526 :Life第2話 四百四病より恋の苦しみ ◆1If3wI0MXI :2011/01/02(日) 00:22:00 ID:lDjoUJFN
私はいつも通り康太君の後をつけていた。
ちなみに、康太君がバイトの日は働いている康太君を拝む為に店に入る。
ただし、けして見つかってはならない。
これが私の日課。いつからこんな事を始めたのかは、もう憶えていない。
でも好きになった切欠は憶えている、単純な一目惚れ。
この気持ちも、もう1年以上も抱えてきた。
ただ、大好きな大好きな康太君を後ろから見つめているだけ。
これだけで死んでもいい位に幸せになれた。
でも、私は見てしまった。康太君が私以外の女と一緒に歩いているのを。
その光景は本当に恋人同士の様に見えた。
私はその女を憎んだ、嫉妬した、殺そうと思った。
しかし、殺してはいけない。
康太君は私にとって神のような存在。
いや、もう神だ。どんな神様よりも位の高い神。
しかし、私がその女を殺せば、私は死神となり、
康太君とは相容れない存在になってしまう。
それだけは避けなければいけない。
そして今日、康太君が一匹の雌猫に穢されてしまった。
例え康太君がその雌猫を好きになったとしても、
私は康太君の穢れを取り除かなくてはならない。
私は康太君の為だけにある存在。
康太君が神なら、私は天使。
神の使いとして働き、時には神の手助けをする。
そして常に神と共にあるもの。
どんな手を使ってでも、康太君を助けなきゃいけない。
それが私の使命だ。
そうと決まれば、作戦を起てなければいけない。
夜はまだまだ長い。完璧な作戦を起てよう。
しかし、その前にやる事がある。
じっとりとしたパンツの中に手を入れ秘部を触る。
「ん、あぁ、もう、こんなに濡れてる」
少しばかりの自慰に耽り、私はまず、手紙を書くことにした。



527 :Life第2話 四百四病より恋の苦しみ ◆1If3wI0MXI :2011/01/02(日) 00:22:50 ID:lDjoUJFN
授業が終わった後、トイレを済ませ戻ってくる。
いつもの昼休み、いつもの教室、いつもの弁当。
そんないつもの風景に見慣れない物が一つ、俺の机の上に存在している。
女の子っぽいハートやらの模様が付いた可愛らしい便箋。
大きな文字で康太君へと書かれていた。
簡素な手紙を掴み、広げる。
辺りを見回してみるが、俺を見てニヤニヤしている奴はいなかった。
新手のいじめではないようだ。俺はホッとして、胸を撫で下ろす。
しかし、手紙を黙読するとそんな安心感も消え失せていた。
あまりに衝撃的過ぎる手紙の内容。

『康太君へ、
 突然ですがお話があります。
 今、付き合っている人と別れてください。
 今日中に別れた場合には   ご褒美をあげます。
 さもなくば、                   
 また他人に話した場合にも、                      N・Yより』

