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362 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:08:21 ID:DEL/dzKj
 十二月、二十四日。クリスマス・イブ。
 日本語での「はい」を英訳した名前の聖人が生まれた日――を祝う日だ。
 かの人が生まれた日は、本当はわかっていないらしい。
 なんらかの事情があって師走の二十四日を聖誕祭としたのだろう。
 あえて二十四日を聖誕祭の日付に設定した理由なんか知らない。
 僕はカトリックとは無関係な人生を 送ってきた。これからも、きっとそうなるはずだ。
 だから知っているわけもない。知的好奇心を刺激されることもない。
 今日のこの日は、ただ周りの人間の浮かれた雰囲気に影響されて、ケーキやチキンを食べて過ごす程度のことしかやらない。過去に存在した崇高なる偉人に、誕生日おめでとう、なんて言わない。
 晩ご飯をいつも通り――ちょっと豪勢にケーキ付きだけど――に買って、家に帰ってダラダラして、眠るだけだ。

 僕に彼女はいない。
 僕にとって第一に優先されることは、趣味で毎月行うバイクツーリングだ。
 まだこの歳で、趣味の時間を邪魔されたくない。
 そんなことを言っているうちに三十路を迎えて結婚できなくなっても知らないよ、とは妹の弁。
 僕は今年大学を卒業して新卒で今の会社に就職したから、二十三歳だ。
 あと七年、いや六年と数ヶ月でようやく三十歳になる。
 少しも危機感が沸いてこない、というのが正直な気持ちだ。
 父親も三十歳を過ぎてから結婚したと言っていた。
 三十路を過ぎて独身の人は、職場の先輩の中にも男女問わず数人いる。
 中にはバツイチの人だっている。
 今のうちから結婚できないことに焦っても、なんにもならない。
 それよりも、早く仕事に慣れたいというのが最近の僕の望みだ。



363 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:09:17 ID:DEL/dzKj
 通勤用のスクーターを駐輪場に駐め、鞄を手にし、アパートの二階へ向かう。
 二階には三部屋分の戸が構えてある。僕の部屋は階段から見て一番奥だ。
 そうすると、部屋に着くまでに二つ分ドアを通りすぎることになる。
 冬の季節はこの距離がちょっとだけ恨めしい。

 一番手前の部屋は空き部屋だ。僕が入居した時は髪が茶色で目のきつい、派手めの女性が住んでいた。
 その女性が引っ越したのは五六月ごろだった。
 正確には、引っ越したというより忽然と姿を消してしまった、という感じだ。
 引っ越す前日の夜、彼女はアパートの階段に座って寝ていた。飲み過ぎていたらしい。
 僕が彼女を発見できたのは、その日偶然にも会社で残業していたからだ。
 もし僕が発見していなかったら彼女は危険な目に遭っていたかもしれない。
 部屋に連れて行ってくれと頼まれたので、部屋に運び込み、ベッドに寝かせた。
 その後は、もちろん何もせずに部屋を後にした。
 あの女性と関わったのはその時だけ。
 彼女に関して思い出すことはあの一件だけしかない。
 だから、彼女がいなくなってから数日経ち、彼女の知人を名乗る人や警官に行方を尋ねられても、
僕は助けになりそうなことを言えなかった。
 あれから半年以上が過ぎた。だけど、彼女についての話は何一つ耳にしていない。
 犯罪に巻き込まれてしまったのか、恋人の男性と逃避行しているのか。
 なんにせよ、無事でいてくれたらいいのだけど。

 僕が帰ってくると、必ずと言っていいほど発生するイベントがある。
 二階の真ん中の部屋、つまり僕の部屋の隣だけど、その部屋の前を通り過ぎようとした瞬間に、
タイミングを計ったように部屋から住人が飛び出してくる。
 今日こそはと思い、音を立てないようゆっくり歩いていたというのに、やはりこの日も見つかってしまった。
 鍵を解く音がした。続けて勢いよくドアが開く。
 ドアに押し出された寒風が僕の全身めがけて襲来するから、ゆっくり開いてほしいと毎日思っている。
「お帰りなさい。健太さん」
「ただいま帰りました……です」
「いつも通りの時間にお帰りですね。うふふ…………女性と会う予定は、なかったのですか?」
「……まだ彼女はいませんので。それに誘われることもありませんでした」
 ドアを開いて現れたのは隣人の美濃口さんだ。
 僕が帰宅する時間にはいつもいて、こうやって出迎えをしてくれる。
 仕事は一体何をしているのだろう。時々疑問に思って問うけど、美濃口さんは聞いても教えてくれない。
 おしとやかな容貌をしているうえ、丁寧なしゃべり方をするからどこかのお嬢様じゃないかと密かに疑っている。



