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19 :風の声 第6話「風の再誕」:2010/11/13(土) 17:02:27 ID:pL7a4ISK
「ねぇ、何とか言いなさいよ!!」

耐えられなくなった私が、彼女を止めるために、翼を助けたい思いで声をかけようとした時だった。

「・・・あ」
「・・・翼?」
「何よ、言いたいことがあるならはっきりと・・・」

彼女が言い終わろうとした次の瞬間

「あ・・・・あ・・あ・あああああああぁあああああああぁああああああああああああああああああああ!!!」
「「!!」」

突然、翼が両手で頭をおさえ大声をあげた。私も彼女も、クラスのいた全員の心臓が驚きで止まりそうになった
昼休みで騒がしい校内にも響き渡るほどの声をあげ、彼は何かに取り付かれたかのように発狂していた

「翼!翼!」
「あぁあああああああぁああ!!俺は!俺はぁぁぁぁぁぁ!!」
「翼!落ち着いて!私は怒ってないし、責めてもいないから!」
「あああぁああ!!来るな!来るな!来るなぁーーーーーーーーーーー!!!!!!」

翼の焦点は何もとらえず、私の声も、存在も認めていない。話しかける内容が思いつかず、私がアタフタしている間も翼は壁に頭を打ちつけたり、爪を立て自分の顔を傷つけたりして
見えない恐怖から逃れようとしているように見えた
そして、翼のまわりの壁や机に赤い斑点が付着し、教室のほんの一部が少しだけ赤く染まった時、翼は糸の切れた操り人形のようにその場に倒れた。
翼が倒れたあとに教室には声一つ無く、翼を見ている傍観者達がいるだけだった。

「・・・保健室、連れて行ったほうが・・・いいんじゃないか?」

クラスの誰かの言葉で、私は、クラスの人達は見えない束縛から解放された。なぜ気が付かなかったんだろう
目の前で翼は怪我をして倒れているのに、私は見てるだけであって助けようとしないで、さっきの言葉が無かったら、私は・・・翼を・・・見殺しにしていた?
その後、私はクラスの男子2人と一緒に、彼を保健室まで運んだ。彼をベッドに寝かせると男子は昼食を取るために教室に戻っていった。私は校医の先生に今までの事を話し
彼の横にパイプ椅子を出し、それに座って彼に付き添った

「私・・・用事があるから、何かあったら職員室の先生を呼びなさいね・・・。あと、彼のヘアバンとリストバンド、外しておいてあげなさい・・・」
「(リストバンド?)」

校医の先生が保健室を出て行ったあとで、私はすぐに彼の手首を見てみた

「あ・・あった」

手首はブレザーで隠れていた為に今まで見る事も無くその存在すら知らなかった。体育の時も彼はジャージを着用していたので見る機会は無かった
ふと気付くと急に悲しい気持ちになっていた。私は1ヶ月も彼と一緒にいたのに気付かず、校医の先生は一目で気付いた
好きとか言っておきながら、こんな物にも気付か無かったと思うと、涙ぐんできた。

「・・・ごめんね」

言葉が溢れ出す。目の前の彼に聞こえるはずも無いのに、そもそも何に謝っているのかも自分で分からない
悲しい気持ちに浸っていたいが、校医の先生の言葉を思い出し左手のリストバンドを外す。そして、自分の目を疑った

「何・・・これ・・・・」

もう片方のリストバンドも、ヘアバンドも外す。それらで覆っていた所には同じようなのがあった。翼・・・あなたは、何を抱えているの・・・?


20 :風の声 第6話「風の再誕」:2010/11/13(土) 17:03:32 ID:pL7a4ISK
ここはどこだ?・・・暗闇。俺は誰だ?・・・風魔 翼。違う、さっき本物がいた。じゃあ俺は誰だ?・・・・・分からない・・・
さっきから自問自答ばかりしている。しかも、同じ質問で止まり、また最初に戻るの繰り返しだ
あいつは言った「偽る偽者は消えろ」と。俺は、何を偽っていた?あぁ・・・全てか・・・・
自分を心のそこに埋め、人と普通に触れ合いたいのに過去のトラウマのせいで“人”を避け、自分を守るつもりが他人を傷つけ・・・
そんなたくさんの偽りを持つ俺は・・・生きていていいのだろうか?

「答えは決まったか?偽者」

突然、目の前に黒い旋風が起こり、風の中からあいつが、黒い俺が現れた

「・・・俺を消したいんじゃないのか?」
「それじゃつまらないからな、俺自らここに来てやったんだ。いわば、最後のチャンスだ。俺の質問の答えを聞いていなかったしな」
「・・・フッ」
「何がおかしい?」
「おまえ、見かけによらず、優しいな」
「はぁ?」
「消したい相手にチャンスを与えるなんて・・・普通ありえねぇし」
「仕方ねぇだろ、俺とお前はある意味“一心同体”お前の優しさが俺にも影響を与えるんだからな」

影響って、大げさだな・・・・・・・あれ?今あいつは、何て言った?「お前の優しさ」?
優しさ・・・やさしさ・・・ヤサシサ? 考え中にあいつが「考えてもお前の頭じゃ答えは出ねぇだろ」とか言った様な気がするが、それはこっちに置いといて考るのを続ける
その時、一つのワードが頭をよぎった。それはよく俺が呟き、俺の行動をいつもそいつのせいにしていたのを思い出す

