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411 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:07:02 ID:ANN1ZbIR
「頼む!!」
「・・・何が?」

自殺未遂者を救った翌日。右腕が包帯状態の俺が教室に来るなり一人の男子に土下座された
土下座といっても土の上でなく机の上。真剣さが伝わらない・・・

「俺達の部活に入ってくれ!お前の反射神経が必要なんだ!頼む!」
「反射神経って?」
「昨日のあれだよ。あれ!落ちてきた人に気付き反応する反射神経、瞬発力、支える腕力
 それらが揃っているお前に入ってもらいたい!」
「何部?」
「男子バドミントン部、入部者数が少なく、さらに先輩が卒業し今は俺を含め1年生が2人なんだ
 あと1人いれば団体戦に出れるんだよ」
「ちなみに女子は?」
「入部者数ベスト1位」
「男子は?」
「ワースト1位」

バドミントン。名前だけ聞くと野原や公園でやる平和なイメージがあるが、あれは娯楽
本当のスポーツにもなるとスマッシュの初速が新幹線を上回る300kmも出る最速のスポーツだ
何故こんなにも詳しいかというと小学生の時にバドミントンクラブに入っていたことがあるからだ。やはり平和なイメージや
女子がやるようなスポーツというイメージを周りの奴らが持っていたため少しばかり偏見された

「さらに、女子と触れ合う機会が多いから恋愛もできるぞ!」
「恋愛してるの?」
「・・・5連敗中だ」

こいつは1年、学校が始まってからまだ2ヶ月ほどなのに、もう5人にも当たって砕けているのか
女子と触れ合う機会が多いから彼女ができるという考え自体間違いではないだろうか?

「触れ合う機会が多いって事は、一緒に練習しているのか?」
「(男子の)人数が少ないからな」

一緒に練習をするということは舞を誘っても問題が無いわけだ

「なぁ、頼むよ~」
「分かった、分かったから無駄に近づくな。少し気持ち悪くなる」
「ん?あぁ悪い悪い。人が苦手なんだっけ?」
「分かっているなら離れてくれ」
「承諾しないならもっと近づくぞ!」
「俺はそっちの趣味は無い」
「で、入るのか?」
「分かった。入ってみるよ」
「マジで!?サンキュ風魔!」
「あぁ、ええと・・・」
「あ、そういえば自己紹介してなかったけ?おれ、天野 昇(あまの のぼる)」
「天に召されそうな名前だな」
「その言葉、自己紹介するたびに言われてる・・・」

その後、天野から入部届けをもらい、活動時間等を聞いた。舞にも話さないと
・・・ラケットどこにしまったけ


412 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:08:00 ID:ANN1ZbIR
帰りのHRが終わり、舞に部活の事を話すと喜んで承諾してくれた
家についた俺は押入れの中で引っ越し業者の段ボールに入れられたまま保存されている物の中からラケット等の用具を探した
引越し前の俺が二度と使わないと思っていた物を探すのは、過去の俺の思いを否定しているみたいで少し変な感じだった
ラケットは2箱目の底で眠っていた。埃をかぶっておらず、ガット、フレーム共に目立った傷は無かった
シューズも見つかり、散らかした物を片付けようとした時一つの小箱が目に入った
ハートマークが入った小箱であきらかに女物、頭の上に疑問符を出しつつ小箱を眺めていたら電話が鳴った

「もしもし」
「お兄ちゃ(ピッ)」

『プルルルル』
「はい」
「なんで切っ(ピッ)」

『プルルルル』
「・・・」
『プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル・・・・・』
「(あきらめたか)」『♪~♪~♪~』

メールで攻めてきやがった
『私の小物入れがお兄ちゃんが引っ越したのと同時に見当たらなくなりました、ハート模様なんだけど知らない?』
返信を打つのがめんどくさいのでこっちから電話をかける事にした
そういえば、こっちから電話をかけるのは初めてだな

「もしもし、お兄ちゃん!?」
「大声出すな、鼓膜に響く」
「それよりも、何でさっきは電話に出なかったの?」
「お前からの電話だったから」
「お兄ちゃんっていつもそうだよね。私からの電話、そんなにウザイ?」
「そういう訳では・・・」
「このあいだだって、その前だって、いつもいつもいつもいつもいつも」
「・・・切るぞ」
「そんなにウザイんだったら私の兄をやめればいいのに、そっちの方が好都合だし」
「話を聞け(好都合?)」
「だいたいお兄ちゃんは・・・」