364 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:10:19 ID:DEL/dzKj
 美濃口さんは柔和な顔に笑みの成分を加えた。癒しの声で僕に語りかける。
「そうですね。会社に勤めていらっしゃる方はなかなか恋人を作る機会がない、と仰いますもの。
 健太さん、悲観されることはありませんよ」
「悲観はしてませんよ。恋人はまだ欲しくありませんので」
「あら、どうしてですか? 女性とそのような関係を結ぶのはお嫌いですか?」
「いえ、そうじゃなくて。今はバイクの方が好きだし、こんなんじゃ構うこともできないだろうから」
「心配ありませんよ」
 間髪入れず、躊躇いもなく、真顔で断言された。
「女性というのは、本当に好きになった男性に対しては尽くすものです。
 健太さんが忙しくても、構ってあげられなくても、いつだって見ています。
 見ているだけで幸福感を覚える女性だって、世の中にはいるのですよ?」
「そう、なんですか?」
 つい疑ってしまう。だって、会社の同僚は彼女がうるさくて仕方ない、とよくぼやいている。
 女の人と付き合ったことがない僕は、友人との会話でしか恋愛の知識を得ていない。
 だから、美濃口さんの言葉は実のない励ましにしか聞こえない。
「はい。だって私は健太さんを見ているだけで幸せですもの」
「え……ぇ?」
「……あ。もちろん隣の世話焼きお姉さんとして、ですけどね」
「で、ですよね。あは、ははは」
 びっくりした。告白されたかと思ったよ。
 だよね。美濃口さんみたいに綺麗な女の人に男がいないはず、ない。
 これから彼氏と出かけたりするのかもしれない。
 美濃口さんに彼氏がいることについて、まったく名残惜しくないか、と問われればノーだけど。

「ああ、そうそう。はい、これをどうぞ」
「え、あ……どうも」
 美濃口さんに渡されたものは、皿に盛られた鳥の唐揚げだった。
 スーパーで買ったらだいたい四百円ぐらいはする量だ。つまり、パーティーセット並み。
 しかもこんがりきつね色に揚がっていて、美味しそうだ。
「いいんですか? こんなにもらって」
「はい。ご近所の方にも同じようにお裾分けをしていますので」
「ですか。すいません。いつもいつももらってばかりで」
「いえいえ。こちらこそ。……健太さんからは既に十分なほど、色々なものをいただいていますから」
 僕がお礼を言うと、美濃口さんはいつもこうやって切り返す。
 そう言われても、僕は美濃口さんの助けになりそうなことをしていないから、対応に困る。
 だから、いつも通りに応えるしかない。
「それじゃあ、これから困ったことがあったら言ってくださいね」
「はい。もちろんそうします」
 美濃口さんは嬉しそうに笑った。
 一度も頼みごとをされたことがない僕にとっては、ちょっと寂しい返事だった。



365 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:11:56 ID:DEL/dzKj
 美濃口さんと別れ、自分の部屋の前に行く。
 鍵穴に鍵を差し込み、捻る。しかし手応えがない。
 もしかして施錠し忘れたかな、と考えたが、今朝はちゃんと鍵をかけてから出勤した。それは間違いない。
 では、誰かが開けたということになる。
 もしや泥棒か? あまり金は持っていないけど、それでもとられたらまずいものはある。
 ドアを開けるか開けないか逡巡していると、ふと閃いた。
 ――部屋の合鍵を持っている人間はもう一人いる。
 僕が実家から離れてこの町に住み、しばらくしてやってきた肉親に渡していた。
 彼氏が近くに住んでいて、部屋に乗り込んだら女が居てそのことで喧嘩したから泊めさせろ、
と言って僕の城に飛び込んできた。
 そこまで傍若無人な振る舞いをするのは、僕の家族の一員であるアイツしかいない。

 ドアを開ける。玄関を見ると、僕の靴よりサイズは二回り小さい、けど質量は二倍はあるだろうブーツが一組、
出船の形になって置かれていた。
 ため息を短く吐いて居間へと向かう。そこには、予想していた通りの相手がいた。
「あ、健太。おかえり。邪魔してるよ」
 そいつは、可愛げを欠片も見せることなく、缶チューハイを飲みながらテレビを見ている。
 150cmほどの小柄な体に、僕への嗜虐心と不敬の念を抱く、妹の康美だ。
 肩を過ぎるまで伸びた長い髪とは対照的に、前髪は短めに切っている。
 額がよく見えるので性格は明るそうに見える。だが、実は違う。
 明るいというより陰険だ。恋人に対してはどうか知らないが、少なくとも僕に対しては優しいところを見せない。
 僕が自動車学校でバイクの講習を受けていたときのことだ。
 バイクにまったく触れたことのない僕は五時間も遅れたというのに、同じ日に入校してきた康美は
原付を乗り回していた経験もあり、規定の実技講習を受けるだけであっさり試験をパスした。
 僕が欲しいバイクがあると言った時には、メーカーがよくリコールを起こす箇所の情報をこれでもかと
言わんばかりに集めてきた。さらに、バイク盗難がいかに多いかを伝え、購入意志を萎えさせてきた。
 僕のためにわざわざ集めたのではなく、僕の邪魔をするために面白がって集めたのだろう。
 そうに違いない。断じてもいい。康美は天然の意地悪女なのだ。



