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名前:日常に潜む闇 第10話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/01/11(火) 23:48:26 ID:Qw9P878c [2/5]
「くくく……面白いことになったな。そう思わないか?」
 生徒会室のある監督生棟の屋上から双眼鏡で眼下の光景を眺めながら久坂誠一は愉悦に浸った笑みを浮かべた。
「そうか。それで?」
 誠一の問いに応えたのは天城美佐枝だ。
 腕組みをして、誠一の後ろに、少し離れた所に立っている。
 しかしただそこに腕を組んで立っているわけではない。両の手の爪が腕に食い込んで、血が今にも滲み出てきそうなのだ。
「なんだ可愛げのない。せっかくこの私が君に耳寄りな情報を提供してあげようとここに連れ出したというのに」
「……私にその胸糞悪い、反吐が出るような光景を見せてどうするつもりだ?」
「情報提供だよ。我が愛しの弟が幸せになるために、そして私の腹心の部下に幸せになってもらいたい。ただそれだけだとも」
「ふん。下らないな」
 苛立ちを微塵も感じさせない美佐枝の口調に、誠一はケタケタと笑いながら双眼鏡で誠二と友里がいる教室を眺める。
「なんともまあ妬ける光景だ。泣き顔で内心を吐露する可憐な美少女と全てを受け止め優しく抱擁する青年。実に絵になる光景だな」
「もう用は済んだのだろう? 私は帰らせてもらう」
「無謀な行為で、我が弟を悲しみの淵へと落とさないでくれよ? 悲しみと怒りで、俺の気が狂ってしまうからな」
「生徒会長殿が余計な真似をしなければ、とだけ言っておこうか」
「くくく。それでいい。君はそれでこそ、秀麗の美女、生徒会副会長天城美佐枝たりえる」
「それを決めるのは貴方ではない。誰でもない、私自身だ」
「なに、君自身が振舞おうと、周りは君を評価づける。そしてそれに君は縛られるのだよ。俺にはそれが理解できないがね」
「しがらみ、か……」
 誠一の言葉に、美佐枝は小さく嘆息した。
誠二にも未だ見せたことのない、憂いに満ちた表情。
 彼女が意識しようとしまいと関係なしに、付き纏う忌事(いみごと)。
「そういった負の側面を弟に向ければ、コロリと傾くと思うんだがなあ」
 実験を楽しむ狂科学者のような口調で喋る誠一。
彼女の表情を見るでもなく、その声音と雰囲気から、彼女が、天城美佐枝が何を思い、考えているか手に取るように分かる。
 数年間――生徒会以前からのビジネスパートナーなのだから。
「先に帰らせてもらう。これ以上戯言に付き合う気はない」
 美佐枝は意識を切り替えるように誠一の背を睨みつけると、屋上から立ち去った。
 誰もいない屋上で誠一は一人呟く。
「言葉だけで人の生き様を変えられる。実に愚かで愉快だ」
 その声音は気悦に満ちていた。


248 名前:日常に潜む闇 第10話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/01/11(火) 23:48:57 ID:Qw9P878c [3/5]


