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368 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:10:13 ID:4MZiJLWo

目を開けた瞬間、飛び込んできたのは見慣れない風景だった。無機質な物で部屋は囲まれており、必要最低限の物しか置いていないようだ。
何故だか妙な物悲しさを覚える。この部屋の主は"生活"ということに大して一切の希望を持ってない、そんな印象を受けた。
「……ここ……何処だ…」
まだ少し靄が掛かった頭を働かせて記憶を引っ張り出す。どうして俺はこんなところにいるんだ。確か病院から帰って来た途中――

『おやすみ、要』

「っ!朔夜は……!?」
慌てて部屋を見渡すが人影はない。無機質な部屋の隅には扉が一つあり、どうやら出口はそこだけのようだ。
寝ていたベッドから下りて自分の状態を確認する。てっきり手足を縛られて監禁……なんてパターンかと思ったが全く拘束されてはいなかった。
もしかしたらまだ縛っていないだけなのかもしれない。だとすれば……。
「……今の内に逃げ出すしかない、か」
ゆっくりと深呼吸をして扉に近付く。あまり期待はしていないが――
「……あ、あれ?」
予想に反しドアノブは簡単に回った。そのまま扉を押すと眩しい日差しが差し込んで来た。
「何だ……ここは……」
周りは見渡す限り緑が広がっておりおそらく森の中だろう。振り返ると自分が先程までいた灰色の建物が自然の中で妙に際立っていた。
「とりあえず人里まで行こう」
気温と太陽の位置から予想するにまだ朝方といったところか。もしかしたら朔夜は朝飯の準備でもしているのかもしれない。
とにかく逃げ出すなら今がチャンスだ。俺は無機質な建物に背を向けて走り出した。



「はぁはぁ……」
頬を伝う汗を拭って歩き続ける。もうかれこれ2時間はこの森の中を歩き続けているが一向に抜けられない。
むしろ同じ場所をぐるぐると回っているような感覚に陥る。太陽は既に昇り、木々の隙間から木漏れ日が降り注がれている。
こんな状況じゃなければ綺麗な場所だったのかもしれない。
「はぁはぁ……ん?」
水が流れる音が微かに聞こえる。自分の耳を頼りに進んでいくと開けた場所に出た。そして音の正体である川が流れている。
「少し……休憩するか」
むやみに歩き続けても体力を消費するだけだ。川の水はとても冷たく、頭を冷やすにはちょうど良い。顔を洗い気持ちを落ち着かせる。
「川を見つけられたのは大きいな」
やみくもに進むよりもこの川に沿って進んだ方が良いだろう。上手く行けばこの森を抜けられるかもしれない。
「でも抜けても帰る場所、あるの?要は一人ぼっちなんだよ?」
「っ…………」
叫びそうになるのを何とか抑える。まさか追いつかれてしまうとは。やはり迷いすぎたのかもしれない。


369 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:11:03 ID:4MZiJLWo
ゆっくりと振り返るとそこには笑みを浮かべた朔夜が立っていた。
「おはよう、要」
「……朔夜」
朔夜は微笑みながら俺を見つめている。てっきり怒って掴み掛かってくるかと思った。いや、そうして欲しかった。じっとしている方がよっぽど不気味だ。
「良いよ、逃げても」
「……本気で言ってんのかよ」
「だって私は要を監禁する気はないから。要がちゃんと逃げられたのがその証拠」
確かに手足を縛られて監禁されていたら絶対に逃げられなかった。それに扉に鍵が掛かっていても同じく逃げられなかったに違いない。
「じゃあ何で俺をこんな所に連れてきたんだ」
「それはね……」
「えっ……」
気が付いた瞬間、朔夜が俺の目の前にいた。まさか一瞬で俺との距離を詰めたのだろうか。
「ここが要の"生きる場所"だからだよ」
「生きる……場所?」
「要はいるだけで他人を傷付けちゃうでしょ?まるでハリネズミみたいに」
「そんなこと……っ!」
「あるでしょ?」
朔夜に顔を覗き込まれる。そんなことあるわけない……そう思いたいが俺は現に要組の皆を傷付けてしまったんだ。
俺がいなければ優も遥も潤も傷付かなくてすんだんじゃないか。それだけじゃない、俺のせいで撫子や英も傷付いてしまった。
「俺は……どうすれば良いんだ?」
「簡単だよ。……いなくなれば良いんだから」
「……いなくなれば……良い?」
「私もね、いなくなりたかった。だからここに住むことにしたの。……もう化け物扱いされたくないから」
朔夜は少し寂しそうに笑った。そうか、彼女も俺と同じなんだ。だから彼女は俺をここに連れてきたんじゃないか。
「…………分かった。俺もここに住む。逃げ出して悪かった。……許してくれ」
「ふふっ、許すも何も私は全然怒ってないよ。要が居たかったら居れば良いだけだしね」
「そっか……」
「じゃあ行こうか」
そういうと朔夜は元来た道を歩きはじめた。俺は朔夜の後を着いていく。不思議と先程まであった逃げ出したい気持ちは何処かへ行ってしまった。
そうだ、朔夜の言う通り俺は皆と一緒に居てはいけない存在なんだ。俺にはもう朔夜と共に暮らしていくしか生きる道はないのかもしれない。
「……ふふっ」
「朔夜?」
「ううん、何でもないよ」
朔夜は俺の手を掴んでまた歩きはじめた。


