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446 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:13:03 ID:/5lVnlr+
は~……酷い目にあった……
そう独りごちながら首をさする。
そこにはもう僕を苦しめていた棘付き首輪はない。
その経緯を、会話のみで思い返す。

「陽菜ちゃん、落ちついて。そんな人を殺しそうな目をしちゃダメよ」
「でも私の慶太が他の女にキスしたんだよ。落ちついてなんかいられないよ」
「それは服従の首輪のせいね。あれのせいでイルカとかいう豚の言いなりになっているだけよ」
「本当にアイツはむかつきますよね。私だけのお兄ちゃんなのに。それで、どうやって外せばいいんですか?」
「一番簡単な方法は、まず慶太の首を切断して首輪を外す。その後で恭子ちゃんの部保摩で首をくっつける事かしら」
「なら今すぐやっちゃおう。一刻も早く昆虫顔女から私の婚約者を奪い返さないと」
「じゃあ私と結衣ちゃんで慶太君を抑えるわよ。そして陽菜ちゃんの回し蹴りで慶太君の首を引きちぎって」
「ごめんね、慶太。少し痛いかもしれないけど我慢してね?」

こんな感じだったような気がする。
やっぱり首をはねられる前に感じた恐怖と首を蹴りで引きちぎられた痛みで、記憶が曖昧になってるな。
「ドンマイだったな、慶太」
肩にポンっと手を乗せて来たのは太郎君。久しぶりに実体化している。
「姿戻ったの?」
「あぁ、山田のおかげでな」
太郎君が振り返った先に、得意げな顔をした山田君がいた。
あれ?この人誰だっけ?
「あの時は驚きましたよ。なにせイヴの日に太郎君の死体と遭遇したわけですから」
「死体ってどういうこと?」
「右手が吹き飛ばされた状態で、そのまま道に転がっていたんですよ」
それはお気の毒に。しかもイヴの日にとは。
「でもどうして右手が?」
「俺にも分からん。突然、陽菜ちゃんから貰った腕輪が爆発したんだよ」
「えええええ!?陽菜からプレゼントをもらったの!?僕は貰ってないのに!?」
「はっはっは!羨ましいだろ!しかももう一つあるんだぜ!」
そう言って自慢げに左腕を見せびらかす。
そこには陽菜にもらったであろう腕輪がはめられていた。
おかしい。心の声を聴く限りでは、陽菜は太郎君の事をまるで気にしていないはずなのに。
真実を知るのは少し恐いが、このままもやもやした気持ちを持つよりはマシだった。
「なぁ陽菜……太郎君にだけ……その……腕輪をプレゼントしたのか?」
「え?そうだけど……もしかして嫉妬?」
陽菜は僕の質問に対してクスクスと笑った。
ぐっ!そ、そうだよ、嫉妬だよ!僕よりも太郎君になんて!
「あ~ん、もう!慶太ったら本当にカワイイな!」
陽菜が僕に抱きついてくる。すごくいい匂いだ。
だけどその光景を他の女性陣が目ざとく見つけた。
多分無関係だろうけど、辺りの植物が一斉に枯れていった。特に恭子ちゃんの周りが顕著だ。
「フフフ、太郎君に腕輪をあげた理由は、慶太が考えてるような事じゃないから安心して。まぁストック?見たいなものかな」
「え?ストック?」
「ほら、私ってイヴの日に死んだじゃない?だけどすぐに生き返ることができた。つまり……そう言う事だよ」
陽菜の言っている意味を、僕は理解することができなかった。
ただ自然と涙がでてきた。

