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385 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 後:2011/01/18(火) 04:59:11 ID:v9RnWTfO
魔王城の地下には、有事に備えての武器庫があります
そこの樽の中で、あたしはお昼からずーっと隠れてるんですけど……

「………グー……グー……」

小さいいびきが聞こえてきました
ということは、今から作戦開始……ですよね
でも、本当にこんなことしちゃってもいいんでしょうか?



『シアンちゃん、好きな人を自分のものにするにはどうすればいいか、わかる?』
『すいません。ぜんぜんわからないです』
『いけませんわ。殿方の手に入れ方、悦ばせ方、わたくしが全てご指南いたしますわよ』
『よ、悦ばせ方って、えっちなことですかぁっ!?』
『気が早いよ、お姉様。……でも、ボクにも後でそれを教えてほしいな』
『はいはい。それでお話を戻しますけど、シアンさんがポイズンタイガー様をご自分のものにする方法は一つです』
『……ゴクリ』

『『そう! 奪い取ること(だよ)(です)!』』

『へ?』
『思い立ったが吉日ですわ。わたくしはエレ様に超硬質蜘蛛糸をいただいてきます』
『じゃあボクは、お父様の名前で今日は地下の武器庫番をするようにっていう命令書を出すよ』
『へ? へ??』
『それと、これをどうぞ。エレ様の蟲の一つから抽出した痺れ毒ですわ。一滴で象でも麻痺しますの』
『あの……なんでこんなもの持ち歩いてるんですか?』
『蟲から抽出したものでも、軽く振りかければエレ様でも麻痺しますの
 ですから、素直になってくださらない時は重宝いたしますわ。ベッドの上では特に、ね』
『…………』
『いいなあ。お姉様はきれいだしスタイルもいいし。ボクみたいな子供じゃ駄目かな?』
『そんなことないですわ。それじゃあ、次は姫様の手ほどきをしましょうか。シアンさんもご一緒にどうですか?』
『いえいえいえ! それよりも、あたしは地下で隠れていればいいんですか!?』
『うん。地下でポイズン兄様が寝たらシアンちゃんが出てきて、縛っちゃうの』
『エレ様の超硬質蜘蛛糸は粘着力にも優れ、ちょっとやそっとじゃ切れませんわ。ポイズンタイガー様でも逃げられません』
『その後は簡単。煮るも焼くも抱くも子供を作るもシアンちゃん次第だよ』
『それじゃ、頑張ってね。応援してるわよ』
『えー………』


386 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 後:2011/01/18(火) 04:59:40 ID:v9RnWTfO
そんなこんなで今、右手に痺れ毒噴霧器、左手に超硬質蜘蛛糸を持って、布団もかけずに眠る隊長の横にいます
可愛い寝顔です
思わずこのまま朝まで見ていたくなりますけど、そういうわけにもいきませんです
やらなきゃあたしと隊長の関係はずっとこのままです
それに、もしも隊長に彼女なんかができたら……噛み付いちゃうかもしれませんし

「隊長、ごめんなさいですっ!」
「グー……っん?」

ふわりと布団をかけるように、大きく広げた蜘蛛糸をかけます
すると両手と両足に特に強く絡まって、隊長を拘束しちゃいました

「おい! 誰だ貴様っ!? くそっ、丈夫だな」
「ごめんなさいです! ごめんなさいです!」
「シアン? 何のつもりだコレは。謀反か?」
「違いますです! でも……隊長はもうここから絶対に出れないんです!」

……あれ? あたし、こんなこと言うつもりじゃないのに……どうして?

「どういうことだ」
「だって、だって……いつまでもあたしの気持ちに気付かないのが悪いんです! 
 もう絶対逃がさないです! 隊長はもう、ずーっとずーっとあたしのものですっ!!」
「………だから、どういうことだ?」
「なんで分からないんです! この鈍感隊長ッ! あたしは何年も前から、隊長のことが大好きだったんです!」

ああ、そっか
あたしは今、姫様とミリルさんに言われてここにいます
でも、この異常な状況に身をおいて、初めて自覚しました
あたしは本当は、ずっと前から隊長を、こうしたかったんです
あたしだけのものにしたかったんです

「大丈夫です、あたしがずっと一緒にいますです。ご飯も、お風呂も、子供も、何だってあたしが作ってあげます」
「待て。頭を冷やせ」
「隊長、ごまかしちゃ嫌です。あたしはとっても冷静なのです」

駄目だ
何年も隊長を愛し続けてきたあたしは、こんなのじゃ満足なんかできないです
はぁ。ミリルさんの殿方の悦ばせ方っていうのを聞いとけばよかったです

「隊長。あたし、もう我慢できないです………」
「……シアン、そういったことはもっとちゃんと考えんと後悔するぞ」
「後悔なんてあるはずないです。だって、隊長といっしょだからです」
「…………」

