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中編

~次の日~

結構長い間寝てしまったようだ。
手元の目覚まし時計を、寝ぼけ眼で確認したところ、
午前11時を過ぎた頃であると分かった。
この時間帯になると、母以外は絶対にいない、
いつも俺だけグータラ生活さ・・・。
ちょうど時を同じくして扉越しに、お母さんが俺に、
2階に病子が来ていると知らせてくれた。
うん?・・・ちょっと待てよ・・、え・・・病子!?
俺はもしやと思い、人目にギリギリさらせる程度に身回りを整え、
部屋を出て2階に上がると、病子は相も変わらず少女趣味な私服で、
ソファーに浅く腰かけていた。
「闇雄っ!お前ってホント、寝ぼすけ野郎だな~。
 それに、顔も散らかり放題!」
と、俺を見つけるなりいつもの調子で言い放ち、歩み寄ってきた。
俺は、いつものあいつに戻ったと内心ホッとしたが、それも束の間、
彼女は自らのか細い手を、俺の頬に滑るように2・3回ほど這わし、
屈託のない笑顔で「朝起きたばっかりの無防備な闇雄も最高・・・、
 あ・・、私が朝の身支度してあげる?」
俺は突然、この一連の行為を朝っぱらからされたため、
驚き、一歩後ろに引いてしまった。

それを見た病子は「お前の全ての事に、遠慮せずに踏み行っていくからね、へへ・・・、
 きっと直に、私なしじゃ暮らしていけないくらい好きになってもらうからなぁ、
 覚悟しとけよぉ・・。」

あ~、幻覚でも見ているのだろうか、病子がこんなことするはずがない、
きっとこれは夢だ。
昨晩のことで、心労が溜まっているのだろうか。そんな誇大妄想を打ち破るかのごとく、
「夢みたいだろ?でもよ、近いうち闇雄のパートナーになるんだからよ、
 寝起きでもこれくらい熱々じゃなくちゃ、嫁失格だからな・・・。
 なぁ、そう思うだろ?」
と、臆面もなく言った。
俺は、まだフル起動していない頭で、即座に、
「おいおい、いろいろと何なんだ?分けわからんよ。」
「まあまあ、そんなことは置いといてよぉ、朝ご飯は私が作っておいたから、
 ありがたく味わえよぉ!」
「その前にさぁ、嫁とかって何?ちょっと説明して・・。」
彼女はこの上ない満面の笑みで「ライ子には、早散りの彼女の地位をやるけど、
 私は一生涯のお嫁さんの地位を代わりにもらった!分かったか?」
「なるほど、そういうことね・・・、いや、なんかおかしくないか。」
「何がおかしいんだ?外はライ子で、私が内だ。これでも、譲歩したんだからな・・、
 お前に告白するタイミングがあと後数時間早かったら、
 お前の伴侶に、即就任オメデトーだったのによ、マジ後悔。」
「いや、俺にはライ子がい・・。」
病子は俺の喋っている途中に割って入って、
「ライ子より私のほうが楽だぜ~。ライ子はさ、高嶺の花みたいな存在だろ?
 だから色々と気ぃ使わなきゃいけないだろぉ。彼女モテモテだし、
 憧れている連中の手を払うの大変だぜ・・。それに比べてさぁ、
 私なんて何にも遠慮しなくてオッケイ。
 悪い部分も全部受けてめて・・・まとめて愛してやるよぉ・・・。」
「え~と、ま、まぁ、一理あるけどさ・・・・。
 でもそれって二股かけてることになるから、駄目だって。」
すると、彼女は急に目を瞑って、大きく深呼吸をし、目を見開いてこう言った。

「私のこと好き?」

すかさず、肯定した。もちろん、昨晩のことを加味してだ。そのような質問をされて、
首を横に振るなんて、俺には到底出来るものではなかった。
俺の反応に彼女は、純朴な照れ笑いをたたえた表情で、
「じゃ、じゃあさぁ・・、お嫁に貰って?私みたいな、
 チビスケだれも貰ってくれない。
 段ボールに入れられたチビ猫みたいな感じ・・。憐れだろぉ?」
「俺なんかより、ずっといい男なんて五万といるよ?それに、ロリc・・じゃなくて、
 華奢な幼い感じの子が好みの人には、ド真ん中ストライクだとおもうけどな。」
「悪いけど、闇雄以外興味はねぇよ、これからも一生そう・・・。」
「でもやっぱり、無理だよ。」
そう否定すると、彼女の顔を昨日見たあの沈鬱な表情へと変化しつつあった。
こんな昼間っから、昨日のことを繰り返してしまうことを恐れ、焦った口調で、