366 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:13:16 ID:DEL/dzKj
 鞄を壁のフックにかけ、コートを脱ぐ。次いでネクタイピンを外す。
 ネクタイを解いている最中に話しかけられた。
「やっぱ、今日も一人なわけ? テレビじゃ恋人たちのクリスマス、とかやってるのにね」
 声を聞くだけでわかる。康美はにやにやしている。僕に恋人がいないことを心底楽しんでいるのだ。
「それを言わせたらお前も同じだろ。彼氏はどうしたんだよ」
「知らないの? 最近は女同士でクリスマスを過ごすことだってあるんだよ」
「知らない。でも、それならなんでここにいるんだよ。友達はどうした?」
「メールで、明日パーッとやろ、って言ってた。ホントは今日の予定だったんだけどね。パーティ。
 帰るのもめんどくさいから今夜は泊めてよ。どうせ誰も来ないんでしょ?」
「……ああ」

 こいつ、僕のことを兄だと思っているんだろうか?
 昔はお兄ちゃんとか呼んでいたのかもしれないけど、今となっては名前を呼び捨てだ。
 もう過去の康美の表情は、僕には思い出せない。
 成長した今の顔が純粋だったころの康美のそれを塗りつぶしている。侵食している。
 僕、ここまで康美を性悪にさせるほど駄目な兄貴だったのかな。
 そりゃ、大学だっていくつも受けて最後の最後でレベルの低い学校にようやく引っかかった。
 就職も、パソコンがちょっと使えるぐらいで他に技術も資格も持っていなかったから、
給料の安い今の会社に勤めることになった。
 偏差値の高い国公立大学を易々と合格できる頭脳を持った康美からすれば、僕は大層しょぼく見えるんだろう。
 だけど、人格のいい人間ならそんなことは気にしないはずだ。
 康美は頭脳を堅実に構築できた代わりに、人格形成が土台の設計段階から狂っていたに違いない。
 それでも恋人ができる。僕が言うのもなんだけど、まったく男というのは馬鹿だ。
 顔が良ければいいのか。性格は悪くてもいいのか?
 僕は断固、そんな女性とは付き合いたくない。ノーだ!

「健太。一つだけ言っておく」
「なんだよ」
「私が寝てる部屋に入らないでよ。入ったら――クリスマスが来るたびにうなされるような目に遭わせてやるから」
 入らない、絶対に入るもんか、……とは心の弁。口にはしない。
 いたずらに康美の好感度を落とす必要はない。
 康美が結婚して僕の前から消えるまでは、今のままでいたいから。



367 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:14:19 ID:DEL/dzKj
 風呂から上がって居間を覗いたら、康美の姿はなかった。
 康美がいるであろう、居間に隣接している部屋の明かりは消えている。
 昔から康美は早寝早起きの習慣を身につけていた。一時期は新聞配達までしていた。
 もしかしたらだけど、その習慣が康美を秀才と言えるまで成長させたのかもしれない。
 事実だったとしても、真似はしないからどうでもいいや。
 僕は夜更かしするのが好きなんだ。

 テーブルの上にノートパソコンを置いて、スイッチオン。
 毎回聞かないと落ち着かなくなってきた駆動音を立てながら、OSが立ち上がる。
 デスクトップ画面が表示され、アプリケーションが自動実行される。
 室内に設置してあるルータとパソコンが無線接続された、と文字が語る。
 画面に表示されているのはチャットの画面。
 僕はいつも、パソコンの電源を入れる度に数分、場合によって一時間ほどチャットする。
 相手は毎回決まっている。会社の同僚――じゃなくて、会社で知り合った友人だ。
 アイコンをクリックして、相手をコールする。
 腕を組み、目を瞑って待つ。さて、今日もパソコンの前にいるだろうか。