30分後

「・・・・あの頃のお兄ちゃんは優しくて気品溢れていたのに、今は」
「・・・小物入れあったぞ」
「そうそう、今は小物入れみたいになっちゃて」
「(・・・引きこもりって意味か?)」
「・・・・小物入れ?」
「あぁ、ハートマークの小物入れあったぞ」
「本当!?じゃあさ、明日土曜日だからさ、取りに行っていい?そんでもって、泊まっていい?」
「電車で1、2時間なんだから泊まらなくてもいいだろ。それに明日用事あるから」
「用事って?」
「部活」
「え?」
「だから郵送しとく。それでいいだろ」
「ナンデ?」
「何でって、物を届けるためには郵送しか方法はないだろ」
「そうじゃない!!」


413 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:08:43 ID:ANN1ZbIR
受話器の向こうから響いた声
俺が生きてきた16年間で一度も聞いた事のない怒気に満ちた声だった
本当に電話の相手は夕美なのだろうか?そんな疑問が頭をよぎるほどの声だった

「部活って何?ちゃんと話してくれない?」
「別にたいした事じゃないからいいだろ」
「話して?」
「だから」
「ハナシテ?」
「・・・・」

いつもは能天気で気楽な明るい性格なのに今の夕美はその逆、暗くて負の感情があり一言一言に重みがある
いつもは軽く流せるのに今回は流すどころか流されそうだ

「へ~そういうことがあったんだ」
「別にいいだろ部活に参加する事ぐらい」
「ひとつ聞いていい?部活に参加するってことは“人”と触れ合うって事だよ?
 それを知っていて入部するの?」
「・・・あぁ」
「また、あんな目に遭うよ?」
「遭わない。それだけは言える」
「そんな軽い考えだったからあんな目に遭ったんだよ。もう一度考え直せば?」
「信用できる友達が出来たんだ。だから・・考え直すつもりはない」
「どうせ今だけだよ。そんな奴ら信用できない、すぐにお兄ちゃんのことを裏切るよ」
「そういうネガティブな考えを言わないでくれ『実はそうなんじゃないか?』って考えそうになる」
「“考えそうになる”じゃなくて“そう思う”だよ。これは想像じゃないの、現実なの」
「もう、やめてくれないか?明日が不安になってくる・・・」
「お兄ちゃん、もう一度考え直して。そいつらはきっと、お兄ちゃんを・・・」
「やめろ!!」

力任せに通話を切り携帯電話を壁に投げつける。壁にぶつかった衝撃でバッテリーが外れた
いつもの俺ならバッテリーを元に戻すだろうが、今戻すと夕美から電話がかかってきて
俺を不安に煽る様な事を言われそうで怖かった。気付くと体が小刻みに震えていた
俺は夕食も食べずにベッドに潜り込んだ。けれども夕美に言われた言葉と過去のトラウマが俺の脳裏を駆け巡り
その夜はあまり寝る事が出来なかった

「(やっと信用できる仲間ができたんだ、絶対に失いたくない
  俺は舞や天野を信用して・・・・・・・・いいんだよな?)」





あれから何回も電話をかけているのにお兄ちゃんは電話に出ない
まさかお兄ちゃんが高校でいろんな事に巻き込まれているなんて思ってもいなかった
対人恐怖症のお兄ちゃんに入学式初日から話しかけてくる女
お兄ちゃんを殴った女
お兄ちゃんの腕を傷つけ面倒ごとに巻き込んだ自殺者
お兄ちゃんを“人”と触れ合わせようとする男
その他もろもろ・・・
お兄ちゃんを騙し傷付けようとする奴ら
こいつら皆・・・・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・


414 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:09:32 ID:ANN1ZbIR
次の日、寝不足の俺は部活の準備をし、バイクでいつもの道を走った
駅で舞と合流しバスで学校へ、いつもと違う登校時間だったが、いつもと変わらない登校風景だった
体操着に着替え、体育館へ向う途中の廊下でバドミントン部であろう女子数人とすれ違った
“あの人達と同じ部活でやっていく”と思うと少し不安になり、夕美の言葉が脳裏に少しばかり浮かび上がった

