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427 名前:天使のような悪魔たち 第15話 ◆UDPETPayJA :2010/12/29(水) 07:31:32 ID:njjhPHO2
「貴女にはお礼を言わなくちゃいけないね。」

それは、午前2時の出来事。
街中のあかりの内のほとんどが消灯し、眠りに就いた景色。
その一角の、さらに人目につかないような場所で、私は"彼女"と相対していた。

「貴女は私の願いを叶えてくれた。だから、今度は私が貴女の願いを叶えてあげるわね。」
「…どうかしらね。私は魔女の娘。私の願いを叶えられるものはどこにも…」
「いやぁね。意地にならないでよ。わかるでしょ?貴女の体の再生が行われていないのが。」
「---そんな、まさか」

彼女の言うことは当たっていた。
既に私の右腕は原形を留めないほどにへし折られ、腹部には鉄片が何本も突き刺されている。
普段の私なら5分もあれば軽い出血は抑えられる。だがそれも行われない。

「アナタが、私の力を抑えているというの?それも、超能力だけじゃなく、肉体の再生まで…」
「そうよ。はっきり言うわ。私は貴女より強い力を与えられて生まれ変わった。
…どうしたの。死にたいんじゃなかったの?それこそが永遠に死ねない貴女の、最大の望みなんでしょ?」
「あん、た…ねぇ…がふっ…」

痛みはかつて幾千回も味わった。とうに慣れたと思っていたのに。
どうして、体の震えが止まらないの?
---ああ、そうか。私は、自分が"死ねない"という事実に甘んじていたから。
どんなに辛い仕事でも8時間耐えれば解放される、と言う会社員さながらに。
どんなに辛い苦痛にも、インターバルはある。死ねないんだから、逃れようと足掻く必要はない。
終わるまで待てばいい、と今までは考えていた。
つまり私は今まさに、怯えているのだろう。死に対して。

「今から、貴女の心臓を消去するわね。
さようなら、亜朱架さん。ご冥福をお祈りするわ。」

胸を抉られたような激痛が襲い掛かった。途端に、肺が潰されたかのように息苦しくなり、一気に意識が遠退く。
…いやね。今まで何人もこの力で消し去って…殺してきたのに、いざ死に直面すると、死にたくない、と足掻きたくなってしまった。
だが、彼女がそんな請いを受け入れない、ということはわかっていた。

「あぐっ……………は……っ………」

なぜなら、彼女は世界で一番私が嫌いだから。

428 名前:天使のような悪魔たち 第15話 ◆UDPETPayJA :2010/12/29(水) 07:32:57 ID:njjhPHO2

* * * *


文化祭まであと三日に迫った。
クラスの連中の様子は普段となんら変わりなく、いつものように過ごしている。
だが準備は、俺を始めとする文化祭実行委員が、水面下で行っていたのだった。

「何が「俺を始めとする」よ! うちのクラスの文化祭委員は貴方と私だけでしょうがッ!」
「いてて!耳を引っ張んなよ!」
「しかも大半の仕事を私に押し付けて!貴方の功績といえばメイド服を調達したことと、機材運びくらいじゃない!」

まるで小姑のようにがなり立てる穂坂。…こいつ、今までこんなキャラだったっけ?

「まったく…非生産的な性格だとは常日頃から思ってたけど、こんなに堕落してるとは思ってなかったわよ。」
「おいおい、ずいぶんな言われようだな。」
「事実よ。というか神坂くん…いえ、何でもないわ。
私はこれから委員の集まりだから行くわね。貴方には肉体労働してもらってる分、デスクワークは私一人で済ませてあげる。」
「へいへい、ありがとさん。俺はこれで帰るぜ。」

ええ、と言い残して穂坂は昇降口とは反対の方向に、生徒会の会議室がある方へ向かって行った。
今日はもう用事は何もない。俺はすぐに昇降口へと降りていった。
昇降口にはすでに結意が待っており、俺を笑顔で迎えてくれた。

「悪い、待たせたな。」
「ううん、大丈夫だよ。」

結意が退院してから一週間が経とうとしているが、毎日一緒に帰るのが日課になっていた。
学校にいれば、そして結意がいてくれれば俺は独りじゃない。そういう思いが、次第に帰宅時間を遅くさせてゆく。
家に帰るのが9時過ぎ、なんてのはザラだった。
嫌なことも何もかも忘れて、ずっとこのままならいいのに、と空想する事も多くなったと思う。
…あの家で、俺だけが血の繋がりがないのだ。
斎木 優衣なる人物の存在は、灰谷に夢で告げられるまでまったく知らなかったし、今だって謎のままだ。
つまり、俺には血の繋がった肉親がいないも同然。
その事実が、あの家は俺がいるべき場所ではない、と告げているような気にさせているんだ。
…姉ちゃんの消息が気になる。
後始末とは何のことなのか。そして、灰谷の残した意味深な言葉。