447 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:13:49 ID:/5lVnlr+
僕たちの辛くて一刻も早く終わってほしい旅が終盤に突入した。
そう、魔王が最近現れたという町にたどり着いたのだ。
だがそれを連想させるような光景は無く、ここは平和そのものだった。
不審に思いつつも、僕たちはその事について情報収集を行う事にした。
みんなが魔王城の所在地を訊いているとき、僕はふと横に目をやった。
何の気もなかった。本当に無意識にそうしただけだ。
だが一瞬で目が釘付けになる。
伝説の武具よりも輝いて見えるそれ。
エロ本だ。
だって仕方ないじゃないか。この世界に来てからというもの、ずっとそばには女性陣が張り付いていたのだ。
普段は溜まらないものだって溜まる。自然の摂理。
「ごめん、ちょっと隣の本屋によっていい?魔物についての図鑑を買いたくて」
女性陣は僕が魔物退治に意欲を示したと思ったようで、快く了承してくれた。
ついでにお金もくれた。
「んじゃちょっと行ってくる!」
僕は一刻も早く事を済ませたかったので、タイトルも見ずに本を一冊手にとって、そのままレジまで急行した。
本を購入して戻ると、陽菜達の話もちょうど終ったらしく、そのまま本日の宿を探しに向かう。
ここでサトリを全開にして陽菜達の反応を窺った。
(あんなに嬉しそうに……それほど私を守りたいって事だよね?うっわ~どうしよう。ますます慶太に惚れちゃった)
(今度魔物に出会ったら、わざと捕まったフリをしようかな?そうしたらお兄ちゃんが格好良く助けてくれるんですよね)
(そうだ!私ももっと魔物について勉強して、二人だけの勉強会って言うのも悪くないかも)
(この女人どもめが……よくもわらわの首輪を外しおって……)
よし、大丈夫だ。誰にもエロ本を買ったことを怪しまれてないぞ。
と思ったその時、姉ちゃんの声だけがいやに低いトーンで頭に響いてきた。
(……どうして急に魔物の本なんか欲しがったのかしら。しかも本を選ぶのが異様に早かった気が……)
マズイ。姉ちゃんのセンサーに何かが反応したらしい。
咄嗟にごまかす。
「今まで本当にごめん。僕、強くなるから。この本を読破して、みんなを守れるくらい強くなるから!」
僕の言葉に女子陣が感銘を受けていた。中には泣きだす者も。
(……あの袋、魔物の図鑑にしてはやけに薄いわね)
だが姉ちゃんだけは疑い色を一層濃くした様だ。
仕方がない。この本は今晩一夜限りで捨ててしまおう。

448 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:15:37 ID:/5lVnlr+
「今夜は男女別々で部屋を取らない?」
すでにエロ本ミッションの事を太郎君といつのまにかパーティに加わっていた山田君に告げていたので、二人は音速で首を縦に振った。
「えー!?お兄ちゃんと一緒の部屋がいいです……」
すがりつく恭子ちゃんの頭に手を置く。
「たまにはさ、男同士積もる話があってね。……好きな人の話とか」
僕の言葉に女性陣の顔が一気に染まる。
いい感じだ。このまま乗り切れそうだ。
「そうそう。そっちも好きな男の話とかどうだい?でも俺様をめぐって喧嘩したらいけないよ」
マジで太郎君のこの空気の読めなささをどうにかしてもらいたい。
女性陣は太郎君の前半部分のセリフだけを聞き取っていた。
静かな戦闘が始まる。
「分かった。慶太と離ればなれになるのはものすごく寂しいけど、今夜は我慢するね」
「じゃあねマイダーリン!今夜は慶太が誰のものか、きちんと話をするから!」
「マイダーリンじゃと?言っておくが慶太の本妻はわらわじゃぞ」
「何ふざけた事言ってるんですか?その口、切り落とされたいんですか?」
……そう言えば恭子ちゃんの事を天使だと思っていたのはいつごろだったっけ?
もじもじして内気だった彼女にもう一度だけ会いたいな。
「どいつもこいつも慶太慶太って……くそっ!」
「僕なんか10年も探していた実の姉に『お前は弟じゃない。私の弟は慶太君だ』って言われたんだよ?それに比べてら太郎君の方がずっとましだよ……」
太郎君はともかくとして、山田君の話は僕にとっても痛いところだった。
でも安心しろ。僕達にはコレがあるじゃないか。
例え一夜限りの宴だったとしても、盛大に盛り上がろうじゃないか。
「それじゃあ僕たちはもう部屋に行くとするか」
僕の言葉をかわきりに、太郎君と山田君がついて来る。
そんな僕たちを、二つの目がじっと見ていたとも知らずに……

