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212 ::わたしをはなさないで 第二話:2010/12/18(土) 02:30:31 ID:MSAZmxMu
「……やっと寝たか」

時計を見ると、そろそろ太陽と顔をあわせることになりそうな時間
ナツもあまり騒がなかったからイエツグたちは早々に寝ることができたが、俺はそういうわけにはいかなかった
寝て数分後に、目を覚ましたナツに話しかけられる
無視して寝ようとすればまた泣き出すのでほっとくわけにもいかない
起きたときに両親がいなくなっていたときのことを思い出したのか、寝ていても俺の左手を離そうとしなかった
まあいい、これでやっと寝れるってもんだ
10時ごろになれば、腹をすかせてワンワンニャーニャーお腹すいたお腹すいた鳴きだすから、それまでは爆睡できる
今日と明日、日・月と非番にしといたのはまさに英断だったぜ
んじゃ、寝る前に携帯を充電器に繋いで………

「ん?」

メールが……21件? なんだこりゃ
俺にはこんなふうにアピールしてくる幼なじみで年上巨乳のヤンデレお姉様なんていないぞ。募集中だけど
恐る恐る受信メールを開いて

「あの、バカ」

ため息をついた
その受信元は全て同じ
『兼山直也(かねやまなおや)』
幼なじみは幼なじみだが、男でゲームと幼女大好きな人間中退者
しかもこんなのが警官だってんだから世の中恐ろしい
21件もメール書くとはごくろうさまバカ野郎としか言いようが無いが、言ってることはほとんど変わらん
[新しいゲーム買ったんだがぜんぜん勝てない。月曜日非番だから助けてくれ]
あいつ、明らかに自分より強い敵に真正面から突っ込んで死ぬタイプだからな
前作では回避なんぞ女々しいことはやらんと豪語しておいて、二日後に勝てないと泣きついてきたバカだ
まあ俺もそのゲームは買ってるし、あのバカよりもランクは高いみたいだから、たまには旧交を温めよう
ついでにナツの両親について聞ければありがたいしな
んじゃ、返信すっか

[把握した。飯と情報提供してくれたら手伝ってやる
 二年くらい前に俺が世話になった古口さんって夜逃げした家族の捜索願出したんだが
 その後の捜査はどうなってんのかわかんねえんだ。一般人が行って聞くのもなんだからな
 国家転覆規模の間違いか億単位の賄賂で警察になったお前に調べてほしいんだわ
 あと飯は肉な。肉以外は認めん]

これでよし。そんじゃおやす……ってもう返信きやがった
まさか、警官がこんな時間までゲームやってたんだろうか

[把握した。まあおまえ自身が届け出たんならそんなに難しくも違法でもねーしな
 んじゃ明日の10時、俺らの大学の頃行きつけのカフェで待ち合わせな
 昼飯には魚肉ソーセージを腹いっぱい食わせてやるよ]

バカ野郎、魚肉はもう食い飽きてんだ
そう書いてやろうかと思ったが、もう眠くて眠くて、携帯握ったまま布団の上にぶっ倒れた
左手はナツとつないだままだったから、ずっと右手でメール書いてて疲れた
んじゃ、今度こそおやすみだ


213 ::わたしをはなさないで 第二話:2010/12/18(土) 02:31:04 ID:MSAZmxMu
「おきろーーっ!!」
「あべし!」

貴重な休日の爽やかな朝は、同居人のフライングボディプレスから始まった
時計を見ると7時
こいついっぺん家から追い出したろか。本気じゃないにしても、思わずんなこと考えるほどムカついた
昨日の臆病さとしおらしさはどこに行っちまったんだか
普通に起こしてくれりゃ元気になったことを素直に喜べるってのに

「フミ、そろそろ起きなよ。仕事は?」
「カレンダーを見ろカレンダーを! 今日は非番だ! 神様だってまだ寝てるさ!」
「あ、そうだっけ、ごめんねー。それじゃわたしコーヒー入れてくるねー」

スタコラと台所に逃げるナツ
見ると俺とナツ以外に起きてるのは亀のイエツナだけ
子供と年寄りは朝が早いって言うがなぁ、まったく
そんじゃ、他のみんなを見習って俺も二度寝を……

「フ、フミーーっ!!」

そんな大声が聞こえたと思ったら、続いて鍋をひっくり返すような音がした
こりゃたぶんうちだけじゃなくて、アパート全体に響く目覚ましになったことだろう
……ちくしょう。休日くらいゆっくりしたいっての

それから朝食を作って食べた
ナツはパンが一枚少ないとぶーぶー文句言ってたが黙殺した
何で減らされたのかわからんほどのアホの子なんだろうか、こいつは

「ねえ、今日どっか行くの?」

パンを銜えながら、あいかわらず不満そうな顔を崩さず聞いてくる
こいつ、食事中は口に何か入れてしか喋れんのだろうか
もういちいちツッコむのも面倒くさい

「ああ。金下ろしたり、商店街でいろいろ買ったりしなきゃならん」

そう言うと、さっきまでの不満そうな顔もどこへやら
らんらんと目を輝かせて、期待に満ちた目で俺を見つめてくる

「ナツはイエツグたちの散歩に行ってくれ。それが終わったらどっか遊びに行ってもいいぞ」
「うん、わかった。じゃあイエノブイエツグと一緒に銀行と商店街に散歩に行くね」
「やっぱ商店街と銀行逆にしよう」
「じゃあわたしも逆にしよっと」
「やっぱ俺は買い物して荷物置きに一度帰ってから銀行行こう」
「じゃあわたしは商店街に散歩に行って、一度帰ってから銀行に遊びにいこっと」
「…………」
「一緒に行こ? ねっ?」

