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233 :わたしをはなさないで 第三話:2010/12/19(日) 02:14:58 ID:kdSC4nYx
「……で、何か申し開きはあるか?」
「ないよー」

スパッと言い切ったなこいつ
ただ今、コタツ挟んで家族会議中
議題はもちろんさっきの商店街の出来事についての糾弾
それが延々続いてもう夜になろうとしている
ああ、せっかくの休日がこんなことで終わってしまうなんて
しかし俺がナツを筆頭に帰ってきたイエノブやイエシゲ達に向かう形になってるせいで、なんだか俺が糾弾されてる気になってくるんだが

「だって、私はフミの家族だもん。家族をほおっておいて他人にうつつを抜かしたりしたら駄目なんだもん」
「じゃああの恋人云々ってのは何だ。おかげで暫くはあの商店街に行けねぇぞ」
「いいじゃん。だってわたし、フミのこと大好きだよ」
「そのわりには色々と迷惑かけてくれるなおい」

早朝にたたき起こしたり、鍋ひっくり返したりな
今日以外でよければ星の数ほど罪状を読み上げられるぞ
冷蔵庫食い荒らしたり本棚ひっくり返したりボヤ起こしかけたり蛇口壊したりetcetc……

「だってわたしたちは家族だもん。いくら大好きな人でも、顔色を伺うようなことはしないよ」
「限度を知れ限度を」
「ドジっ娘って、好きじゃない?」
「お前のはただのドジと言うんだ。萌えポイントみたいに言うんじゃない」
「……ふーん」

あんまり世間様に背を向けるような行動をしちゃならんってことを分かってくれたと信じたい
けれど、そのときのナツの表情を見て悟ったね俺は
ああ。こいつ絶対に分かってないって

「でもさ、家族+恋人って、無敵じゃないかな?」
「……わりぃ、君が何言ってんのか俺にはさっぱりすっぱりこれっぽっちもわからない」
「だーかーらー……家族って言うのはぜ~~ったいに手放しちゃいけないものでしょ? 
 恋人って言うのはぜ~~ったいに守らなきゃいけないものでしょ? 
 その二つをわたしが兼ね備えれば、フミとはどんなことがあってもぜ~~ったいに離れられない存在になれるんだよ!」
「あ、そう、ッスか」
「だからフミ、わたしと付き合おう?」
「お姉様という存在の対極に居る子供には恋愛射程外」
「むぅ~~~」

何度も言うが、お前やっぱ十六歳じゃないだろ
ほっぺた膨らませて怒るなんて、いまどき子供ですらやらんぞ

決めたよ、俺
一刻も早くこいつの両親探してやって、親元に帰してやろうって
いつまでもここにいたら、俺以上にナツにとってよくないよな
いつものふざけた調子じゃなく、真面目に話せばナツもきっと分かってくれるはずだ


234 :わたしをはなさないで 第三話:2010/12/19(日) 02:15:25 ID:kdSC4nYx
「ねぇ、晩ご飯食べようよ。お腹すいちゃった」
「もう少し待て。大事な話がある」
「?」
「お前の両親のことだ」

また、昨日のようにナツの体が跳ねる
けれども今回はちゃんと聞いてもらわなきゃならない話なんだ
聞きたくないと言いたげに耳に当てた両手を握り、まっすぐに目を見て話す

「明日俺は警察関係者に会うことになってる。そこでもう一度お前の両親か親族を探してくれと頼む」

まあ、どんなに腐っても警察関係者には違いない
もともとは遊びに行くつもりだった、なんてこの流れじゃ口が裂けても言えないけどな

「………フミ。冗談、だよね?」
「本気。お前はこの家に長く居すぎたんだよ」
「わたしのこといらなくなったの? 捨てるの!?」
「捨てるんじゃない。いつでも会いに来ていいしお前が携帯買ったらメアドも教える。けど、ここに住むのは駄目だ」
「なんで!?」
「お前は俺に情が移りすぎたんだよ。今は愛と情の区別がつかなくなってるだけだ」
「そんなことないもん!」
「いや、そうだ」
「…………」
「心配するな。今すぐ出て行けなんて事は絶対に言わない。両親や親族が見つかるまではここにいてもいいさ」
「………パパもママももう会いたくなんてない。フミがいい。フミじゃなきゃ嫌」

