196 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/11/21(日) 00:40:03 ID:IDuC1ZxQ0

「……という訳よ」
屋敷に戻った私は、一室に母とエメリア、ソフィを集め、詩宝さんからの電話について話した。
「お嬢様。長木に詩宝様を連れ出させたのは、堂上の差し金と見て、間違いありませんね」
「他に考えようがないわ」
エメリアの意見に、私は賛成した。
「あの3流プロレスラーが……詩宝様の友人面をして全く余計な真似を!」
額に青筋を立て、ソフィが憤る。その通りだ。
詩宝さんと私が結ばれるのは、誰にも変えようのない運命であって、これを邪魔立てするなど神に戦争を仕掛けるに等しい大罪である。
「あの男、どうやって地獄に叩き落としてやろうかしら……」
書斎にある、『世界一凄惨な拷問の教科書』の内容を思い出しながら考えていると、母が声をかけてきた。
「待ちなさい。舞華ちゃん」
「何を待てと言うの? お母様」
水を差された私は、いささか不機嫌になりながら母を振り返った。
「堂上なんて虫ケラ、後からどうにでもできるわ。それよりも、今は詩宝ちゃんを取り戻すことよ」
「……そうね」
私は反省した。堂上に血の制裁を加えることなど、詩宝さんを取り戻すのに比べたら、優先順位は下の下だ。
「もう一度、詩宝ちゃんに逢うことだわ。逢って5人できちんとお話しすれば、詩宝ちゃんだってきっと分かってくれるはずよ」
「ええ」
母の言葉に、私は頷いた。そのとき、エメリアが口を挟む。
「奥様の仰る通りではありますが……今の時点では、詩宝様と連絡を取る手段がありません。堂上の家に強行突入できないのは、あのメイドのときと一緒です」
「何か考えがあるの?」
私がエメリアに聞くと、彼女は頷いた。
「はい。まず詩宝様と堂上を引き離すことです」
「堂上を消しますか?」
エメリアの言葉に応えて、ソフィが言った。あたかも、“コーヒーでも飲みに行きましょうか?”と聞くような気軽さだ。
「いいえ。隠蔽工作が面倒臭いわ」
エメリアは反対する。私も、すぐに堂上を殺す気にはなれなかった。あのゴミ蟲には、うんと苦痛や絶望を味わわせ、死ぬ以上の辛さを与えてやりたい。
「警察を動かして、堂上を逮捕させるのがよいかと」
そう言って、エメリアは私達3人の顔を見回した。
「罪名は何でもいいのです。詩宝様をお連れするまでの間、一時的に拘束するだけですから」
「悪くないわね」
私は、賛同の意を表した。
「それじゃ、善は急げよ。早速やりましょう、舞華ちゃん」
「ええ、お母様。ソフィ、電話機を持ってきて」
「イエス、ボス」
やがて電話機が運ばれてくると、私は首相官邸の電話番号を押した。
197 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/11/21(日) 00:40:39 ID:IDuC1ZxQ0