にこにこ笑ってるくせに、不退転の覚悟で絶対についてくるつもりらしい
行く前から、めんどくさいことになることが手に取るように分かった


214 ::わたしをはなさないで 第二話:2010/12/18(土) 02:31:42 ID:MSAZmxMu
俺が働いてるから生活できてる
その理屈は分かってるからか、バイトの時間についてナツは何も言わない
しかし非番のときは別らしく、トイレと風呂以外の時間は俺から片時も離れようとしない
いっしょにいたいから
理由を聞いたら、そんな答えのようなそうでないような微妙な回答をもらった

「んな、恋人同士じゃあるまいし」
「うん。わたしたちは、今は恋人じゃなくて、家族
 そして家族って言うのは、ただの恋人なんかよりもずっとずっとずーーーーっと強い絆で結ばれてるんだよ」
「そう、か」
「うん、そうだよっ」

思わず昨日の話をむし返しそうになったが、喉元まで出てきた出てきた言葉を止める
またあんあふうにナツを悲しませることも無いよな
ナツの思うような家族にはなれそうにも無いが、それでも今だけはつきあってやろう
お互い考え方は違っても、たしかに俺たちは家族なんだからな

「それじゃ、いっしょに商店街へGO-!」
「はいぃ?」
「どしたの? 一緒に行くことになったでしょ?」
「どうしてそういうことになったのかわからない。細かいことが気になるのが、僕の悪いクセ」
「あー、あのドラマ面白いよねー」
「俺は以前の体育会系の相棒しか認めん」

好きなドラマの話をしながら歩いてたらいつの間にか商店街に着いていた
しまった、図られたか
そう思って横を見ると、ナツだけでなくイエノブたちも[してやったり]という顔をしていた


215 ::わたしをはなさないで 第二話:2010/12/18(土) 02:33:04 ID:MSAZmxMu
「冬美ちゃん、今日もお兄さんと買い物かい?」
「はい。フミはすぐにいなくなっちゃうから、わたしがついててあげないと」
「イエノブー、イエツグー、迷子常習者のバカが偉そうなことぬかしてるぞー」

非番の日はしょっちゅう来るためか、俺たちはこの商店街ですっかり顔を覚えられている
冬美 っていうのはナツの偽名だ
とっさに思いついたのがそれだったんだね。ほら、夏の反対は冬だろ?
そうナツに言ったら安直だと大笑いされた。こんにゃろ
まあ買い物も終わったし、あとは銀行行くだけ―――
と思ってたら、行きつけの店の店頭で声かけられた

「あ、笹原さん。お願いされていたもの入りましたよ」
「えっ、マジで!?」
「お探しの映画は[博士の異常な愛情~または私はいかにして心配することをやめ水爆を愛するようになったか~」ですよね?」
「早口言葉みたいなタイトルコールお疲れ様」
「はぁはぁ。それじゃ、一本で130円です。楽しんでくださいね」
「存分に堪能させてもらうよ」

個人経営のレンタルDVD店、なんて珍しいよなぁ
ここは見たいものをお願いすれば可能な範囲で取り寄せてくれるお気に入りの店だ
白黒映画なんて大手の店じゃそう置いてないしな。早く帰って見なくちゃ

「………」
「あたたた!」

喜んでたら、いきなりナツに尻をつねられた

「なにすんだよ」
「デレデレしちゃってさ。綺麗なお姉さんにはすぐ笑いかけるんだから」
「なんだとぉ?」

まあたしかに、この人はビデオ屋の看板姉さんだ。しかし既婚者でそうは見えんが子持ちだぞ
そんな夫子ある人に色目使ってると思ってんのか、こいつは

「わたしにならいいのに。家族なんだから」
「あいかわらずわけが分からない理屈だな」
「わかりやすいでしょ! 家族ならそういう目で見てもいいけど、他の女はダメなの!」
「OK落ち着け、大声はNGだ。あとたぶんその理屈は逆だ」
「違わない!! わたしは家族で、家族兼恋人なんだからっ!!」

……閑古鳥が鳴いてる商店街でもこうまで静まり返ったことがあっただろうか
いや、ない。と思う
みんな一言も発さず、驚いたように俺たちのほうを見ていた
いやね、他の女を目の敵にしたり、俺の尻をつねるってのは今までもあったのよ
しかし、これはないわぁ………

「冬美ちゃん。結婚は16歳にならなきゃできないのよ」

佃煮屋のおばちゃん、それフォローになってないです
いたたまれなくなって、俺は荷物と一緒にナツを抱えてその場から駆け出した
イエノブとイエツグは置いてきてしまったが、こいつらはナツの数十倍頭がいい
ほっといても勝手に帰ってくる
いまはただ、一刻も早くこの場から逃げ出したかった