「おおう!貰うよ、うん!」

病子の表情が上った朝日のように明るくなり、
「ホント!?嬉しい、大好き!!」
と言い切る前に、俺の胸に飛び込んできた。
俺は初めて女の子に抱きつかれたため、無免疫の影響で半ば硬直してしまった。
135弱ほどしか身長のない彼女は、非力な力で、
俺の胸周りを精いっぱい強く抱きしめた。
彼女より40cm以上も大きい俺は、彼女の勢いにのまれ身動きが取れなくなり、
病子を見下す形で彼女と目が合った。
その瞳は、異様なまでの輝きと歓喜に満ちていた。
「嘘じゃないんだよね、
 言ったよね!私がお前の最愛のパートナーになったんだよな!」
「そ、そうだな・・。」
「凄くねぇかぁ!?ロマンチックってやつだよ、
 10年の時を超えて・・みたいな・・、
 ああ私幸せ、運使いきっちまったよぉ、・・・愛してる闇雄ぅ!」
俺はやっとの思いで病子を引き離し、この件に関して一番重要であろう、
人物の名を恐る恐る言った。
「ライ子との関係はこのまま続けるよ、それは分かってるよね・・。」
ああ、最低なセリフだ、言いたくなかった。
二股をかけるなんて死に値する、低俗行為だ。
だが、恋愛に関して経験が全くない俺には、この選択肢しか選べなかった、
それに、どのような選択肢を選ぼうとも、
それに伴う結末はより良いものには思えなかった。
罪の意識を密かに感じていた俺に、追い打ちをかけるように、病子が

「私は事実上の妻ってやつでしょ。
 じゃぁ、浮気だね・・別れてよ。ライ子と。」

俺は何を言われたか一瞬理解できず、動揺した。
病子は俺のどっちつかずの表情を見るなり、
「当然だろぉ!妻がいるのに他の女といちゃつかれちゃー、
 私、嫉妬で怒り狂っちまうだろぉ?」
「ライ子と付き合ったばっかなのに、そんなこと出来るか!!!
 ライ子の身にもなれよ!!!!!」
俺は誠に自分勝手ながら、病子に向ってえらい音量で怒鳴ってしまった。
続けて、「俺が付き合うって言ったのも、ただの応急処置なの。
 つまり、その場凌ぎに言っただけ。分かった!?
 それに、こんな不義理なことは馬鹿げてるよ。
 いいか?言うぞ、お前と俺はただのダチ、しつこい!!!」
と鼻息荒く早口で言い放った。
病子は俺のあまりの威圧的な物言いに、かなり怯えた表情を見せた。
まるで、何事にも震えが止まらない子猫のように。
病子は何回も頭を下げて、「ごめんなさいごめんなさい、闇雄、
 私馬鹿だから調子に乗っちゃって・・・あのさ・・」
俺はもうすでに心の中で、怒鳴ってしまったことを後悔したが、
虚勢を張って冷たくこう言い放った。
「早く出てけ。」

病子は涙で潤いが増したつぶらな瞳で俺を見つめ、
「大好きでごめんなさい。」
そういうと、小走りで階段を下り、玄関へ向かっていった。
彼女がこの家を去ったのち、俺はただ、天井を仰ぐことしかなかった。

~病子、自室にて~

病子は白い枕を、大量の涙でぬらしていた。止めどなく溢れ出す、
悲しみの洪水は、防波堤をいとも容易く吹き飛ばし、
あらゆる幸福の記憶を洗い流していった。
彼女は、瞼を閉じることで生まれた暗闇の中で、
愛しの彼にこう呼びかける。