370 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:12:10 ID:4MZiJLWo


生まれてからずっと、社長令嬢という看板を背負わされて生きてきた。
お父様のことは尊敬しているし、幼い頃は両親や周囲の期待に応えることに喜びを感じたものだ。私が成功することを周囲も、そして私自身も望んでいた。
しかし中学生になった頃だろうか、私は気が付いてしまった。周囲が私自身ではなく社長令嬢、すなわち美空開発の次期社長の姿を私に見ていることを。
私が生まれてきてから培ってきた周囲との関係も純粋なものは殆どなく、大多数が利益を求めて私に取り入る者だった。
おそらくその時だろう。私が自分自身を"孤独"だと感じるようになったのは。それから私はずっと苦しみながら生きてきた。両親でさえも信じられない。
私は誰にも頼れなくなっていたのだ。だからこそ私は強く生きようと思った。誰にも頼らなくて済むよう心を分厚い壁で包んで。

「会長って……何か偉そうですよね」
「……何だと?」
「お、おいっ君!?会長に向かってなんてことを!!」
高校2年生の5月。新生生徒会の初会議でそれは起きた。勿論、新生徒会長は私だった。校長直々の推薦だったので受けた。
これも私が"社長令嬢"であるからなのか、それとも私自身の実力が評価されているのか。当時の私には最早どうでもよかったのだが。
とにかく初めての会議でいきなり私に突っ掛かってきた1年生がいた。それが――
「白川……君だったな。私のどこが気に入らない?」
「その口調ですよ。自分を女王様か何かと勘違いしてませんか?」
「き、君!止めたまえ!!会長はあの美空開発の御令嬢なんだぞ!?」
隣で力説している男を静かに睨む。……やはりそうだ。この生徒会でも私は私ではなく"社長令嬢"として扱われるに違いない。
座っている周囲の表情が強張っていくのが分かる。……残念だ、あの1年生はもう少し楽しめそうだと――
「それがどうしたんですか?偉いのは会長じゃなくて親でしょうが!会長とは関係ないはずです!」
私は思わず飲んでいたコーヒーを床に落としてしまった。周囲は私が怒ったのかと思ったらしく、口々に勇んでいる新入生を批難して抑えようとしていた。
「……関係……ない」
初めてだった。その新入生は初めて私にその言葉を言った。その衝撃で私はコーヒーカップを落としてしまったのだ。
これが私、美空優と私を一般人扱いした白川要の出会いだった。

それからというもの、私と要は毎週金曜日に行われる生徒会会議で毎回火花を散らした。
「だから何度も言うようにそんな予算は放送部には割けない!」
「放送部は今がチャンスなんです!彼らのプレゼンを聞けば会長も納得するはずです!」
「だが――」
「それは――」
今思えばこの時、既に私は白川要という存在に興味を持ち始めていたのかもしれない。周囲は要を咎めつつもいつものことだと半ば諦めていた。
「またやってるよ会長と白川……」
「白川も本当に馬鹿な奴だよな」
「夏休み明けには学校に居なかったりして」
そんな周囲の会話も気にならなかった。私が誰かに興味を持つこと自体が久しかったのだ。