---刺客が来る。

刺客とは、いったい何のことなのか。それをなぜ俺に告げた?
俺は隼や姉ちゃんとは違い、所詮何の力ももたないただの人間なのに。
その刺客とやらは今更何の用があるってんだ?
…何だっていい。俺の大切なものを傷つけなければな。

「なあ結意。今日…俺ん家に来ないか?」

俺はさりげなく、結意にそう持ち掛けた。結意が断るはずない、とわかっててだ。

「え…いいの?」と尋ねてきたものの、結意の顔は既に嬉々とした様子が見てとれた。
「ああ。どうせ誰もいないしな。」寂しいから、とは言わなかったが、結意は恐らくわかってるのだろう。
なんたって、「俺の事ならなんでもわかる」らしいからな。

429 名前:天使のような悪魔たち 第15話 ◆UDPETPayJA :2010/12/29(水) 07:35:07 ID:njjhPHO2

* * * *


---深夜。
結意と仲睦まじく同じベッドで寝ていても、暗闇の世界は容赦なしに俺を迎えに来た。
さすがに三回目にもなると少しは慣れてきたが、気味が悪いことには変わりない。

『おい灰谷、せっかく人が気分よく寝てんのに、今度は何の用だ。』

俺は虚空に向かってそう叫んでみた。
それだけで灰谷には聞こえている、というのを経験済みだからな。

『…飛鳥、少々厄介な事態になった。』やはり灰谷は俺の声に応じて、いきなり姿を現した。

『厄介?お前以上に厄介なもんがあるのか。』
『まあね。落ち着いて聞いて欲しい。…亜朱架が、心肺停止状態にある。』
『………なんだって?』
『簡潔に言えば、死んだも同然だ。』
『そんな、まさか。姉ちゃんは死なない筈だろ!?どんな傷もすぐに治るって、言ってたじゃねえか。』
『そう、傷なら治る。ただし…"消去"された箇所の穴埋めまではできない。』
『消…去…?』

そのキーワードで思い当たる節はひとつしかなかった。それこそ、姉ちゃん自身が持つ力以外にはない。

『姉ちゃんと同じ力を持ってる奴がいるのか?』
『…恐らく、亜朱架よりも強いはずだよ。でなければ亜朱架を瀕死になんかできないさ。』
『それって、こないだ言ってた"刺客"って奴なのか!?刺客って、誰だよ!』
『…すまない。僕にもわからないんだ。』

言葉を返せなかった。灰谷自身も、苦虫を噛むような表情をしていたから。

『僕の体が自由に動けば、刺客など叩き潰してやるのに…!
覚えておくといい、飛鳥。いや…君はとうに知っているよね。
…大切なものを傷つけられた人間が、何を思うのかをね。
とにかく飛鳥、僕には亜朱架の居場所を教える事しかできない。…迎えに行ってあげて欲しい。』

灰谷が右手を翳すと、俺の頭の中に鮮烈なイメージが流れ込んできた。
情報の洪水に揺られているような気分だ。目眩すら覚える。
だがそれも、一瞬のこと。目眩が収まれば、俺は姉ちゃんの居場所までの道程を"鮮明に思い出す"ことができるようになっていた。
まるで以前に、その場所に行ったことがあるかのように。
灰谷は、こんな力を持っているのか。

『………日に日に、会える時間が短くなっていくね。恐らく、夢で会えるのは次で最後だろう。
頼んだよ飛鳥。…どうか無事で。』

灰谷はいつものように、暗闇の中に紛れて消え去った。
だけど今回は、重力が崩壊したかのような感覚は、ない。
それを感じる前に、意識は現実へと帰っていったからだろう。

430 名前:天使のような悪魔たち 第15話 ◆UDPETPayJA :2010/12/29(水) 07:37:37 ID:njjhPHO2

* * * *



夢から覚め、上半身を勢いよく起こすと、底冷えした夜の空気が俺の体を身震いさせた。
隣では結意が、気持ち良さそうに眠っている。…起こすのも偲びない。
俺は結意を起こさないように、そっとベッドから抜け出した。
寝間着からジーンズに履き替え、Tシャツの上にコートを羽織っただけの格好で、部屋を出る。
自転車の鍵と携帯だけを持ち、俺は家を出発した。

自転車に跨がってペダルを漕ぎ出すと、すぐに指先が冷たくなってきた。
しまった。手袋は俺の部屋の中だ。だが、取りに戻れば結意を起こしてしまうかもしれない。
俺は寒さを堪え、そのまま進むことにした。