闇雄・・・。ごめんなさい。私馬鹿だから調子に乗っちゃうんだ。
自分でライ子の存在を許容しておいて、闇雄が貰ってやると言った途端、
舞い上がってあんなことを言っちゃうんだから、
どうしようもないねぇな、私。
世界のだれよりも優しく、素敵な笑顔を投げかけてくれる闇雄を、
あんなにも豹変させてしまうなんて、私はなんて酷い言葉を投げかけたのか。
私の全てをいつしか占めるようになった闇雄に嫌われて、
一体私は何を糧に、目標に生きていきゃぁいいんだよぉ。

そういえば・・・、闇雄のことが好きになったきっかけは何だっけ?
あ・・・そうか、中学生の時のライ子が関係してるんだっけなぁ。
中学入りたての頃、闇雄とライ子が楽しそうに喋っているのを見たとき、
何とも言えない疎外感?嫉妬?羨望?
ともかく変な気持になった。今思えば、あれがキッカケだったんかなぁ。

それと同時期くらいに、闇雄が私にあまり構ってくれなくなった。
ずぅーっと寂しかったなぁ。
私ともう遊ばないっ!て、言われた日のこと、今でもはっきりと覚えている。
突然言われたから、理由が分からなくて呆然としちゃったんだよなぁ・・。
そのあと家に帰ってもショック状態で、
ご飯が全く喉を通らなくて、真夜中になって、
なぜか私一人で、闇雄の家にごめんなさいをしに行ったけ。
闇雄の家族みんなを起こすことになっちゃてさぁ、お目当ての闇雄には、
意味がわからない変な奴とは絶対遊ばない!って、
言われてさらに泣いちゃって・・・。

闇雄のことで一日中頭いっぱいになる日なんて、ざらにあったなぁ・・・。

闇雄が話すたびに
闇雄が笑うたびに
闇雄が頑張るたびに
闇雄が悩むたびに
闇雄が悲しむたびに
闇雄が勉強をするたびに
闇雄が走るたびに
闇雄が読書をするたびに
闇雄がゲームをするたびに
闇雄が歩みを進めるたびに

彼を意識せずにはいられなかった。
いつも、彼の些細なことに傷つき、喜び、そして体が疼いた。
そして彼に対する、ある種のためらい・罪悪感を覚えつつも、
私の手は夜の暗闇の純白のベットの上で、
秘所に到達し、その手は彼の手である、
と無理やり擬制しゆっくり滑らかに這わせた。
絶頂に至り行為を終えた後、彼女であればこんなことはしなくても良いのに、
と一抹の孤独感を感じていた。

それはともかく、あのライ子の告白さえなければ、
こんなことにもならなかった。
たった、一日遅かっただけで、
10年間の私の闇雄との素晴らしい触れ合いの日々が、
ライ子のたった5日間の浅い色目使いに屈する?そんなこと認めない。
なんで、ライ子なんて上辺だけの浅い女と、恋仲になるんだ?
変だ、不自然だ。

そうだ、きっと闇雄は騙されてるんだ。ライ子が騙してなかったとしても、
ライ子では彼を幸せにすることはできねぇよ。
私だけしか彼を幸せに出来ないし、幸せにする特権を持ち得ていねぇ。
もう、妥協しない、彼への愛を存分さらけ出す。ああ・・・、
闇雄、ごめんね、したくなってきた・・・。
また一人エッチに使うね・・・。

病子は自らの幼く発達した自らの体を、
闇雄の汗ばんだ体で激しく犯されている場面を想像し、自慰に耽った。
彼女の目の縁にはもう涙は残っておらず、
あるのは、愛と狂気を忍ばせた漆黒の純真一途な瞳だけである。