泣きそうな顔でこんなこと言われちゃ、思わずやっぱりうちにいろと言ってしまいそうになる
しかしそれじゃ元の木阿弥だ
この、慣れすぎていて忘れていた異様な関係に別離のときが来た。それだけだ
ナツは、イエハルたち動物とは違う。人間なんだ
当たり前すぎて忘れてたことが、ようやく俺の悪い頭にも思い出されてきた
ここにいろとは言えない
だからそのかわり、コタツ越しにその小さい頭を胸に抱いた

「ごめんな、ナツ」
「………謝るくらいなら、ずっとここにおいてよ」
「……ごめん」

この奇妙な共同生活終焉のカウントダウン
それが、今日この時から始まった


235 :わたしをはなさないで 第三話:2010/12/19(日) 02:17:13 ID:kdSC4nYx
この日、飯を食うことなく布団を敷いた
俺もナツも何も言わない
頑張って口を開こうとしても、この場にそぐわないことばかり言ってしまいそうになる
それが怖くて、俺は何も言えなかった
イエシゲたちもこの張り詰めた空気を理解したのか、一言も鳴かずに寝床に入っていった
ようやく言葉が交わされたのは、電気を消してからだ

「フミ」
「ん?」
「わたしって、フミにとってなんだったの? 邪魔な存在?」
「あいにくだが、そんな邪魔者を二年も養うほど広い心は持ってない」
「じゃあ、ただの居候?」
「それも違うな。しいて言えば……姪っ子、かな」

隣人達をごまかすためにそうにナツを紹介したが、今考えると本当にそんな気がする

「姪っ子を追い出したりしないでよ」
「婆ちゃん家に遊びに来て、家に帰りたくないって泣く子供いるだろ。今のナツはあんな感じだな」
「………子供じゃないもん」

目をつぶっていたから、不覚にも俺の布団に進入されるまで気が付かなかった
しかも少し触れた感触的に、こいつ服を着てない。この寒いってのに
動揺を悟られないように背中を向けるが、その背中にナツは裸のままくっついてきた

「子供じゃないもん。フミのためだったらなんだってできるもん」
「……服着て自分の布団に戻れ」
「やだ。フミにとってわたしは家族じゃないんでしょ。だったら、抵抗なんて無いでしょ?」
「おい」
「背もちっちゃいし胸もぺたんこだけど、わたしだってできるよ。わたしの体、好きにしていいよ」
「怒るぞ」
「いいよ。怒っても、ぶたれてもいい。だからわたしにフミをちょうだい。わたしを捨てられなくなる印をちょうだい」
「……」
「ねえ、フミはわたしが愛と情を取り違えてるって言ったよね。でもただの情で、こんなことはできないんだよ」
「……それは」
「フミに捨てられるくらいなら、死んだほうがいい。ううん。一緒に死ぬ」
「ちょっと待て」
「そうすれば、天国で今度こそ本当の家族に、恋人になれるかもしれないもん」
「…………」

恐ろしい
ほんの一瞬、俺はそんなことを思った
嘘や冗談というものは、どんなに上手く言ってもどこか芝居臭さみたいなものが出るという
しかしナツの言葉には、そんなものは一切感じることができなかったから

「な、なーんちゃって……びっくりした?」
「……冗談になってないぞ」

取り繕うような言葉、それが妙にさっきの言葉を際立たせる
そうして俺は体を捻り、ナツと正面から向き合って、また抱きしめた

「手は出さない。でもな、ナツ。俺はお前を家族じゃないなんて思ったことは無いぞ」
「うそつき」
「本当だ。それでも、ナツは本当の両親のとこに帰らなきゃいけない。俺のことは従兄弟のイケメン兄さんみたいに思っててくれ」
「やさしいね。イケメンじゃないけど」
「うるせー」

そうして、抱き合ったまま俺達は眠りに付いた
しかし、夢なのか現実なのかいまいち漠然としているのだが、こんな言葉が聞こえた気がする

「フミがわたしから離れようとしたって、わたしは絶対に、フミのことを離さない」