「お、来たか」

体育館には既に舞と天野、他にも多数の人がいた

「はよう、天野」
「おう、マジで入部してくれて嬉しいよ」

天野と会話をしているとそれに気付いたのか1人の男子がこっちに近づいてきた
多分、もう1人の男子部員だろ

「あぁ、紹介するよ。こいつはもう1人の男子部員の高坂 大地(こうさか だいち)」
「よろしく、経験はあるのか?」
「少し、やってたことがある」
「そうか、天野よりかは出来そうだな」
「天野って下手なのか?」
「見ればすぐに分かる」
「・・・」
「お~い、2人で何話しているんだ?」
「「別に 何でもない」」
「おっ、何かにぎわってるね」

茶髪でショートカットの女性が話に割り込んできた。体操着の胸に刺繍されている名前の色からして2年生

「新入部員?私、部長の黒沼 満(くろぬま みちる)」
「どう・・も、風魔 翼です」
「風魔?もしかして君が?」
「何がですか?」
「あれ?翼さん、ですか?」

声がしたほうを振り向くと黒髪でロングヘアーの女性が立っていた
どこかで見た事がある気がするのだが・・・

「あっ、さっちゃん。やっぱりそうだよね?」
「えぇ、この人がそうです」
「(さっちゃん?)」
「風魔君はまださっちゃんの名前を知らないんだよね。紹介するね、私の親友の・・・・名字も言って大丈夫?」
「はい、風魔さんは信頼できる人です」
「OK、私の親友の毒嶋 咲(ぶすじま さき)。自殺しようとした彼女をキミが救ってくれたんだよ。覚えてない?」
「あ・・・!」

覚えてる。あの時の自殺未遂者


415 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:10:15 ID:ANN1ZbIR
「先輩・・だったんですね。敬語ばかり使うので同学年かと思ってました」
「さっちゃんはとある企業の令嬢だからね、私たちにも敬語を使うんだよ」
「(令嬢。もしかして・・・)」
「どうしました?翼さん」
「あの、聞いちゃいけないことかもしれないんですけど、毒嶋先輩が」
「下の名前で呼んでいただけると嬉しいです」
「あ、すいません。咲先輩がいじめられている理由って“令嬢”と“名字”ですか?」
「えぇ、そうです。よく分かりましたね」
「イジメのパターンでよくありますから、その人の名前や体格をネタにしていじめたり
 親が金持ちという事で金づるになる奴らなんてよくいますから」
「すごいね風魔君。私なんか全然気付かなかったよ」
「・・・黒沼先輩、一つ聞いてもいいですか?」
「何かな?」
「黒沼先輩は咲先輩の本当の友達なんですよね?」
「私を疑っているの?」
「一応聞いているだけです」
「満さんは私の親友です。自殺の原因は満さん以外の人です」
「そうですか・・・ならいいんです」
「少し話しすぎたね。じゃあ部活を始めようか。全員集合!!」

その後、ランニング、素振り、基礎打ち、試合をやって3時間ほどの部活は終了した
ちなみに試合の結果はこちら

風魔VS高坂  18-21 高坂勝利
風魔VS天野  21-13 風魔勝利
高坂VS天野  21-0  高坂圧勝

「疲れた~。なぁ風魔と大空の新入を祝ってこれから殺ッテリアに行かないか?」
「あの駅前のハンバーガーショップか?この前も行ったじゃないかよ」
「不満があるなら高坂は参加しなければいいだろ。で、どうする?」
「・・・舞はどうする?」
「翼が行くなら私も行くよ」
「(どうしようか・・・)」
「よ~し!じゃあ、俺と風魔と大空、あと女子を何人か誘おうぜ」
「ちょっ!俺は行くなんて・・・」
「さぁ、レッツゴー!」
「離せーーー!!」

俺は文字通り、天野に首根っこをつかまれ強制連行させられた


416 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:13:02 ID:ANN1ZbIR
20分後、駅前の殺ッテリアに到着

「なぁ、ジャンケンしてさ負けた奴があれを頼もうぜ!」
「ノリノリだな・・・何を頼むって?」
「『スマイルください』って言う罰ゲーム」
「・・・・・・・・」
「翼、どうしたの?」
「それ止めといた方がいいぞ」
「何でだよ。おもしろそうじゃないか」
「俺、それで少しばかりのトラウマがあるんだ・・・」


417 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:14:07 ID:ANN1ZbIR
「「トラウマ?」」
「うん、俺が中学でいじめられていた頃の話なんだけど」

