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200 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/01(月) 19:21:18 ID:wwWV46GA

「いきなり全校集会とは……。誰かやらかしたのかな」
翌日、突然全校集会をやるということで俺達は体育館に来ていた。周りも突然の全校集会の話で騒がしい。
「やらかしたって……。この学校で会長に逆らう奴がいたら見てみたいぜ」
亮介がおどけながら言う。まあ東桜に半年も通えば会長の手腕と彼女に逆らうことの恐ろしさを十分に理解出来るだろう。
「まあ連絡事項か何かだろうよ。……お、来たぞ」
会長が壇上に姿を現した。気が付けば話している愚か者は一人もいず、皆が前を向いて会長が話すのを待っている。
……時代が時代なら立派な恐怖政治だな、これ。
「今日はいきなり全校集会を開いてしまって申し訳ない。君達に早急に伝えなければならないことがある」
全体に緊張が走る。英の言った通り、本当に誰かが万引きでもしたのだろうか。
「その前に……2年4組の白川要、こちらへ!」
「……はい?」
視線が一気に俺へと集まる。誰しもがまるで愚か者を見るような哀れみを含んだ眼差しだ。
「……聞こえなかったのか?白川要、こちらへ来い!」
「要、とりあえず行った方がいい」
英に促され壇上へ上がる。全校生徒の視線を感じる中、会長の側にたどり着いた。小声で会長に話し掛けられる。
「すまんな要。出来れば君無しでやりたかったんだが、やはりいた方が諦めがつくだろうしな」
「諦め?」
会長の言っていることがイマイチよく分からない。聞き直そうとしたが会長が正面を向いてしまったのでとりあえずそれに倣う。
「時間を取らせてすまない。急用と言うのは――」
会長はマイクを持ちながら俺を右手で引き寄せた。不意をつかれた俺は思わず会長の胸へ飛び込む。
「ここにいる白川要と私、美空優が婚約しているということだ」
「……へっ?」
生徒も教師も、ここにいる全ての人が会長の言った意味が理解出来ずにいた。それを知ってか知らずか、会長は話を続ける。
「朝の貴重な時間を私用に使ってしまってすまない。だが今一度ここに宣言する。私、美空優は白川要を愛している!」
ようやく会長の言っていることが分かり辺りがざわつき始める。会長は深く深呼吸をしてから――
「私たちは婚約する!文句のある者は生徒会室まで来い、以上!」
体育館に響き渡る大声で宣言した。



生徒会室の扉が叩かれる。一体本日何度目だろうか。放課後になるまでに少なくとも30回は叩かれている。
「またか。今度はマシな奴だと良いが」
会長は少しうんざりした様子で扉を開ける。扉の外には今にも泣き出しそうな女子が3人立っていた。
「美空先輩、お願いします!婚約なんてしないでください!」
「先輩がいなくなったら…わ、私!」
「うわぁぁぁぁん!」
口々に会長行かないで的なことを言う女子達。一番右の女子にいたってはとうとう泣き出してしまった。
「……君達の気持ちは嬉しい。だが出会いがあれば必ず別れがある。分かってくれるな?」
「「「美空先輩~!!」」」
三人娘は会長に抱き着いて泣きじゃくる。これも今日30回は見ている光景だった。