ベッドがガタガタ動きます
ぐいぐいと隊長が両手足の糸を引っ張ってます
逃げようとしてるんでしょうか?
あたしがいるのに
世界で一番隊長を愛してるあたしがいるのに

「隊長、逃げちゃ駄目です。暴れたら……あたしの牙で噛んじゃいますです。がぶって」
「………そうか」

そう言って隊長がベッドに一度深く身を沈めると、腕と足の筋肉が血管が浮き出るほど異様に盛り上がって―――


387 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 後:2011/01/18(火) 05:00:04 ID:v9RnWTfO
「フン!!」

気合い声が暗い地下に響き渡ると、拘束していた糸が弾けるように切れてしまいました
……絶対切れない糸だってお話だったのに

「こいつはエレキインセクトの糸か。確かに丈夫だが、自分の筋力を見くびられては困るぞ」
「え………えいっ!!」

あたしは初めて隊長を怖いって思ったんです
だって隊長、微笑を浮かべてたんです
威厳を保つためにって、めったに人前で笑うことなんてしないのに
でもその時は、[殺される]って思うよりも[逃げられる]って事が怖かったんです
ほんの数分前のことですけど、大好きで大好きでしょうがなかった隊長があたしのものになってたんです
それが終わってしまうことが怖くて、あたしは噴霧器に入っていた痺れ毒を全部隊長に吹き付けました
これで動きを止められれば、また隊長と離れずに、ずっと一緒にいられると思ったから

「お前は軍師だろう、シアン。攻撃をするのならば冷静に相手を見極めろ」

それでも、隊長の歩みは止まらない
エレキインセクト様を止める痺れ毒なのに、これっぽっちも止められない
こうなったら、非力なあたしにはもう隊長を止める術なんて一つしかない
この牙から染み出している毒。青酸カリ
一滴で何百人の人間を殺すことができる猛毒
けれど、使いすぎればあたしが死ぬ諸刃の剣
それでいいんです
隊長があたしの毒で死んで、あたしが毒を使いすぎて死ぬ
そうすれば、あたしたちは一つになれるんです

「隊長、あたしと逝くです」
「悪いがごめんこうむる」

でも、もうあたしは止められないです
隊長の胸元に飛び込むようにして、首筋に牙を立てる
ほとんどたくましい筋肉に阻まれて牙は埋まらなかったけれど、毛筋ほど埋まった牙から毒を流し込む
ごめんなさいです
でも、あたしも一緒に……
あれ? あたし、浮いてる?
少しでも注入されれば即死、良くても昏倒するのに、隊長はあたしの首筋を掴んで持ち上げていましたです

「相手を見極めろ、と言ったはずだ。自分を見ろ。自分は誰だ」
「……あっ」
「理解したか。自分は毒牙部隊の隊長だぞ
 痺れ毒や青酸カリで自分を止めたければ一升瓶に20本でも持ってくるのだったな」
「あわわ………あわわわわわ………」
「苦労したぞ。誰かが潜んでいるのは分かっていたが騒げば逃げられる
 だから慣れない寝たふりをして待ってたんだが、まさかお前だったとは」
「…………」

そっか
あたしはやっぱり、隊長にはかなわなかったんだ
ここであたしは終わるんだ
それでもいいや
せめて最期を、大好きな隊長に送ってもらうんだったら、ね


388 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 後:2011/01/18(火) 05:00:24 ID:v9RnWTfO
「あの、隊長……」
「なんだ」
「どうして、あたしここにいるんですか」
「どうして、と言われてもな。悪いことをしたら説教部屋というのは当たり前のことだろう」
「あたし、死ぬ覚悟もしてたんです」
「そんな覚悟はいらん」

首筋を掴んだまんま、地下から出てきて連れてこられたのがここ
いつものように、畳の上で二人で正座
目の前には濃い目に入れられたお茶
いつものお説教風景です

「先ほどのことで、シアンの覚悟と気持ちはよく……嫌と言うほど分からせてもらった」
「返事はいいです。悲しくなっちゃうです」
「お前さえ良ければ、自分と……さっき何か言ったか?」
「何にも言ってないです! 続きをお願いするです!」
「? まあいい。本当に自分でよいのならば、付き合おう。しかし自分は女に関しては不調法なので、至らぬところもあると思うが」

何を言われたのか理解するのに、たっぷり一分はかかったです

「………たいちょう、あたし、しんでないですよね? これ、ゆめでも、てんごくでも、ないですよね?」
「あの程度の毒注入で死ぬようなやわな者は自分の部隊にはいない。現実だ」
「何でですか? 隊長は、強い女の子が好きなんですよね」
「ああ。しかし、あんな命がけで告白してきた女など見たことも聞いたことも無い。そんな芯の強い女は大好きだ」
「た、隊長ぉぉぉぉっ!!」

感極まって隊長の胸に飛びこもうとして、チョップが額に埋まる

「それはそれ、これはこれ。まだ今回のお説教をしていないのでな。たっぷり8時間は覚悟しておけ」
「倍以上ですかぁ!?」





「お姉様、こういうのは成功って言うの? それとも失敗?」
「これはね、[結果オーライ]って言うのですよ」