「その……さっきは抱きついたり取り乱したりしてごめんね」
「うん? いや、大丈夫だよ」
 苦笑を浮かべながら誠二は友里を自分から離して近くの椅子に座らせた。自身もクラスメイトの席を勝手に借りて座る。
 友里はハンカチで目尻の涙をぬぐっている。誠二は無言で待つのみだ。
 しばらくの間、沈黙が舞い降りる。
「紬原さん――いや、友里」
「……なに? 誠二君」
「僕のせいで友里にまで迷惑かけて、ごめん」
「……わたしは別に気にしてないよ。それに私たちの関係は私たちだけの者。だから他人がとかく言おうと関係ないの」
「でも学校内で色んな人から何かしら言われるんじゃ――」
「ねえ誠二君」
 友里が誠二の言葉をさえぎる。そして、互いの吐息を感じ合ってしまうぐらいの距離にまで歩み寄り、顔を近づけた。
「私はね。誠二君がいればそれだけでいいの」
「友里……?」
「今から私の家に、来ない?」
 彼女の澄んだ瞳が誠二の視線を捉える。感情を写さないその瞳は底の見えない深い泉だ。
 まるで何かに操られるように誠二は首を縦に振りそうになる。
 ――が、
「ちょっと待ってもらおうか」
 勢い良く教室のドアを開けて、乱入してくる者がいた。
「…………」
「……美佐枝、さん」
 天城美佐枝が近づくとともに、友里は誠二から身体を離して彼女のほうへゆっくりと振り向く。
 誠二はと言えば、安心したような、不味いものを見られたような複雑な表情をしていた。
「何の用ですか、先輩」
 先に切り出したのは友里だった。
「私の誠二を誘惑するのは止めてもらおうか」
「誘惑? それは貴女のことじゃないですか? 私は誠二君に家に遊びに来るようお誘いしただけです」
「ほう? 異性に対して身体的密着を行うことで籠絡させるのが、招待の仕方か。まるで盛った雌猫だな」
「ッ……! それを言うなら先輩だって同じじゃないですか。昼間から誠二君と二人で授業をサボって、学校で二人きりになるなんて……誠二君に道を踏み外させるような真似しないください」
 精一杯の睨みを利かせて友里が牽制を仕掛ける。
 しかし美佐枝は冷めた視線で彼女を見下すだけだった。
「哀れな女だ。好きな男の気持ち一つすら理解できないようなお子様と一緒に居ては誠二に迷惑だ」
 そう言うと美佐枝は誠二に歩み寄り、腕を自分のそれに絡める。
 まるで彼が自分の物だと暗に主張せんと言わんばかりに。
「さあ誠二。これから執行部入部祝いだ。私が先輩として奢ってやろう。これは生徒会の慣習だからな。遠慮しなくていい」
「え? あ、はい……」
「だから、私といる時は敬語は無しだと言っているだろう」
「いや、でも……」
 誠二は友里に視線をちらちらと向ける。
 美佐枝はもちろんその意味を理解していたが、あくまでも自分の主張を貫く。
「曖昧な態度は相手も自分も不幸になる。それに、私としては躊躇されることがとても悲しいんだがな」
「う……ごめん」
「そうだ。それでいい」
 美佐枝はにっこりとほほ笑む。
 そして強張った表情をしている友里など眼中にないかのように誠二を連れて行ってしまった。
 残された友里は、しばらくの間その場に立ち尽くしていたが、やがて自分の机に掛けてある鞄を取って、下駄箱のある昇降口に向かった。




249 名前:日常に潜む闇 第10話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/01/11(火) 23:49:37 ID:Qw9P878c [4/5]


「……………………」
 帰宅した友里は無言のままに鞄を置き、部屋着に着替えようと制服を脱ぎ始める。
 下着だけになり部屋着に手を伸ばしかけて、ふと鏡に映る自分の姿が目に止まった。
「やっぱり誠二君は私じゃなくてあの人が好きなのかな……」
 あの日、病室で一緒になった時からずっと想ってきた初恋の相手と話すことはあっても決してこちらに傾いてはくれない。
 そう考えただけで、胸が苦しくなりそうだった。
「誠二君……」
 悲しみを、苦しみを紛らわしたくて、自然と手が下に伸びた。
「ん…………あ……」
 下着越しに恥部を擦る。
「せいじ、くん…………はぁ……」
 空いているも一方の手で、今度は胸を、乳首を摘むように直に指でこねくり回す。
 しかしそれでも満たされないのか、友里は秘部を割れ目に沿って直に触れ始めた。
「はぁん……もっと……もっと、きて…………せいじ、くぅん…………」
 次第にショーツが湿り気を帯び始め、にちゃにちゃと粘り気を帯びた音が聞こえてきた。その音こそはわずかなものの、今の友里には心なしか大きく聞こえて仕方がない。
「……は……ん。……んぁ……どうして、私を……見てくれないの…………」
 快楽の波が押し寄せる度に友里の脳裏には天城美佐枝と楽しそうに話す誠二の姿がよぎる。
 満たされない欲求が募るが、性的欲求はそれ以上だった。
 部屋には友里の嬌声が籠もり、自身を慰める指はその動きがさらに激しくなっていた。
「せいじくんせいじくんせいじくんせいじくん…………!」
 好きな男の名をしきりに口に出した直後、彼女の身体が一度大きく痙攣しその場に崩れるように倒れた。
「…………せいじ、くん……」
 弄っていた指はそのままに床に倒れた彼女の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
 ごめんなさい。
 心の中で、紬原友里は久坂誠二に謝るのであった。