 軽快な音。チャット相手の返信音だ。
 やっぱり今日もいたのか。僕もアイツも似たもの同士だな。暇人ズだ。
 キーボードを指先で叩く。
『メリークリスマス! 調子はどう?』
 打ち終わってから、中指でエンターキーを押し、反動で手が持ち上がる振り。
 もちろん意味は無い。ただの癖だ。
 テーブルに肘をついた途端、応答があった。
『メリー。健と同じだ』
 要約すると、恋人と一緒ではない、の一つに集約させられる。
 嬉しい返事だ。やはりこいつと僕は似ている。付き合い下手でモテない。
 思わず、笑みがこぼれた。

 僕の方から簡単な話題を振ってみる。
『ご飯何食べた?』
『とりあえず鳥。健は?』
『僕も鳥。あとケーキがある(ホールじゃないぞ)』
『ケーキ、買いに行ったけど無かったんだよ。どこを回ってもなかった。昼からだぞ?』
『昼から行ってたのかよ!』
 仕事をする時間帯が全く違う。清掃会社の社員のこの男、凪峰と僕じゃ職種が違うんだから当然か。
 凪峰と僕が会うのは、始業前の数十分だけ。休憩室でコーヒーを飲みきるまで会話する。
 凪峰のシフトは八時より前の時間までらしい。その後で帰ってしまうからだ。
 僕としては、他の社員の人と変わってもらいたいけど、シフトを変更するのは無理らしい。
 凪峰も僕と同じで今年から今の会社で働き始めたというから、自由には振る舞えないのだろう。
『健の買ったケーキはどんなのだ?』
『コンビニで売ってるショートケーキだよ』
『形が崩れてただろ?』
『その通り』
 アルバイト店員の手つきが拙いおかげで、僕の買ったケーキは袋に入る前に何度か横倒しになった。
 文句を言おうと思った時にはすでに袋の中に収まっていたから、キャンセルするのが躊躇われたのだ。



368 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:15:39 ID:DEL/dzKj
『で、健は一人なわけ?』
『ふふん、聞いて驚け! ……女がいる!』
 羨ましがるがいい、凪峰よ! それが僕にとってのクリスマスプレゼントになる!
 さてどんな返信がくるか、と心待ちにしていたのだが、一分待っても反応がない。
 まさか、これぐらいで怒ったのか? いや、凪峰は冗談の通じない人間じゃない。
 もしや、女の存在に腹を立てた、とか? 
 実は僕の家にいる女は妹でした、ってネタばらしするつもりだったのに、これじゃ気まずい。
 うーん。こっちからバラそうかな。

 ネタばらしの文章を推敲しつつ打っているとき、返信があった。
『相手誰』
 そんな名前の人が凪峰の友人にいるのか、とか最初に思いついた。
 でも、違うだろう。その女は誰よ? という問いのはずだ。
 答えとして、序文のみを送信する。
『昔から僕とずっと一緒にいて』
『いつから』
 返事はしない。文章を続けて打つ。
『一つ屋根の下に暮らして』
『嘘だ嘘だ嘘だ』
 悔しがっている凪峰の表情が浮かぶ。さらに誤解を招く返事を送る。
『時には同じ布団の中で眠ったことのある相手』
『嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘』
『そいつの名は――』
「……康美だよ」
 呟いて、タイピングしようとした時だった。

 まず、コール音が鳴った。続けて、眠りかけたときにだけ鳴らすと決めたはずのパニック音が鳴る。
 凪峰が間違って押したのかも、と最初のうちは思っていた。
 だが、いつまで経っても音が鳴りやまない。
 コール音、パニック音。呼ばれる、混乱する。音が重なる。耳に残響する。
 イライラし始めた。制止の呼びかけをする。
『おい、やめろよ』
『うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいさいううるさいうるさい』
 また、コール音。
『そんなわけないぜったいにおまえにそんなあいてはいないうそをつくな怒るぞ』
『おちつけ』
『みとめんみとめないみとまみとめみとめるわけにいかない』
『変換しろ』
『どこのおんなだいつからだいつからでもかまわないかんけいない どこの女だ』
 一体どうしたんだ、こいつ。
 凪峰がここまで取り乱すなんてこと今まで一度もなかったのに。



369 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:16:45 ID:DEL/dzKj
『ひとがいないあいだにかってに』
『だれのきょかをとったんだいったいどこのどろぼうねこだ』
『お前に恋人なんかいないそうだろう』
『嘘なんだろう?』
『お前は女に言い寄らない』
『どうせ向こうから近づいてきたんだろ』
『ちくしょう め!』
『おまえもおまえだすきをみせるからそんなことになるんだ』
『はやくおしえろ 待たせるな。名前は?』
『早く答えろ』
 連続の書き込みの後、返事の催促がやってきた。
 せっかちな相手のために、簡潔に返事する。
『妹』
『は』
『妹。実家という一つ屋根の下でずっと暮らしてきた相手』
『なんだそれ』