これは、脅迫だよな?うん、そうに違いない。
俺は大和と別れる気なんてサラサラ無い。
文体的には女子っぽいんだけど、
こんなことする奴なんてどーせそこらの根暗なブの付く人なんだろう。
不思議に思ったことは、なんでご褒美の後ろが空いているんだ?
それに、さもなくば、話した場合にも、の後が途切れていることが一層恐怖を煽っている。
一番の謎は差出人だ。まさかニューヨークよりという訳ではないだろうな。
だとしたら犯人は俺の近況をなにかしらでニューヨークから監視している事になる。
さすがにそんなSFチックなことは無い……と信じたい。
真面目に考えるとしたら、この高校にいる名前の頭文字にN・Yの付く人だろう。
だが一口にN・Yといっても、な~の、や~よが付く人間だ。
そんな生徒は結構な数いるだろう。
ヤスに聞こうと思ったが他言は無用。何をされるか解らない。
というかいなかった。多分、二巳先輩に連れて行かれたのだろう。
見当のつきそうも無い謎に頭を抱えていると、
廊下からバタバタという足音と大きな声が聞こえてきた。
「康太様あああぁぁぁぁ、お昼、御一緒してもいいですかあああぁぁぁぁぁ」」
俺を康太様と呼ぶのは一人しかいない。
昨日から付き合い始めた、迎 大和、16歳。しかし体は小学生並み。身長は150cm位かな?
まぁ、女の子は元気が一番だ、悪くない。
ただ、名前を様付けし、大声で叫びながら廊下を走り回るのはご遠慮願う。
この時点で2階にいる生徒は全員、俺を見たら蔑んだ目で見てくるだろう。
下級生に俺の事を様付けで呼ばせてる変態野郎と思われてるかもしれない。
こうして俺の薔薇色青春高校生活は音をたてて崩れ去った。ちゃんちゃん。
教室にいるのも凄い気まずくなってきたので弁当を持ち、逃げるように廊下に飛び出す。
こうなりゃヤケだ、高校生活も終わったし俺も大声で応える。
「いいぞおおぉぉぉぉお大和おおぉぉ!一緒に食おうぜええええぇぇぇぇぇぇ。
 あと、様付けすんなあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
様付けすんなはもう、手遅れのような気がする
「解りましたあああぁぁぁぁぁぁぁ。康太さあぁぁぁぁぁん」
目の前にいると言うのに大声を出し合っている男女。
しかも俺は自然と大和を抱き寄せていた。
日本一うるさいカップルだと思う。正真正銘のバカップル。
大和は顔を真っ赤にして、「私の教室で食べましょう」と言ってきた。
無論それに、OKサインをだす。
今は手紙の事を忘れて大和と過ごそう。それがいい。
俺は大和と腕を組み階段を降りた。
その後、大和の友達に質問攻めを受け、
生徒指導部の教師に落ち着きを持ちなさい、
と怒られたのは言うまでも無い。



528 :Life第2話 四百四病より恋の苦しみ ◆1If3wI0MXI :2011/01/02(日) 00:23:48 ID:lDjoUJFN
昼休み、私は康太君がトイレに行った隙に手紙を置いた。
手紙の内容はこう。

『康太君へ、
 突然ですがお話があります。
 今、付き合っている人と別れてください。
 今日中に別れた場合には性的なご褒美をあげます。
 さもなくば、いやぁ~んな事や、あぁ~んな事をします。
 また他人に話した場合にも、らめえぇぇな事やもう許してえぇな事をします。N・Yより』

一部の文字を、火で炙ると浮き出るペンで書いた。
これで康太君も恐怖に慄き、すぐに別れる筈。
もし、別れなかったら……その時はその時で。
康太君が帰ってきた。
私は怪しまれないように自分のクラスのB組に戻り、友達と喋る。
それから数分後
適当な話に適当に相槌をうっていたら、
友達Aが急に
「何か聞こえない?」
と言い出した。
私には、はっきりと聞こえていた。
あの忌々しい雌猫の声が。
友達の前なのに顔が歪むのが解る。
「えぇっと、大丈夫?」
友達Aは恐る恐るといった感じで怪訝そうに聞く。
大丈夫な訳が無い、康太君を穢す雌猫が来たのだ。
期待と不安を胸に教室を出た。
そこで私は更に衝撃的な光景を見てしまった。
康太君が雌猫を抱いていたのだ。
大きな声で会話をしながら抱いていた。
それから程なくして、雌猫は康太君と腕を組み階段を下りていく。
それと同時に私の心の中にどす黒い負の感情が湧き上がる。
あの雌猫……許さない、絶対に。
しかしまだチャンスはある。放課後には振ってくれる筈。
いや、振ってくださいお願いします。神様、仏様、康太様。
もし康太君が振らなかったら、私は康太君を……するしかないじゃない。
私は制服のポケットの中に手を入れ、スタンガンがある事を確認した。




529 :Life第2話 四百四病より恋の苦しみ ◆1If3wI0MXI :2011/01/02(日) 00:24:18 ID:lDjoUJFN
放課後、ヤスを見てみると昨日よりもぐったりとしていた。
大体見当はつく、二巳先輩が連れ回してなんかしてるのだろう。
精気を吸われるような何かを。
声を掛けようか迷ったが、止めておいた。
今はそっとしておこう、それがベスト。
昼休みのテンションで大和の教室に行こうと思ったが、
そうは問屋が卸さない。
結局、手紙の謎はまだ解決していないのだ。
手紙を再度広げてみるが、不自然に空いた部分が気になる。
はて、なんぞや?と首を傾げてみるが解らない。
窓から差し込んでくる夕日の光が便箋を照らす。
ん?不自然に空いた所が夕日の光を反射している様に見える。
透明な何かがあるのか?
そういえば小学生の頃、年賀状にミカンの汁で「あけましておめでとう」と書いて
その横にサインペンで「あぶれ」と図々しく指示を出したものだ。
日の光に当てると文字の形が反射してキレイだったなぁ。
しかしこの反射の仕方……似ている。ミカンの汁で書いた時と。
まさか、同じ仕組みだとか?
今は何でもいいから文字の空いた部分を知ることが重要だ。
試す価値あり。火は理科室でやってる科学部の人からマッチでも何でも借りればいいだろう。
大和を連れて行きたいけど、やっぱり他言は無用。
もしかしたら大和に危害が加わるかもしれない。
ケータイのメールで今日は一緒に帰れない、と打ち送信。
10分程して返信が来た。やっぱり武士は機械が苦手なのかな。