449 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:16:12 ID:/5lVnlr+
「は、はやく開けようぜ!」
興奮しきった太郎君がせかしてくる。
慌てるな。今夜はまだ始まったばかりだぜ。
「その前に一つ。僕たちは何があっても裏切らない仲間……だよな?」
「あぁ」
「何を急に……そんなの当たり前じゃないですか」
僕たちの間に固い結束が生まれた。
「じゃあ、開けるぞ」
袋の折目についているセロテープをゆっくりと剥がしていく。
そのピリピリという音だけで僕たちの心臓は躍動していった。
そして袋の口が大きく開いた。
僕はその中に手を入れて、例の宝物を探る。
緊張して震える手を反対の手で押さえつけて、傷つかないよう慎重に取りだす。
「は、早くしろよ!」
するする―――
「お、お、あとちょっと……」
するする―――バンッ!
「キ、キタああああああああああああ!!……………あ?」
太郎君の声が止まった。山田君の顔も引きつっている。
なにがあったんだろうか?僕からは裏表紙しか見えていないため、何が起こったのか判断できない。
「どうしたの二人とも?なんか反応が薄くない?」
「……慶太……表紙を見てみろよ……」
太郎君に勧められるまま、本を反転させる。
「! こ、これは……」
表紙を見た瞬間、僕は後悔の念に苛まれた。
なぜ僕は表紙を見て買わなかった?どうして僕は……っ!
「ひどいよ……いくらなんでもこれはあんまりだよ!」
「なんでテメェは………………グラビア雑誌を買ってんだよおおおおおおおおおお!!」
そう、僕が買った雑誌は18才未満御断りの本ではなく、普通のグラビア雑誌だった。
だから店員もすんなりブツを売ってくれたのか。
「……でもこの本、見るだろ?」
「当たり前だ。いや、水着もなかなか……」
結局、女性が載っていれば何でもよかったのだ。
久しぶりに見る半裸の女体に、僕たちの興奮は最高潮に達していた。
その調子でページをめくっていくと、『街角美少女特集!』とかかれたコーナーがあった。
「お!この子かわいいな―――って!これ岡田じゃん!」
なんとそのコーナーの見開きを使って、岡田の写真がでかでかと載せられていた。
確かに岡田はかわいい。この本の中にある他の女性と比べても、頭一つ飛びぬけていた。
「それだけじゃないですよ!次のページには姉さんにイルカさん、それに僕の恭子ちゃんまで載ってますよ!」
そう言った山田君にキツいツッコミを入れた後、まじまじと彼女たちの写真を見てみる。
どれもいい角度、そしていい表情だ。このカメラマンは分かってるな。
「あれ?でもなんで陽菜だけいないの?」
「あぁ!?このメンツだったら陽菜ちゃんはキツいだろ」
確かに陽菜もかわいいが、このメンツだと少し見劣りするかもしれない。
そう考えたとき、急に体がブルッと震えた。


450 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:17:18 ID:/5lVnlr+
「そろそろ……始めるか?」
「「OK」」
全員が片唾を飲んで、岡田の生足写真を凝視し―――

コンッ、コンッ

扉がノックされた。
「ったく誰だよ!」
気分が削がれてイラついたのか、太郎君が足音を立てて扉に向かって行った。
「なんの用ですか!?」
「いえ、そろそろご飯でも食べに行こうかと思いまして」
扉の向こうから聞こえてきたのは姉ちゃんの声。
こちらとしては、今はそれどころじゃなかったが、夕食の誘いを断るのはきっと怪しまれる。
「あ、すぐ行くよ!」
とりあえず返事を返して、例の本をベッドの中に隠した。
「仕方ないよな。楽しみは夕食後に取っておくか」
太郎君も山田君も相当渋ったが、僕が怪しまれる危険性と見つけたときの彼女たちの残虐性(仮説)を熱く語ったら二人とも納得してくれた。
僕たちが部屋を出ると、恭子ちゃんが飛びついて来た。
「う~、久しぶりのお兄ちゃんだぁ……」
さっきまで一緒にいたのに、この寂しがりよう。
一体、恭子ちゃんにとって僕はどんな存在なのだろう。恐くて訊けはしないが。
(何でいっつもいっつもコイツは慶太に抱きついてんのよ!慶太も怒鳴るなり突き飛ばすなりしなさいよ!!)
「恭子ちゃん、寂しいのは分かったけど、ちょっと離れよっか?」
「いやです!いやです!いやです!」
(なんと我儘な奴じゃ。やはりもう一度服従の首輪を慶太につけて……)
「恭子ちゃん!僕も離れるのが惜しいけど、ここは事を穏便に済ませよう!?」
(離れるのが惜しい?あれ?今そう言った?慶太がそんな事言ったの?誰と?恭子ちゃんと?そんなわけない。だって慶太が好きなのは私だよね?私だけを愛してくれているんだよね?そうだよ。この前そう言ったもん。だから慶太が浮気するはず……)
「うわーーーー!!恭子ちゃん、今すぐ離れて!早くしないと重度熱傷になっちゃうよ!」
ブラック陽菜に気がついたのか、恭子ちゃんが名残惜しげに離れた。
「いいもん!今日は我慢するけど、明日は一緒の布団で寝るもん!」
到底聞き流せるはずもないセリフを、僕は無理矢理聞こえなかったふりをした。

