠二の四肢は恐怖に打ち震える。
「カニバリズムは最高の愛情表現というけれど、ナンセンスよね。分かりあうためには時間が必要。それなら永遠に、一緒に、誰にも邪魔されることなくお互いを理解し合えて愛し合うことができる――そうは思わない?」
「……謹んでお断りしたいな」
 この期に及んで減らず口が言える自分にちょっと驚く誠二。
「私たちは赤い糸で結ばれているの。そして今、その糸はまさしく絡め取られて距離はゼロ――つまり一心同体になるのよ」
 怖いけど、逃げ場ないし諦めようかな。
 狂気に包まれた彼女の瞳を見て、誠二のうちに諦観の念が募り始める。
 それを機敏に察知したのか、友里は一層穏やかにしかし深く笑みを浮かばせる。
 ――ああ、なんだか艶やかだなあ。こんなに可愛かったのか。
 刺身包丁片手に近づく友里に、誠二はそんなことを思い始めていた。
 そして、無意識のうちに自らも彼女に歩み寄る。
 友里が誠二の首筋に刃を当てた時、誠二の口から言葉がこぼれ出た。
「愛してるよ、友里」
 友里は穏やかな笑みのまま返す。
「私もよ、誠二君」
 鋭い痛みが誠二の首筋に走ったかと思うと、視界がゆっくりとフェードアウトしていく。
 身体の自由が、思考ができなくなるのを感じながら、友里もまた血を噴き出して倒れつつ、お互いに抱き合う。
 そして二人はコンクリートの床の上で堅く抱きあって微動だにしなくなった。