2年前

「今日は風魔のおごりという事で食べようぜ」
「・・・・・」
「じゃあ俺、チーズバーガー」
「私、フィッシュバーガー」
「俺、メガバーガー。風魔、早く頼んで来いよ」
「俺が・・・・行くの?」
「当たり前だろうが、気が利かない奴だな。全額おまえ持ちだから」
「えっ・・・」
「あ、あと頼む時に『スマイルください』って言って来いよ。言わねぇと罰金だからな」


「そんな事があったんだ」
「それらの商品全額持ちって結構な値段だよな」
「それもだけど、トラウマになったのはそれじゃないんだ」
「じゃあ、なにがトラウマになったの?」
「注文の時なんだけど・・・」


「以上でよろしいでしょうか?」
「あ、あと・・・その・・・・・」
「?」
「ス・・スマイル・・・くだ・・さい」
「・・・・・」
「(やっぱり、恥ずかしいよ)」
「・・・・・・フフッ」
「?」
「フフッ、アハハハハハハ!、アハハハッハハハハハハハハハハハハハ!!
 ヒャハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハ!!!、キャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


「それ以来、殺ッテリアに来るたんびにあの笑い声を思い出すんだ・・・」
「「(たしかに、笑っているけども・・・スマイルじゃない)」」
「ちゃんとスマイル頼んだのに、罰金取られたし・・・」
「「(かわいそすぎて笑えない・・・)」」
「よし分かった!俺がその仇をとってきてやるよ」
「え、天野どうした?」
「俺がスマイルを頼んで、店員にクレームをつける。店側に責任を取らせる。それで少しは気が楽になるだろ」
「天野、止めといた方がいいと思うぞ」
「じゃあ、行って来るぜ。俺に惚れるなよ」
「(誰も惚れねぇよ(女子全員の心の声))」

3分後

「天野、どうだった?」
「・・・・・・」
「天野?」
「『フッ』って鼻で笑われた」
「「「・・・・・・・・・」」」


418 :風の声 第9話「風の輪」:2010/12/28(火) 02:15:28 ID:ANN1ZbIR
その後、俺達の歓迎会(?)は無事に終了し皆それぞれが帰路についた

「今日は疲れたね」
「そうだな、久しぶりの部活は結構ハードだったな」
「翼」
「何?舞」
「部活に入った事、後悔してない?」
「どうして、そんな事を聞く?」
「部活に誘ったのは私だし、もしも翼が嫌な思いをしているのなら私にも責任があるかなと思って・・」
「舞にはすごく感謝してる。俺の対人恐怖を治そうと協力してくれているのだから」
「そう、よかった」
「俺はそんな舞が好きだよ」
「!?!!!!!!」
「あ!!好きと言ってもLOVEじゃなくてlikeの方だから・・・」
「そ、そうだよね!ビックリした~。でも少しガッカリかな・・」
「ん?最後のほう聞こえなかったんだけど何か言ったか?」
「ううん、何でもない。じゃあ明日の部活でね。バイバイ」
「うん、じゃあな」

とても楽しかった
こんな気持ちは久しぶりだ
舞の提案を受け不安もありながらも行動を起こしたのがこんなにもいい結果につながるなんて思ってもいなかった
初日から新しい友人はできたし、先輩とは少しだけど話もできたし
これなら、すぐに慣れて“人”に対する恐怖も消えるんじゃないかな
明日が、部活が待ち遠しい
こんな風に考えるなんて中学の時の俺だったら1ミリも考えなかっただろう
このまま楽しく嬉しい気分でいられると思った
けれども、人生は山あり谷あり。嬉しい事、楽しい事があった後には必ず辛い事が待っている
それを思い知らされる事となった

マンションに到着し玄関ホールのオートロックを開けて中に入る
エレベーターで昇り自宅の玄関へ向う、ここまではいつもどおりだった
けれども、俺は玄関前が視界に入った瞬間、さっきまでの高揚感が消滅した
玄関前に立っている人物、そいつは、俺が今一番会いたくない人物

「なんで、お前がここに・・・・?」
「あ、おかえり」
「どうして、いるんだよ・・・」
「昨日、電話で言ったじゃない。『取りに行っていい?そんでもって、泊まっていい?』って」
「郵送するって言った筈だ」
「待ちきれなかったから、それにお兄ちゃんとの話が終わってなかったしね」
「話って・・・まさか!?」
「さぁお兄ちゃん。愛する妹がお兄ちゃんの事を覚まさせてあげるね」

本当に目の前の人物はあいつなのか?
こんなにも負のオーラを抱えている人間だったか?
どうしたんだよ?


・・・夕美