件名:肥えたさんへ
解かりました。
今日はひてりで帰ります。
寂しいですが、何か用事があるのですね。
あと、バイトの件ですが
わたすもやります。
夜道には気をちけてさようなら。

件名なんていちいち書かなくてもいいのに、
律儀な人だなぁ、大和は。
でも、肥えたさんって何か太ってる人みたいだ。俺は太っていない。
それにひてりとか、わたすとか打ち間違い多いなぁ。
最後のちけては、なんか可愛いけど。
まぁ、10分も掛けて真剣に打ったんだ…………
駄目だ、大和が読み上げているのを想像したら笑えてくる。
そういや昨日の帰り道、途中でバイトの事を話したんだっけ。
洒落た喫茶店。
接客、食器洗い、店内清掃、を5時間ほど、時給800円。
俺のシフトは月、火は休みで、水~日曜の午後5時から10時までがバイト。
てな感じの事を話して、大和も一緒にバイトしないか?と誘ったんだった。
大和が面接でやらかすとも思えないし、大丈夫だろう。
よし、じゃあ理科室にいこうか。


530 :Life第2話 四百四病より恋の苦しみ ◆1If3wI0MXI :2011/01/02(日) 00:25:21 ID:lDjoUJFN
「どひゃあ」
そんな言葉が自然と漏れた。
大和から返信を受けた後、理科室に向かい何の滞りもなくマッチを借りることに成功した。
だめもとで炙ってみたら、まさかとは思ったが字が浮き出てきた。
俺は浮き出たことに驚いたのではなく、その手紙の内容に驚いた。

『康太君へ、
 突然ですがお話があります。
 今、付き合っている人と別れてください。
 今日中に別れた場合には性的なご褒美をあげます。
 さもなくば、いやぁ~んな事や、あぁ~んな事をします。
 また他人に話した場合にも、らめえぇぇな事やもう許してえぇな事をします。N・Yより』

犯人像をたててみたが、この人は変態ではなかろうか。
何をしても性的な方向にしか行かない。
つーか、らめえぇぇとか許してえぇってどんなプレイをしてるんだ、
SMか?SMなのか?
だが俺は虐められて快感を覚えるような人間ではないし、
また、その逆も然り。
俺は至って普通のプレイが好みだ。
特殊なプレイはNo thank you !
って、そんな場合じゃない、俺は大和を振っていない。
「ていうか振る気ないし」
目の前に犯人がいるかの様に言う。だが廊下には俺一人だ……多分。
帰り道、俺は正体の知れない何者かから身の貞操を守らなければいけない。
頑張れよ、俺。
とは言った物の、今すぐ帰るのも怖くなってきたので、図書室で時間を潰す事にした。
さて、何を読もうか……