371 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:13:02 ID:4MZiJLWo


そして1年が終わる頃には私と要はすっかり仲良くなっていた。和解したきっかけは覚えていない。
和解というよりはむしろ、言い合う内に自然に互いを認めたというところだろう。そしてその頃から要は私にある提案をしてきた。
「またその話か。要組……だったか、内容はともかくグループに自分の名前をつけるとはな」
「ほっとけ!会長だって良いって言ってくれたじゃないですか!」
既に暗くなった帰り道を二人で歩く。今日も生徒会の仕事で下校時刻ギリギリまで作業をしていたが、要といると不思議と苦ではなかった。
「しかし誰を集めるんだ?私は心が安らぐ場所が欲しい。私のことを怖がったり贔屓するような連中は御免だ」
「任せてくださいよ。もうすぐ新1年生も入って来ますし、もう2人は決めてるんです」
要は自信ありげに言う。そうすると何故か安心してしまう自分がいた。要なら大丈夫、自然とそう思えるのだ。
「そうか。まあ君がそう言うなら任せよう」
「ありがとうございます会長!」
「会長……か」
"会長"
それが今の要と私の関係を表しているようだった。もっと要のことを知りたい、けれどもし要がそれを拒んだら……。私には今の安らぎを手放して生きていく自信はない。
要を見ていて気付いたことがある。彼は優しい。その優しさの裏には誰からも嫌われたくないという恐怖心があるのは直接聞いたが。
それでも彼の優しさに惹かれる者は少なくないのだ。もし、万が一要が誰かと付き合うとしたら――
「っ……」
「それで場所は……会長?大丈夫ですか」
「あ、ああ……問題ない。少し寒くてな」
何だろうこの痛みは。急にもやもやし始めて要を抱きしめたくなってしまう。一体これは……。
「じゃあ俺ここを右なんで。また明日!」
「あ、ああ……」
この時の私にはまだそれが何なのか、見当もつかなかった。



372 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:13:55 ID:4MZiJLWo


「いやぁ、まさか生徒会室でコーヒーが飲めるなんてな!しかも学校一美人な美空先輩が炒れてくれたなんて!」
「はいはい、亮介はとりあえず落ち着こうか」
年も明けた1月。放課後の生徒会室で初めて"要組"の集まりが始まった。
「こんなコーヒーだったらいくらでも炒れるぞ。好きなだけ言ってくれ」
「会長、そんなに気を遣わなくても良いんですよ」
要が連れて来たのは藤川英と如月亮介という男子だった。男子だと分かった瞬間ほっとしている自分がいた。
……何故ほっとしているのか理由は分からないのだが。
「私が好きでやっていることだ。気にしないでいい。それより要」
「はい。今日皆に集まってもらったのは――」
要が皆を集めた理由と"要組"の活動内容について話す。要の話を真剣に聞いている藤川英、彼は少し面識があった。
彼の父親が経営する藤川コーポレーションと美空開発は昔から協力体制にあったのだ。
そして隣で頭を抱えながら話を理解しようとしている如月亮介。彼はあまり知られていないが野党派最大派閥の国会議員である如月龍一郎の息子だ。
「末恐ろしいな……」
要を見つめる。おそらく要自身はこれらの重大さをあまり分かっていないだろう。もしかすると藤川コーポレーションや如月龍一郎のことすら知らないかもしれない。
やはり要には人を引き付ける何かがあるようだった。だからこそ不安になる。
いつか要に告白するような者が出て来るのではないだろうか。その時私はそれを受け入れられるのだろうか。
「何なんだ、この気持ちは……」
自分の中に生まれた理解出来ない気持ち。尊敬とも憧れとも違う、今までに感じたことのない想いが私を支配していた。

