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「あの~さっきから何?」俺は堪らず言った。
「なっ、てめぇ忘れたとは言わせねぇ。」

この口の悪い女は病子、ロングヘアのチビだ。うん、俺の説明は以上。

「お前、私にノート貸してくれるっていったじゃないか!よこせ!」病子は強くせがむ。
「悪い、もう貸しちまったよ、すまんね。」と手をひらひらさせながら軽めに言い放った。
病子はとても残念そうに早口で捲し立てた。
「お前、私が国語不得意なの知ってるだろ?昨日、お前に「数学秘伝ノート」貸してやったろ。
 そんときに「交換な!」って約束したろ・・・」
そうそう、こいつは文系がからっきしダメなやつだ、毎回「国語奥義手帳」貸してやってるんだ。
英語も俺よりできないんだよなぁ・・・、難儀なやつだな。

病子はあきれた表情で「おい、聞いてんのか、おまえって奴ぁ・・・忘れっぽいな。で、誰に貸したんだよ。」
俺は素早く「来張子(ライバルこ)だよ。」と返した。

「え・・・あ、まじ、そっか・・。」病子の表情が曇る。

病子が急に残念そうな顔をしたので、びっくりして「ごめん、俺忘れっぽいから。次な!」
「へぇ~・・・お前があいつとそんなことする仲なんだ、そうなんだ・・・。」
俺は明るい表情を装って「あいつ国語苦手でもない癖になんでだろうね~、
 俺が国語に関してはクラストップだから借りたんかな。なんつって。」

「そうか・・?違ぇだろ、闇雄・・。あ、HR始まるからよ・・。」
俺はこの気まずい雰囲気から解放された安堵感から「おっ、そうか、そういやぁいってなかったな」と言い放った。
病み子が振り向きざまに「なに?」と訊ねると、
俺は「おはよう・・・。眠い朝だな。」と囁いた。

病子が一瞬だけ微笑みながら「お前って、ほんと律儀なやつだな、馬鹿みたい・・。」と、ニッコリ微笑んだ。

~放課後~
ライ子(来張子の愛称)が机に突っ伏す俺に、急に声を掛けてきた。
「あんたのノートのまとめ方すごくない!?感動しちゃった。コツ教えてよ。」
ライ子が急に絶賛から始めたので、言葉に詰まった。
矢次に「あたし、結構ムズイ大学うけるんだよね、前に言ったけ?
 それで、どういう風にノートをまとめたら頭に入るかな~って考えていたら、
 あんたの神ノート出会ったわけ。暇なときでいいから、ね?」

ライ子は学年一の可愛い子ちゃんなので、俺は最高に嬉しかった。なんというサプライズ。

ショートカットの長身美人タイプに弱い俺は、日本男子らしく嬉しさを表情に出さずに、
「まぁ、今日からでもいいよ、放課後やる?」
ライ子は待ってましたと言わんばかりに「ほんと!?優しいね~。4時半位から始めよっか。」
「任せとけや。」と、根拠なき自信で言い放った。
ライ子は、俺に微笑みを投げかけたのち、教室を出ていった。
全く、なんて可愛いんだ、罪だぜ・・・、と心で呟いた。

「裏切りもん、この女好き。」と、内想を背後から踏み倒す声が聴こえた。

病子だ。俺の顔を覗きながら、続けて「お前が声掛けられるとか、あり得ねぇ、
 何かの間違い。騙されてんだよ。」、と漏らした。
俺はムカっとするどころか、妙に納得した表情で
「まぁ、一瞬俺の脳にもそれがよぎったけど、考えないことにした、
 この幸せな瞬間を噛み締めるわ。」としみじみ語った。
俺は、得意げな調子で続けて「お前もイケメン引っかければ?」と言った。