531 :Life第2話 四百四病より恋の苦しみ ◆1If3wI0MXI :2011/01/02(日) 00:26:34 ID:lDjoUJFN
外を見てみると夕日は既に沈みかけ、薄暗くなっている。
下校時刻も近づき、この図書室を離れなければいけない。
失敗したなぁ。もっと明るいうちに帰ればよかった。
生憎、俺の帰路には何故か街灯がない。
それに、今日は俺になんらかのお仕置きをするであろう、
人物がいるのだ、怖すぎる。
生徒玄関に移動し、靴を履き替える。
自分が物怖じしていては、全てが恐怖の対象になってしまう。
堂々と玄関を出たら、
「康太君」と声を掛けられた。
澄んでいて、惚れ惚れしてしまう綺麗な声。
声は俺の真横からしてくる。
首を90度曲げると、そこにはB組の野坂雪子さんがいた。
俺よりも少し低いぐらいの身長。
と、言っても俺の身長は177cm。女子にしては背が高い方だろう。
切れ長の目をしていて鼻筋も整っている。
そして肋骨あたりまである、特徴的なサイドテール。
少し、近づき難い雰囲気を放っている。
学園のマドンナで1位、2位を争う程の美しさ、
と、ヤスは語っていた。
実際、美女だ。
でも俺には大和がいる、今ではどんな絶世の美女も俺の大和には適わない。
そんな惚気はどうでもいいとして、野坂さんが俺に何の用だろう。
「なにか?御用で?」
「手紙の事だけど」
その言葉を聞いた瞬間、俺は固まった。
背中は変な汗を掻き、脳裏には昼の便箋がよぎった。
脅迫文にあった、N・Yより。というのは、野坂雪子より。
という意味だったのか、でも、解らないな。
何故、野坂さんは俺と大和を別れさせようとしたのか。
話は続く。
「あの女がいないって言うことは、別れたの?」
「いや、違うよ。今日は先に帰らせただけ」
「そう、残念ね。じゃあ、さようなら」
野坂さんは制服のポケットから黒い物体を取り出した。
先が二つに分かれているところが青白く光る。
護身とかで使う、スタンガンというやつか。
あの便箋にはえっちぃ事が書いてあったのに、これかよ。
まぁ、もともと期待してなかったけどね。
逃げる準備をしようか。
「野坂さん、ちょっと待って」
俺は前かがみになり、震える脚をグーで殴りつける。動け、動け、俺の脚。
「どうしたの?別れる気になった?」
「そんな気は一生起きそうもないよ。逃げるだけさ」
昨日の今日と放課後は連続で走ることになりそうだ。
学校から俺の住んでいるアパートは15分。
流石にそこまで体力は持たない。
適当にいつものルートを変えて撒くとしよう。



532 :Life第2話 四百四病より恋の苦しみ ◆1If3wI0MXI :2011/01/02(日) 00:27:15 ID:lDjoUJFN
校門を出て2、3回曲がり、後ろ見ると誰もいなかった。
しかし、辺りは暗い。闇にまぎれて俺を狙っている可能性もある。油断は禁物だ。
周囲を警戒し、20分程歩くとようやくアパートの前に着いた。
野坂さんは多分もういないだろう。
階段を上がり自室の鍵を開け急いで入る。その後の施錠も忘れない。
ベッドに座り込み、大和にバイト場所の詳細を伝えようと、
制服のズボンのポケットに手を突っ込みケータイを探した。
俺はいつもズボンのポケットにケータイを入れている。
……あれ?無いぞ。胸ポケットや鞄の中。隅々を探したが出て来なかった。
もしかして、走ってるときに落としたか。
それは不味い、万が一野坂さんに拾われれば。大変なことになる。
俺はアパートを飛び出し、ケータイを探し回った。



結局、康太君は別れなかった。
それに、スタンガンで気絶させた後、
私の家で康太君と既成事実を作るという作戦も失敗した。
でも、その分の収穫はあった。康太君がケータイを落としたのだ。
コレを使えば私が直接手を下さずとも別れさせることが出来る。
早速、私は康太君のケータイで、あの雌猫にメールを送った。

件名:無題
大和、大事な話がある。
もう、俺にその顔を見せるな。
正直言ってお前、キモいんだよ。
俺が嫌々、付き合ってやるっていったら、
調子乗りやがって。
今日の昼休み、どれだけ死のうと思ったことか。
お前の顔見るなんて生き地獄だ。
いいか、絶対に俺の前に現れるな。一生だぞ。

すぐに着信がかかってきたが無視して着信拒否にした。
大好きな人から全否定される事。
どれだけ辛い事だろう。明日が待ち遠しい。
あの雌猫の絶望しきった顔、想像するだけで笑いすぎて呼吸が出来なくなる。
これほど愉快なことはないだろう。
恐らく、明日、康太君は私の所へ来る、
ケータイを取り返しに。私は大和さんも連れてきてと条件をつけ
連れてきたら康太君に大胆なアプローチをかけて
あの雌猫を完全に潰す。
「フ、フフフッフフフフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
康太君、もう少しだよ、もう少しで康太君の穢れを祓えるよ。
最終更新:2011年01月03日 00:53