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740 :風の声 第5話「風の嵐」:2010/11/07(日) 13:37:25 ID:5wg6HOcu
今日もいつもと変わらず登校する俺
いつもと同じ風景、同じ人の流れ、同じ空気、ただ一つを除いてはいつもと同じだった。
いつもと違うもの。それは早朝にもかかわらず小さな男の子が一人、駅の構内で泣いている事だった。
別に泣いている事に違和感を感じたわけではなく、見たところ5歳ぐらいの子がこんな早朝にいることが
不思議だった。無視しようとした俺を止めたのは俺の“良心”だった。

「どうした・・・?」

いつもと変わらない、人との接触を拒む声。相手はガキなのにも関わらずこんな声しか出せない自分が嫌いだ。
少年は俺の声に対して当然と言ってもいい態度をとった。簡単に言えば俺に対して臆した。
さすがの俺もまずいと思い、今度は声を和らげ膝を曲げ目線を合わし、“本当の俺”の声で話しかけた。

「こんな朝っぱらからどうしたの?お母さんは?」

少年は少しばかり安心したのか返事をしてくれた。

「置いて・・・いかれた・・・」
「お母さんに?」
「ボクが、欲しい物を買ってくれなくて、それで・・・」

要するにこの少年は母親に駄々をこねて置いていかれたわけだ。

「家は近いのか?」
「うん・・・帰れる・・・」

その言葉を聞き俺は安心した。そしてちょっとした興味から、しなくていい質問をした。

「ちなみに欲しかった物って何なんだ?」

今思えばこんな質問をするんじゃなかったと後悔をしている。少年の口から出た言葉は自分の心に重く響いた。

「信頼できる友達・・・」
(ズキッ・・・)
「ボクの事をいじめない仲間・・・」
(やめろ・・・)
「素直になれる環境」
(もう・・・やめろ・・・)
「それと・・・」
「もう・・・言うな」

少年は話すのを止めない、そして最後の言葉で俺は停止した。

「正直に生きる自分」
「・・・」

この少年を見つけたときに感じた違和感、それが今分かった。こいつは、この少年は・・・俺だ。

「お兄さんはボクにそれらを与えてくれますか?」
「やめろ・・・」

少年の口は動いていない。なのに心に響いてくる。

「オニイサンハ・・・ボクニ・・・」
「やめろぉぉ・・・」
「ソレラヲ、アタエテ・・・」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


741 :風の声 第5話「風の嵐」:2010/11/07(日) 13:38:28 ID:5wg6HOcu
―――ガバッ

(ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・)

気付くとそこはいつもの自分の部屋だった。寝汗をかくほどの悪夢、一人暮らしを始めて、初めて見た・・・

いつもの登校路の駅の構内、いつもと違うものは無かった。幼い俺も、それに値する者も。
幼い俺の代わりに居たのは“大空 舞”だった。

「今朝のニュース、見た?」

バスの中で返事をしない俺にいつもどおり話しかけてくる“大空 舞”
この空気に慣れてしまったのか、最近は酸素ボンベの使用頻度が減ってきている。

「殺人事件なんだけどね、女性の焼死体が見つかったんだって」

だからどうした。俺には関係ない。
焼死体といえば、中学の頃、酸素ボンベとライターを使って俺の事をいじめていた“人”を
焼死体にしようとした事があったのを思い出した。
最終的には失敗し俺が咎められる事になった。

「ねぇ、少しは反応してよ」
「・・・なぁ」
「あ、反応した」
「もう、俺に関わるなよ」
「え・・・」
「迷惑なんだよ、テメェの存在が」
「私はそんなつもりじゃ・・・」
「テメェが思って無くても俺には迷惑なんだよ・・・」
「でも・・・」
「黙れ・・・、もう関わるな」

分かっている。自分がどれだけひどい事を言っているのか。
だが、こうでもしない限り、こいつは俺に付きまとってくる。
これでこいつが関わってこないようになると思うと嬉しい
でもどうして、胸が締め付けられる様な気分になるのだろうか


742 :風の声 第5話「風の嵐」:2010/11/07(日) 13:39:43 ID:5wg6HOcu
午前の授業が終わり、一息ついていたときだった
カッ、カッ、カッ、カッ
一つの足音が俺の前に来た。足音の主は同じクラスの女子・・・誰だっけ?
名前を思い出そうとしていると(思い出す気は全く無い)