201 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/01(月) 19:22:28 ID:wwWV46GA
放課後の生徒会室。既に日は暮れており、窓には漆黒の闇が広がっていた。
「ふぅ……。まさか私目当ての輩が出てくるとは」
溜め息をつきながらコーヒーを飲む会長。結局文句に来た生徒は全員、所謂"美空優ファンクラブ"の人達だったのだ。
「しっかし要の人気の無さにはビックリだな」
「亮介……。本当のことは言うもんじゃないよ」
「フォロー無しかよ!?壇上に呼び出された俺の気持ちにもなれ!」
からかう英と亮介に思わず突っ込む。そもそも会長が変な集会なんて開くからだ。
おかげでクラスに帰ったら男子にはリンチされかけるし黒川先生には根掘り葉掘り聞かれた。
「本当にすまんな要。まさか君がここまで……その…め、目立たないとは思わなくてな」
「フォローになってないです!」
果たして会長は今の状況に気が付いているのだろうか。つーか何であんなこと言い出したんだ。
「……会長、朝言ったことは本気なの?」
潤が恐る恐る会長に尋ねる。潤は何処か不安そうな眼差しで会長を見つめていた。
遥は生徒会室に入ってからまだ一言も喋っていない。
英と亮介は努めて明るい雰囲気を演出していたが、さすがに無理があったようだ。
「……僕も聞きたい。今朝のあれはどういうことだい?」
「何かの作戦だとしてもさすがにやり過ぎだぜ会長」
英と亮介も潤に続いて会長に質問する。会長は俺達を一瞥した後立ち上がった。
「……私は本気だ。今朝言ったことは紛れも無い私の本心だ。要」
「……何だよ、会長」
会長は俺を見つめる。その瞬間に分かってしまった。この人は絶対に引かない。本気で俺と結婚する気なんだ、と。
「愛している要。私には君が必要だ。私と結婚して欲しい」
「そんなのおかしいっ!!」
生徒会室に響く大声。振り向くと遥が肩を震わしながら会長を睨みつけていた。
「……何が可笑しいんだ、遥?」
「そ、そんなの!ルール違反だ!わたしたちは"要組"なんだから!」
激昂する遥を会長は冷たく見据える。こんなに感情をあらわにする遥は初めて見た。
英や亮介、そして潤は遥の豹変ぶりに驚きを隠せないでいる。
「そうだったな。今ならあの時の君の気持ちが分かるよ、要」
「俺の……気持ち?」
会長は何か嫌なことを言いそうだった。これ以上状況を悪くするようなことがあるとは思えないが、何故か自分の何かが警鐘を鳴らしている。
「私は要組を抜ける。これからは赤の他人だ。皆、今まで世話になったな」
「えっ!?」
「か、会長……本気かい?」
潤は目を丸くし呆然としている。英は今まで見たことがないくらい険しい顔をしていた。
「ああ、今日皆をここに呼んだのは別れを言うためだ。要、私と一緒に来てほしい」
「優っ!!」
「は、遥っ!?」
一瞬だった。
会長が俺に振り向く一瞬の隙を見計らって会長へと突進する。右手には何かを持っていた。
そのまま遥は会長の懐に入り右手に握りしめた"何か"を振りかざす――
「ふっ!」
「っ!?」
その瞬間を会長は見逃さず迎撃の蹴りを放つ。間一髪でそれを避けた遥だったが、咄嗟に避けた反動で右手からナイフが滑り落ちていた。
会長は慎重に距離を取りながらそれを拾う。
「……スタンナイフか。また随分と悪趣味だな、遥?」
「許さない。優は壊した、皆の居場所を壊した!優だって知っている癖に!わたしたちにはここが必要だって、知っている癖に!」
遥は必死に会長へと訴えかける。何故だろう、前にもこんなことがあったような……。
「ああ、知っている。だがもう限界なんだ。私はまた要を失いたくはない」
「会長……」
会長の想いは何処までも真っ直ぐだった。そう、美空優とは本来狂気じみたことを平然とやってのける人物なのだ。
「明日の正午、要を迎えに行く。私を止めたければその時までに何とかすることだ」
会長はそのまま生徒会室を出て行った。遥はきつく口を結び、潤はその場に立ち尽くしている。
「……帰ろうか、要」
「あ、ああ……」
「二人も、行くぞ?」
英と亮介に促されて生徒会室を後にする。こうして俺が望んでいた"平穏"はいとも簡単に崩されたのだった。


202 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/01(月) 19:23:41 ID:wwWV46GA

