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581 : ◆FvYcw6pX6k :2011/01/03(月) 19:32:07 ID:bV8eizUT
「今日はクリスマスイブか~」
目をキラキラと輝かせながら陽菜がそう呟いた。
……なぜか僕の横で。
「え、え~っと……陽菜は何か欲しいものとかあるの……?」
こう訊き返さないといけない気がした。
「えぇ!?まさか慶太、私にプレゼント買ってくれるの!?」
やっぱりそう言う事だったのね……
しかも陽菜が大声で叫んだおかげで、またいつもの展開になってしまう。
「私にもお兄ちゃんからのプレゼントあるんだよね!?」
「えっ!?……も、もちろんさ!」
「慶太さんは優しい方ですね。まさかこんな姉にも用意して下さるなんて」
「……ははは」
「それで私とのクリスマスディナーはどこに予約したの?」
「ごめん結衣、さすがにそれは……」
陽菜を含めた4人とも無茶な事を言ってきた。
基本的にこの世界のお金はモンスターを倒さなければ手に入らない。
そんなお金、僕一人で入手できるとでも?
「そちたち、もっと慶太の事を考えたらどうじゃ?こやつにそんな金を手に入れるのは不可能じゃろうが」
なんか奥歯に物が挟まる言い方だが、イルカさんだけが僕のことを考えてくれた。
「イルカさん……」
「我はなにもいらぬ。そ、そなたが傍にいるだけで……な?」
ヤバい。イルカさんがとてもかわいく見えてきた。
ただそのイルカさんに付けられた変な首輪がさっきからものすごく痛いのはなぜなのだろう?
「と、とりあえず一度パーティを解散しない?僕にも色々と(主に金銭面での)準備がいるから」
「じゃあイブの夜にこの町の教会に集合ね」
陽菜の意見にみんなが同意した。このパーティ始まって以来の結束だ。
「それじゃあまたイブの夜にね」
よし!一刻も早くイブの夜までにお金を集めに行かなければ!
……ってあと数時間しかなくね?


582 : ◆FvYcw6pX6k :2011/01/03(月) 19:32:49 ID:bV8eizUT
「そのような高価なものを売ってはいけませんよ」

モンスターを倒せない僕に残された方法。それは物品売買だ。
そう考えた僕は自分の持っている荷物を調べた。高く買い取ってもらえそうなものは、旅の最初で王様から貰った剣しかない。
もしこの事が王様にばれたら、絶対にいい気分はしないだろう。
だが背に腹は代えられない。だから売ろうとしたのに……
「そこをなんとかお願いしますよ!」
「と言われてもねぇ……」
「いくらでもいいんです!今すぐにお金が必要なんです!」
「そこまで言うのなら……」
渋々だったが店主は剣を買い取ってくれた。
10Gで。
「ふざけんなよ!お前さっき高価なものだって言っただろ!なんでこれっぽっちなんだよ!」
「だってこの剣じゃスライムぐらいしか倒せないし。それにいくらでもいいって言ってただろ?」
「うぐぐ……くそっ!」
確かにそう言ったけど、これはあんまりだろ。それに王様もそんな弱っちー剣をくれたのかよ。
「それでどうすんの?うん?」
「………………10Gくれ」
情けなかった。
意気揚々と持ってきた僕の最高の宝物を10Gで売ってしまった。陽菜たちにも内緒で。
「あとこの町では2.5Gだったらどんなものが買える?」
「そんなはした金じゃせいぜいお菓子くらいだろうな」
コイツ……僕が貧乏人だと分かってから明らかに口調を変えやがったな。
「お菓子じゃだめだ。せめて小物とかで」
「小物?確か隣の店に小さな鍋のふたが2Gで売ってたな」
そこで僕はキレた。
「女の子のクリスマスプレゼントに鍋のふたなんかあげる奴がどこにいんだよ!」
最低な客だ。この人は無一文の僕に10Gもくれたのに。
「……そっかクリスマスプレゼントか。ならぬいぐるみはどうだ?」
そう言うと店主は奥から大小様々なぬいぐるみを持ってきてくれた。
ここは武器以外にこんなのも取り扱っているのか。
「一番安い奴で1Gからにしてやるよ」
「店主さん……あなたはなんていい人なんだ」
さっきまでの非礼をお詫びします。怒鳴ったりしてごめんなさい。
「いいって事よ。さぁ早く選んじまいな。ラッピングもサービスしてやるよ」
「うっ……ううっ……あ、ありがとう……ございます!」
僕は泣いた。