病子は即答で「ふざけんな、興味ない、私は一途な性格だから。」と、含みのある言い方をした。

すると病子は廊下側を覗いて、帰り支度を性急に始めた。どうやら、帰るらしい。
病子は俺のそばの通り際に、「闇雄はホントバカだよ!」と小さく吐き捨てつつ、教室を出て行った。
いくらなんでも、怒りすぎだろ。女ったらしが嫌いなのかな・・・。
直後に、ライ子が華麗に登場。教室には、まばらにしか生徒が残っていないが、
これが人気者のオーラか、一応みんな軽く一瞥してしまう。もちろん、凝視する奴もいるが。

その後の幸せタイムの描写は省かせていただきます。あしからず。
ただ一つ、気になることライ子に言われた。「ヤミって、あんたのこと好きじゃないの?だったら、ごめん」と。
俺は、そんなことあり得ないと、言い切った。
急にそんなことを切り出されたので、少なからず動揺してしまった。
「小動物的で顔もカワイイくない!?反対に、性格は威勢がいいよね。このギャップいいと思うけどなぁ~。」
俺は照れ臭そうに「俺なんか願い下げだろ、それに今更そんな気持ちになれないよ」と返した。
そうそう、そうなんだ、ただの友達なんだ・・。10年近く、勘違いされたり、はやし立てられたりしたが、
俺たちは気の許せる幼馴染で、親友、それ以下でもそれ以上でもないんだ・・・。きっと、そうだろ・・・。

~病子、自室にて~

「あいつ、なんなんだよ、嬉しそうにするんじゃねぇよ。俺の前で、ひでぇよ・・・。」
病子は帰宅後、すぐさま自室で目を泣き腫らしながら、呟き続けた。
「私が奥手なの知ってるくせに、ホントは好きなの気付いているくせに卑怯だろ・・。
 でも、あいつの事が好きなんだよな、責められない、好きな人を責められない。
 てか、なんで私はあいつのせいにしてるんだ。卑怯な女。だから、振り向いてもらえないんだ。
 あいつに意識させなきゃいけないのに、自分勝手に口悪く虚勢を張ってばかり。」
ベットに無造作に寝転がり、白いクマさんのぬいぐるみを抱きしめながら、その黒い瞳を見つめて言った。

「変わらなくちゃ、今がチャンスなんだ・・・。」

怖い、拒絶されたら今のラフな関係は築けなくなる、そういった悲観的な事も考えたが、
もういたずらに時を過ごすのはやめよう、という冷めた情熱が勝った。

~翌日~

病子は普段は早めに登校する、意外に真面目な性格なのだが、今日に限っては、
社長出勤になりそうな予感がする。HRまであと3分。
そんな事を、机に突っ伏しながら考えていたら、ライ子に話しかけられた。
まさか、こんなに仲が良くなるなんて夢にも思ってなかった、
むしろ、昨日の教授で俺の悪い部分が見抜かれて、逆に、
嫌われるのではと思ったが、非常に好感を持たれたようだ。

「闇雄!昨日は勉強になった上に、面白い話いっぱいできてグッジョブだったよ。」

ライ子の声は、あまりにも響く高音なので、周りの男子がちらちら見始めた。恥ずかしくなって、頷くだけだった。
「あと一週間頼むよ大将!時給も出すよ、ね!?」と肩を3回ほど叩き、
軽やかな歩みで窓際の席に戻って行った。え、一、一週間?ながっ!

会話が終わったのち、前に座っていた野郎史(ヤロフミ)が「浮気か、浮気なのか?!」と悔しそうな笑みで捲し立てた。
俺はその意地悪な問いに対して「俺は彼女いねぇ~し、それにライ子が困るだろ、そんなこと言っちゃ。」返した。
すると野郎史は「おまえ、ホント勿体ないよな、病子ってカワイイじゃん、
 それに意外と優しい奴だと思うぜ。」と、なぜか誇らしげに語った。
「そうかも知れんけど、俺が病子と、どうこうって事は絶対にないから。ないない。」ときっぱりと答えた。
そう言い切った瞬間、野郎史はバツが悪そうな顔をした。
俺は、まさか?しまった!と感づいて、あたりを見回した!・・・・病子だ。