「立ちなさいよ」
「はっ?」
「立て!」

気分が乗らないまま立ち上がった瞬間だった
―――パシッ
乾いた音が教室に響く、はたかれた。なぜ?
痛みを我慢しながらもいつもどおりの口調で尋ねる

「何すんだよ・・・」
「あんた、何のつもりよ!!」
「何が・・・」
「とぼけないで!!舞の事よ!」

女子の顔は怒りで満ちていた

「あんた、舞になんてこと言っているのよ!!」
「何か言ったか、俺?」

俺の言葉が言い終わる前に女子は俺の胸倉をつかんできた

「舞があんたと仲良くなりたいからってあんなに頑張っていたのに
『迷惑なんだよ、テメェの存在が』とか『もう関わるな』、よくそんなひどいことが言えるよね!!」
「やめて!」

教室の入口から聞こえた声のほうを俺と女子が振り向くとそこには大空がいた

「翼から手を離して・・・私なら大丈夫だから・・・」
「でも・・・」
「お願い・・・離して・・・」

大空が目に涙を溜めながら言った言葉は女子の心に響き、俺をつかんでいた手は俺から離れていた

「くだらねぇ・・・」
「あ?」
「いちいちくだらない事でつっかかってきやがって、俺みたいな人間に関わるから、こんな事に・・・」


743 :風の声 第5話「風の嵐」:2010/11/07(日) 13:40:52 ID:5wg6HOcu
―――ゴスッ
鈍い音が響いた。今度は、はたくなんて優しい物ではなく拳で殴られた

「!?」
「あんた、いい加減にしなさいよ・・・」

殴られた。当然だ、あんな事を言えば誰だって殴ってくるだろう
言っておくが、さっきの「!?」は俺のじゃない。心の中でこうなる事は分かっていたから驚きの感情など無い。
なら誰のだ?答えは簡単だ、視界の端で口を手で押さえている大空のものだろう

「悪いとか思ってないでしょ!」
何故こいつは関わってくる?
「あんたのせいで・・・舞は傷付いたんだよ!?」
傷付いた?おれが大空を傷つけた?
「人を傷つけといて平気な顔をして・・・」

傷つけた?アリエナイ、だって俺は、“自分”を守るためにあのような態度をとっていた訳で人を傷つけるために
あんな態度をとっていた訳じゃない・・・

「ねぇ、何とか言いなさいよ!!」
俺は・・俺が望んだ高校生活は・・・こんなんじゃない・・・

「お兄さんが望んだんだよ」

今までと違う声が聞こえた。視線を向けるとありえない者がいた。夢に出てきた幼い俺だ

「お兄さんが人との関わりを望まなかった事によって、こうして人を傷つけているんだ」
「違う俺は・・・」
「人を傷つけることにより、自分から人を遠ざけたんだよね?」
「俺は・・・ただ平和に暮らしたくて、傷つけるつもりも無くて・・・それで・・・」
「いつまで偽るつもりだよ・・・」


744 :風の声 第5話「風の嵐」:2010/11/07(日) 13:41:33 ID:5wg6HOcu
急に声のトーンが変わった。そこには幼い俺ではなく、今現在の俺がいた。
俺とほとんど同じ人間、違うのは白髪ではなく闇よりも深い黒い髪をしているところだった。

「人を傷つけたくない、自分を傷つけたくない、そんな甘い事を考えてんじゃねぇよ!!」
「・・・」
「本当は人とふれあいたかったんじゃねぇのかよ?」
「・・・」
「今ここにいる人間を、中学の奴らと勝手に一緒にして全てを否定していた。逃げてるだけじゃねぇか」
「・・・俺は」
「ラチがあかなさそうだから今この場で決めろ」
「・・・何を?」
「人を傷つけるか、自分を傷つけるか」
「!?」
「選べよ」
「どうして、選ばないといけない?」
「選べよ・・・」
「断る・・・」
「選べ!!」
「断る!!」

こいつは誰だ?俺とほぼ同じ人間で意味の分からない選択肢を突きつけてきて
分からない、解からない、ワカラナイ・・・

「もういい・・・」
「?」
「選ぶ事も新たな選択肢も考える事もできず、自分も他人も偽るような奴は俺じゃない」
「な、何を言って・・・」
「俺が変わってやる、全て壊し、自分を守り抜いてみせる」
「やめろよ・・・」
「俺は一人で充分だ、というわけで、全てを偽る偽者は・・・」
偽者って何?俺は“風魔 翼”の本物であってあいつが偽者で・・・

もっといろんな事を考え、理解したい俺をあいつは一言で片付けた
「消えろ」

その言葉と同時に俺は暗闇へと放り出された。