灰谷が教えてくれた道筋を辿っていくと、次第に市街地から離れていった。
30分近く走っただろうか。その間、道に迷うようなことは一度もなかった。
最終的に着いたのは、数年前に全テナントが撤退し、取り壊しが決定したまま残り続けている、ボロいビルの前だ。

「ここにいるってのか?」と俺は一人ぼやく。
立ち止まっていても始まらない。自転車を降り、ビルの正面入口から進入した。
内部はひどい有様だった。
幽霊屋敷よろしく真っ暗で、瓦礫がそこいらに散らばって足元を掬われそうになる。
携帯電話のフラッシュ機能を懐中電灯の代わりにして、周囲を照らしてみると、奥の方の壁が不自然な形にぶち抜かれているのを見つけた。
ちょうど直径が、人一人分あるような円形の穴が空いている。俺は何も考えず、その穴の先へ進んだ。
穴は物置部屋のような空間まで繋がっていた。ちょうど中に入ったあたりから、鼻孔につく匂いが気になった。
この匂いは以前嗅いだ事がある。…血の匂いだ。
俺は携帯電話のフラッシュで、部屋全体見見回してみた。すると、部屋の隅っこに人影のようなものがあった。
まさか、と嫌な予感がした。ゆっくりと、その人影に近付いてみる。
その人影は、近くでよく見てみるとやはり人だった。
やや茶色がかって、胸元あたりまでの長さの髪。
小中学生くらいの体格をしたその少女の腹には、いくつもの鋭利な鉄屑が突き刺されていて、あまりに惨すぎる姿だった。

「姉…ちゃん…?」

そばに駆け寄り、体を抱き起こす。だが四肢は力無く弛緩していて、だらりとぶら下がる。
何より、人間の体がここまで冷たくなるものだろうか。脈打つ様子もない。

「おい、姉ちゃん!しっかりしろ!姉ちゃんっ!」



431 名前:天使のような悪魔たち 第15話 ◆UDPETPayJA :2010/12/29(水) 07:38:45 ID:njjhPHO2
どうすればいい。病院に…いや、駄目だ。
姉ちゃんは普通の人間じゃない、下手すれば死体ですら実験材料に…?
こんな時はどうすれば………そうだ。唯一アテになる奴がいる。
隼だ。隼ならどうにかしてくれるかもしれない。
携帯を開き、電話帳を呼び出そうとしたが、"圏外"の表示を見てやめた。
まずはビルから出なければ。だけど姉ちゃんを置いておきたくはなかった。ならば。

「よっ、と……少し揺れるけど、我慢してくれよ!」

姉ちゃんの体を抱きかかえ、出口へと走る。姉ちゃんの体は小柄なはずなのに、鉄屑を考慮しても、いやに重たい。
…死体は生前時よりも重くなる、と聞いたことはあるが………やめよう。
どうにかビルを出ると、携帯の電波はかろうじて一本だけ立っていた。
今度こそ電話帳から隼の番号を呼びだし、ダイヤルポタンを押した。
押してから、隼は寝ているだろう。もしかしたら出ないかもしれない、という危惧を抱いた。
だがそんな心配はいらなかったようで、なんと隼は3コール目で電話に出た。

「もしもし…どうした、飛鳥ちゃん?」
「隼か!姉ちゃんが、姉ちゃんが大変なんだ!」俺は電話口ですら冷静さを保てず、早口でまくしたててしまった。
「…亜朱架さんが?」
「腹に鉄クズが刺さってて…血も半端ねぇんだ!息してねえんだよ!」
「馬鹿な、だって亜朱架さんは死なないはずじゃあ…わかった。とにかく、今からそっちに行く。場所は?」
「よくわかんねーけど…廃ビルがあるところだ!」
「廃ビルねぇ…了解、すぐ行くよ。」

ツー、ツー、と電子音が聞こえる。それは通話が切れたことを示している。
隼が着くまでどれくらいかかるだろうか。俺が30分近くかかったから、恐らくそれくらいはかかるだろう。
吹き付ける夜風は、コート一枚羽織っただけの俺の体を、芯から震わせた。

「姉ちゃん………なんでだよ……」

俺は血にまみれた姉ちゃんの体を、力一杯抱きしめた。

「姉ちゃんまで俺を置いてくのかよ………血は繋がってなくても、俺にとって大事な家族なのに……!」

---返事はない。そんなことはわかりきっている。
だけど堪えられそうにない。明日香を失い、結意も一度は失いかけた。
この上姉ちゃんまで失ってしまうなんて、考えたくもなかったんだ。