「・・・闇雄おはよ。邪魔して悪りぃな。・・・じゃ。」と、すぐさま振り向き席へと歩んでいった。

俺は後ろを振り向いたまま、固まってしまった。ああ、やってしまった。
変な冷や汗をかきつつ、深く後悔した。あいつは、ああ見えてナイーブな奴だから、多少の事で傷つく。
動揺したために、病子がどんな顔をしていたか覚えておらず、
廊下側の一番後ろの俺には、角度的に顔を窺い知ることができない。
しかも、話題を振った本人は澄ました顔をして空を眺めてやがる。なんてこった、謝らなきゃ。

HRが終わってすぐさま、彼女の元へと歩み寄った。
ごめんな、と謝った。すると彼女は、「気にすんなよバーカ、お前らしくねぇーぞ。まあ良い心がけだけどさ。」と
病子は微笑みながら、いつもの調子で返してくれたので、俺は杞憂だったと安堵した。
すると彼女は急に声のトーンを落として、「闇雄、放課後空いてるか?」と質問してきた。
俺は彼女に対し、多少の躊躇いはあったものの、先客があるために2度目のごめんなさいをした。

すると彼女は悲しそうな顔で「そっか、しゃーないか・・、じゃ明日はあけてくれよぉ?」
と今までに見たことないくらい、いじらしい態度で懇願した。
が、一週間頼む、と言われた事を告げると「強引じゃないか、断りなよ・・。」と、病子が不満げに提案した。
俺は「でもよ、あの天下のライ子だぜ?ちょっと無下には断れないし、なんか勿体ないだろ。
 あんな子と1対1でみっちり、面白おかしく、かつ知性的な語りあいができるなんてなぁ、
 俺みたいな万年非モテ男には天恵なんだよ。わかるだろ・・?なあ?」と、自虐しつつ正当性を主張した。

病子は「私だって女だよ・・・、わかってるだろぉ。頼む。断ってくれ。」と俺の瞳を、
彼女の大きく、幼子のような純真な瞳が、何時になく強く捉えてきた。
俺は見つめられた恥ずかしさからか、なぜか周りを見渡して、「休み時間に」話そうか。」と訊ねた。
彼女も俺の心境を察して、頷いてくれた。後ろから、熱いね~っとはやし立てる声がかすかに聴こえたが無視。

そして、席に戻った俺は、汗をかなり掻いていたことに気付いた。俺は汗を掻くタイプではないが・・。
昨日までの腐れ縁的な幼馴染から、女の子だと意識せざるを得ない、
俺への接し方に新鮮さを覚えつつも、一校時目の準備を始めた。

~休み時間~

「へい、お待ち。」と平手を挙げて、4階・階段の踊り場の段差に腰かけていた、病子に挨拶した。
緊張した面持ちで、やっと来たか遅い、とでも言うように、若干怒りっぽい調子で俺に挨拶を返した。
だけども、表情のほうはどこか落ち着かない、緊張した面持ちのままだ。
俺は間髪いれずに「うーん、じゃ、本題にはいろっか。」と訊ね、
病子も少し間を開けて「おっ、おう。本題に入るぞ・・、いいのか?しっかり聴けよ。」と、
重大発表でもするのかと思うくらい、真剣な眼差しで言った。
「ウチらって、いつから遊びに行かなくなったり、一緒に行動しなくなったけ?」
本題に入るぞ、とか言ってたので、てっきり予約交渉からスタートするのかと思いきや、
意外な回顧話から始まった。
「小6あたりじゃね?難しい時期だろ、あの頃は。ま、今もそうだけどさ・・。」
俺の受け答えに、病子は少々驚いた様子で、「覚えてんのかよ、ホント意外・・。あんたの事、見直した。」
おいおい、これくらいの事は覚えてるっつうの!、と心で呟きながら、
病子が何を言いたいか察した俺は、いじわるっぽい口調で、
「だから、久しぶりに一緒に遊ぼうってか?」
病子は「分かってんじゃん、つまりそういう事。ナイスアイディアだろぉ。」と誇らしげに言った。
だが、俺は(一方的だが)先に交わした約束を反故になんてできない性格のため、
「一週間我慢してくれ、その後はどこなりと行けるからね。」と断った。
そして、少しの沈黙が流れた後、「わかった、待つ。絶対忘れんなよ!一週間後だからな。わかったな!?」
と、健気な笑顔で俺を指さしながら言った。
俺はその指された指を右手で掴み、軽く頷いた。

