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160 :弱気な魔王と愛され姫様・後:2011/01/08(土) 17:52:12 ID:b4DU+klf
「どうでしょう、お口に合いますかしら?」
「…………」

こんなとこに閉じ込めといて、口に合うも合わないも無いもんだ
粘着質のもので捕まえようって虫か俺は。まぁ蟲だが
しかし飯は悔しいが美味い
ハニーキャベツの葉で軟らかく煮た石大根を巻いたロールキャベツ
黄金稲に200年物の直立ヒノキ樹液がけ
火傷しそうな灼熱茄子網焼きのあとは、油芋の氷味噌漬け
こんな美味いフルコース生まれてこのかた食ったことねぇ
城に残ってる俺の分身たちにバレたら刺されても文句は言えねえな
きゃあ、じぶんごろし
ミリルは俺の表情が読めるみたいなんで不機嫌な顔を崩さないようにしてるつもりなんだが
ついつい口角を緩ませながら、テーブルに顔をこすり付けるようにがっついて食っちまう
テーブルマナー? 知るか。蟲にそんなもん求めんな

「ごっそさん。ものすげぇ美味かった」
「くすくす。お気に召していただいたようで何よりですわ」
「これが気に入らない蟲なんていねえよ。常識的に考えて」

腹が膨れると、傷だらけの体にも少しづつ力が戻ってくるのを感じる
頑張ればこの粘着質の牢獄をブッ壊せるかもしれねえが……
やめとこ
ミスった時のリスクがでかい
厚く塗りたくられた瞬間接着樹の樹液は衝撃吸収力にもかなり優れてんだ
ヘタこいてくっついちまったら簡単には抜け出せそうも無いからな
それに、ミリルは常軌を逸してるところはあるにせよ、感謝の気持ちで俺に接してくれてる
その気持ちを無下にしろってのはいくら俺でも難しい相談だ

「あら、まだ満腹だなんておっしゃっては駄目ですわ。最後に最高のデザートもあるのですから」
「なに? これ以上だと?」

今までの飯でも大満足だってのに、これ以上だぜ?
そいつは嫌が応にも期待が高まっちまうじゃねーか
この女、初めはなんか少し姫ちゃんに近い狂気みたいなものを感じたんだがな
この監禁みたいな行為は正直言って閉口するが、まあ俺に恩を返したいって気持ちが過ぎただけだろうしな
………食い物に釣られたとか言うな

161 :弱気な魔王と愛され姫様・第二幕 後:2011/01/08(土) 17:53:28 ID:b4DU+klf
「あの、わたくしは貴方様のことを、エレ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「別に様もいらねぇけどな。好きに呼んでくれや。……んで、そのデザートってのは何だ?」
「エレ様、いやしんぼですわよ」

めっ、と鼻先に触れられる
小馬鹿にされたような気がしないでもないが、ミリル特有のおっとりした空気のせいか不思議と腹も立たん
むしろ、優しい姉に注意されたみたいな心地良さまで感じちまう
いい女だ
そう思えば思うほど、基本的に人間に憎まれている俺がこんなとこにいちゃいけねえと思い知らされる
政治面の会議はほとんど寝てる俺にはミリルがお家再興できるかなんて話はわかんねえが、財力はかなりあるようだ
きっとこれからも領主みてえな仕事をしていくんだろう
だったら、俺みたいなはみ出し者はいつまでもここにいちゃこいつのためにならねえ
まあ今日は好きにさせてやって明日にもここを出ればいいか
そんな俺の考えを知ってか知らずか、ミリルが俺の顔を覗き込んでにこにこ笑っている
まったく、お気楽そうな顔しちゃってまぁ
その顔を見てちょっと意地悪をしたくなった俺は、わしわしとミリルの髪を両手でくしゃくしゃにしてやった

「糖蜜樹、知っていますか?」
「名前だけはな。見たことも食ったこともねえが」

糖蜜樹
自然が作り出した糖質の塊、と言われた木
葉、枝、樹皮、幹。樹液全てが甘く、言葉にできないほど芳醇な甘みが口いっぱいに広がるって話
死ぬまでに一度は味わってみてぇと思ってたんだがね、なんせ世界に十本あるかに無いかって言うような珍しい木だ
とても手の届かねえ高嶺の花だって諦めてたんだが……

「おいミリル、まさか」
「ええ、そのまさかですわ。糖蜜樹の樹液を一リットル、いつかエレ様にさし上げるために取り寄せていましたの」
「我が世の春が来たぁぁぁぁぁッ!!」

俺が大喜びしてる間に、いつの間にかミリルの髪がすっかり整えられてる
……どうやったんだ? ほとんど目を離してなかったのに
女の身支度ってのはすげー時間かかると聞いてたんだがなぁ