451 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:17:52 ID:/5lVnlr+
レストランに着くと、僕の横に岡田が座ろうとして来た。
「エヘヘ~、隣いいでしょ?」
「! あ、ああ……」
エロ本(?)を見てから、何だか岡田を直視することができない。
「ずるいぞ!わらわとて慶太の隣に座りたいぞ!」
僕の横で即席の椅子取りゲームが始まった。席だけに。
「ど、き、な、さいよ!私が、最初に、座ったん、だから!」
「う、る、さ、い!慶太の、隣は、わらわの席と、決まっておるのじゃ!」
お互いに相手をぐいぐいと押し出そうとしている。
だがそんな事もお構いなく、僕の視線は自然と岡田の生足にロックオンされてしまう。
やっぱ綺麗な足、してんな―――
「どこ見てるんですか?」
「!」
いつの間にか僕の膝の上に座っていた恭子ちゃんが、不思議そうな目をして訊ねてきた。
(どうして結衣さんの足を見てるんだろう……?全然わかんないや……)
不思議じゃなくて不気味な目だった。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
突然、太郎君の叫び声が店内に響き渡った。
見ると太郎君の手にフォークが突き刺さっている。どうやらその刃先は机にも喰い込んでいるようだ。
「大丈夫、太郎君!?……ところで、みんな早く席についたらどう?」
陽菜が可愛らしい笑顔でそう言った。
全員が一目散に空いている席に腰を下ろす。
しばらくしてから、各々が注文した料理が運ばれてきた。
楽しいはずの食事なのに、さっきの太郎君右手負傷事件の影響からか、誰しもが無言だった。
この空気はいつまで続くのだろうか?と思われた矢先、姉ちゃんがポツリと呟いた。
「本はどうでした?」
男性陣に緊張が走る。
太郎君と山田君に目配せをした後で、僕がその質問に答えた。
「とても勉強になったよ。この世には様々な魔物がいたんだね」
もう一度山田君を見る。
彼がコクリと頷いた。いい答えだ、と目が言っている。
「そうね。その中でも特に印象に残った魔物は?」
「……そ、そうだな……やっぱりスライム……かな……?」
マズイマズイマズイマズイ!この答え方は非常にデンジャラスな気がする!
太郎君に助けを仰ぐ形で視線を送る。
彼は姉ちゃんの胸元を凝視していた。
よし。明日にでも陽菜に太郎君にいじめられたって言おう。
「そう、スライムね。それじゃ……ねぇ太郎君?」
「ん?なんだい?」
「私より胸が大きい娘はいたかしら?」
「「!」」
僕と山田君が思わず反応してしまった。
いや、落ちつけ。今は太郎君に訊いたんだ。彼ならきっとこのピンチを乗り越え―――
「いやいや何をおっしゃいますやら!みんな祥子さんの胸より小さい娘ばかりでしたよ!」
―――られなかった。