~放課後~

放課後になると、机でひじをついてた俺は、ライ子に声を掛けられた。
「闇雄!4時半から図書館でやらない?あの方が落ち着くからさ。ね?」
俺は少し間を空けて「確かに。昨日は教室に他の連中共がいたから落ち着かなかったな~。うん、賛成。」
「連中なんて言っちゃダメだよ、クラスメイトなんだから。説教会に変更するよ!?」
「え~、ごめんごめん。拙者、気をつけますゆえ。」
「ははっ、なんなのその変な言い回し。でも、面白いから許す!」
「どうも。じゃぁさ、俺、先に図書館で待ってるわ。早く来なよ。」
「お行儀良く待っているのよ?行ってらっしゃい!」
「はいはい、お行儀よく待ってます。」

俺は重い腰を上げ、教室を出て窓際を歩きながら、一つの感情が湧きあがった。楽しい、である。

ライ子は一言交わすだけで、楽しい気分になる、俺も自然と笑みがこぼれてしまう。
やはり、これが誰からも好かれる超人気者、来張子が持つ強力な特殊能力に他ならない。
それにしても、色々と最高の女子と、たった昨日の数時間で仲良しになれるなんて、人生捨てたもんじゃないね。

4時半きっちりに颯爽とライ子登場。なにやら、巨大な袋を抱えている。
「なんなの、そのでっかい袋?」俺は訝しげに訊ねる。
俺の真正面の席に腰を下ろした彼女は、袋に手をつっこみながら「お菓子とジュース。これがなきゃ始まらないよ~。」
俺は多少躊躇いながら、「図書館でそんなもん食ったらまずいって!怒られる。」
ライ子は即座に「じゃぁ、司書さんから見えない席に移ろうよ。ほらいくよ!」
ライ子も俺が思ってた以上になかなかのワルらしい。そんな事を思いながら、
満面の笑みを見せる彼女に指定された席に着いた。
その一時間後、残念ながらこの図書館にとって許しがたき悪行は、バレて怒られたのだが、彼女との楽しいひと時になった。
ちなみ、ノートの上手いまとめ方なんて、初日で伝授済みだったので、半ば俺のための勉強会兼懇親会になって、
俺の方がなんだか申し訳ない気持ちになり、なお且つ、バイト代まで強引に渡してきたので、
俺自身が尽くして貰ってるような、なんともいえない気持ちになった。

~闇雄の想い~

そんなこんなで、一周間が過ぎようとしている。
ライ子のとき折見せる破天荒な行動と、無邪気さは俺の心を射止めてしまった。
容姿だとか、ステータスだとかはもう関係ない。内面に強く惹かれたのだ。
俺がこんな気持ちになるのは初めてだった、こんなに胸の躍る一周間もお初。
彼女は俺のことなど微塵も意識していないかもしれない、だが、それでも彼女に感謝したい。