「お嬢様、お客様です」
「客人?……ああ、君か」
屋敷に帰ってきた私を待っていたのは瑠璃色のポニーテールが印象的な女子だった。確かこの前アクアマリンでおかしなことを言っていた奴だ。
「こんばんは」
「てっきりすぐに生徒会室に来ると思って待ち構えていたんだが……案外臆病だな、君は」
私の挑発に対して少し眉をひそめたものの、先刻の遥のように激昂して襲い掛かって来る様子はない。多少は手こずりそうだった。
「外で白黒つけませんか」
「構わないよ。では行こうか」
美空優は思う。白川要を好いている者は決して少なくはない。ただ自分の威圧で名乗れない者が殆どなのだ。
彼女は飽いていた。だからこそ自分とまともに闘える"異常者"を歓迎するのだ。
「要は誰にも渡さない。君は私の玩具で十分だ」
今宵の月は妖しく光り、二人の"異常者"を照らし出していた。



いつからだろう。
気が付けば父さんが母さんに暴力を奮っている光景が、俺達の日常だった。そして程なくしてその暴力は俺達にも及ぶことになる。
きっかけはもう忘れてしまった。確かとても些細なことだったと思う。でもきっかけなんてどうでもよかったのかもしれない。
なぜなら事実として俺達兄妹には体中に痣の後があって、毎日学校で虐められるのだから。

「……助けるんだ」
台所で父さんの帰りを一人で待つ。まだ中学生に成り立ての俺の右手には鈍く光る包丁が握られていた。
「アイツを殺して……母さんと潤を……助けるんだ」
震えが止まらない。分かっているから。自分が今からする行為が許されないということを。
それでもやらなければならない。"平穏"を取り戻す為に俺は――
「っ!?」
突然電話が鳴り響く。今にも口から飛び出そうな心臓を落ち着かせながら、受話器を取る。
「……もしもし、白川ですが」
『白川さんのお宅ですか!?白川元(シラカワハジメ)さんが交通事故でこちらの救急病院に搬送されたんですが――』
「……えっ?」
白川元、父さんの名前だった。思わず受話器を落とす。受話器からはこちらへの呼びかけが続いていたが、全く気にならなかった。
「アイツが……」
俺は思っていた。出来れば殺したくない。だからこそ勝手に死んで欲しい。
今死ねば、今死ねば俺はアイツを殺さなくて済むのだから。
「…………」
そしてその願いは"白川元の飲酒運転による交通事故死"という形で叶うことになった。


203 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/01(月) 19:25:20 ID:wwWV46GA


「……夢、か」
最悪の目覚めだった。体中に鳥肌が立っている。寒いからじゃない。夢というにはあまりにもリアルな描写だった。
まるで昔に体験したような、既視感に似た何かを覚えた。
「考えすぎ……だよな」
昨日あんなことがあったからそれが夢に影響したんだ。自分自身にそう言い聞かせる。
でなければ思い出してしまうから。あの包丁の感触を――
「兄さんもう昼だよ!……なんだ、起きてたんだ」
潤がエプロン姿で部屋に入って来た。時計を見ると11時ちょっと過ぎを指している。
「そうか……今日って土曜日だったのか」
「大丈夫兄さん?朝ご飯、軽く作ってるから早く降りて来てね」
「ああ……」
潤が部屋から出ていく。聞きたい、いや聞くべきなんだ。でも……聞けない。聞いてしまったらもう後戻りが出来ないような気がしたから。



リビングに降りると里奈がソファーで"笑って良いかも"を見ていた。潤は台所で料理の最中だ。
「カナメ、こっち来て!」
「おう」
里奈に手招きされてソファーに座る。すると里奈は俺の膝に背中を預けて座った。
歳の離れた妹がいたらこんな感じなのかもしれない。
テレビではサングラスを掛けた名物司会者がテレフォンショッキングなるものをやっていた。
「タモさん面白いよね」
「ああ、タモさんだからな」
「兄さん朝ご飯……ふふっ」
そんなやり取りをしている俺達を見て潤が笑う。
「ん?何かタモさん言ったか」
「ううん、里奈と兄さんってまるで親子みたいだから」
確かに見る人が見れば今の俺達は親子に見えなくもない。
……いや待て、俺はそんなに老けてないぞ。
「じゃあジュンはお母さんだね!」
「えっ?」
「だってカナメがお父さんであたしが娘なんでしょ?だったらジュンはお母さんだよ!」
「なるほど」
「ば、馬鹿なこと言ってないで早く食べてよね!?」
潤は顔を真っ赤にして台所へと戻っていった。一体何がそんなに恥ずかしいのだろう。ただの里奈の冗談だというのに。
「……カナメはボクネンジンだね」
「ん?」
「ううん、早く食べなよ」
里奈が小さい声で何か言っていたが気にせず席に着く。
ちょっと遅めの朝食は目玉焼きにベーコンとトーストというスタンダードなものだった。