583 : ◆FvYcw6pX6k :2011/01/03(月) 19:34:45 ID:bV8eizUT
「よっしぁ!なんとか間に合ったな」
時間にして午後六時。僕は教会にたどりついた。
「あ!お兄ちゃんだー!」
教会の扉を開けたとたん恭子ちゃんに飛びつかれた。
「フフフお待たせ。あれ?なんかいつもと違うくない?」
「気付いてくれました!?」
そう言われてまじまじと恭子ちゃんの顔を覗くと、うっすらと化粧を施しているのが分かった。
「お化粧してるね。いつもかわいいけど、さらに一段とかわいく見えるよ」
「わぁ~……嬉しいな嬉しいな!お兄ちゃんにそう言ってもらえて嬉しいな!」
最近、こんなセリフが自然と出るようになったのって、着々とジゴロの道を突き進んでる証拠なんだろうな。
でも恭子ちゃんがうれしそうならそれでもいいや。
「じゃあ皆にプレゼント渡すからちょっと離れてくれる?あとイルカさん、首輪が急に締め付け出したんですけど」
「何の事じゃ?わらわは何もしとらぬぞ?」
おれれ?変だな。てっきりイルカさんが遠隔操作かなにかをしてると思ったんだけど。
「まいっか。じゃあまずは恭子ちゃんからあげるね」
「わぁ~い!!有難うー!!」
恭子ちゃんは飛び跳ねるようにしてプレゼントを受け取った。
こんなに喜んでいる彼女を見ると胸が締め付けられる。早く1Gで買った記憶を消去したい。
「中身は何かな?……あ!カワイイ!くまさんのぬいぐるみだ!」
ぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめる恭子ちゃん。僕なんかのプレゼントで喜んでくれて本当にいい子だ。
とその時ぬいぐるみについていたのか、何やら紙が地面に落ちた。
「あれ、何か落ちちゃ―――えっ……?」
紙を拾い上げた恭子ちゃんの顔が絶望に染まっていく。その視線は紙に固定されたままで。
「どうしたの恭子ちゃん!?」
慌てて駆け寄ると、恭子ちゃんが話しかけてきた。
「あ、あは……嘘ですよね……きっと他の商品のがくっついていただけですよね……?」
「う、嘘?ちょ、ちょっとその紙見せて!」
半ばひったくるかの様に紙を受け取ると、そこにはこんなことが書かれていた。

 『3G→1G』

「あ、ああ……」
「嘘ですよね?お兄ちゃんからのプレゼントが……1Gのはずないですよね?スライム一匹分のはずないですよね?」
その時だった。今まで無言だった女性陣が目を覚ました。
「1Gとは……悲惨じゃの……ぷっ!」
「しょうがないよ。結局『妹』へのプレゼントなんだから。つ・い・で、なんだからね♪」
「慶太が来る前はあんなに『私へのプレゼントが一番愛情こもってるもん!』とか言ってたくせに……アッハハハハハ!!」
「みなさんあんまりですよ!確かに『1G』ですけど、一番愛情がこもってるかもしれないじゃないですか!『1G』の何が可笑しいのですか『1G』の!」
全員が笑顔になっている。見た目は怒っている顔の姉ちゃんも心の中では大爆笑しているのが手に取るように分かる。1Gって強調してるし。
とにかく僕は今、危機的状況に陥っている。
だって結衣と姉ちゃんへのプレゼントも1Gなのだから。