ただ、この一周間で心に引っかかったことがある、病子のことである。

病子は最近元気のないように思えたし、俺とライ子が話している時、常に病子の視線を感じた。
そして、いつしか俺は気付いたんだ、病子は俺に嫉妬しているんじゃないかって。
「今更?鈍感・ニブチン!」なんて言われるかもしれないが、彼女も俺に異性的好意を今まで微塵も見せたことはなく、
俺に対して「魅力が微塵もない男、第一位闇雄!」なんて事を、再三言っていたこともあり、
俺たちの関係はその程度なんだと考えていた。
なので、俺が女の子と仲良くなろうが、我は関せず、を貫いてくれると思ったが、違ったようだ。
杞憂に越したことはないが、俺を遊びに誘ったり、一連の態度、異性アピールは明らかに、
今までとうってかわり、攻勢をかけてきた感がある。
でもまあ・・・、嫉妬=俺の事が好き、ということにはならないからね・・。俺の妄想過剰だと信じたい。

~病子の想い~

病子は登校途中、闇雄への想いを沈んだ心で思案した。

なんであいつ、ライ子とあんなに仲良くなってんだ。まさか、ライ子に恋してるとかないだろぉ。
やめとけよ、釣り合わないし、ライ子はお前の事を一ミリも理解してねぇよ。
比べて私はお前が思ってるより、お前のこといっぱい知ってるし、それに世界中の誰よりも大好きなんだ。
確かに、私はお前を突き放すようなことばっかりして、悪い男友達のようなポジションに居座り続けていた。
でも、これは素直になれない私の好きの裏返しで、その度に私は後悔ばかりしてきたし、泥沼に嵌っていった。
闇雄なら、私の愚行、ゆるしてくれるよな・・・。闇雄は優しくて、思いやりがあるもんな。あ・・、都合良すぎか・・?
だから、私はもうお前に告白して、当たって砕けようと思う。それを、今回遊びに行く時実行したかった。
もちろん怖い。でも、このまま闇雄とあやふやな関係のまま、お前が私から離れていくのはもっと怖い。

もし、私とお前が一緒になったあかつきには、いままで、素直になれなかった分、
いっぱいいっぱい・・愛してやるからなぁ・・・、私はお前のためなら何でもできる気がするぞぉ?
すぐに私を彼の世界の中心に据えてやる・・。待ってるんだぞ・・、闇雄・・。

~ライ子との勉強会最終日~

ライ子との至福の時間もいよいよ終わりか・・・。
俺はセンチメンタルな気分になりながら、彼女が楽しく喋る姿を、温かく見つめていた。
そして、なぜか俺はつい、頭で思っている事を小さく呟いてしまった。
「かわいいなぁ・・・。」
ライ子の会話がピタリと止まった。
下心丸出しな事を言ってしまったので、焦って弁解に努めた。
「いやぁ、ちょっとなんていうか、つい、口に出してしまって。気に障ったかな?ゴメン!」
彼女の表情がパァーと明るくなって「ありがとう嬉しいよ・・・。急に言われちゃったから、
 ビックリしちゃった・・・。照れるな~。この色男!」
俺は笑って間を繕ったが、彼女がいつの間にか上目使いになって俺の耳元まで迫り、こう囁いた。

「私も闇雄のこと、いいなってずっと思ってたんだ。この意味、分かるよね・・・?」

物凄い爆弾発言を耳にしてしまった。俺は当然の事ながら、固まってしまった、耐性がないので仕方がない。
彼女は俺からの言葉を待っているようだったので、「ビックリでした~、って事ないよね?」と確認を求めた。
即座に彼女は「ビックリでした!残念!」と意地悪な笑顔で言い放った。
俺はがっくしと肩をおとしながら「やっぱりね~。夢見れたんで良かったよ。」と笑い飛ばした。
だが、次の瞬間、ライ子は至極真面目な表情になり、