皮肉にもその感情に気が付いた時には既に要は――



「……悪い、皆。今日で俺、要組を抜けることにするわ」
それは3年夏休み前の最後の当校日に起きた。4月から要の妹である白川潤とその友達で私達が虐めから救った春日井遥を入れて6人で行動していた。
正直、とても楽しかったし癒された。互いに人には言えない悩みを抱えた者同士、たとえそれが傷の舐め合いだとしても心地好い空間だったのは事実だ。
「……久しぶりに集合をかけたと思ったら何を言ってるんだ、要」
「今言った通りだ。……俺はこの集まりにはもう来ない」
「お、おいっ!」
「兄さん!?」
そのまま要は生徒会室を後にした。英や亮介、潤が後を追う。遥は部屋の隅で呆然としていた。
そして私は――
「……な、なんだ………涙?」
泣いていた。自分が孤独と思い知ったあの日以来、泣かないと決めていた私が。
「……そうか」
私はその時ようやく気が付いた。自分が既に白川要という存在に惹かれており、彼なしでは生きられなくなっていることに。
そしてそれ程までにこの1年半、彼に依存していたということに。
「要っ!」
私は涙も拭かず生徒会室を出て行く。廊下を走り抜け要の姿を探す。すれ違う生徒は何事かと道を空ける。こんな時に自分の肩書きが役に立つとは皮肉なものだ。
誰もが私のただならぬ雰囲気を察して自分は関わらまいと教室に帰っていく。そう、本来ならば私はこんなにも孤独なのだ。だからこそ、それだからこそ私には――
「何処にいる要っ!!」
彼が必要なのだ。



373 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:15:24 ID:4MZiJLWo

結局放課後まで探し回ったが要はいなかった。生徒会室にいるのではないかという淡い期待も打ち砕かれ、私は失意の内に学校を出ようとした。
「……メールか」
そんな時携帯に一通のメールが届く。どうせ家族か使用人だろうと差出人を見るとそこには"白川要"という文字が書いてあった。
「っ!!」
途端に息が苦しくなる。すぐにメールを開きたいが一旦呼吸を整える。もしこのメールに更に自分を突き放すようなことが書いてあったとしたら……。
ゆっくりとメールを読む。そこにはただ一言『3年1組で待っています』とあった。
「3年1組……か」
何も躊躇する必要はない。なのにも関わらず私の身体はとても重かった。何故だろう、嫌な予感しかしない。
行きたくないけれど要が待っている。私はやっとのことで3年1組の前まで来た。扉が閉まっているので手をかける。
「……………」
3年1組。この半年間、ほぼ毎日居た教室。今朝だって入った。なのに今はこんなに入りたくないと思うなんて……。
「……行こう」
意を決し私は扉を開いた。夕焼けに染まる教室には一人を除いては誰もいなかった。そして私はその一人、白川要に近付いていく。
「……要」
「急に呼び出してゴメンな、会長」
振り返った要の左頬は赤く腫れていた。
「要、その頬……」
「英とちょっとな。……あいつも意外と熱い奴なんだよ」
要は少しおどけたような口調で話す。私はそれをただ聞くしかなかった。
「……会長には言っておこうと思ってさ」
要がゆっくりと近付いて来る。緊張して身体が動かない。気が付けば要がすぐ側にいた。
「……俺、好きな人が出来たんだ」
「……あ」
それを聞いた瞬間、私の中の何かにひびが入った音がした。ずっと抑えて来た何かが決壊してしまいそうだった。
「そいつのこと、本気で好きなんだ。最近"要組"の活動に来れなかったのもそいつと会ってたからでさ」
「…………」
「多分俺、今もこれからもそいつのことしか考えられない。だからやめることにしたんだ、何もかも。自分勝手だけど……決めたことだから」
「…………」
「最後に会長には話しておこうと思ってさ。今まで本当にありがとう。会長がいなかったら俺――」
「……嫌だ」
「……会長、泣いてるのか」
要に言われて初めて自分が泣いていることに気が付いた。涙は止まらず溢れて来る。それと同じようにある感情が溢れ出した。
もう止めようがない、今まで必死に抑えてきたこの気持ち。怖かったのだ、もし拒まれたら。壊したくなかったのだ、"要組"という心の依り所を。