204 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/01(月) 19:26:28 ID:wwWV46GA
「そういえばさ」
「ん?なぁに?」
向かい側の台所でフライパンを洗っている潤に話し掛ける。先ほど里奈が言っていた話がまだ頭の隅に残っていたのかもしれない。
「父さんと母さんっていつ帰ってくるんだ?」
「えっと……確か来年の3月くらいには一度戻って来ると思うよ」
……良かった。単純にそう思った。
やっぱりあの夢は嘘っぱちだったんだ。本当に父さんが交通事故で亡くなっているなら潤がこんな返答をするわけない。
どうせ元とかいう名前も嘘に違いない。一気に心が穏やかになるのが分かる。
「俺が記憶喪失になったことや里奈のこと、ちゃんと話さないとな」
「うん、そうだね」
しっかりと答えてくれる潤。夢なんかに惑わされていた自分が何だか恥ずかしくなってくる。そう、夢は所詮夢なのだから。
「やっぱりそうだよな」
「何が?」
「いや、今朝嫌な夢を見たんだよ。俺が父さんを殺そうとする夢だったんだけど――」
食器が割れる音がリビングに響いた。潤は硬直したままこっちを見つめている。
表情は強張っており遠くからでも震えているのが分かった。
「……名前は?」
「えっと…確か元とか言ってたかな。でも父さんと母さんは生きてるんだろ?だったら関係ないさ」
そうおどけて言っても潤は強張ったままだ。むしろ"元"という名前を聞いてから更に震えが酷くなっている。
「わ、私……兄さんに隠してたこと、あるの」
「……何だよ、それ」
何故いきなりこのタイミングで打ち明ける必要があるのだろうか。いや、本当は分かっているんだ。潤が震えている訳もきっと隠していた中身さえも。
でもそれを受け入れてしまったら俺は……。
「あ、呼び鈴だ!あたし出て来るね」
「……私も行くね、兄さん」
「あ、ああ……」
呼び鈴が鳴り潤と里奈が玄関へと向かう。この間に心構えをしておけということなのだろうか。
初めてかもしれない。真実を知るのが怖いと感じたのは。
「きゃぁぁぁあ!?」
「カナメッ!あ……」
突然玄関から聞こえた叫び声。恐らくは潤と里奈のものだ。
「どうしたっ!?」
慌てて玄関へ向かうとそこにはいつぞやのように紺の上品なドレスを着た会長がいた。その足元には潤と里奈が倒れている。
「やあ要。宣言通り君を迎えに来たよ。二人なら気絶させただけだから安心してくれ」
「……ふざけんなっ!」
思い切り右腕を振り抜く。今日の朝、ようやくギプスを取れたこの右腕で会長の狂った考えを――
「……あれ?」
「素振りとは随分余裕だな、要」
確かに俺は右腕を思い切り振った。手応えもあった。なのに桃花を倒した時に出来たあの衝撃波が出せない。
そして大振りをした俺の隙を見逃すほど会長も鈍くはない。
「がっ!?」
一瞬だった。会長が視界から消えた次の瞬間には腹部に鋭い蹴りが突き刺さっていた。
内蔵が潰されたかと思うほどの衝撃。思わず胃液を戻し廊下に倒れる。
「私だって海有塾で鍛練しているんだ。君には負けないよ」
「か…い……ちょ…う」
目が霞む。視界が段々とぼやけてくるのが分かる。意識を失う前に見たのは会長の歪んだ笑みだった。