「うそ。ビックリじゃないよ・・。あたし達なら上手くいくよ。ほら、決めて・・乙女の心は移ろいやすいよ・・。」

彼女のこの表情を見て、本気で言っているんだと思い、少し考えながら、
「俺でよければ、お願いします・・・・。」
俺の返事を聞いた彼女は、机から身を乗り出し、とても柔和な笑みで、
「ほんと?嘘じゃないんだよね、嬉しいな・・。ありがとう、闇雄・・・。」
「でも、俺なんかでいいのかな、ちょっと信じられない、夢みたいだ。あ、そういやぁ、
 俺のどこが良くて、こんな酔狂な決断してくれたの?」
「全部。酔狂な事じゃないよ、最初からこうなる運命だったの。闇雄も望んでいたでしょ・・。」
「そうか、じゃぁ、俺もライ子の全部だよ・・。えーと、俺、絶対ライ子のこと、
 楽しくさせるからさ・・・。全力で頑張るよ。」

愛の誓いとでも言えば良いのだろうか、その後も二人で、相も変わらず、会話が盛り上がった。
俺は幸福期に突入したらしい。幸せすぎて、もう、ライ子のことしか考えられねぇ・・・。

~闇雄、自宅にて~

家に戻った俺は、メールが5件・着信が3件、留保されているのをスタート画面で確認した。
ライ子のメール1件以外は全て病子のものであった。
もちろん、真っ先にライ子のメールを開き、返信したのだが、お付き合いホヤホヤなためか、
メールの返信の応酬を一時間に渡って続けた。普段、ケイタイをいじるのは(機械音痴なため)苦なのだが、
今回ばかりは、この文明の利器に感謝しつつ、ニヤニヤしながらいじり続けた。
ライ子とのメールのやり取りを終えた後に、病子のメールを確認したのだが、案の定、
明日のお出かけの概要が羅列されてあったが、意外に驚いたことに、超過密スケジュールなのだ。
病子はかなり計画的にスケジュールを組んであるようで、今回のお出かけに、なみなみならぬ真剣具合が見て取れた。

だがここで、一つのためらいが脳裏をよぎった。
約束とはいえ、恋人のいる人間が、他の女子と仲良くお出かけなんてしてよいのであろうか?
ライ子への愛を誓った矢先に、他の女の子と一緒に出かけるなんて、到底申し分が立たない。
許可を取って出かけるなんて馬鹿な真似はできないし、
それに、俺はライ子以外の女性と触れ合いたいと現時点では思わない。病子を異性だと意識していないにしてもだ。

よし、そうだ、断ろう。しっかり理由を話して、ちゃんと詫びを入れさいすれば、あいつも分かってくれるだろうし、
それに、あいつはあっさり・さばさばした性格だし、意外に物わかりのいい奴だ、いける。

俺は確信を秘めた心で、電話にて直接伝えることにした。数秒間の呼び出し音の後、
「おーい!遅かったじゃねぇか。待ち過ぎて化石になるところだったぞ!」
病子の嬉しそうな幼くも強気な声が、大音量で耳をいきなり刺激した。
「おいおい、普通、電話ってのは、もしもし○○です、から始まるもんだぞ。それに、声でかいよ。鼓膜破る気か・・。」
「わかってるって。早速本題に入りたいんだけどよぉ、明日は朝8時待ち合わせで・・・、・・っておい、
 人が喋ってんのに遮るなよ。このおバカぁ!」
「すまん!ちょっといいか?あのな、明日は行けないんだ・・・。」
「えっ・・・なんでぇ?気分でも悪いのか?親戚の用事が急に入ったとかかぁ?」
病子のテンションが急激に下がったので、理由を言うのは控えた方がいいんじゃないか、という考えが一瞬脳裏をよぎったが、
これをまた一瞬で振り払い、ひと呼吸、間をおいて、ゆっくり小さく伝えた。