『はい。こちら首相かんて……』
「中一条舞華よ。総理を出しなさい」
『な、中一条様と言われますと、あの中一条グループの……?』
「そうよ。早くして。機密漏洩罪で逮捕してほしいのが1人いるわ。一刻の猶予もないの」
『あの、それが、総理は只今、明日の国会答弁の準備で……またお時間を改めていただけますでしょうか?』
「国会答弁って、“理解していませんでした”“心から謝罪します”“辞任しないことで責任を取ります”ってだけ言ってりゃいいんでしょ? 九官鳥でも出しときゃいいじゃないの」
『いや、さすがにそういうわけには……』
「いいからガタガタ言ってないで総理を出しなさいよ!」
『いえ、実は、総理は今、外遊の準備中で……何しろそれだけが楽しみの方ですので、どうか』
「さっきと言うことがブレてるじゃないの!」
『ブレたのではありません。これは進化です』
「税金泥棒! 死ね!」
話にならない。私は受話機を叩き付けた。
「お嬢様……」
「聞いての通りよ。使えないにも程があるわ」
「致し方ありません。時間がかかりますが、順当に痴漢の冤罪を着せましょう。何でしたら、そのまま少年院送りにすることもできます。お嬢様が堂上に痴漢されたと言えば、まず間違いなく警察は信じますから」
「そうするしかないかしらね……」
私がエメリアの意見に傾きかかったとき、母がまた発言した。
「ちょっと、発想を転換したらどうかしら?」
「発想の転換ってどういうこと? お母様」
「堂上じゃなくて、詩宝ちゃんを逮捕するのよ」
「お母様……詩宝さんは何の罪も犯していないわ。逮捕なんてできるはずがないじゃない」
「まあ、聞いてちょうだい。あのね……」
母の説明が終わったとき、私達は頷いていた。
「そういうことなら、分かったわ」
「素晴らしいです、奥様」
「それなら、確実に詩宝様を取り戻せますね」
「じゃあみんな、早速準備しましょう」
「ええ。やるわよ。エメリア!ソフィ! すぐ例の場所に行って、必要な機材を調達してきて! 屋敷の方の準備は、私がやっておくわ!」
「はい、お嬢様!」
「イエス、ボス!」
エメリアとソフィは、高揚した面持ちで慌ただしく部屋を出て行った。
もちろん私も安閑とはしていられない。2人の後に続いて部屋を飛び出す。
もう少しで、また詩宝さんに会える。
私が詩宝さんと離れたばっかりに、今の状態を招いてしまったが、ミスはもうすぐ取り返されるのだ。
198 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/11/21(日) 00:41:29 ID:IDuC1ZxQ0

「あうう……」
晃と最初に交わってから、どれくらいの時間が経っただろうか。
最後の一滴まで晃に搾り取られた僕は、精根尽き果て、ホテルのベッドから起き上がることができなかった。
「はあ。気持ちよかった……」
ずっと僕に跨り、腰を振り続けていた晃は、まっすぐ前に体を倒し、僕に抱き付いてきた。
「うへへへへ……初めてなのに滅茶苦茶感じちゃったよ。あたしってば淫乱かも。ま、そうしたのは詩宝だけどね」
ムチュ……
唇が触れ合う。晃はそのまま舌を突っ込んできた。
全く抵抗できない僕は、されるままに口の中を舐め回された。
「んんっ……んんんん……」
「…………」
気持ちよさで、だんだん気が遠くなってくる。失神寸前になったとき、ようやく晃の舌は僕の口から離れていった。
「ぷはあっ! 詩宝の唾液おいしい」
「…………」
「それじゃ、そろそろ成金豚も引き上げただろうし、帰ろっか」
「……?」
僕には、晃の言っていることの意味は分からなかったが、どちらにしろ体は動かない。
「す、少し休ませて……」
「もう、しょうがないなあ。それじゃ添い寝してあげるから、一緒に寝よ」
裸のまま、晃が抱き付いてくる。僕はそのまま眠りに落ちた。

しばらくして目が覚めると、いくらか気分がすっきりしていた。
「んっ……」
「大丈夫、詩宝?」
「じゃ、行こっか」
「うん……」
僕が頷くと、晃は服を着始めた。
馬鹿でっかい胸を隠すためのコルセットを締め、その上から学ランを羽織る。
僕ものろのろと動き出し、晃に剥ぎ取られた服を着ていった。
ホテルを出た僕と晃は、少し歩いて大通りに出た。そこでタクシーを拾い、晃の家に向かう。
「さあ。入って入って」
「お、お邪魔します……」
「ただいま、でしょ? 当分ここが詩宝の家になるんだから」
「た、ただいま……」
晃の言う通りにしてみたものの、違和感があるのは否めなかった。
「あの、晃……帰って早々だけど寝かせてもらっていいかな? 明日学校だし。あ……制服も鞄もないや!」
そのとき、僕は初めて、中一条家から何も持たずに出てきたことに気付いた。
このままでは学校に行けない。一度家に戻らないと……
しかし、晃は平然と言った。
「明日は学校、行かなくていいよ」
「え?」
「学校辞めるんだよ。あたしも、詩宝も」
「な、なんで……?」
「成金豚と一緒の高校なんか通ったってしょうがないじゃん。あたしは女として別の高校に入り直すから、詩宝も一緒に来る。いいね?」
「で、でもどうするの? プロレスの方は? 女の子だってばれちゃったら……」
「辞める。てかうちの団体、当分再起不能っぽいし」
「…………」
総日本プロレスで、一体何があったというのだろうか。
恐れおののくしかない僕は、あまりにも無力だった。
199 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/11/21(日) 00:42:15 ID:IDuC1ZxQ0