「では、少しの間目を閉じていただけますか?」
「目を? なんでだ」
「デザートをお持ちするためです。見ては楽しみが半減してしまいますわ」
「納得」

162 :弱気な魔王と愛され姫様・第二幕 後:2011/01/08(土) 17:54:12 ID:b4DU+klf
体の蟲を数匹監視用に見ておこうかとも思ったが、結局素直に目を閉じることにした
ミリルが俺に害をなそうと考えてるなんて、まずありえんし
それにやっぱ糖蜜樹の樹液がどんなデザートになって出てくるのか楽しみでしょうがねえしな
ミリルが部屋を出る音がしてからだいたい十分くらいか
膨れた腹と適温の部屋のせいでウトウトしていたところで、部屋にミリルが帰ってきた気配がした
それと同時に、俺の鼻をくすぐる甘い匂い
やっぱ一日ここに居ることにして正解だったぜ
まあほら、俺が一日居なくなったくらいで城が大騒ぎになるもんじゃねーよ。子供のおつかいじゃあるまいし
あああ……早く食いてぇぇぇぇ………

「エレ様、目を開けてくださいな」
「おっしゃぁ! いただきま――――」

おお、うめえ! すっきりとした嫌みの無い味でありながら、体がとろけるような甘みが口の中で暴れまわってやがる!
……いや、マジで口内暴れまわってんだよ。その甘みを乗せた、ミリルの舌が

「ぷはっ………いかかですか? お味のほうは?」
「いや、なんつーか……情熱的? あと、風邪ひくぞ」

ベッドサイドには、さっきまでの豪奢なドレスを脱ぎ捨てたミリルがいた
しかも、その官能的な肢体全てからあの甘い香りがしてくる
……これって東洋の風習に残ってるっつー話の、NYOTAIMORIってやつか?

「デザートは糖蜜樹の樹液と、わたくしですわ。余すところ無く舐め取ってくださいな」

嫌みも無く、マジで嬉しそうな顔で俺に笑いかけてくる
にっこりってな言葉が嫌ってほど似合うぜこんちくしょう

「いや……その……これはいかんだろ」
「なぜでしょうか? なにかわたくしに至らないところがありましたでしょうか?」
「それは無いが」
「あっ、わかりましたわ。エレ様、心配されなくても大丈夫ですわよ」
「大丈夫ってお前」
「全て舐め取られた後は、わたくしの体を好きにしても構いませんわ」
「そういう問題じゃねぇ」
「それでも、わたくし殿方とこういったことははじめてですので、優しくしていただけると嬉しいのですけど……
 エレ様が望むのでしたら、少しくらい痛くても我慢しますわ」
「…………」

ダメだ。やっぱこの女話が通じねぇ
こっちは今すぐにもこの甘味にむしゃぶりつきたい自分を必死こいて押さえつけてるってのに

「ミリル、俺を見ろ。蟲だ」
「? ええ、存じていますわ」
「んで、お前は人間だ。俺の言いたいことわかるな?」
「もちろんです。わたくし、初子は女の子が欲しいですわ」
「おいコラ」

163 :弱気な魔王と愛され姫様・第二幕 後:2011/01/08(土) 17:55:05 ID:b4DU+klf
そういやこんなこと、魔王も姫ちゃんに言ってたな
もちろんまともに聞いてもらえんで俺達は笑ってたもんだが、こっちは魔王よりもヤベぇ
魔王は魔族としては亜種だ
力も姿も何もかもが人間に近い魔族
ってことは、人間と結ばれてもあんま種族としての違いは寿命以外差異はほとんどねえ……はずだ
しかしこっちはどうだ
俺は言い方は変だが魔族らしい魔族、っつか蟲
ミリルは人間、しかも貴族
……誰がどう見たって、うまくいくはずなんかねーだろ
以前魔王に使った局電蟲で気絶させようにも、たぶん無理だ
攻撃命令で俺の体を離れた蟲は基本的に命令には従うものの、それ以上の関心事を見つければ自我に忠実になる
たぶんミリルの体の樹液を舐め取りに行っちまうだろうな
そうなりゃ後は瓦解してくしかねぇ
一匹が舐め取りに行けば次は二匹、四匹、八匹と動き出しちまう
便利なようで不便な体だぜ、ったく

「頼む、服着てくれ。襲っちまいそうだ」
「遠慮しないでくださいな」
「お前は貴族だ。俺なんぞと関係を持ったなんぞ知れればシャレにならねえぞ。家臣も離れてくだろうしな」
「あら、その点は心配御無用ですわ」

パンパン、とミリルが手を叩くと、扉の向こうからぞろぞろと人間が入ってくる
兵士、騎士、メイド、コック、その他もろもろ
こいつら、戸の向こうなんぞで何やってたんだ? 