「ライ子と付き合うことになったんだ。ほら、なんていうか・・、
 他の女の子と遊びに行くのは、浮気になっちゃうしさ・・・。」

想定外の発言のためか、病子は沈黙した。
5秒間の電話のノイズ音が流れた後、彼女のいつものひそひそ笑いが聴こえてきた。
「な、意味わかんねぇよ。こういう冗談は、寝言でほざけ!なんなら、私が起こしにきてやろうかぁ!?」
彼女は冗談だと思ったようだ。
俺は一瞬、気付かれなくて良かった、という安堵感に満たされたが、
それでは意味がないと自らに言い聞かせ、先程の言葉を繰り返した。
「俺はライ子と付き合ってるから、他の子と遊びになんか行けないよ、
 男友達のような関係だったとしてもね・・・。」
俺の真剣な口ぶりに、彼女はまたもや押し黙った。
そして今度はかなり長い沈黙だ。長い、数十秒そこらであったであろうが、
その何倍の尺に思えた。俺の心の鼓動が速くなり、胸を締め付けられつつも、固唾を飲んで彼女の言葉を待つ。

「嘘だって、騙されてんだよ。あんたは詐欺に引っ掛かりやすいもんね。」

彼女は蚊の鳴くような小さな声で言った。
俺はすかさず「彼女がそんな事したって何になるんだよ、ともかく、行けない。ゴメン、ホントにごめん・・・。」
「なんかの罰ゲームでもやらされてんだよ。そんなの無視して、行こうぜ。私、一生懸命プラン練ったんだから。」
「とにかく行けないからね、ごめん、切るよ、いつか埋め合わせはするからさ。おやすみ。」
「まだおわってな・・・ブツン!ツーツーツーツー・・・・・」
会話の途中で切ってしまった。
きりがなさそうだったので、心苦しいがこのような決断をして、事態を収拾することにした。
すると、手元の携帯が震えた。思ったと通り、病子からのようで、電話に出るか迷ったが、
無情にも携帯をマナーモードにし、枕の下に押し込めた。
十年来の幼馴染に、このような仕打ちをするのは心苦しいが、こういうちょっとしたドタキャンなんて、
誰しもがいつかはしてしまう、と自らに言い聞かせ、ベットに寝ころび、瞼を閉じた。
もちろん、眠るためにベットに寝ころんだわけだが、今日一日いろんな事があり過ぎて、
その事が頭を巡り、全く寝付けない。
ライ子とのこれからを考えたときの幸福と不安・・、病子に対しての罪悪感とこれからの償い・・・。
それにしても、病子は全然信じてくれなかったな、態度もなんか不気味な感じだった、今頃凄い怒ってんだろうな・・。

そうこう考えているうちに、玄関のチャイムが響いた。まさか!?マジかよおい・・・。
俺の家は2階建ての一軒家で、一階が各々の家族の部屋となっているため、
一番玄関に近い部屋を持つ俺が、大抵は対応する事になっている。

俺はベットからすぐさま体を起こし、部屋をでて、廊下を通り抜け、玄関のドアノブに手を掛けた。
やはり、病子がいた。俺は彼女の目を見た瞬間、胸が締め付けられた。
さっきまで泣いていたのが容易に予想できるくらい、目が赤く腫れており、表情はなんとも弱弱しい。
俺は戸惑いながら、彼女を部屋に招き入れ、ふかふかの白いソファーに座らせた。