 突然凪峰がチャットから抜けた。別れの挨拶も何もなしだった。
 いつもならこっちから落ちるまでずっと留まっているのに、今日はやけにあっさりしていた。
 あいつ、彼女がいないことを冷静さを失う程に気にしていたのか。
 悪戯でやったつもりだったけど、結果的に傷つけてしまったかもしれない。
 明日の朝、凪峰に会ったら謝らなくちゃいけないな。

 今日何度目かのため息を吐いて、僕は台所へ向かった。
 冷気ですっかり冷めてしまった美濃口さん特製唐揚げをレンジで温める。
 温め終了後、衣をつまんで少し熱い唐揚げを口に運び、頬張る。
 美味しい。これならいくらでも食べられそうだ。
 それに加えてコンビニで買ってきたケーキもある。
 大量の美味しい唐揚げ、プラス、ダウン経験済みのケーキ。
 幸せだけど、体重増加をどうしても促してしまう組み合わせだ。

 テレビの電源を入れる。
 チャンネルを変えていくと、民放の中にはカップルの姿を熱心に映している番組もあった。
 それを見た、僕の感想。
「あー……バイク乗りたい。新しいバイク、買いたいなあ」
 ぼやいた後、テーブルに突っ伏す。
 クリスマスに恋人の姿を見ても危機感が沸いてこない。焦燥感にかられない。
 むしろ、外国産のバイクが思い浮かび、物欲が首をもたげてくる。
 頭の中に保存済みのバイクカタログを眺めながら、思う。

 本当に僕って恋人が欲しくないんだなあ。……いいんだか、悪いんだか。



370 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:17:53 ID:DEL/dzKj
*****

 机の上に乗っているアナログ時計に目を向ける。午後七時、十分前だ。
 そろそろ、健太の奴は家に帰り着いたころだな。
「……よし」
 パソコンを置いている机の席に着く。この机は、会社の廃品を貰って使っているだけ。安物だ。
 けど、ここはただのパソコンデスクじゃない。
 私と健太を繋ぐための、神聖なる場所だ。

 健太はなにやら勘違いしているようだが、私の性別は女だ。決して男ではない。
 だがしかし、勘違いするのも無理はない。
 私自身、狙って男っぽい格好をしているし、加えて女にしては背も高い。
 会社の健康診断で測ったときは、178cmだった。健太の背は私より下だ。
 残念だ。小学生のころみたいに同じ目線で向き合いたかった。
 時の流れとは残酷だ。そして、人の成長というものも。

 本棚から箱入りのアルバムを取り出す。
 箱からアルバムを引き出し、付箋のついたページを開く。
 六年二組、男子十五名、女子二十一名。
 このページには、卒業した時点でのクラスメイトの顔写真が載っている。
 当然、私と健太も同じクラスだから、同じページに映っている。
 ただし、私の顔写真の下には、赤坂めぐみ、と書いてある。
 今の私の名字は凪峰だ。名字が変わったということは、つまり両親が離婚したということ。

 実は、健太が私の存在を忘れているのには両親の離婚の時期に理由があった。
 小学校卒業時点では、両親は離婚していなかった。
 しかし、私が卒業した後で父と母は離婚した。
 不仲になった原因は何なのか、未だにわからない。
 その頃の私は健太を見つめることだけ考えていて、両親を見ていなかったのだ。
 だから、突然両親が離婚して父親が去っていったときは訳も分からず、呆然としてしまった。
 悲しくなかったかというと、嘘になる。だが、本格的に悲しみに襲われたのはその時ではなかった。

 その後で、私を引き取った母が言った。――遠い場所に引っ越すことになった、と。
 すぐに理解した。この町から引っ越す。健太の居る町から。健太に会えなくなる。
 冗談じゃなかった。健太と別れるぐらいなら家出するとまで言った。
 けれども、当時の私は小学六年生、十二歳。
 一人では生きられないし、捜索する人たちから逃げる手段も持っていない。
 どうしようもなかった。なにもできなかった。母についていく以外、私に生きる道はなかった。

 引っ越し当日は、同じクラスの友達、近所の子供たちとその親、あと、健太が見送りに来てくれた。
 泣いてはいなかったけど、瞳は悲しみの色に染まっていて、私を見ていなかった。
 健太も私と同じ気持ちだった。別れを惜しんでいた。
 だから私は、健太を慰めるため、自分自身に生きる目的を与えるため、健太に約束を持ちかけた。
 ――もう一度会えたら、私をお嫁さんにして。
 健太の真っ赤な顔は、思い出すたびに私の心を温めてくれる。
 私たちは将来を誓い合い、別々の地で暮らしていくことになった。