「ようし、寝よ寝よ。あ、言っとくけど、睡眠取るって意味じゃないよ。せっかくだからもう一回戦……」
晃は口から涎を垂らしながら、僕を奥へ引っ張って行こうとした。
そのとき、玄関でインターホンが鳴らされる。
ピンポーン
こんな時間に、誰だろう。もしかして、紅麗亜か先輩が、怒り狂って怒鳴り込んで来たんじゃ……
僕は戦慄する。
「成金豚かも。あたしが出てくるから、詩宝は奥に隠れてて」
「あの、それなら、居留守使った方がいいんじゃ……?」
我ながらチキり過ぎだとは思うが、今先輩か紅麗亜と晃が出くわしたら、第3次世界大戦級の争いが勃発してもおかしくない。できればやり過ごしてほしい。
「大丈夫だよ。きっちり追い返してやるから。詩宝は奥で待ってて」
でも、あまりにも自身たっぷりに晃が言うので、僕はつい頷いてしまった。
「う、うん……」
僕は奥へ引っ込み、晃は玄関口へ向かって行った。
しばらく、静寂が続く。
そして、晃の大声で、突然それは破られた。
「ふざけんなあっ!!」
やっぱり来たのは先輩か紅麗亜だったのだろうか。
僕は口の中で、小さく「ひいっ」と悲鳴を漏らした。
そして、ドタドタと足音が聞こえる。
姿を現したのは、2人の大柄な女性警察官だった。制服を着て土足のままで、僕を見下ろしている。片方が僕に問いかけて来た。
「紬屋詩宝君ね?」
「そ、そうですけど……」
「あなたには、婦女暴行の容疑がかかっています。署までご同行ください」
もう1人がそう言って、僕の手にガチャリと手錠をかけた。
僕は顔から、血の気が引いて行くのが分かった。
怒り狂った先輩が、僕にレイプされたと被害届を出したに違いない。
薬を盛られたと主張したところで、政治家の公約ほども信用してもらえないだろう。
少年院行き決定だ。
「待て! 詩宝は無実だ! 証拠だってある!」
追い付いてきた晃が叫ぶが、2人の女性警察官は歯牙にもかけない。
「それなら、裁判で提出することね」
「あ、邪魔すると、公務執行妨害であなたも逮捕しますよ。フフフ……」
「くうっ……」
晃の方を見ると、彼女は僕がかつて見たことのない形相でキレていた。
だが、僕はどうすることもできず、ミニパトの後部座席に乗せられる。
片方の女性警察官が運転席に座り、もう片方が僕の隣に座った。
そしてミニパトは、夜の街を走り出す。
「あの……」
「静かにしていてください。お話は署で聞きますから」
「その警察署を、今通り過ぎちゃいましたけど……」
「そうみたいですね」
「…………」
平然と答える女性警察官。僕は疑心暗鬼になった。
先輩は、一体どこの警察署に被害届を出したんだ? 石垣島か?
そのとき、運転していた女性警察官が言った。
「もう、いいんじゃないですか?」
「え?」
「そうね」
すると、僕の隣の女性警察官が、顔から肌色のものをべりべりと剥がし始めた。
あれだ。スパイ映画とかでよく出てくる、変装に使うやつだ。
やがて彼女は変装用のシールをはがし終わり、素顔を見せた。
「エメリアさん……」
「はい。あなたの第1愛人、エメリアです」
「じゃあ、前にいるのは……」
「第2愛人のソフィですよ。詩宝様」
運転していたソフィさんが答えた。
「一体、どこに向かって……?」
「もちろん、お嬢様のお屋敷ですよ。そこでじっくりと“取り調べ”をさせていただきます」
艶然と笑うエメリアさん。
僕は、少年院入りを覚悟したときより恐慌状態になっていた。
最終更新:2010年11月21日 16:25