「まさか・・・そうなのか?」
「俺に聞くな」
「・・・答えが出たかもしれない」
「なら、聞かせろよ。お前がこれからどう生きるのか?そして、お前、“風魔 翼”とはなんなのか!」

深く深呼吸をする。大丈夫だ、何も不安になる事はない。だって、この答えに行き着いたのは俺だからだ。俺じゃないとこの答えは出ない

「俺、“風魔 翼”は“人”を恐れ“人”と関わるのを拒む人間だ。そして・・・」
「そして?」
「そんな嫌いな“人”にさえ、優しさを見せる人間。それが俺だ。今までは良心のせいにしていたけれど今思うと、その良心が俺自身だったんだ」
「・・・で?」
「で?」
「お前がどんな人間かはなんとなく分かった。けれども質問はもう一個あるぞ」
「今後の生き方か・・・そういえばお前言ったよな」
「・・・」
「新たな選択肢も考える事もできず。つまり選択肢を増やして良いってことだよな」
「それで?選択肢は増えたのかよ?」
「俺は、“自分と他人を守る”」
「は?」
「他人と接するようにし、俺の優しさで他人を守る。これが俺が考えた選択肢だ」
「そんな考えだったから、あんな悪夢を見るはめになったんじゃなかったのか?」
「いま俺の周りにいる人達は、あのときのあいつらじゃない、だから悪夢は見ないと思う。せめて最初から親しくしてくれている人間だけは信じてみる事にするよ。もちろん最初から素の自分を見せることはできない、見せられたとしても30%~40%かな」
「・・・」
「どう・・かな?」
「馬鹿だろ、お前」
「へ?」
「そんな安易な考えが通じるほどこの世はあまくねぇぞ」
「分かっている。だからもし俺が潰れそうになり守る物の為に何かを傷つけなければいけなくなった時は、お前の力を貸してくれよ・・・クロウ」


21 :風の声 第6話「風の再誕」:2010/11/13(土) 17:04:45 ID:pL7a4ISK
「・・・クロウ?」
「お前の名前、黒い翼、黒い翼でイメージするのはカラス、だからクロウ」
「センス悪・・・」
「・・・ウルサイ」
「そう簡単に俺が力を貸すと思ったら大間違いだバカヤロウ。また、全てを偽る人間になった時は容赦せずに入れ替わってやるから、覚悟しとけよ」
「あぁ・・・」
「絆を創れ・・・スワン」

その言葉を最後にクロウは黒い旋風と共に消えていった

「スワン?白い翼だから白鳥か・・・お前もセンス悪。でも、悪くない名前だな」

暗闇が段々と薄れ辺りが白い光で包まれそうになった時、一つ気付いた事があった。暗闇に飲まれた時から俺の左手がなぜか温もりを感じている事を。
そして、俺の意識は光の中へと消えていった
俺が意識を取り戻し最初に視界に入ったのは・・・白い壁?
いや俺は今寝ている状況みたいだからあれは・・・天上か。俺の現状はベッドで仰向けに寝ているという事、あと分かるのは、そのベッドをカーテンが囲んでいるという事。このような光景をどこかでみたことがある気がする

「・・・保健室?戻って・・これたのか」

とりあえず自分が現実に戻ってこれた事に安心を感じた、けれども一つだけあの空間と変わらない事があった。左手の温もりだ
視線を左手に向けると、そこにはベッドに突っ伏しながら俺の左手を握ってくれている睡眠中の人がいた

「大空・・・」
「・・・ふぁえ?」

あ、起きた。トロンとしている目が可愛く見える

「!・・翼?」
「・・・」
「翼・・・・翼ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「うわっ!?」

思ってもいなかった。現実に帰ってきて最初に出迎えてくれるのが大空だったなんて、あんなひどい言動を取った人間にずっと付き添ってくれていたと思うと、ものすごく申し訳なく思えた

「良かった!本当に、グスッ、本当に良かった!」
「大空、お前泣いているのか?」
「グスッ、翼が起きてくれて本当に良かった!」
「分かった、分かったからとりあえず俺から降りてくれ・・・」

跳びついて来るのはいいが、今度は圧迫死するかも・・・
でも嬉しかった。こんな俺を心から心配してくれて、俺が起きたという小さなことに心から喜んでくれる人がいることが、今まで孤独だった俺にとっては嬉しい事だった

(せめて最初から親しくしてくれている人間だけは信じてみる事にするよ)

あの世界で俺が言った言葉。あの時は具体的な人名を挙げなかったが今なら言える
“大空 舞”俺を信じてくれているであろう人。俺はこの人を信じ、俺の優しさで守ろうと思う。素の自分は出せないけれど、この人にならいつか本当の俺を見せられる気がする。そう思ったんだ



スワン、お前は分かっていない。この世は優しさだけで生きていけるほど甘い物じゃない。そしてお前の優しさが誰かを傷つけるかもしれない事をお前はまだ知らない
見届けてやるよ。お前の優しさがハッピーエンドに続くか、破滅のバッドエンドに続くかを・・・