371 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:19:35 ID:DEL/dzKj
 高校を卒業してから、私は健太を探すことにした。
 しかし、小学生時代に住んでいた町に健太の家族は住んでいなかった。
 健太の父親は仕事柄転勤を繰り返していたのだ。それに合わせ、家族も引っ越していた。
 そうなるともはや探す手がなかった。健太の家族の行方を知っている人に心当たりなんかない。
 消沈し、私は一旦健太のことを諦めた。

 だけど、私は運に見放されてはいなかった。
 清掃会社に勤め、仕事先である会社に行ったとき、成長した健太に再会したのだ。
 その時ほど、会社の制服に帽子が付属していたことに感謝したことはない。
 涙が流れた。嬉しくて、いろんな思い出があふれ出してきて、恋心が再燃した。
 それからの私は先輩から感心されるほど熱心に仕事をするようになった。
 健太と話す時間を作るため、より早く効率的に仕事をこなさねばならない。
 努力の甲斐あって、現在では毎日二十分話せるまでになった。
 まだ緊張して上手く喋れないし、昔の約束も話せていない。
 けれど、必ずや健太を手に入れてみせる。私の将来の夢はお嫁さんだ。
 うん、小学校時代の私の考えでは、二十三になった私は健太と結婚しているはずなんだけどね。
 でも、何歳までに結婚するという設定はしていない。
 健太と二人でゴールインできれば結果オーライだ。

 健太とチャットするようになったのも、二人の距離を埋めるための一環だ。
 チャットするとき、こっちのタイピングのスピードが遅くては相手が飽きてしまう。
 毎日毎日練習して、今では健太と会話するときの速度までには達した。
 あとは、さりげなく私の正体を明かしていくだけ。
 そして、健太を私の手に……ふふふふふ。

 パソコンからコール音。アルバムを急いでしまい、モニタと向き合う。
 私がチャットする相手は後にも先にも健太だけ。
 健太と共に人生を歩んでいくのも、未来永劫私だけしかいない。
 
 マウスを使って健太へ向けて返信の呼びかけをする。
 続けて、何気なさを装って健太への挨拶文を打つ。
『メリークリスマス、健太。さあ、今すぐ家に来て私を抱いてくれ』
 ……何て文を作っているんだ、私は。これじゃ本心丸出しじゃないか。
 だいたい、健太は私のことを男だと思っている。
 健太は同性愛者じゃないだろう。抱いてくれ、と男に言われたら引くに決まっている。
 駄目だ駄目だ。落ち着け。健太を前にしたとき、私はどんな感じにしゃべっている?
 健太のことは健、と呼んでいる。しゃべり方はそっけない。
 そして、男――もとい、恋人がいないということを全面に押し出すべし。

 よし。大人になってから初めて迎える、健太とのクリスマス。
 一発目はこれで行こう。

『メリー。健と同じだ』 



372 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:20:39 ID:DEL/dzKj
*****

「ああっ……健太、さん……。そんな風に微笑まれたら、私は、もう……っ」
 パソコンのモニタには、私の愛するあの人の顔があります。
 誰もが隠したがる鍵をかけた自室での行動。
 私にも知られたくないことがあります。今やっていることもそうです。
 でも、内緒にしていることだからこそ、知りたくなるのです。
 想い人に対しては特にその欲求が強い。
 ごめんなさい、健太さん。
 あなたが部屋にいる時間はいつも心の中に謝意が常駐しています。
 悪いとはわかっています。でも、やめられないんです。
 家事をしていても、仕事をしていても、ご飯を食べていても、自分を慰めても、治まらないんです。 

「健太さん……なんてかわいくて、無防備な笑顔……。
 今夜はケーキなんかより、あなたをひとつ丸ごと食べてみたいです……」
 全身をなめ回し、私のキスで体中にマーキングして、愛液でぐちゃぐちゃに濡らしたい。
 そして、滾るあなたの一物を私の恥ずかしくて、いやらしい部分に挿れてほしい。
 あなたが隣の部屋に引っ越してきたときから、ずっとずっと願っているのに、叶ったことはない。
 ひといです。健太さん。いけずです。
 どうして、私の想いに気づかないんですか? 
 私はあなたを四六時中監視しなければ気が済まないほど愛しているのに。
 あなたのノートパソコンのディスプレイの角。そこから私の目はあなたを見つめているんです。
 それ以外に、各部屋の蛍光灯の傍、浴場の隅、洗面台の鏡を収める枠の中からも。
 さすがにトイレまでは仕掛けていませんけど。