~闇雄、その晩~

俺は徒労感に襲われながらも、病子に悪いことをしてしまった、と後悔し、
次会う機会に謝ろう、と決意した。
思わず「俺ってホント謝ってばっかだな・・・、ギネス級だよ。」
と口に出してしまった。
一緒に食卓を囲んでいた母、弟に兄ちゃんは独り言ヤバいよな~、
それに虚言癖も王者レベル、と、
笑われたが俺はつかさず反論、それが約20分間続く。
こんなどうしようもない話題で盛り上がってしまうあたり、家族だ。
少々癒されて、部屋に戻り、携帯をチェックすると、
ライ子から着信が来ていた。
用件は特になく、ただ俺の声を聞きたかった、
というものであったが、彼女のあっけらかんとした、
抑揚のついた親しみ深い声が、俺をベホマ並みに癒してくれた。
どうやら彼女のことが、当然ながら大好きらしい。
会話中に時たま病子のことが脳裏をよぎったが、
俺は今目の前の幸せを噛み締めることにした・・。

~翌日、病子、ライ子宅へ~

私は今、ライ子宅の玄関前にいる。もちろん、別れさせるためだ。
えっ?なんで、知ってるかだって?それはさ、
小学生の頃はたまに遊んだりしたから。
中学生にあがった頃になると、馬が全く合わなくなってそれ以後疎遠だ。
教室も今期は一緒なんだけど、
顔を合わせてもただのクラスメイトとしてしか対応しない。
それにしても、赤レンガの外壁が目を引く西欧風味の立派な家だ、
あっ別に、ライ子を褒めてるわけじゃないからさ。
玄関扉のそばにあるチャイムを押し、彼女が現れるのを待った・・・・。
外からでも分かるくらい、足音がこちらに迫ってくるの音が聞き取れる。
ガチャっと、結構な勢いで玄関扉が開かれ、
ライ子が「すみません・・、ちょっとお風呂入ってて・・・・え!ヤミー!?」
と息を切らしつつ、驚いた表情で言った。
「風呂入ってたのか、タイミング悪かったなぁ。」
「そうそう、お風呂入ってるときにチャイムとか鳴るとすごく焦るよね!
 ・・・とにかく、おうちの中に入って!」
彼女は居間に私を案内しつつ嬉しそうに、
「ヤミーが来てくれるなんて嬉しいな、ヤミーに嫌われてるのかなぁーって、
 ずっと思ってた。あ、なんか食べる?」
私は黒のソファーに促され、それに浅く腰掛け「お菓子とかいらねぇよ。
 お願いがあるんだ。」と真剣な表情で言った。
ライ子は菓子棚に手前でUターンして、私の手前の丸い小さな椅子に座った。
「なんか、遊びに来たって感じじゃないね・・・、
 ちょっと怖いな~なんてね・・。」
「あのさ、闇雄と付き合ってるんだよなぁ?」
「え!知ってたの、情報早いね・・、情報通ってやつだね。」
「闇雄に聞いた、嬉しそうに言ってたなぁ。」
「えっ、ほんと!?やっぱり、嬉しいんだ~私と付き合えて。
 プレッシャー感じてたりしたら、どうしよ~かなって思ってた。
 心配いらなかったね。」
と嬉しそうに、彼女の声が弾んでいた。私は、非常に癪に触ったが抑えた。
「真剣でもないくせに遊び感覚で付き合うなんて、悪い女だなライ子も。
 どうせ、その馬鹿デカイ胸でもはだけさせて誘惑したんだろ?いつから、
 そんな風になったんだぁ?悲しいぞ!」
ライ子のさっきの嬉しそうな表情とは打って変わって、悲しみを帯びた顔で、
「し、心外だよ~!そんなに軽い女じゃないよ!どうしてそんなこと言うの?」
私は語気を荒げて「じゃぁ、闇雄を死ぬまでずっと幸せにできる自信は!!??
 ないでしょ!軽いのよ、私からすればね!!」
ライ子は怯えた表情で視線を反らしながら、「私達付き合ったばかりだし、
 こ、これから先なにが起こるかも分からないし、
 そういう風に構えちゃうと、お互い疲れると思うのよね・・。
 間違ってたらごめんなさい・・・。」
「ライ子じゃ、闇雄を愛しきることができねぇよ!
 そんな、中途半端じゃ、別れるしかないね!!」
「なんであなたがそんな事を・・・、あ・・もしかして、
 やっぱり好きだったの?闇雄の事が・・・。」
その質問に私は、この上なく、はつらつとした表情で、