584 : ◆FvYcw6pX6k :2011/01/03(月) 19:35:54 ID:bV8eizUT
「あー面白かった!!じゃあ次は私の番ね!」
結衣が期待を込めた目でこっちを見つめてくる。
僕は思考をフル回転させるがいいアイデアが思いつかない。
今僕の持っているぬいぐるみは1Gのものが2つに、陽菜用に買った5Gのものが一つ、自分のおこずかいの2Gがあるだけだ。
選択肢は3つ。
1Gのをあげて恭子ちゃんと同様の反応をされるか、5Gのをあげて陽菜に焼かれるか、何もあげないか。
「……お兄ちゃんにとって……私は1G……1G……1G1G1G1G1G」
……よし。とりあえず1Gのを渡すのはダメだな。
「さ、慶太。わたしにプレゼント頂戴」
いつのまにか結衣が僕の目の前まで迫っていた。
もう迷っていられない。
「あ、ああ!」
とっさに袋の中に手を突っ込む。こうなったら仕方がない。
「ハイ!クリスマスプレゼント!」
僕は5Gのぬいぐるみを失った。
「ありがと~って!これあの子のと一緒じゃないの!?」
プレゼントの中身がぬいぐるみと分かった瞬間、結衣の表情が激変した。
「ち、違うよ、良く見てよ!これは一つ5Gもしたんだから!」
言ってから自分の発言の恐ろしさに気がつく。
恭子ちゃんの方を見ないようにしよう。呪文でも唱えていそうだからね。
「……ま、お金のない慶太にしてみたら5Gが精一杯よね。どっかの誰かさんは1Gだったけど」
後半のセリフから、結衣が5Gのぬいぐるみで満足していないのが分かった。
「うん、ごめんな。それと恭子ちゃん、これには深い事情があって、決して―――」
「嫌……嫌いや嫌嫌嫌嫌ああああああああああああああああ!!」
恭子ちゃんが自分の精神に遺悪羅を放った。つまりは恭子ちゃんの心が爆発した。
発狂した恭子ちゃんは全力で僕にしがみついてきた。
きっと僕に捨てられるとでも思っているのだろう。
だからそっとその頭に手を置いて、僕はゆっくりと撫でようと―――
「ごめんなさい!私と一緒に死んでください!」
―――した手を恭子ちゃんの口に移動させた。
「お願いだからやめて!たった4Gで命を粗末にするのはいけないと思うよ!」
「んんんんんんん!?(だったら私の方が好き!?)」
「大好きだよ!ほらね、『んんん』しか言ってなくても恭子ちゃんの言いたい事が分かってるだろ!?これは恭子ちゃんの事が大好きだからだよ!!」
「ちょっと!!私よりもこのクソガキの方が好きだっていうの!?」
「ちょ、違うよ!どっちも大好きだから!!」
「んんんんんんん!!」
「どっちもはダメだって!?そ、そんなこと言われても……」
「「どっち!?(んんん!?)」」
「あ、ああ、あああああああああああああああ!!」
二人の女性に詰め寄られ、僕は気が狂ったように駆けだした。
ある意味一心不乱に走った先で何かにぶつかる。
「あっ……」
「えっ……?」
ぶつかったのは陽菜だった。
そのまま僕たちは倒れてしまう。
どうやら僕の下は草しかなかったようで痛くもかゆくもなかったが、陽菜の倒れた方からは鈍い音が聞こえてきた。


―――ゴツンッ!―――


585 : ◆FvYcw6pX6k :2011/01/03(月) 19:38:33 ID:bV8eizUT
陽菜の倒れた位置は非常にまずかった。
「よ……陽菜?」
陽菜は倒れたままピクリとも動いていない。
急いで駆け寄って頭を持ち上げると、その下には大きな石が存在していた。
悪寒がする。まるで極寒の地にでも行ったかのように、体の奥から冷たくなっていく。
抱えている陽菜の方も比喩ではなく、実際に冷たくなっていった。
「お、おい……嘘……だろ?ハハハ、陽菜も冗談がうまいな……」
まるで自分に言い聞かせるように僕はそう言い続けた。
陽菜が死んだ。その事実を否定したくて。
「もういいよ……もうそんな演技はいいから……目を覚ましてくれよ!!」

ピロリ~ン♪

「頼むよ!いつもみたいに僕を燃やしてもいいからさ!」

早川慶太のレベルが一気に最大まで上がった!

「陽菜の事好きだったのに……なんで……どうして……っ!!」
その時だった。僕の耳に心地よいソプラノボイスが入って来た。
「……それは本当なの?慶太は……その……本当に私の事が好きなの?」
「っ!?」
先ほどまで閉じていた陽菜の目が開き始めた。
一体何がどうなっているのか理解できない。
「あ、あれ?あれ?」
「慶太が私の事を好きでいてくれる限り、私は死ぬわけにはいかないよ。ま、さっきは本当に死んじゃったけどね」
もう限界だった。
「う、うわーーーーん!ごめんなさいごめんなさい!」
そのまま陽菜に抱きついて僕は謝り続けた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「いいよ。それに慶太が私の事好きって言ってくれたから……私は今幸せだよ」
陽菜も僕を抱きしめる。
僕たちは体を動かす事もなく、そのまま時が止まったかのようにそうしていた。
……そう……せざるをえなかった。
「…………………………」
「私も慶太の事好きだよ」
止まったはずの悪寒が再び僕の体を駆け巡る。それも尋常じゃない程。
「もう一回言ってほしいな?」
「な……何を……?」
僕は陽菜が何を言ってほしいのか分かっているのに、あえて訊き返した。いや、陽菜が求めるものを言いたくなかったのだ。
「私の事が好きだって」
言えない。言いたくない。もし言ってしまったら僕は……
「どうしたの?」



(アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!ついに慶太が堕ちた!!やっと、やっとこの日が来た!!どうしよう!!嬉しい!!死んじゃってもいいくらい嬉しい!!ダメダメ!!死んじゃうのはダメ!!死んじゃったら慶太が悲しむもんね!!
これからどうしよう!!ここでキスする!?ううんダメ!!私はいいけどやっぱり最初は慶太のペースに合わせなくっちゃ!!慶太がしたいって言うまで我慢しよう!!でも我慢できるかな!?あーそれにして嬉しいな!!今も慶太が私を抱きしめてくれてるなんて!!
いつかはこうなるって分かっていたけどやっぱり実際やってもらうと凄く気持ちいいよ!!なんでこんなにも気持ちいいのかな!!やっぱり私と慶太の相性が最高に良いからだよね!!うん!!きっとそう!!やっぱり私たちはこの世で最も最高の恋人なんだ!!)


586 : ◆FvYcw6pX6k :2011/01/03(月) 19:40:18 ID:bV8eizUT
「む~っ!!いい加減お兄ちゃんから離れてください!!」
(お兄ちゃんもなんで陽菜さんと抱き合っているのよ!どうして私だけを見ようとしてくれないのよ!)
抱き合っている僕たちを離そうと恭子ちゃんが僕たちの肩をつかんできた。
「離れて下さいよ!」
(私だけのお兄ちゃんに抱きつくな!触るな!近寄るな!)
ぐいぐいと力を込めてくる。
そんな恭子ちゃんに陽菜が一瞥を与える。
(本当にこの虫は私の邪魔ばかりしようとするなにが抱きつくな!触るな!近寄るな!よそれはこっちのセリフなのそうだ今すぐコイツを殺そう私たちはもう完璧に恋人なんだからきっと今なら私が何しても慶太は許してくれるどうやって殺そうかな呪文はダメ
やっぱりこいつを殺す感触が欲しいもんねじゃあ手足を引きちぎってのたうちまわるこいつをピーしてピーしてピーしよううんそれがいいでもやっぱり最後は二度とコイツが復活できないように眼羅象魔をMPが切れるまで……)
「陽菜!僕だけを見てよ!」
生まれて初めて聴いた陽菜の心の声。それは嫉妬という言葉では括ることができないものだった。
恭子ちゃんには可哀そうだが、こう言わないと最悪の結末を迎えていたに違いない。
「な……何でそんな事言うんですか……?どうして私を……見てくれないんですか……?」
恭子ちゃんを筆頭に結衣や姉ちゃん、イルカさんの心の声がはっきりと聴こえる。
でも今の僕にはそんな悲痛や激昂の叫びが入り混じった声すらも、蝉の鳴き声の様にただの音としてしか認知できない。
それほど『彼女』の声は強烈だったのだ。
「ふ~ん成程のぅ……」
突如にイルカさんは暗い笑顔を作り始めて呟いた。
(――――――――――――――――――)
それはとても小さい声だった。
だがどんなに大きな叫びでも微動だにしなかった僕を動かした。
「あれ?どうしたの?なんで離れるの?」
陽菜の疑問―――に見せかけた脅迫にも僕は答えない。
全員が僕を見つめる中、僕は歩き出した。
一歩、二歩と僕が陽菜から離れるたびに頭の中の警告が鳴り響く。
僕の歩みはイルカさんにたどりつくまで止まる事はなかった。
「わらわに何の様じゃ?そちが好いておるのは陽菜だろう?はよぅ陽菜のもとに戻らんか」
拗ねたような口調だったが、その口は吊り上がっている。
間違いなく、それは僕が絶対にそうしないと自信に満ちた顔だった。
「嫌だ」
「はぁ?そちが自分から言ったんであろう?俺は陽菜が好きだ、と」
「あれは嘘だ。俺が本当に好きなのはお前だけだ」
俺は何を言ってるんだ?
この前のコンテストで変な毒を盛られたときも、自分の意志とは関係なく口が動いた。
だが今はあのときの感覚とは違う。
あの時は体の自由を奪われる事はなかった。それにこれはまるで―――イルカさんの理想の男を演じさせられているみたいだ。
「え?ちょっと慶太何言ってるの?慶太が好きなのは私でしょ?なのになんでそいつに……好きだって……言ってんのよ!!」
「ごめん陽菜。どうしようもないくらい……気が狂いそうなくらい……僕はイルカさんの事が好きなんだ。その証拠に―――」
僕の右手がイルカさんの顎を掴む。そして少し上に持ち上げる。
「っ!?やめてよ!!お願いだからそれだけはやめて!!」

「………………」
「っ!?///」

陽菜の願いもむなしく、僕はイルカさんにキスをした。