 健太さんが自分で慰めるときの顔は本当にいやらしいです。
 私の『目』では健太さんが何をネタにしているかまではわかりませんが、パソコンのログを見ればわかります。
 どうやら健太さんは、いかがわしい画像をよく収集していらっしゃるようですね。
 嗜好は巨乳、貧乳、制服、水着、獣化、近親相姦、レイプ、逆レイプ、寝取られ、と多岐にわたっています。
 好きなアングルの傾向は右斜め上からの視点。逆に嫌っているのは直上から。
 あと、共通事項として、女性が目を瞑っている方が好みのようです。
 目を瞑って従順になった私を、犯しても構わないんですよ?
 その代わり、といってはなんですが、あの笑顔を見せてください。
 じっと見つめていた画面から顔を逸らし、下を見つめている瞬間の、輝くような笑みを。
 ――ああっ……思い出すだけで、イイ……。

 一目惚れとは恐ろしいです。本当に原因もなく惚れてしまうのですから。
 私、健太さんのどこが一番好きかと聞かれたら、たぶん答えられません。
 全部含めて好きだとしか答えられないのです。
 健太さんのどこに惚れたのか、なんて陳腐な質問です。
 問われたら、こう返すしかありません――――健太さんの全てに惚れました。



373 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:21:47 ID:DEL/dzKj
 健太さんの名前を呼ぶだけで胸が疼きます。
 健太さんの声を聞くだけで倒れてしまいそうです。
 健太さんに目の前で微笑まれたら、人目もはばからず抱きつき、唇を奪うでしょう。
 健太さん、健太さん健太さん、健太さん健太さん健太さん。なんて甘く美しい響き。
「き、てください…………健太さん……二人、一緒にイって、気持ちよくなりましょう……。
 ああ、ああは、ぅうう……もう、我慢できま、せ、……ん! んんっ、んんん…………はぅぅ……」

 絶頂に達し、テーブルの上に体を乗せて脱力してしまいました。
 目前にはケーキがあります。もちろんクリスマスケーキです。私が作りました。
 指でクリームをすくい、舌に運びます……自画自賛したくなる出来です。
 健太さんと二人で食べられたらいいのですが、私は大きな健太さんで我慢します――今日のところは。
「ね、健太さん。来年は一緒に向き合いながら、シャンパンを飲んで、お食事しましょうよ。
 私、腕によりをかけてお料理します。お店で食べる料理よりずっと美味しいです。保証します。
 来年は、スクリーンから飛び出してくださいね。飛び出せ、健太さん! …………なんちゃって」

 頭を動かして、正面の壁を見つめます。広がっているのは白いスクリーン。
 そこに映るのは、リアルタイムで表情を七八変化させる健太さん。
 プロジェクターっていいですね。健太さんが五倍、十倍、いえ二十倍ぐらいになっています。
 でも、やっぱり本物がいいです。体で体を慰めてくれないんですもの。

 ところで健太さんは誰を相手にチャットをしているのでしょう。
 嬉しそうに笑ったり、不機嫌に顔をしかめたり、混乱したり。
 ――もしかして、女でしょうか。
 それはいけませんね。即刻、左側の部屋に住んでいた化粧の濃かった女みたいに消してやらないと。
 健太さんの手をわずらわせたあの女。最期はとってもイイ怯え顔でした。
 ああ、そういえば、今日健太さんのお宅に女が不法侵入していましたね。
 康美、と健太さんは呼んでいました。妹のようですが、油断はできません。
 健太さんの嗜好には近親相姦も含まれています。いけませんよ、健太さん。
 あなたの精液は私の子宮を満たすためにあるんですから。

 だから、そんな小娘なんか放っておいて、私と一緒になりましょう?
 私と、意地悪な妹さん。
 どちらと一緒になれば幸せになれるかなんて、コンマ五秒考えるだけでわかるでしょう?
 ね、健太さん? 返事は、なんですか?
「……康美だよ」

 ……………………。
 …………、………………え?



374 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:22:52 ID:DEL/dzKj
*****

「……ぅぁう、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ…………あ、……ふぅ。けんた。けんたぁ……」
 ――健太。今、私の名前を呼んだよね。
 不意打ちは、ずるいよ。指が止まんなくなって、潮、吹いちゃった。
 枕を噛んでいなかったらイった時の声を聞き取られていた。
 あ、でも。その方が良かったかも。
 さすがに下着姿で乱れた私を見たら、健太だって盛るはずだもん。
 だいたい健太はおかしいよ。妹が一人暮らしの兄の家に来たんだよ?
 しかも妹は生意気なことを言っているんだよ?
 なんで叱らないのよ。叱ったら――仕返しに、私が健太をいじめながら犯せたのに。