「そうだ・・、好きで好きで堪らないんだ、私はあいつに何されたっていい、
 あいつのために何したっていい。
 そして、私たちの愛を切り裂く部外者どもは、
 私が闇雄に代って殺してやる!!」と叫んだ。

すると、居間は静まりかえり、近くに置いてある水槽の稼働音だけが響いていた。
ライ子は相変わらず怯えた表情で、私をなだめた。
「落ちついてよ・・ね?」
「私はあいつの事が死ぬほど大好きなの、
 あいつに今日の今頃告白するつもりだったんだよぉ!!
 それをライ子・・・あんたが邪魔した!」
「ごめんなさい、そんなに好きだとは知らなくて。」
「そうだろそうだろ?闇雄は私の人生の全て。
 みんなが私と闇雄のカップル誕生を祝福し、お似合いのカップルだと、
 町中の噂になり、その熱々ぶりはみんなの羨望を集める。
 夜は闇雄と朝明けまで愛し合って、
 闇雄によく似た愛嬌たっぷりの子供をたくさん作って、
 私たち仲良く暮らすんだ。子供が大きくなって家を出て行ってからは、
 静かなところで二人っきりで余生を過ごして、これでハッピーエンド。」
私が闇雄との完璧なプランを聞かせてやっているってのに、
なにやら携帯を右手でこっそりいじってやがる。
「こそこそなにやってんだ!」
「闇雄を呼んだの・・、私たちだけじゃ、解決しなさそうだもんね・・・。」
「あ!もしかして、別れを切り出してくれんのか!さすがライ子!!」
「と、ともかく待っていようよ・・・。」
「はぐらかすな!チビだと思って、馬鹿にしてたら痛い目みるぞぉ・・・。」
「分かった・・・、別れるから・・・そんなに怒鳴らないで・・、
 今のヤミーをみるのはつらいよ・・・。」
「本当!?本当だよな、ありがとう!祝福してくれよぉ。」
ライ子は半べそをかいていたけど、そんなの関係ない。
本当の愛の前ではこんなこと小事だろぉ?闇雄・・・。
その後私はお礼に、闇雄へのなみなみならぬ愛を語ってあげた。

~病子と闇雄・ライ子~

闇雄の声が玄関先から聞こえた。ライ子が対応しようとしたようだが、
それを制止して私が玄関扉を開けた。
愛しの闇雄は息を切らしながら、「なんかあったのか?」
私は嬉々とした表情で「なんかさぁ、
 ライ子が言いたいことがあるらしいよん!」
闇雄は失礼します、と廊下奥に向かって一声かけ、私のそばを通り過ぎたが、
振り返って「前はごめんな、頭に血が上っちゃって・・・。」
私は即座に「全然かまわないよぉ、愛してるからな!」
それを聞くと闇雄はなぜか微妙な顔をして、居間に向かっていった。
なんでだろ?恥ずかしかったのかな・・?
私は彼の後ろにぴったりとついって行き、居間に到達すると、
闇雄とライ子が当然ながら鉢合わせになった。
ライ子は助け船を得たような表情で、闇雄の腕を掴もうとしたが、
私が視線を送ったのでやめた。
闇雄は、どうしたんだと訊ね、少し間を置いて、
ライ子が私にとって待ちに待った言葉を口にした。

「自分勝手でごめんなさい、別れてください・・・。」

その言葉を聞いた闇雄は呆然としていた。
そんなに、ショックなんか受けなくても・・・と、嫉妬したがまぁいい。
そんなことより、早く闇雄に抱きつきたい。
いや、そういえばチューしてもらってないぞ、まだ・・・。
闇雄は魂の抜けたような表情で、
「嘘だろ・・まじかよ・・・そ、そうだよ!理由を聞かせてくれ!」
ライ子は涙を拭いながら、
「私なんかより、ヤミーのほうがいいよ。
 もの凄い愛情をあなたに注いでくれると思うの、だから、ね?」
闇雄は私を一瞬鋭い眼差しで一瞥して、
再びライ子の方へとむき直し「脅されたんだろ?」と迫った。
やだ・・・、闇雄ってば、
私のことそんな真剣な目つきで目配せしてくれるなんて・・・、嬉しい・・。
ライ子は首をゆっくり横に振り、「ヤ、ヤミーは関係ないよ。
 私がタチの悪い女だっただけ。」続けて、
「短かったけど楽しかったよ・・・、
 ほら、男の子でしょ、堂々と帰りなさい!・・・ね、お願い。」
居た堪れない気持ちになっていた闇雄は、楽しかった、
とだけ言い残して彼女の元を去った。もの凄く、悲しそうな顔していたけど、
私が慰めてやりゃぁ、すぐに元気になるもんな!と思い、
ついでに私も彼女にさよならして後を追った。
ライ子は、お幸せに、と返してくれた。