ときどき点滅する天井の蛍光灯が、なんともいえぬこの気まずい雰囲気を相乗して演出した。
第一声は俺から発せられ、「蛍光灯が最近、死にかけてさ・・・、でも取り換えを躊躇っちゃうんだよね~。
 電灯のカバーに溜まった死んだ虫とかを見るのがなんか嫌でさ・・・。病子はどうね?」
と場を和まそうと、下らないことをほざいてしまった。
すると病子は、体育座りをしながらザラザラした床に視線を落としつつ、
「私もさ、死んだ虫とか苦手だぁ。大抵の虫なら触れるけど、死んだやつぁ絶対触れねぇな。」と返した。
病子は下らない質問でも、嫌がらずにちゃんと返してくれる、ノリのいい奴だ、
という事を再確認しつつも、俺の心の中は気が気でなかった。
すると、無理に愛想笑いをしていた俺に、
「ライ子とホントに付き合ってんの?悪い冗談だろぉ、なぁ?」と涙を溜めた目で俺を見上げた。
「・・・付き合うことになったんだ、本当だよ。図々かもしれんけど、
 彼女いない歴が塗り替えられた俺を祝ってくれんか、いや、
 どっかのラブコメみたいに、はやし立てるのも大いに結構だよ・・。俺、マゾっ気あるし・・なんてな。」
病子は無地の壁を見つめ、
「・・・・・本当なんだ、そうなんだ。そんなに嬉しいのかよ・・、ライ子と付き合えて。なんなんだよ・・。」
そう言い終えたあと、病子の目から一筋の涙が零れた。
俺はやっと確信を持ってこう思った。この涙は、突然キャンセルを言い渡された悔しさ・失望からではない、
俺の事が好きだったからだ、なんて気付くのか遅いのか。最低な男だ。
勇気を振り絞って、彼女をしっかりと見つめ言った。
「もしかして俺の事、異性として好きだったのかな・・?あ、違ってたら今の質問、未来永劫わすれてくれ・・。」
彼女は質問を聞き終えると、急に立ち上がり、俺の腰かけるベットに彼女も腰かけ、すぐ隣でこう囁いた。

「そうだよぉ、ずっと大好きだったよ、闇雄の事をさ・・・。」

俺は閉口し、頭が真っ白になった。だが、心臓は相変わらず鼓動をさらに加速させる。
病子は俺の横顔を、涙で霞んでいるはずの視界で、柔和な痛々しい表情をもって見つめ、
「やっと言えた・・・、でも、こんなバットタイミングで言うつもりじゃ無かったんだけどよぉ・・。
 あ、案外私ってロマンチストでよ、明日あの綺麗な噴水前でいうつもりだったんだ。」
俺はただ、謝ることしかできなかった。ごめん、を続けて4回も言った。
それを聞くと病子は一瞬だけ微笑んで、
「お前って、謝ってばかりだよなぁ。私なんか、自分が全面的に悪くない限り、絶対謝らねぇし。」
続けて、「私がお前の彼女だったら、簡単には謝らせないのになぁ・・、
 男なら堂々としろっ!、とか言って檄入れてやるのに・・・。」
さらに続けて、「逆に私がごめんって謝らなくちゃいけねぇのになぁ、私が闇雄を好きでさえいなければ、
 こんな事にはならなかったよなぁ。ホントにごめんよぉ、でも、まだ闇雄の彼女を諦めきれないよ・・。」
病子の健気さに俺の心は苛まれ、気がつけば、俺の目の縁にも涙が溜まっていた。
ライ子に告白されていなければ、あるいは、病子の気持ちをもっと早く察し、告白していれば・・・、
そういった今更どうにもならない数種の仮説が、頭の中で浮かび上がり、闇の奥へと消え去った・・。
いつの間にか、部屋は静寂に包まれ、鬱屈な空気だけが目に見えるかにごとく漂っている。
1分くらい経過したころだろうか、病子が自ら持参したレースのハンカチで俺の涙を拭ってくれた・・。
すると病子は何か決意したらしく、無理やり作ったであろう、沈鬱な笑顔で俺の手を優しく握ってこう言った。

「なぁ闇雄?今からでも闇雄の一番に・・・なるよ・・・。」

俺は即座に、どういう意味か?と訊ねたが、
病子は急に立ち上がり、部屋のドアノブに手を掛けてゆっくりと開き、振り向きざまに、
「待っててね・・。」と非常に微々たる声量で、謎の泣きっ面の微笑みとともに、部屋を後にしていった。
全く訳がわからず、茫然と座りすくした。意味深なセリフ、なにやら決意を秘めた表情、急に部屋を出て言った事。
固まった俺は、そのままの位置からベットに雪崩のように倒れこみ、疲れのためか、そのまま眠ってしまった。