374 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:16:11 ID:4MZiJLWo
「私、要が……好きだ」
「会長……」
「要じゃなきゃ……駄目なんだ……初めてなんだ……こんな気持ち……」
「っ……」
要は辛そうに私から顔を背ける。そう、私は要が好きだったんだ。"愛情"、そして"好意"。初めて他者に対して感じる気持ちだった。
だが気が付くのが遅すぎだ。いや、気が付いていたのに押さえ込んだ。この関係がいつまでも続くことを願って。
「私では……私では駄目なのか要……」
「……ゴメン」
要は辛そうに、でも私をはっきりと拒絶した。そう、要は私ではない他の誰かを選んだんだ。私では……私では駄目なんだ。
「……つまり私では役不足ということか」
「そうじゃない。役不足とかじゃ、ないんだ」
「じゃあ何なんだ!?」
要を睨みつける。私はこんなに好きだというのにどうしてそれを分かってくれないのだろう。
「じゃあ……じゃあ何でそんなことを言う!?」
涙がまた止まらなくなる。悔しい。要を取られたことが、気持ちを伝えられなかった自分の臆病さが。
「……ゴメン」
「言ってくれただろう!?私を受け止めてくれるって!俺だけは味方でいるって!私を理解してくれるのは要だけなのに!」
去年の秋頃。私と要がちょうど互いを認め合ったあの日、私達は互いのコンプレックスを打ち明けた。
その時要は言ってくれたのだ。『たとえ会長が孤独だって言っても俺は側にいます。俺だけは味方でいますよ』と。彼にとっては何気ない言葉だったのかもしれない。
だが私にはそれが救いに思えた。
「はは……何か照れるな」
「ごまかすな!知っている癖に!」
思わず要に抱き着く。とても温かかった。この温もりは私のものだ。他の誰でもない私の……。
「本当に……ゴメン」
そんな私を要は優しく、でも先程と同じくはっきりと拒絶した。
「す、す、捨て…ないで…!何でも…な、何でもする!もう…もう口答えしない!す、素直になる!だから…だから捨てないで!」
自分自身でも醜いと思った。きっとこんなことをしたって要は止まらないし私を抱きしめたりしてくれない。
ただもう思い付かなかった。それ程までに要の意志は固かったのだ。
「…………」
「要……要っ!!」
「…………」
要は無言で俯いていた。私と目を合わそうとはしない。そう、私は完全に要に拒絶されたのだ。そう悟った瞬間、私の中の何かが壊れた。
「…あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「か、会長!?」
何故叫んだかは分からない。気が付くと叫び終わりその場に倒れていた。そのまま意識が遠退いて行く。
「……かな……め」
「会長!?しっかりしろ会長!!」
最後に私が見たのは私をしっかりと見てくれている要の焦った表情だった。
「………あはは」
見てくれた。やっと私を見てくれた。そう思うと不思議と笑っていた。


375 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:17:23 ID:4MZiJLWo


次に目が覚めた時は既に家だった。専属メイドの桜花があまりにも帰りが遅く様子を見に来ると、私を背負った要と遭遇したらしい。
危うく迎撃しかけましたが、といいながら桜花は私に話した。その後はあまり覚えていない。
翌日いきなりお父様から一緒に海外に行くよう言われた。特に抵抗はしなかった。
もう私は要には必要とされなくなったのだ。いつ死んでも良い。本気でそう思っていた。だから仲間から連絡が来ても全く見ていなかった。

そんな生きたような死んだような海外での生活が1ヶ月近く続いていたある日、たまたま久しぶりにメールを開けた。
何故開けたのかは分からない。もしかしたら仲間が懐かしくなったのかもしれないし、気が向いたからなのかもしれない。
とにかく潤から来たそのメールで私の人生はまた生き返り、つまりリバースした。
内容は"行方不明だった要が記憶喪失で帰ってきた"というものだった。そもそも行方不明になっていたことすら知らなかったのだが、そんなことは大した問題ではなかった。
"記憶喪失"……つまり要はリセットされたのだ。
「……やり直せる……のか?」
そう。私がこの1ヶ月近く思い続けていたこと。それは"もう一度やり直したい"ということだ。
要と出会ったあの日にもう一度戻れるなら、私は今度こそ自分に素直になる。もう自分の気持ちを隠したりはしない。
どんな手段を使ってでも要を私だけのものにする。そのチャンスが今来たのだ。
「……あはは!あはははははははははははは!!」
込み上げてくる笑いが抑えられない。神様は私を見捨ててはいなかったのだ。今度こそ私は掴んでみせる。もう要を誰にも渡さない。そう自分に誓った。



