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218 名前:煉獄1/3:2011/01/10(月) 19:48:32 ID:ftcWccZi
誰かの温もりが欲しい。
誰でもいい。
私を温めてほしい。
頬を撫でて、それから私の瞳を覗き込んで愛していると言って欲しい。
無理だと分かっていた。
自分には一生縁のない経験だろう。
長すぎる一日に向かう前の妄想。
私に僅かだけ許された安らぎの時間。
誰にも邪魔されない、私だけの大事な時間。
そんな時間も携帯のアラームは容赦無く奪い取ってくれる。
甲高いその音を苛立たしく止めて私は今日も学校に向かう。

学校に友達はいなかった。
当然だ。
私は醜いし、暗いから。
時折男子がこっちを見てヒソヒソと何かを言っているのを私は少し悲しい気持ちで受け止めた。
分かっていても、やはり辛い。
辛い物は、辛いのだ。
昼休みは特に苦痛だ。
話す人もいないまま長い時間を教室で過ごす。
トイレにはろくに話したことも無い女子のグループがたむろっていたし、
図書室は期待する静謐さよりも寧ろ男子の賑やかしい笑い声をもって私を迎えた。
私に行く場所は無かった。
だから、私は黙って教室でコンビニ弁当を食べていた。
誰かが、私の肩を突然叩くまでは。

219 名前:煉獄2/3:2011/01/10(月) 19:49:45 ID:ftcWccZi
……突然だが俺の友人は変態だ。
常にギラギラした目で女子を見ている。
しかし、整った顔立ちと甘い声でファンは多い。
そんな彼、橘が昼休み、
いつものにやけ面で
近寄ってきて耳元で囁いた。
「なぁ、お前、田上さんと話したことあるか?」
はぁ?
いきなり話しかけてきて何でそんな話になる。
さっぱりわからん。
「何の話だ?」
僕は呆れて尋ねた。
「坂田ぁー?とぼけんなよ、
田上さんって言えば学園のアイドルだろ?
俺はあの子とお近づきになりてぇんだよ!
わかるだろ、この煮えたぎる情熱」
何かドロドロしてそうな情熱だな。
「うーん、それはわかった。
しかしそれと俺がどう関係あるんだ?」
「関係は無い」
力が抜ける。
「何しに来たんだよ、お前はよ!?」
「だからさぁ、一人で行くと下心丸見えだから、ついて来てくれよ」
お前の目つきで下心はバレると思う。
何かビーム出てそうだもん。
性欲ビーム。
「お前、失礼なこと考えてんな?
まあいい、早くついて来てくれ」
「お断りします」
「何でだよ!ちょっとぐらい良いだろ!」
「うるせえな……わかったよ」
行かなくてもうるさいのでしぶしぶついて行く。
ポンポン。席に座って弁当を食べていた田上さんの肩を橘が軽やかに叩く。
いきなりだなオイ。
ビクッと振り向く田上さん。
「へロウ!いい天気だね、
洗濯日和ってこういう日のことを言うんだろうね!」
爽やかな笑顔とうざいテンションで絡みにくい話題を振る橘。
「え?はあ、そうですね、
私も洗濯は好きです」
律儀な田上さん。
しかし会話が微妙に噛み合ってない。
「マジで!?
俺達気が合うね、放課後一緒にお茶行かない?
みんなアベックなのに、俺だけロンリーなんだ!」
終わった。
こんな下心丸出しの、しかもバブル期のナンパみたいな誘い方で来る訳が無い。
「構いませんよ」
ハァ!?
「あ、あのさ、無理しなくてもいいよ?断ってもいいんだよ?」
俺がそう言うと、田上さんは何故か悲しそうな顔をした。
「いえ、お嫌でなければ、
ご一緒させて下さい」
「よーし、決まり!
じゃあ放課後、皆でカフェヤマグチに行こうぜ!」
一人テンションの高い橘。
それよりも、俺はさっきの田上さんの悲しそうな顔が気になっていた……


220 名前:煉獄3/3:2011/01/10(月) 19:51:00 ID:ftcWccZi
放課後、カフェヤマグチ。
俺は黙ってココアを啜っていた。
熱いココアが心地よく身体を温める。
冷たい空気を吸う度に鼻がツンと痛い。
橘のマシンガントークに、
最初は戸惑っていた田上さんも、少しづつ笑顔を見せるようになっていた。
俺は初めて見る田上さんの笑顔に戸惑った。
それはあまりに綺麗すぎて、凝視できなかった。
そして、それを引き出せる橘に
軽い嫉妬すら覚えた。
学園のアイドルってのも納得だなあ。
俺は一々可愛らしい田上さんの仕草を見てぼんやりとそんな事を考えていた。

「あ、もう帰らないと……」
街が赤く染まり始めた頃、
携帯を見て田上さんが残念そうに言う。
「じゃあ惜しいけどここでお開きだな。田上さんは家どっち?」
「あっちです」
「あっちだったら、坂田と一緒だな。送って行ってやれよ」
「言われなくても」
俺は肩を竦めた。

そうして二人で歩き始めると、
予想通り会話が無くなった。
橘の存在感が今更恋しい。
気まずい。何か話題を振らなくては。
行け。坂田誠。お前なら行ける。
「あのさあ……」
「あの…」
被った!一瞬の気まずい沈黙の後で、田上さんがおずおずと口を開く。
「そ、そちらからどうぞ」
「いや、田上さんから……」
「で、では……
あの、坂田くんって、好きな人とか、居るんですか?」
え?ナニコレ。
急にどうしたの?
気づかないうちにフラグ?
いやいや。相手は我が校のアイドル。
俺なんか好きになる訳がない。
第一、好きな人が居るかどうか聞かれただけでそんな事を考えるのは自意識過剰すぎる。
きっとあっちだって気まずい空気に耐えきれず突飛な話題を振ってしまったに違いない。
舞い上がっている自分が少し嫌になった。
しかし、だからこそ。
「いるよ」
俺は無謀な賭けに出ることにしたのだ。
木々のざわめきが遠くに聞こえていた。