嵐のような時間が去って、居間に一人座り込む彼女は、
一歩も立つことが出来なかった。
そして、大粒の涙が彼女自らの膝を濡らした。

~帰り道~

これが失恋か。別れは突然やってくる、とはよく聞くがまさにその通りだ。
街灯もまばらにしかついていない、
この町一帯を包む深淵の闇がさらに俺の心を暗くした。
あ~、彼女の心境や今何をしているか考えると
何ともいえぬ喪失感に、打ちひしがれていた俺に、病子は脳天気な口調で、
「こ~んな夜に女の子の手をつながず歩かせてたら、
 私さらわれちゃうぞぉ!いいの!?」
絶対こいつが原因だろ。だが、確証が持てないし、
もう、言い争いになることはしたくない・・・。
かと言って、ライ子に直々確認をとるのも、
あんな事があったあとだと聞きにくいし、それに、
病子は関係ない、と言った彼女を疑ってしまうことになり、やはり躊躇してしまう。
物思いにふけっている内に、いつの間にか病子は俺の腕に抱きついていたが
俺にはもう振り払う力は残っていない。俺は一つため息をついて、
「あのなぁ、動きにくい。それに、
 おまえが返り討ちにでもすんだろ、その人さらい。」
「え~、私ほんとはもの凄く非力でさぁ~、だから、
 闇雄に守ってもらわねぇとな・・・、えへっ・・。」
彼女は赤の他人が見れば、ピュアで天真爛漫な印象を持つだろうが、
こいつの元来持つ情緒不安定なところや、俺への重すぎる愛、
ライ子宅での疑惑等の様々な事を体験することによって
生成された違和感が嫌でも拭えず、
俺は彼女を、
いつもの気の許せる友達としての目線で見れなくなっていた。
「ところでさぁ、私を嫁に貰ってくれるんだよね・・・?」
彼女は例の強引な要求をしてきた。
俺は堪らず、「しばらく一人にしといてくれよ。
 もうこの2日間で疲れちゃってさ・・・。」
病子は当然食い下がると思ったが意外にもあっさり、
「おう、しゃーねぇよな。闇雄は頑張ったもんな・・。」と、
柔和な笑顔でねぎらった。
「頑張ったも何も、俺がみんなに迷惑をかけちまったようで、
ホントに申し訳ないよ。
 大した色男でもないのに、変な色恋沙汰に発展させちまって・・、
 ああ・・・ライ子・・・。」
「ライ子のことはもういいじゃねぇか。結局、ハードルが高すぎたんだよ。
 それに比べてほら、私はハードル低いよ。
 あんたの物だよ・・・蹂躙し放題だよ。」
そうか、そうだ・・・、そもそも俺にはライ子なんて不釣り合いだったんだ、

そう考えてしまうと、案外、別れてしまって良かったのかもしれない、
と思えるようになってきた。
他の女子連中と比べて大人っぽさが段違いであり、
彼女は頭も運動もできるし、見た目も群を抜いて良く、
それに彼女の人柄なんて最高だ、
そんな彼女の横に付いている冴えない男、考えるだけでも気が滅入る。

「おい、闇雄!もうおまえんち着いちまったぞ。
もう、意識して歩かないと危ないぞぉ。」
どうやら、考え込んでいる間に自分の家に到着したらしい。
俺が病子の手を振り払い、おやすみ、といって玄関扉を開けようとすると、
病子は名残惜しげに「また明日!迎えに行くからな!」と、言った。
え・・・、迎えにいく?
俺は真意を訊ねようと振り返ったが、もうすでに居なかった。