452 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:18:34 ID:/5lVnlr+
太郎君の発言に女性陣が食べる手を止めた。
瞳孔がゆっくりと広がっていくように見えるのは気のせいだろうか?
「な、何言ってるんだよ太郎君!?」
「そ、そうですよ。あ、遠まわしに魔物はオスしかいなかった、と言いたいんですね!?」
「そうそう!雑誌にはオスしかいなかったな!」
答え合わせをするために、ゆっくりと姉ちゃんの方に顔を向ける。
目が合うとニコッと笑ってくれた。
良かった。正解だったらしい。
「おかしいですね。慶太君達は図鑑を買ったと言いませんでしたっけ?」
「い、いや!図鑑は高かったから買えなかったんだ!」
「なるほど。それでアダルト雑誌を買った、と?」
「ななななななな何言ってんのさ!ぼ、僕たちがそんなもん買うわけないだろ!?」
姉ちゃんはそこで僕達への尋問をやめて、恭子ちゃんを流し見た。
(恭子ちゃん、今すぐあの宿に留雨裸で戻って。多分場所は……ベッドの中か下だわ)
(分かりました。すぐに向かいますね)
二人に心のキャッチボールが成立していた。
「ダメだよ、恭子ちゃん!やめて!本当に何にもないから―――って!消えた!」
どうやら彼女だけが使える瞬間移動呪文を使ったようだ。
こうなったら見つかるのは時間の問題。ならば残された道は……
「あ~悪ぃ。ちょっとトイレに行ってくるわ」
「俺も」
「僕も」
僕に続いて太郎君と山田君も席を立った。
「まぁまぁ、三人とも座ってよ。せめて恭子ちゃんが―――」
姉ちゃんの言葉の途中で恭子ちゃんが現れた。なんて早さだ。
そっと僕を見つめる。
その瞳は大きく揺れており、今にも泣き出してしまいそうだった。
「……これ……何ですか……?」
恭子ちゃんの差し出した手にあったのは、やっぱりエロ本だった。
しかもご丁寧に結衣の特集ページ全開で。
「………………」
いつもの僕ならここで太郎君を生贄にささげている。彼が買おうって言ったんだ、と。
でも今の僕たちには深い友情で結ばれた結束がある。
絶対に裏切ったりはしない。
「無言を貫くか……まぁよい。ならばこれでどうじゃ!」
言うなりイルカさんが太郎君に飛びかかった。
慣れた手つきで棘のついた首輪をはめる。
「これでそちはわらわの下僕じゃ。さぁ太郎よ、真実を語るがよい」
「はい、ご主人様。まずこの本を買ったのは慶太の独断です。そしてなぜ結衣のページかと言うと、彼女がこの本の中で一番魅力的、かつ

官能的に写っていると判断したからです」
「ほう……」
「そして今夜、僕たちはこの結衣をおかずに―――」
限界だった。
僕たちの間にあった結束は決壊した。
「うわああああああああああああああああああああああああ!」
僕と山田君は持てる力をすべて出し切って、この店を駆けだした。

453 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:19:26 ID:/5lVnlr+
ターミネーターにでてくるジョンコナーって、こんな気持ちで逃げ回っていたんだろうな。
そんな事を考えながら、僕たちは建物の陰に隠れている。
さっきから数秒おきに聞こえる太郎君の絶叫が、捕まった時の恐ろしさを物語っていた。
「大丈夫。ここに隠れていれば平気だよ」
だがつかの間の平和だった。

「遺悪奈寸」

可愛らしい声が聞こえたかと思うと、二つ隣りのデパートが崩壊した。
「ここにはいない」
…………………………………
洒落にならないレベルの攻撃に、僕たちの腰が抜ける。
(もう監禁するしかない……お兄ちゃんを監禁して、二人だけの世界を作るしか……)
物騒な声が聴こえてきた時、徐に山田君が動いた。
変な鏡を取り出したかと思うと、そのまま光に包まれる。
「ここは僕が引き受ける。君だけでも逃げてくれ」
格好いいセリフを言ったのは僕だった。いや、正確には謎の鏡によって僕に変身した山田君だった。
「で、でも!」
「いいんだ。それにさっきの光を見て彼女がこっちに来る。だから早く……!」
そう言い去って山田君は通りに飛び出していった。
分かったよ……お前の思い、確かに受け取った!絶対に逃げ切ってやる!
と思ったが、捕まったらどうなるのか興味が湧いて、こっそりのぞき見る事にした。
「やぁ恭子ちゃん」
「お兄ちゃん!……どうして……どうしてエッチな本なんか買うんですかぁ!なんで結衣さん何ですかぁ!!」
くっ……!もう山田君に残された道はないのか!?
「あぁ……実はね、恭子ちゃんに嫉妬してほしくて、わざとこんな小細工を仕掛けたんだ」
「えぇ?……嫉妬?」
「恭子ちゃんが僕の事を好きかどうか、そしてどれくらい好きかを……試したかったんだ」
「ええええ!?」
……あれ?なんか似たような場面が前にもあったような……?
「僕の本命は恭子ちゃんだよ」
そういって手を広げる山田君。
恭子ちゃんは最初戸惑った様子を示したが、最後には嬉し泣きしながら山田君の胸に飛び込んだ。
「うええええええん!好き!大好き!大大大好き!」
「僕もだよ」
(うをおおおおおおおおお!恭子ちゃんが僕にいいいい!うわあああああああああああああああいいいい!!)
はっ!まさか山田の奴、本当の狙いは恭子ちゃんに抱きつく事か!?
でも僕が直接手を出す必要はなかった。
(あれ……?お兄ちゃんってこんな匂いだったっけ……?それになんだかいつもっと違って、手つきが厭らしいような……?)
恭子ちゃんの涙が止まった。
(ううん、違う。いつも嗅いでいる匂いと全然違う。なんだかおかしい)
恭子ちゃんが山田君のホールドを外して距離をとった。
「あなた……本当にお兄ちゃんですか……?」
「な、何言ってんのさ!僕は正真正銘、早川慶太だよ!だからもう一回―――」
「遺悪!」
山田君の持っていた鏡が爆発した。
次の瞬間、もう一度光に包まれた彼は、元の姿に戻ってしまった。
「「………………………………………………………………」」
長い沈黙。
行く末を見届けることなく、僕はその場を後にした。