「……誓った…はずなのにな」
真っ白な空間。私はここで漂いながら過去を思い返していた。立とうとしても全く力が入らない。
ここが現実なのか夢なのか、分からない。ただ一つはっきりとしているのは私はまた要に拒絶されたという事実だ。

『俺は……俺は今の優のこと、好きには……なれない……ゴメン』

一緒にお父様に挨拶した。お父様も、そしてお母様も要を気に入ってくれた。会長ではなく"優"と呼んでくれた。
勇気を出して全校生徒の前で交際宣言をした。それでも、そこまでしても――
「……無理だった」
私には初めから無理だったのだろうか。もしそうならば残酷過ぎる。甘い蜜を一度吸わせておいて後はお預けなんて……私には堪えられない。
「じゃあ諦めるの?」
頭上から声がする。聞き覚えのある声。見上げるとそこには私がいた。燃えるような紅い髪に済んだ碧眼。間違いなく私、美空優だった。
「……私?」
「ねぇ、諦めるの?」
もう一人の私は無表情で私に問い掛ける。この異常な状況を何故か受け入れている自分がいた。
「……諦めるもなにも、私は失敗したんだ。もうチャンスはない。見ろ、立てもしないんだ」


376 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/01/17(月) 20:18:16 ID:4MZiJLWo
「何で一回フラれたくらいで諦めるの?貴女の要への気持ちはそんなもの?」
もう一人の私は私を責めるような口調で質問してくる。そんな彼女に私もついきつい口調になった。
「そうじゃない!そうじゃない……でも私じゃ駄目なんだ」
「どうしてすぐに諦めちゃうの?駄目ならもっと良い女になれば良いじゃない。貴女にはその時間があるんでしょ」
「言わせておけば――」
「ほら、立てたでしょ。努力もしないくせにうじうじ言わないでよ」
彼女の言う通りいつの間にか立てるようになっていた。つい先程まで力すら入らなかったというのに。
「これは……」
「貴女、要のことが好きなんでしょ」
「あ、ああ……」
「じゃあどうして諦めるの?他の誰にも取られたくないんでしょ。孤独は……辛いもんね」
もう一人の私は悲しそうに笑った。
「……ああ、辛いさ。でも私には……勇気がない。また要に拒絶されたら……」
「それでも、何度でも立ち上がるの。自分の気持ちに嘘をついちゃ駄目。そう誓ったんでしょ」
もう一人の私は私の手をそっと握る。不思議と勇気が沸いて来た気がした。
そう、傷付くことを恐れていては進むことなんて出来ない。それは恋愛も同じなんじゃないだろうか。
「……私、要が好きだ。もう一度要に……会いたい」
「……良く出来ました」
もう一人の私が微笑んだ瞬間、目の前が真っ白になった。そして――



「…………ここ、は…」
視界には真っ白な天井。カーテンの隙間から差し込む日差しが私を優しく起こしてくれた。
「ゆ、優お嬢様……」
振り向くとそこには目を見開いている桜花がいた。よほど驚いているのか手に持っていた雑巾を落としたのにも関わらず、こちらを凝視している。
「……桜花」
「目を……覚まされたのですか」
「……ああ」
「……私、お嬢様に謝らなければ――」
「もういい桜花。桜花が謝る必要はない。ただ――」
私は朝の新鮮な空気を吸いながら桜花に向かって宣言した。
「要は私のものだ。私は要が好きだ」
それを聞いた桜花は一瞬呆気に取られたような表情をした後、くすくすと笑い出した。
「ふふっ、まさか目覚めていきなり愛の告白を聞くとは思いませんでしたよ」
「私には要が必要なんだ。誰が何と言おうともな」
「私だって要が好きです。いくら優様でもこれは譲れません」
私はベッドを降りながら桜花に近付く。もう迷いはない。一度駄目なら二度、それでも駄目なら何度でも。私は要を一生好きで居続けるだろう。
「好きにしろ。さ、出掛ける準備だ」
「……はい!」
桜花は嬉しそうに返事をした。