 私に彼氏がいるなんて、嘘。
 健太がこの部屋に引っ越したとき、つい咄嗟に言ってしまっただけ。
 私は男と付き合ったことなんか一度もない。
 なんでかって? ――馬鹿ね、健太。あんたを好きだからに決まってるじゃん。
 一日中あんたのことを考えていても想いが覚めない。熱が引いていかない。
 乳首は硬くなる。あそこは大洪水。足が震えているから立つことも出来ない。
 私をこんな体にしたのは健太。あんたなんだから、倒れないように支えなさいよ。
 お礼として、この私があんたの欲望を全部受け止めてあげる。
 出なくなっても安心なさい。肉がつぶれるまでギチギチに搾り取ってあげる。
 そして一生、私無しでは生きていけない体にしてあげる。

 ああ――――ん、もう、また。
 すぐに健太禁断症状がぶり返してきた。
 治すには健太が私を抱かなきゃいけないってのに。
 なに? チャット? クリスマスイブになに暗いことしてんのよ。
 ここに熟れている女がいるでしょうが。
 いつまで経っても恋人を作らない姿勢は褒めてやってもいいけど、私を抱こうとしないところはマイナスだわ。

 私の言ったことを真に受けてんじゃないわよ。
 部屋に入るな? 入って来ていいよカモン、って解釈しなさい。
 入ってきたら、クリスマスが来る度に私の体を求めて勃起するように調教してやるわ。
 一度狂いそうなほどの快楽に染め上げてイかせて、その後はずっと出させない。
 我慢汁でベトベトになって、惨めな気分で夜を迎え、目の前で私に自慰してるところを見せつけられて。
 手、いや腰だけでも動けば楽になれるのに、縛られているからそれもできない。
 気づいたら、奴隷になってもいいです、だからセックスさせてください、って言うようになっているわ。
 健太、それが正しい姿なのよ。私が女王で、あんたが奴隷。
 あんたは私に絶対服従。嬉しいでしょ? 私は嬉しいわ。すぐに健太も同じ気持ちになる。 

 もし今日、健太が女を連れてきていたら、持ってきたナイフで追い返すつもりだった。
 それか、こちらに圧倒的に有利な状況に追い込み、二度と近づかないよう脅す。
 私は中学校に上がったころから繰り返しているから、ま、甘ちゃんなら百パーセント黙らせることができる。
 それでも口を開くんだったら――そうだね。二度として口とまぶたが開かないようにしてやるよ。
 健太を奪おうとする奴は、万死に値する。健太の意志も体も全て私のもの。
 それが私の思っていることの全てだよ、健太。



375 :独人達のクリスマス・イブ ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/12/25(火) 03:24:30 ID:DEL/dzKj
「あ……ん、だめよ、ぉ…………健太、けんたぁ」
 好き。世界中に存在するどんな人間よりも健太が好き。
 欲しい。何を犠牲にしても手に入れたい。
「いつまで、耐えろっての、……よ。この無礼者ぉ……、あんたは私の所有物なんだから。
 従い、なさい、よお…………ぅうん……くぅはっ、ああああぁ……ふぅっ、はあぁ……」
 愛液が腕を伝う。腰を上げているから、腕から肩へと流れていく。
 今この状態で健太に突かせてやったら、きっと狂ってしまう。
 ああ、でも。いつか必ずその日はやってくる。
 健太があんな奴で、私が健太に誰も近づかせないようにしたら。
「もう……なんで、このわたしがぁ…………そんなことしなくちゃいけない、のよおぉ……。
 ひくっ、ぃひん…………健太……あんたのこと、好きになる女なんか、いやしない。
 だから、……っあ、ぁ、私のところに、来なさい。幸せってやつを、嫌になるほどに、体験させてあげる」
 今すぐ来なさい。
 人が幸せになれる道なんか、限られて居るんだから。
「やんっ、やん、やあぁぁぁっ、……けん、た……もう、もお…………だ、めえぇぇぇ……」
 枕を噛みしめる。声を絞り、目を強く瞑る。

 想いが爆発した。絶頂に達し、体のあちこちから熱が吐き出される。

 あううううう……。健太の家に来るの久々だから、ついついしすぎてしまった。
 こんなことを繰り返していたら、いい加減にもたなくなる。体も心も。
 私の意志は折れないけど、どうしても重みってものがあるから。

 今日はちょっとはしゃぎすぎた。寝よう。
 おやすみ、健太。
 ちゃんと布団を被って寝なさいよ。あんたは夜更かししては、布団も被らずに眠るんだから。
 風邪なんか引かれたら、私の方が困るんだから――ちゃんとしなさい。

 私の奴隷は、私にふさわしい人間でなくちゃいけないんだからね。


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投下終了です。

ちなみに、ヒロインたちの名前の読みは、
美濃口(みのぐち)、康美(やすみ)、凪峰(なぎみね)です。