454 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:20:22 ID:/5lVnlr+
山田君の声が聞こえてこない。一瞬で旅立ってしまったのだろうか?
そんな事よりも、恭子ちゃんは僕を匂いで判別できるようになったらしい。
まるで魔物―――
(慶太はどこだろう?どこに行ったの?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?)
「っ!」
とっさに近くの建物に入る。
刹那、さっきまで僕がいた場所を陽菜が横切っていった。
その手には見た者を震え上がらせる程の禍々しい槍が握られていた。
あの槍を何に使うのか考えたくもない。
とにかく、この辺りが危険区域と分かった以上、ここから離れるのが得策だ。
陽菜が去っていったのを確認して、反対方向に走り出す。
そのとき陽菜の方ばかり見ていたせいか、前方から来た人にぶつかってしまった。
「す、すいません!お怪我はないですか……って岡田!?」
「あ!慶太!」
ついに……ついに僕まで見つかってしまった。しかも一番気まずい人に。
「あ、あれは、あの本の事は、決して、その!」
「……嬉しい」
「へっ?」
「だって慶太は私を選んでくれたってことだよね?」
選らん……だ?
「他の本もあったのに……他の娘たちもいたのに……その中でも私を選んでくれたんだよね!」
岡田が心底嬉しそうな顔で僕に抱きついてきた。
「まぁ……その、岡田は一番かわいいからな……」
「~っ!慶太ぁ!」
岡田のホールドが一段と強さを増す。
力は陽菜>恭子ちゃん>岡田といったところかな?まるでゴリラに抱擁されているみたいだ。
「うぐぐ……お、岡田……苦しい……よ……」
「慶太!慶太!慶太!」
岡田はまったく人の話を聞いていなかった。
反対に岡田の声は、僕以外の人の耳にも届いていた。
(あれ?今クソムカつく雌ゴリラの声で慶太って言葉が聞こえてこなかった?)
「! ま、まずい!岡田、頼むから今すぐ離れてくれ!よ、陽菜がこっちに来る!」
「慶太!慶太!慶太!」
もう駄目だ。岡田の意識はこっちの世界にいない。
僕は諦めた。
「け、慶太!?と……雌ゴリラ?なんで?なんで抱き合ってるの?なんで?ねえ、なんで?何でよ?教えてよ?ねえ、なんで?」
陽菜さんがとっても怖い。
それにこれが抱き合ってるように見える?
よく見てよ。僕のバストサイズが30センチくらいになってるでしょ?
これって、抱擁が解かれても元には戻らないのかな?
「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!この雌ゴリラがあああああああ!!」
例の槍を振り回しながら、陽菜が飛びかかって来た。
間一髪、岡田がそれを避けきる。
「ちょっと!そんなの振り回したら危ないじゃない!ダーリンの愛する私が怪我でもしたら、ダーリンが悲しむでしょ!?」
岡田はさらに僕をギュっと抱きしめる。バストが20センチを切った気がする。
一方の陽菜は直径数メートルのクレーターを作っておきながら、さらに大きなもの作ろうとしているのか、思いっきり槍を振り上げた。
その槍の先端には炎。
「ねえ……嘘だよね……?慶太が好きなのは私なんだよね……?私だけを愛してるって言ってよ……!」
泣いている顔とそのセリフだけなら僕は陽菜に愛してるって言ったかもしれない。
でもそれを燃え盛る大槍を振り回しながらとなると、いささか僕の情に届く事は難しかった。