「皆、エレ様の御尊顔を拝みたいとこっそり覗いておりましたの。私達を救ってくださった勇者様のお顔を、ね」
「おいおいおいおいおいおい」

見ればメイドやコック達は皆傅き、兵士達は剣を胸元に構える敬意の構え
俺には最も程遠い物だぞ、そりゃ。俺はそんなやつじゃねえっつってんのに

164 :弱気な魔王と愛され姫様・第二幕 後:2011/01/08(土) 17:55:40 ID:b4DU+klf
「………おかしいですわ」
「何がだ。やっと自分の過ちに気が付いてくれたか?」
「エレ様は王を膾斬りにして出血死させ、王女二人を陵辱して殺したと言っていましたわ」
「ああ、まあ一応」

確かそんなこと以前言った気がする
姫ちゃんが殺したって事実を隠すために、ものすげえ過剰におどろおどろしく脚色して敵兵に聞かせてやったんだっけ

「でも、今はわたくしを抱くことすら躊躇っていますわ。しかも、わたくしの今後のために
 そんな優しい方が、王達をそんな方法で殺せたのかしら?」
「!?」

ヤベエ。疑いを持たれた
もしもこの場でバレたら、まだ力の大半が戻ってねえ俺は殺されるかもしれん
そりゃ別にいい。どうせあの砦で死んでたはずだったのを拾った命だ。今更惜しくもねえ
問題は、じゃあ誰があの王どもを殺したかって話になること
どこから出て来る話で、姫ちゃんに疑いが向くかもわからねえ
いや、たぶんバレる
あの時場内にいたのがカニマヨ、王と娘の三人を除けば俺と姫ちゃんだけって事は、あの戦場に居た魔族なら大概知ってることだ
それだけは、それだけは、それだけは絶対に――――


「おいコラ。俺が優しくしてると思って付け上がりやがってよぉ。そんなに言うんならとことんヤってやろうじゃねえか
 テメエの痴態、家臣どもに良く見せてやんなぁッ!!」
「きゃっ!」

ベッドに強く転がされたミリル
その上に覆いかぶさって糖蜜樹の樹液を舐め取る
こいつを汚したくない
それでも、妹の罪は死んでも外に出すわけにはいかない
だから俺は悪役になるしかねえんだ
すまねえ、すまねえと心で詫びる
世界最高峰の甘味は、なぜか妙に苦かった


165 :弱気な魔王と愛され姫様・第二幕 後:2011/01/08(土) 17:56:21 ID:b4DU+klf
「魔王様、伝令です」
「うん」

姫とテラスでティータイム中に、伝令烏が僕の肩に止まる
普段ならもっと時間をずらして伝令に入るんだけど、急を要するって事かな

「エレキインセクトのこと?」
「エレキ兄様のこと?」

思わず身を乗り出してきた姫と声がハモってしまう
捜索隊を結成しても見つけられず、彼がいなくなってもう二ヶ月
死ぬわけが無いと思いつつも、不安はどうしても隠せない

「はい。エレキインセクト様を、ここから南に13km先の城で見つけました」
「13km? 案外近かったんだね」
「場内に匿われていたので発見が遅れました。すみません」
「いいよ。それよりも、エレキ兄様は元気なの?」
「はぁ……そこなんですが………」
「はっきり言って。エレキインセクトは元気なの? それとも……」

死んだの? とは姫の前では聞かない
5年前の惨劇、その罪を全て被った彼が死んだなんて聞かせたくなかった

「いえ、元気です。……と言うか、元気すぎるほどで………」
「?」
「どゆことなの? 兄様が元気すぎるって」

すると、伝令烏は羽の中から二通の手紙を出す
一通はエレキインセクトの相変わらず解読に一苦労しそうな悪筆
もう一通は流麗な文字で書かれた綺麗な手紙
その二通目には、僕がその場でひっくり返るには十分すぎる内容が書かれていた

[拝啓、魔王様
 わたくし、エルフィール・キタ・ランサザード・ドララスゴーニ・シンス・ミリルと申します
 どうぞ、ミリルとお呼びくださいませ
 魔王様の部下であるエレキインセクト様と、先日神前にて夫婦の契りを結んだ者でございます
 伝令係でありますカラスさんにこの手紙が届く頃、わたくしも旦那様と一緒にそちらに出発します
 これから、夫婦ともども末永くよろしくお願いいたします

 追伸:持参金として、当家の全財産の半分をお持ちします。荷馬車368台分になりますので、到着は明後日になりそうです]

椅子ごとこけた僕から手紙を受け取った姫がそれを見て笑う

「わあ、ボクにもお姉様ができるんだね」
「そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ」

色々聞きたいことは山のようにあるけれど、まずは良かった
死んでいたかもしれないエレキインセクトが、奥さんを連れて凱旋なんて朗報だね

「………お父様、それでエレキ兄様の手紙なんだけど」
「ん?」
「ちょっと意味が分からないんだ。読んでみて」

そう言われて姫から受け取った手紙を読んで、僕は、彼と彼女がどんな風に結ばれたのか、理解できたような気がした


[魔王。あんたの気持ちが、痛いほどわかったぜ]