455 名前:サトリビト・パラレル ◆3AJ5MgwwGQ :2011/01/23(日) 10:21:13 ID:/5lVnlr+
「ねぇ、陽菜ちゃん。私がいい男、紹介してあげようか?」
岡田は陽菜の攻撃をうまくかわしながら、超上から目線で陽菜の沸点ポイントを的確についてきた。
なぜ岡田はここまで陽菜を嫌うのだろう?
(慶太があんたの事を好きだって言った時、私がどれほど憎らしいと思ったか分かる?その時の気持ちを、あんたにも教えてあげる!)
なるほど。どうやら僕の発言のせいだったらしい。ごめんなさい。
「いらない……慶太以外の男なんて……この世に存在しなくてもいい!だから慶太を離せ!返せ!」
「慶太はあなたのものじゃない。それに……祥子さんや恭子ちゃんならまだしも……あなたじゃ慶太と釣り合わないわよ?」
これは雑誌に陽菜だけ載っていなかった事を言ってるの?
なんか岡田の中では僕が超イケメンみたいな設定になってるっぽいけど、贔屓目で見ても僕は全く格好良くない自信がある。
確かにモデル並みではないけど十分かわいい陽菜と、平均以下な僕では釣り合わないな……ぐすっ。
と、僕が男泣きしている間に、陽菜の様子が変化したようだ。
「…………ホント結衣ちゃんは人をイラつかせる天才だね……感服するよ……」
陽菜の怒りに増長した炎が辺りの酸素を急速に奪い取っていった。
なんじゃこれ?暑いってレベルじゃないよ?
「ちょ、ちょっと……そんなに温度を上げて……じ、冗談よね?」
岡田は今までの余裕を完全に失くしており、僕と同じく、陽菜に怯える側に成り下がった。
陽菜の炎はとどまることなく温度を上げていく。
槍の先端が熔解した。
「よ、陽菜さん、二つほど伺ってもよろしいですか?」
「……ナニ……?」
「金属って何度くらいで熔けるんでしたっけ?」
「……シラナイワヨ……」
「……それからもう一つ……僕は何一つ悪い事してないよ?」
「………………ダイジョウブヨ…………」
何が大丈夫なんだろうか?あ!きっとこれはドッキリなんだ―――
――――――
――――
――


翌日………

「魔王の居所もようやくつかめたことだし、一気に魔王城へ行こうね」
「う、うん!そ、そうだね!ぼ、僕も陽菜と一緒なら、ま、魔王なんてへっちゃらさ!」
「そ、そんな……慶太ってば、もうっ!」
「む~っ!なんだか慶太さんと陽菜さん、最近仲が急に良くなってませんか!?どうしてなんですか!?」
「そうじゃそうじゃ!そなたら、昨日の晩に何があったんじゃ!?」
「え~、そんなの恥ずかしくて言えないよ……ね、慶太♡」
「う、うん!そ、そうだね、よ、陽菜!」
「慶太君……お姉ちゃんには話せるよね……?」
「あれ?慶太ってお姉ちゃんがいたの?」
「う、ううん!僕にいるのはよ、陽菜だけだよ!」
「キャッー!慶太ったら、恥ずかしいじゃない!」
「……え……?……私の事……お姉ちゃんだって……毒のとき……」
「………………」
「あ、そうそう。ねぇ、結衣ちゃん」
「! は、はい……なんでしょうか……?」
「私喉乾いちゃったな~」
「い、今すぐお茶を買ってきます!」
「お茶~?私、そんなもの飲みたくないんだけど」
「も、もうしわけありません!で、ではなにを……?」
「それはね……慶太のだ・え・き♪」
「っ!?んんん!?」
「あーーーお兄ちゃんになんて事するんですか!?穢れるじゃないですか!!」
「ぷはっ!どう、結衣ちゃん羨ましい?でもあなたにはぜ~ったいにあげない!あっはははははははははははは!!!」

ふと、僕はこの町の噂を思い出した。
きっとあれは予知だったのだろう。
この町に魔王が訪れたのは昨日。被害はデパート一軒崩壊に建物複数全焼。僕の知る限り死者が2名に重症が2名。
本当に魔王は酷い奴だった。